コモディティ・レポート 2016年12月号・2017年1月合併号 -2016年概況/2017年見通し

コモディティ・レポート

2016年12月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美

経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

2016年概況:大底を打った商品市況

 

◆2016年の主要ニュース

2016年の主要ニュース

 

CRB指数 (出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

主要商品の年初来推移(2016年初=100) (出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆相場回顧:長期低迷からの脱却

 2016年の国際商品市場は、センチメントの様変わりを体感した年となった。

 

 年初の時点では、低価格による商品市場の需給調整が思うように進まず、長期価格低迷(Lower for Longer)が不可避とのコンセンサスが市場を支配していた。新年相場は中国株・人民元急落ショックで幕開け、世界経済の先行きに影を落とすなか、イラン制裁解除に伴う同国の国際原油市場復帰を前に原油相場は30ドル割れ。1月末にはほぼ全ての商品が金融危機以来の安値を更新した。欧州では2016年1月から新たな金融規制が全面施行されたのを発端に、財務面が脆弱な銀行を中心に経営不安が広がり、2月に入り金融市場は更なる激震に見舞われた。2016年に4回の利上げを見込んでいた米FRBも、世界市場の混乱とドル高の弊害を考慮し利上げを見送らざるを得ない情勢となった。

 

 だが、2月末のG20を境に潮目に変化が生じた。「市場の安定化に向けあらゆる政策手段を導入する」という共同声明に対する当初の市場の反応は薄いものだった。しかし、直後の全人代で中国が経済構造改革優先から財政赤字拡大を許容してでも景気を下支える姿勢に転じると、市場の受け止め方は変わり、商品価格底打ちの契機となった。油価低迷に対しては、OPECとロシアが原油市場の安定化に向けた協議を続けた。6月には英国民投票による想定外のEU離脱決定が市場の急落を招き、欧州経済の大幅悪化や商品需要の冷え込みも懸念されたが、7月に英新政権が樹立、8月に離脱手続きの時間軸が示され、英中銀も大規模緩和で景気を下支えしたため、混乱は次第に収束していった。

 

 年前半に日銀・欧州中銀が行った追加緩和は、世界の国債残高の半分近くをマイナス利回りに押し沈めたが、金融緩和長期化の弊害に対する認識も強まり、日銀や欧州中銀が政策検証を開始すると、長く続いた長期金利の低下も反転。こうした中で行われた11月の米国大統領選ではトランプ氏が予想外に接戦を制し、同氏に対する否定的な見方から当初は「トランプ・ショック」として世界に衝撃が走ったが、狼狽売りが出たのも束の間で、公約通り大規模減税やインフラ投資、規制緩和が進められれば米経済が活性化しインフレ圧力も強まるとの期待で債券から株式・商品へと資金がシフト。NYダウは2万ドルの大台に迫る「トランプ・ユーフォリア」と呼ばれる状況が生まれている。

 

 11月末のOPEC総会では8年ぶり減産合意という大きな成果を上げた。12月最後の一大イベントである米FOMCでは、1年ぶりとなる追加利上げが決定、2017年の利上げペースも年3回を見込むなど、米FRBがハト派からタカ派スタンスに幾分シフトしたこともセンチメントの様変わりを象徴する出来事となった。

 

 

2017年見通し:政主経従の年に

 

◆新しい世界秩序構築の行方を見守る

 2016年末の市場は長期低迷・停滞を脱した高揚感と景気回復への期待に包まれている。英国のEU離脱選択やトランプ氏勝利が市場に混乱をもたらしても、結果的にその下げが絶好の買い場を提供したという一種の安堵もあろう。こうした政治的変化は現状維持からの脱却と変革を渇望する国民の声に突き動かされたもので、2017年に予定される欧州主要国の選挙でもこの潮流は続きそうだが、変革の行方は政治の手に委ねられ、経済はそれに従うことになる。相場も不透明感の強い展開となりそうだ。

 

 世界経済は2016年比で成長加速が見込まれているが、日欧を始め世界の金融政策はなお緩和的なままだ。景気回復やインフレ期待が続くなら債券市場から株式・商品市場への資金シフトも続き、高値波乱が生じる可能性もある。だが景気刺激策に支えられた世界経済は自律的な強さを欠いており、ドル高、高金利や原料価格高がいずれ経済の重しとなって耐久力が試される場面が訪れる。先行した期待が剥落するリスクも次第に高まるだろう。

 

 

◆原油:OPECの減産状況に左右

 2016年に需給調整役への復帰を果たしたOPECが、計画通り非OPECと協調して減産を実行できるかが、2017年の相場を決定づける見込み。基本的には、2018年のサウジアラムコIPOを控えたサウジ主導で減産が順守され、上期に石油需給が均衡するとみられる。ただし、下期とみられる米国シェールの増産タイミングが想定以上に早ければ、原油価格に重石となる。

 

 

◆非鉄金属:軟調、需給格差残る

 世界が低成長に苦しんだ2016年は供給制約の大きい商品から順に選好されたが、2017年は需要側にも焦点が当たるだろう。中国政府は秋の共産党大会に向け景気下支えを続けるとみられるが、公共投資や自動車販売の高い伸びの持続性、人民元安や不動産規制を受けた投機資金の動向は見通しづらい。米トランプ政権下でインフラ投資が始動しても世界非鉄需要におけるシェアは1割に満たない。2016年に価格は大底を打ったが、値上がりによる需要への影響や潤沢な在庫が上値を抑える要因となる。

 

 

◆金:金利上昇・インド需要減の逆風

 世界経済の長期停滞論、超低金利下では相対的に選好された金も、2016年後半以降の景気回復期待と金利上昇を受けて輝きを失いつつある。主要消費国インドでは政府がブラックマネー撲滅・金融近代化の取り組みを進めており、現金と並ぶ価値貯蔵手段だった金の需要に影響。2017年は欧州政治混乱などでリスク回避の買いが入りやすいため急激な値崩れは予想しないが、軟調な推移を想定。

 

 

◆農産品:輸出特需の剥落

 2016年は、大豆・トウモロコシともに南米が不作だったため、米国産の輸出需要が堅調に推移し、価格を下支えした。2017年は南米の生産回復が見込まれており、大豆は軟調推移を予想。トウモロコシは、米国作付面積の減少による生産調整が進むため、需給が引き締まり緩やかな価格回復を見込む。また、豊作続きによる農産品の価格低迷は、2016年にバイエル/モンサント、中国化工/シンジェンタなど農薬・種子メーカーの大規模な合従連衡を誘発した。

 

IMF世界経済見通し (出所:IMF, WEO, 2016.10より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

2017年の主要イベント

 以上

 

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