ESG & SDGs ~現代社会の投資への要請~

2017年02月13日

住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部
大代 修司


はじめに

 「ESG」と「SDGs」という言葉を最近よく耳にするが、その概要と世界の動向について解説する。

 

 

概要と世界の動向

(1)「ESG」

【図表1】ESG投資(出所:住友商事グローバルリサーチ作成)

 ESGは投資手法の一環としてESG投資といわれることが多く、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した優れた経営をしている企業への投資をいう。環境では二酸化炭素の排出量削減やエネルギー消費削減など、社会では人権問題や女性の登用、企業統治はコンプライアンスや経営の透明性といったものが含まれる。

 

 ESGは2006年に国連が提唱した責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)が起点で、欧米の機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新しい指標として着目されるようになった。ESGを重視すること、つまり社会の要請を重視することが、企業の中長期的な持続的成長に繋がり、財務諸表などからは見えないリスクを排除できるという考え方である。良い会社、長期的に良いリターンを生む会社を選ぶ指標となる。

 

【図表2】運用資産に占めるESG投資の比率と投資残高(出所:「Global Sustainable Investment Review 2014」を基に住友商事グローバルリサーチ作成)

 ESG投資の手法には、ESGの観点で問題がある企業を投資対象から除外するネガティブ・スクリーニング、ESG評価の高い企業のみを投資対象とするポジティブ・スクリーニング、投資先企業との対話や議決権行使を通してESGへの取り組みを促すエンゲージメントなどがある。ESG投資は年々増加しており、【図表2】に示すように全世界の運用資産の30%を超える規模になっている。特に欧州では60%近くと非常に大きな比率にまでなっている。

 

 日本でも2015年に世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立法人(GPIF)が国連のPRIに署名して一気にESG投資が注目されるようになった。またESG投資の運用成績も長期的に良い成果を出しているというデータも出てきている。逆に言えばESGを重視しない企業は投資対象から外されてしまうことになる。

 

 

(2)「SDGs」

【図表3】17の「持続可能な開発目標(SDGs)」(出所:United Nations)

 SDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標):2015年に国連が「持続可能な開発サミット」において「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。2030年までに達成すべしとするアジェンダ(SDGs)には17の目標と169の達成基準が盛り込まれている。17の目標とは、1.貧困撲滅、2.飢餓撲滅、3.健康と福祉、4.教育、5.男女平等、6.水、7.エネルギー、8.経済と雇用、9.産業と技術革新10.平等、11.都市、12.生産と消費、13.気候変動、14.海の保護、15.陸の保護、16.司法と行政、17.パートナーシップである。

 

  これらの17の目標の中にはビジネスに関連する課題がいくつかある。【図表4】はPwC社によるもので、世界経済フォーラム(WEFダボス会議)で報告されたグローバルリスクと、PwC社が独自に作成した企業に事業機会をもたらす、あるいは大きなインパクトをもたらすと考えられる課題とを比較したものである。SDGsは企業活動の観点からビジネスチャンスとリスクの2つの面から捉えられる。SDGsは世界が抱える大きな課題を提示しており、その解決のための成長市場を明示している。例えば、省エネ技術、環境技術、ICTを用いた課題解決製品やサービス、医療、といった市場開拓の機会、またグローバルなステークホルダーとSDGsを共通言語として関係強化を図るといったメリットがうたわれている。逆に人権、環境、労働等への対応が不十分な企業にとっては企業継続のリスクとなる。

 

【図表4】WEFの2015年グローバルリスクと企業のSDGsに対する見解の比較(出所:PwC 「ビジネスと持続可能な開発目標(SDGs)」)

 

  今のところまだ事業活動に伴うSDGsへの影響・貢献についての報告が企業に求められているわけではないが、SDGsが提示する中長期的な社会課題の解決において、グローバル企業の果たす役割への期待は大きく、ESG投資家も注目している。

 

以上

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