コモディティ・レポート 2016年11月号 ~年末にかけ不安定な相場~

コモディティ・レポート

2016年11月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

  

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 10月の国際商品指数は小動きに終始したが、原油・貴金属の下げを農産品・非鉄金属の上昇が相殺するなど強弱混在となった。原油価格は10月下旬までOPECの減産期待から上伸したが、OPEC内の不協和音が鮮明になるにつれ下げ足を速め、WTI価格は再び45ドルを割り込んだ。なお、10月に最も動意づいたのは、商品インデックスに組み込まれていない鉄鉱石、石炭、パーム油などの商品だった。減産局面における供給障害の頻発で石炭価格は騰勢を強め、豪州産原料炭はトン当たり250ドル、一般炭は100ドルの大台を突破。中国では信用緩和や一連の財政出動、人民元安進行を背景に先物市場に資金が流れ込み、石炭・鋼材価格ひいては鉄鉱石価格の上昇を後押しした。パーム油はマレーシアの供給懸念から高騰し、植物油として競合する大豆油や菜種油も連れ高したが、中国の旺盛な需要も需給逼迫懸念を煽る要因となった。これらのことは、供給リスクと中国の影響力の高さを改めて認識させた。

 

 

 為替市場は総じてドル高基調で推移しているが、資源価格に底打ち感が生じ、新興国経済に安定化の兆しが見える中、南アランド、ブラジルレアル、ロシアルーブルなど資源国通貨は対ドルで上昇している。またサウジが行った新興国最大級の175億ドルの海外向け起債は、OPECの減産期待が薄まる前だったこともあり、幅広く世界の投資家から需要を集め、産油国に対する投資センチメント改善を示す一例となった。だが、自動車の内燃機関から電気(EV)へのシフト加速で石油需要ピークに関する議論も活発化しており、サウジをはじめとする資源国がこれまで先送りしてきた財政・経済改革を否応なく迫られている状況に変わりない。サウジ国債の今後の動向は、原油価格のみならず長期的な改革の進捗に対する投資家の信頼感向上を図る上でも注目に値する。

 

 

 先進国では銀行セクターの収益性悪化や資産価格高騰による格差拡大など大規模金融緩和の副作用も顕在化する中で、中央銀行頼みの限界を指摘する声が増えた。相対的に安定成長の米国さえも前回利上げから10か月、追加利上げに踏み出せず、金融緩和に加えて財政刺激が必要との認識が広がる中、インフレ期待の高まりから主要国の国債価格は急落している。

 

 

 それでもインフレヘッジとしての商品買いは限定的だった。この理由としては主に2点考えられる。第一に、価格高騰を吸収できるほど世界経済も商品需要も強くないことだ。IMFは10月5日に発表した世界金融安定性報告で、世界の非金融部門債務が世界GDPの225%と過去最大に達したと述べたが、IEAはこの報告を引用した上で、原油安のデフレ効果は既になく、インフレ・金利上昇は重債務の世界にとって大きな負担になりうるとして、結果的に景気回復や商品需要にネガティブになると警告している。第二に、商品価格が2015年終わりから2016年初めにかけ大底を打ったとの認識と、マイナス金利を敬遠する投資資金の循環物色によって、エネルギーや農産品などの先物投機筋の建玉は既に過去最高水準にまで積み上がっている。このため買い余力よりむしろ、ヘッジファンドの11月決算や年末要因による利益確定売りが出る可能性が警戒されている。

 

 

 政治イベントも重要な相場動因となる。10月2日に英国メイ首相が2017年3月のEU離脱手続開始を発表し、ハードブレクジット(強硬なEU離脱)への懸念を強めたが、11月に入ると英高等法院が離脱には議会承認が必要との判決を下し、手続遅延の可能性が生じている。また、米国の大統領選は最終局面に至ってもなお混迷しており、VIX指数は20の大台に達するなど警戒信号を発している。一見平穏な市場に見えるが、波乱の火種はそこかしこに燻っていると言える。

 

 

CRB指数vs.ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国商品先物大口投機筋の建玉推移(出所:CFTCより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

WTI原油(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 10月の原油市場は、OPECの減産期待で月半ばに50ドル越えとなったが、その後減産の実現性に暗雲が立ち込めたことで、月末にかけ上昇分を吐き出す展開となった。11月は、月末のOPEC総会での減産合意決裂を織り込み、原油価格は45ドルを挟んだ軟調推移を予想する。油価下落を避けたいサウジ主導で、産油量の各国枠を諦め、OPEC総枠管理など何かしらの妥協策が提示される可能性もあることから、OPEC総会までに油価が大きく下落するとは考えにくい。

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

金(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 10月はドル高進行などを受け売りが先行したが、インドの季節需要とテクニカル要因によって1,250ドル付近で下げ止まった。目下の注目は米大統領選だが、トランプ勝利による金暴騰がなくとも、クリントン大統領でも富裕層増税・歳出増など金融市場が嫌気する要因はある。また国債価格急落などが金融市場に混乱をもたらせば、金は最終的に買われるとの論調が多い。他方、第3四半期の金需要は前年比3割減と落ち込みが大きく、需給要因は価格に対する下方圧力となる。

 

 

◆アルミ(ドル/トン)

 

アルミ(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 10月は上海アルミ先物が2年ぶり高値に到達し、LME価格も上値を追う展開となった。上海価格の上昇は、石炭やアルミナなど原材料価格の上昇や人民元安に加え、中国政府が9月21日付で導入したトラックの積載量規制により輸送費も大幅増加の見込みとなったことが発端で、製錬所の採算が悪化し遊休設備の再稼働が抑制されるとの見通しが背景。供給余力は十分であり右肩上がりの相場とはなりにくいが、需要は相対的に堅調であること、見た目の在庫は低水準であること、冬場は石炭価格の高止まりの可能性があること等から下値は切り上がる公算が高い。

 

 

◆大豆(セント/ブッシェル)

 

大豆(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 10月の大豆相場は、堅調な米国産輸出需要と大豆油相場の上伸に牽引され、2か月ぶりに10ドル台の大台を回復した。11月は米国の大豊作を背景に上値が重い展開を予想する。輸出需要は引き続き好調とみられるが、端境期にあり本来であれば価格競争力のないブラジル産大豆の新規輸出成約が伝えられており、米国産輸出シェアが一部奪取される可能性があることには注意が必要。一方ブラジルの16/17年度生産量は過去最高の見込みで作付進捗状況は好天で前年を上回っている。このまま順調に進めば上値を圧迫する要因になる。

 

 

◆主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品年初来騰落率(%)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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