コモディティ・レポート 2015年6月 ~「Bマイナス」の相場回復~

2015年06月08日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

◇ 国際商品市場では今年第1四半期から4月にかけ大半の商品が当座の底を打った。しかし、5月の相場推移は、原油・非鉄金属・穀物いずれも供給が潤沢で、世界経済の回復ももたつく中では、上値も重いことを改めて印象付けた。原油はブレント65ドルWTI60ドルを中心とするもみ合いに終始。金も1200ドルを跨いだボックス圏推移が続いており、非鉄金属は中国経済減速への懸念に上値を押さえられ、前月比マイナスで月を終えている。

 

 

◇ 各国第1四半期のGDP統計がほぼ出そろった。米国・ブラジル・ロシアなどはドル高・資源安が響き、マイナス成長となった。中国第1四半期は前期の7.3%から6年ぶり低水準となる7.0%に減速し、人民銀行は昨年11月から5月にかけ3度の利下げを実施。足元では幾分安定化の兆しも見られるが、今年の政府目標7.0%を達成するには政策支援が必要な状況は変わらない。ユーロ圏や日本は上向き基調だが、これらの貿易相手国の低成長が足枷となっている。

 こうした状況を踏まえ、OECDは6月3日発表した最新の経済見通しで、2015/16年の世界実質経済成長率の見通しをそれぞれ3.7%/3.8%と前回11月時点3.6%/3.9%から下方修正した。1-3月の不振は一時的なものである公算が高く、原油安・金融緩和・財政再建策緩和などを受けて景気は徐々に上向くとしながらも、投資と需要の低調が続き成長見通しに影を落としているとして「(今後の努力次第でAにも届くが、落第にもなりうる)Bマイナス経済」と評価している。この状況は、供給力拡大に需要の伸びが追い付けずにもたついている商品市場の動きと整合的だ。

 

 

◇ 商品相場が膠着商状であるのとは裏腹に、金融市場は波乱含みとなりつつある。原油価格が1月の底値から40%近く上昇し、ユーロ圏経済・インフレ期待も上向く中で、欧州国債市場では従来の「超低金利」シナリオに修正が入っている。これまで、ECBの量的緩和やギリシャ危機に伴う質への逃避を背景に長期国債に買いが集中し、ドイツ10年債利回りは4月半ばに0.05%まで低下していたが、6月初旬にかけて1.0%に迫る異例の急騰(債券価格は急落)を見せた。長期国債の欧米金利差は急激に縮小し、ユーロは下げ渋っている。他方、米国は早ければ9月にも利上げに踏み切ると予想され、ドル高の基調が続いているが、米国経済下振れの背景には原油安に伴う石油ガス掘削活動の低下とドル高が重くのしかかっている。IMFは6月4日に米国経済見通しを下方修正し、利上げを2016年に先送りするよう提言し注目を集めたが、今後、米国金融政策やドル相場の動向はますます注目を集めることになろう。

 

 

◇ 商品市場の需給調整には時間を要するとみられるが、向こう数か月から来年にかけては、景気持ち直しとともに相場は緩やかな回復に向かうとの期待は依然高い。しかし、金融市場のセンチメントが悪化すれば投機売りによって再び値を下げる可能性も払拭できていない。また、昨年11月のOPEC総会後に原油相場が急落した例をとるまでもなく、前提条件が変化すれば相応に大きな値動きとなりうる。5月下落率が主要商品中で最大となったアルミ市場では、LME在庫出庫ルールの変更や中国のアルミ製品輸出関税の一部撤廃などで需給環境が急速に悪化し価格が急落した背景があるが、6月末に期限を迎えるイラン核協議は何らかの形で決着が予想され、イラン原油の市場復帰が警戒されている。銀行の自己勘定取引を禁じるボルカールールはいよいよ7月21日に完全施行される予定となっている。

 

 

◇ 現時点で浮上しているリスク要因の一つに、異常気象が挙げられる。日本・米国・豪州の気象局は5月、相次いでエルニーニョ現象の発生を宣言している。エルニーニョは太平洋の海水温が上昇する現象で、豪州やアジアの一部地域に干害をもたらし、米州の一部地域に豪雨や洪水などを発生させる。国際商品市場においてはコーヒー・砂糖・ココア・小麦・コメなどの作物が影響を受けやすく、中南米を主産地とする鉱物資源でも洪水による採掘障害、アジアでは干ばつによる電力不足や輸送障害が発生した例がある。

 昨年のエルニーニョへの警戒は杞憂に終わったが、今年は既にインドで熱波による死者が二千人を超え、中東やロシアなどでも記録的猛暑となるなど、影響が顕在化しつつある。在庫水準の高い商品では実際の需給への影響は軽微とみられることもあり、過敏になる必要は無いと考えるが、インド・フィリピンなどの政府筋からは、異常気象による農産物価格・インフレ圧力上昇など、実体経済への影響を警戒する声が上がっており、経済・商品需給両面における潜在的な波乱要因として留意すべきだろう。

 

 

 

◆ 原油(ドル/バレル)

原油価格推移(ドル/バレル)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 5月の原油相場は、月初に年初来高値をつけたのちは上昇基調を維持できず、もみ合いに終始した。

 需要は持ち直しているが、供給が需要を上回る地合いは継続しており上値は限定的。むしろ、ドル高への回帰や投機筋の買いポジション解消などによる下落リスクの方が大きいと考える。注目されるイベントとしては月末のイラン核協議が挙げられる。イラン産原油が原油市場に復帰することを前提に、既にある程度価格に織り込み込まれているとみられるが、核協議の行方には注視が必要。

 

 

 

◆ 金(ドル/トロイオンス)

金価格推移(ドル/トロイオンス)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 短期的にレンジ下限を試す展開が予想される。米FRBは早ければ9月にも利上げを開始する見込みで、ドル高・金利上昇への警戒感は依然として強い。その後の利上げは慎重を期すとみられること、株式・国債価格には割高感が生じていることで、貴金属先物には打診買いが見られるが、ETF・実需とも低調。インド政府は国内に滞留する2万トンの金流動化に向けた方策を提示。成否は未知数との見方が多いが、経常赤字削減策としての金輸入抑制の取組みは続けられる見込み。

 

 

 

◆ アルミ(ドル/トン)

アルミ価格推移(ドル/トン)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 需給・センチメントは急速に悪化し、LME価格・プレミアムともに想定以上の下げ。中国産アルミ半製品の輸出で国際需給がバランスを崩す中でも、4月の世界アルミ生産は日量ベースで過去最高を更新している上、LME在庫出庫ルールの変更で滞留在庫が流動化し、供給過剰感が強い。減産喚起には低価格推移の継続が必要となるが、現物価格(LME+プレミアム)に対する値頃感や中国内外価格差縮小による輸出鈍化でさらなる下落余地も限られる。

 

 

 

◆ トウモロコシ(セント/ブッシェル)

トウモロコシ価格推移(セント/ブッシェル)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 6月末に作付面積・四半期末在庫を控えていることから、突然の天候異変などが見られない限り大きな値動きは想定しづらいが、生育に適した天候が続けば320セント/ブッシェルの下値を試す可能性がある。現時点(5/24)の作柄はExcellent/Goodの割合が74%と過去最高の単収を記録した昨年の76%に匹敵する内容であり、2年連続の供給過剰に対する市場の警戒感は大きい。

 

 

 

◆ 主要商品年初来騰落率(%)

主要商品年初来騰落率
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆ ドル指数vs. CRB指数

ドル指数推移vs.CRB指数推移
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

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