コモディティ・レポート 2016年6月号 ~市況回復に安堵の色、先行きには慎重姿勢残る~

コモディティ・レポート

2016年06月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 国際商品市況は1月から2月にかけて二番底を形成後、持ち直しの動きを続けている。5月は商品指数の値動きも小幅に留まり、年初来高値更新の高揚感は乏しかったが、6月に入るとドル安にも後押しされ商品指数の底値からの上昇率が20%を超えてきた。波乱含みの2016年の出足を思えば、商品相場の値動きは思いのほか堅調で、市場には安堵が広がっている。だが商品間の強弱差も大きく、今後の展開を手放しで楽観する声も聞かれない。

 
 

 商品需要のヒントとなる世界経済情勢に停滞感が強い中、投資家には供給制約の多い商品が選好されている。原油はカナダ・アルバータ州で発生した大規模な山火事でオイルサンド生産に影響が生じたほか、ナイジェリアでは武装勢力による石油施設攻撃で生産量が大きく落ち込み、価格は1バレル50ドルの大台を回復した。農産品市場ではアルゼンチンの豪雨など天候要因による供給不安を手掛かりに大豆などが大きく値を上げ、金属市場では大型鉱山閉山による構造的供給不足フェーズ入りが予想される亜鉛が独歩高となった。

 

 

 だが生産障害は一時的なものも含む。商品の在庫過剰は解消されておらず、価格が上昇すれば休眠設備再稼働の可能性は高いことから、更なる価格上昇には警戒感も生じている。

 

 

CRB指数vs. ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 また、金属市場では中国経済情勢やドル相場の動向に左右される局面が続いている。

 

 

 中国では4月まで、資金調達環境改善や先物取引ブームが商品価格を押し上げていたが、商品投機過熱を受けて規制対応が採られ、投機ブームは沈静化。5月初旬に発表された製造業PMI指数や貿易統計は景気に対する楽観に水を差した。また5月9日付の政府機関紙・人民日報に掲載された「権威人士」(匿名の政府要人)の長文インタビューが波紋を広げている。習近平主席の側近と考えられているこの要人は、負債拡大を通じた景気浮揚は金融リスクを高めると指摘し、第1四半期に投資主導の景気刺激を主導した李克強総理を暗に批判。今は需要側より供給側の改革に注力すべきであるとし、「中国の経済成長率は今後数年間で『U字でもV字でもなく、L字型曲線』を描く」と述べた。共産党内での意見相違がここで表面化したことは、2017年秋の党大会人事に向けた政治の季節到来も感じさせたが、短期的には中国政府が政策の軸足を景気刺激に戻すとの期待を弱める形となった。

 

 

 米国では経済指標に弱さが散見されたにも関わらず、5月にはFRB当局者発言やFOMC議事録が早期利上げを強く示唆したことを受け、金融市場は今夏利上げの可能性を急速に織り込んでいった。しかし、6月3日に発表された5月雇用統計で非農業部門新規雇用者数が6年半ぶり低水準に留まると早期利上げの可能性は急低下、ドルは急落した。ドル安は短期的には国際商品価格に追い風となるが、米FRBが利上げ時期を模索し続ける以上、指標に一喜一憂する状況は続くと思われる。また利上げ先送りの理由が米国景気後退リスクへの高まりであるならば、世界経済への影響を通じて商品市況にも中期的にマイナスに作用するだろう。

 

 

 さて、6月2日には第169回OPEC総会が開催された。油価回復による増産凍結のインセンティブ低下とサウジとイランの緊張関係等から、新たな政策合意は困難だとして事前期待は低かった。実際、生産枠設定の合意には至らず、「加盟国間の対立が深刻で合意できず」といった厳しい論調も散見された。しかしながら、原油相場が底値から9割上昇し、1年半前のサウジアラビアの「需給調整役放棄」の決断が結果的に実を結んだことで、OPEC内はむしろ穏やかな雰囲気だった。次期事務局長人事やガボン再加盟などについては全会一致で承認し、「(加盟国間には)極めて強い結束があった」(イラン石油相)との発言まで飛び出した。4月のドーハ会合決裂の中心にいたのはサウジだったが、5月にエネルギー産業鉱物資源相に就任したファリハ新大臣は「我々は穏やかに対応し、いかなる状況でも驚かせないよう心がける所存」であるとの融和的な発言をし、市場に安心感を与えることに成功。新たな局面の訪れを感じさせた。同大臣は「価格は需給で決まるものであり、市場の力に任せるべき」とも述べており、商品相場の急落・急反発局面から需給相場へのシフトを予感させる。

 

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

原油(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 5月の原油相場は、カナダの山火事および武装勢力によるナイジェリアの石油施設攻撃などで供給障害が多発し、価格が急伸、50ドルの大台を2度つけた。供給障害が継続するなか、需要はドライブシーズンの本格化で堅調に推移するとみられ、7月半ばまで45~50ドル台の小確りとした値動きを予想する。カナダのオイルサンド生産は6月末にはフル生産に回復予定だが、ナイジェリアの武装勢力の石油施設攻撃については早期解決が望めず長期化が見込まれる。

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

金(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 貴金属市場はドル相場や米国利上げを巡る思惑に翻弄されている。5月はFRB当局者からの早期利上げを示唆する発言や、開催当日の声明文とは異なるタカ派的なFOMC議事録の発表を受け、今夏利上げを織り込む動きとなり貴金属価格は下落。需給面にもこれを押し返す強さは無かった。しかし6月3日発表の5月雇用統計が失望的な内容だったためドル急落、金は急反発。BREXIT投票や米大統領選などリスクイベントも控え、ETF等を通じた投資需要が相場を下支える見込み。

 

 

アルミ(ドル/トン)

 

アルミ(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 銅は相対的には低調な推移。中国経済の持ち直しや商品先物ブームで鉄鉱石・鋼材価格は暴騰したが、4月の価格急騰は続かず、5月は急反落し元のレンジに回帰した。LME在庫は7年ぶり低水準となる250万トンまで減少したが、市中で供給がだぶついており、実需の引き合いも弱い中、現物プレミアムは軟化している。上海先物価格の年初来上昇率はLMEを上回り、中国国内で需要が幾分改善しているとの見方もあるが、12,000元/トン台では売り物が目立つ。価格上昇を受けた休眠設備再稼働が背景にあるとみられ、供給不安は薄い。

 

 

大豆(セント/ブッシェル)

 

大豆(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 5月は米国の16/17年度期末在庫の下方修正とアルゼンチンの豪雨による米国産輸出需要増加の観測をうけ一段高となった。だが、米国の大豆作付進捗及び発芽状況が過去5年平均を上回って順調である事、価格上昇による需要家の買い控えで足元の輸出が低迷している事等から、今後は下落基調を予想。投機筋のポジションは20万枚のネット買い越しと約2年ぶりの積み上がりを見せており、内部要因からも下方圧力は強い。

 

 

主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品騰落率(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所: S&P GSCI、Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

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