コモディティ・レポート 2015年5月 ~相場急騰に対する疑心暗鬼~

2015年05月01日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

◇ 国際商品市場は2014年年来、供給過剰・需要不足・ドル高の強い圧迫を受け逆風下にあったが、2015年第2四半期に入りセンチメントが改善している。国際商品19品目で構成されるCRB指数は4月に229.49と前月比8.3%高、3月安値からは11%の上昇を記録した。

 中でも上昇をけん引したのは原油・石油製品で、ブレント原油価格は1月安値から45%の上昇。また指数に含まれない鉄鉱石は年初の70ドルから4月初旬には一時47ドル付近まで売り込まれたが、月末までに27%反発し60ドルを再訪、その後反落している。鉛も3月につけた5年ぶり安値から25%上昇、その他非鉄金属も4月末にかけ上昇の波に加わった。

 

 

◇ これでようやく最悪期を脱したかに見えるが、市場はどこか疑心暗鬼だ。それは価格上昇ペースに比べ、ファンダメンタルズ改善の実感が乏しいためだ。例えば原油は、米国生産減速といっても依然として前年同期を日量100万バレル上回る同930万バレル台を維持、生産減少幅はピーク比で日量数万バレルに過ぎない。OPECが生産枠およびCall-on-OPEC(OPEC産原油に対する需要)を日量100万バレル超過するペースで生産する中では供給過剰は解消されず、全米原油在庫は少なくとも過去80年で最大水準に達している。また、鉄鉱石は中国粗鋼生産が頭打ちとなる中、Big3ないしBig4と呼ばれる資源大手3-4社が圧倒的な増産とコスト削減を続け消耗戦に陥っているが、4月下旬、Big3の一角BHPが豪Port Hedland港の積み出し能力増強を目指すプロジェクトの完了時期を2017年央から延期すると発表したのを受け、あく抜け感から価格は急騰した。しかし海上貿易量14億トンの市場規模に対し、この延期による影響は2,000万トン前後に過ぎず、足元の供給過多を解消するものでもない。

  4月に発表された3月の中国商品輸入は鉄鉱石・石炭・銅・大豆など軒並み前月比で増加。国際エネルギー機関(IEA)は4月月報で、2015年の世界石油需要予測を従来予測から9万バレル引き上げ前年比日量110万バレル増の9,360万バレルとした。季節要因や低価格による需要喚起と、生産調整・投資削減のバランスから需給均衡点を模索する中で、価格には底打ち感も生じつつある。それでも相場押し上げには力不足だ。今回の価格上昇には先物市場やETFを通じた投資資金の動向も少なからず寄与しており(例:原油先物。下図参照)、弱気に傾いていた売り手の買戻しや需給改善を期待する新規買いが見受けられる。言い換えると、過度の悲観は修正されつつあるが、買いは期待先行の感が否めない。

 

 

◇ このため、4月の相場上昇をもって、調整が一巡し安定化に向かうとみるのは早計だろう。市場関係者の多くが投機過熱を指摘する中でも、目先は上昇モメンタムが継続するとみられるが、ひとたび調整に転じれば相応に深いものとなりうる。5月には「Sell in May」との相場格言通り、ヘッジファンド決算などに向けた売り物が出やすい時間帯だが、ギリシャ問題も債権団の協議進展がなければ資金枯渇は時間の問題とみられている。6月にはサウジ新体制のもと初となるOPEC総会があるほか、イラン核問題については4月2日の枠組み合意を経て6月末期限までの最終合意をめざした大詰めの作業が続けられている。世界的な超金融緩和が続く中でも、原油急騰もあって株価高騰や異例の低金利に対する違和感も生じ始め、市場はややぎくしゃくしている。相場急変の可能性は引き続き想定しておくべきだろう。

 

主要商品年初来騰落率
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)
WTI原油価格 vs. 米尾っく原油在庫
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)
原油先物の頭記買い建玉(ネット)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆ 原油(ドル/バレル)

原油価格推移(ドル/バレル)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 4月の上昇は需給改善を期待する先行的な要素が強く、さらなる上値を試す材料に乏しいことから、ブレント原油は65ドルを挟みもみ合う展開を予想する。なお、原油のボラティリティは一時60%近くまで上昇したが、足元では35%と市場が落ち着いて来てきたことから、当面の底値をつけた可能性が高い。需要面では、欧州・アジア製油所は5月いっぱいまで定期修理時期にあたること、米国の定修明けに伴い代替需要を享受していた欧州製油所の減少が見込まれることが弱材料となる。

 

 

 

◆ 金(ドル/トロイオンス)

金価格推移(ドル/トロイオンス)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 方向感なくもみあい。米国経済指標の予想下振れが相次ぎ早期利上げ観測が後退したことでドル高の勢いは鈍化、また第1四半期の価格下落・季節要因を背景とする実需の買いによって幾分底堅さは増しているが、金に対する投資意欲は低調で、上値は重い。一部メディアは、IMFのSDR構成通貨見直しに際し人民元採用の是非に関する議論が活発化する中、外貨準備の内訳を公表していない中国が自国の金保有高公表に踏み切るとの思惑を報道。今後の動向が注目される。

 

 

 

◆ アルミ(ドル/トン)

アルミ価格推移(ドル/トン)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 近年、LME滞留在庫の出庫をめぐるボトルネックなどから、現物市場の堅調にもかかわらずLME価格は独歩安となり、その差である現物プレミアムは高騰していたが、高プレミアム地域への余剰玉還流やLME在庫出庫円滑化を受け、市場のひずみに修正が入りLME上昇・プレミアム下落。供給過剰が続く中国からの半製品輸出増加で現物価格は2013年以降のレンジ下限に迫り、減産強化の声も聞かれるが、中国からの輸出加速リスクが市場心理には重しに。

 

 

 

◆ トウモロコシ(セント/ブッシェル)

トウモロコシ価格推移(ドル/トン)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 基本的には5月上旬までの作付状況が価格を決定づける見込み。現時点ではトウモロコシ作付遅延となる天候懸念はなく、予定通り作付が進行すれば軟調推移となる見込み。足元ではトウモロコシ需要が減速気味であり、トウモロコシ価格をさらに押し下げる材料として懸念される。エタノール需要は、生産マージン低下で生産量の減少が続いており、飼料需要は鳥インフルエンザの影響次第で鈍化する可能性がある。

 

 

 

◆ ロイタージェフリーズCRB指数

ロイタージェフリーズCRB指数推移
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆ ドルインデックス

ドルインデックス推移
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

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