コモディティ・レポート 2016年2月号 ~大変動の年の幕開け~

コモディティ・レポート

2016年02月04日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

◇ SCGRでは昨年末、2016年の世界情勢・経済見通しとして「壊れる世界秩序と"過剰"に苦しむ世界経済」というテーマを掲げた。大変動の年の幕開けを告げるかのように、マーケットは年明けから荒れ模様となっている。個別商品の需給環境には相場変動が示すほどの劇的な変化はないが、世界情勢や資金フローの変化でマーケットはぎくしゃくしている。

 

 2015年12月OPEC総会では加盟国間の軋轢の深まりを目の当たりにしたが、年明け早々、サウジアラビア・イランが国交を断絶。クウェート・バーレーンなどもサウジアラビアに同調する動きを見せ、原油減産合意への期待は一層遠のいた。1月16日にはイランと米欧6か国が核開発問題を巡る最終合意の履行を宣言、経済制裁解除の運びとなり、イラン産原油の市場復帰観測も相場を圧迫、原油価格は30ドルを下回った。人口8千万の市場を睨んだ「イラン詣で」が活発化しているが、中東情勢は利害・対立関係がさらに複雑化し、混迷の色を深めている。

 

 米FRBは金融危機後の2008年から導入した金融緩和策について2013年から出口戦略に着手、懸案の政策金利引き上げを2015年12月に実施した。しかし金融緩和局面にある日欧との政策協調不在、米国景気回復に陰りが見え原油安も進行する中での利上げは市場混乱の遠因ともなった。中国では2015年夏の株安・人民元切り下げによる混乱を当局が巨額の市場介入で鎮めていたが、半年間の株式売却規制が終了する目前に再び株式市場が混乱、為替市場では人民元安が進行し、「制御不能」に陥る不安を生んだ。こうした状況下、市場参加者のリスク回避姿勢は強く、商品市況は金や農産物など一部商品を除き総じて上値は重かった。

 

 

◇ 資源安、ドル高が世界経済に与える影響は大きい。IMFは1月の世界経済見通しで2016年世界成長率予想を3.4%に引き下げたが、ブラジル・ロシア・サウジアラビアなど資源国の下方修正が目立ち、米国についてもドル高による製造業への影響や原油安によるエネルギー投資縮小を理由に見通しを引き下げた。中国は2015年10月時点の予測を据え置いているが、2015年の6.9%成長に対し16年6.3%、17年6.0%と政府目標以上の減速を見込む。

 

 このことはマネーの逆回転をももたらしている。1月20日発表の国際金融協会(IIF)の推定によると、2015年の新興国からの資金純流出額は過去最高の7,350億ドル、うち中国からの流出額が6,760億ドルに達した。中国企業がドル建て債務の返済を急いでいるほか、中国の富裕層による海外への資産移転も一因とみられる。中国当局は資金流出による人民元安を防ぐため2015年に4,050億ドルもの元買い介入を行ったとされ、外貨準備は急減。IIFは2016年も中国からの資金流出は続き、新興国全体で4,480億ドルの純流出になると予想している。

 

 産油国も原油価格の大幅下落を受けて軒並み財政赤字に陥り、外貨準備は急減。資源ブーム期に産油国は潤沢な資金で政府系ファンド(SWF)規模を拡大し、世界のSWFの運用資産は合計で7兆2,000億ドルまで膨らんだが、この流れは逆転し始めている。想定以上の原油安でSWFの資産取り崩しが加速する懸念は資産価格を圧迫する一因ともなっている。

 

 企業レベルでも低金利・資源ブーム期に積み上げた債務の圧縮が急務となり、対応が遅れている企業は相次いで格下げを受けている。2016年1月の米国銀行決算ではエネルギー関連融資の引当金計上も目立ったが、金融緩和局 面で高利回り債を発行して資金調達を活発化した低格付けのエネルギー企業の多くは金利上昇と原油価格下落で債務返済能力が低下し、デフォルトリスクが高まっている。デレバレッジが進むことで結果的に淘汰・生産調整が進めば商品の供給過剰状態は改善されるが、需要不足の問題は容易に解決できず、需給安定化への道程は平穏ではない。商品市場に底入れ感が醸成されるにはまだ時間を要しそうだ。

 

外貨準備高 (出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 


 

先進国株セクター別推移
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

原油(ドル/バレル)

原油(ドル/バレル)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 1月の原油相場は、需給要因以上にマクロ環境(主に株価)に左右され乱高下する展開となった。2月も米国・中国の経済見通し悪化や産油国の窮状が市場のセンチメントを一段と冷え込ませるなか、OPEC諸国の供給圧力と膨大な原油在庫が重石となり軟調推移を予想する。米国では例年より大規模な製油所の定期修理が控えていること、増加傾向にある原油輸入が在庫を圧迫し、原油価格の上値を抑える見込み。

 

◆ 金(ドル/トロイオンス)

金(ドル/トロイオンス)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 金融市場の混乱と米国経済の減速で、2016年の米FRB追加利上げシナリオに黄信号が灯っている。利上げ時期とペースにばかり集まっていた金市場の注目は、原油安の弊害、社債市場・銀行セクター・ドルペッグ通貨の不安定化など、これまで看過されていた潜在的火種へと移りつつある。NY先物のファンド筋は売り越しから買い越しに転換、ETFには新規資金が流入。今後の動向次第で金は上昇余地模索の可能性がある。

 

銅(ドル/トン)

銅(ドル/トン)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 1月は原油安進行や中国株・人民元下落に端を発する金融市場の混乱を受けて売りが先行。銅は一時的に2015年安値を下回った。低価格を理由とする銅鉱山の休止やチリ鉱山でのストなどが報じられたが、既に需給予測に織り込まれた計画外減産の範囲内。生産コスト低下は需給均衡点の下方スライドに繋がっている。中国の12月/2015年累計銅輸入は記録的水準だが中国国内減産なども影響しており、需要見通しに懸念は強く価格回復力は鈍い。

 

◆ 大豆(セント/ブッシェル)

大豆(セント/ブッシェル)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 1月需給報告で米国の供給量が固まり、需要に焦点があたるが、2月は春節で中国向けの輸出成約ペースが鈍化することや、米国の大豆圧搾高の不調で上値が重い展開を予想する。また2月は、南米にとって作柄決定の重要な時期にあたるため天候異変に起因する上値リスクも警戒されるが、特段の異変が生じなければブラジルでは過去最高となる1億トン近い生産高が具現される見込み。

 

◆ 主要商品年初来騰落率(%)

主要商品年初来騰落率
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 ドル指数vs. CRB指数

ドル指数vs. CRB指数
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

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