コモディティ・レポート 2017年2月号 ~政治主導の年の幕開け~

コモディティ・レポート

2017年02月03日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子

 

 

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 SCGRは2017年の世界情勢・経済見通しとして「政主経従:リセットされる世界秩序」というテーマを掲げた。Brexitへの歩み、新しい政治指導者の登場、欧州の数々の国政選挙や中国共産党大会など大きな政治イベントが相次ぐ中で、世界の新たなパワーバランス形成を模索し、政治が経済やマーケットに影響を及ぼす世界を想定している。1月は、英国のEU単一市場からの完全撤退表明、トランプ大統領就任と矢継ぎ早の大統領令など、まさに政治色の強いスタートを切った。

 

 

 新年相場は、トランプ氏の掲げる政策への期待ムードを受け継いで始まった。だが、その後、同氏のドル高牽制発言や保護主義姿勢を目の当たりにし、世界貿易の停滞という負の側面も意識され、様子見ムードが広がっている。政策期待は依然として強いものの、トランプ氏の圧力で自動車メーカーがメキシコ工場建設計画を撤回したり、TPP離脱・NAFTA再交渉・メキシコとの国境の壁建設に関する大統領令を発行したり、国境税導入に意欲を示すなど、あまりに露骨な「米国第一主義」の真意や帰結を市場は測りかねている。

 

 

 英国と米国が内向き姿勢を強めている隙に、国際社会において指導的な役割を担おうとしているのが中国だ。習近平氏は、1月上旬に開催されたダボス会議に国家主席として初めて参加、グローバリゼーションと国際協力の重要性について基調講演を行い、保護主義に走る米国を牽制した。また米国のTPP離脱表明を尻目に、中国はTPP対抗策として取り組んできたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)実現に向けた動きも加速させている。気候変動の分野においてもパリ協定からの離脱を唱えるトランプ政権に代わり、中国が関与を強める姿勢を示すなど、これまで国際的なルール作りにおいて指導的役割から逃れようとしてきた姿からは隔世の感がある。むろん、中国はいまだ共産党一党独裁制であり、人権問題も抱えるなど自己矛盾も多いが、一連の取り組みは国際秩序におけるパワーバランスの変化を象徴する。

 

 

 商品市場は、政治面の喧噪から一線を画し個別需給に基づいた値動きが中心となっている。原油市場は、OPEC/非加盟国による減産が着実に進んでいることが評価され、50ドル台前半を維持。非鉄金属では、銅はチリ主力鉱山Escondidaでの労使交渉難航、アルミは中国政府主導の過剰生産能力の削減などの供給リスクを材料に上昇している。なお、トランプ氏の掲げる政策のうち、商品市場に直接的な影響を与える可能性があるのが国境税だ。トランプ氏は貿易赤字国からの輸入品に高率の課税をすると唱えているが、仮に導入されれば対抗措置を検討する国が増え、世界貿易の流れを停滞させるリスクがある。同政策は、WTO協定違反に当たることから実現可能性は低いが、原油やアルミなど米国の輸入依存度の高い商品は、輸入税により国内流通価格が上昇し、増産や需要減退などに繋がる可能性があり、輸出品目のLNGなどは価格競争力で優位に立つなど世界需給や貿易フローにも影響を与えかねない。

 

 

 トランプ氏が掲げる国境税導入、移民抑制策、財政出動、規制緩和による国内産業誘致などはインフレや利上げ・ドル高に繋がりうるが、トランプ氏は「ドルは強すぎる」と発言したり、貿易赤字相手国を批判したりなど、矛盾を抱えており、掲げた公約の数々をどう整理していくかが今後注目される。2月に議会に提出される予算教書は、政策の優先順位や2017年10月から始まる翌会計年度の財政支出の規模感などが明らかになるため、市場の方向性を示すヒントになるだろう。

 

 

CRB指数 vs. ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国の国別貿易赤字(2016-1-11月実績)(出所:米国国勢調査局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

原油(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 1月に続き、上値の重い展開を予想する。2月半ばには、IEAの月報やOPEC/非加盟国から構成されるモニタリング委員会の報告から、OPECの減産状況が明らかになる。だが既にタンカーの荷動きから減産が確認され、OPECが減産目標の80%を達成したと試算されていることから、2月の報告結果が相場に与える影響は小さいとみられる。むしろ、減産が始まったばかりであること、世界の過剰在庫が重石となっていること、シェールの増産懸念などの状況を考慮し、原油価格は暫く現行レンジを維持するとみられる。

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

金(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 米大統領選直後の「トランプ相場」は失速。ドル調整安・長期金利上昇一服に伴い、金価格は反発。だがドル相場の方向性一つをとっても、異色の大統領の異色の言動からはその政策意図や帰結が読み取れず、不確実性は高まっている。このことは金への逃避需要に繋がるものの、これまでのところ買いは先物市場の短期筋が中心で現物・ETF市場は静観。FRB内では利上げのみならずバランスシート縮小に関する初期議論が始まっており、時間の経過とともに金利上昇が金の上値を圧迫するとみられる。

 

 

◆銅(ドル/トン)

 

銅(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 世界の政治経済情勢や需要動向が見通しづらい中、供給側要因を主な手掛かりとする相場形成。チリでは世界最大の銅山Escondidaで労使交渉難航、インドネシアでは政策変更と許認可問題から銅輸出が停止。銅生産大手Freeport、BHPは生産ガイダンスを下方修正。先物市場では供給リスクを織り込む買いが急増しているが、現時点で現物市場にタイト化の兆しは薄い。6,000ドル突破なら上昇が勢いづく可能性はあるが、生産障害は一定程度織り込み済みで、更に計画外減産が拡大しなければ大台定着は困難か。

 

 

◆トウモロコシ(セント/ブッシェル)

 

トウモロコシ(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 トウモロコシは好調な需要から底堅い推移を予想する。2月は南米の端境期にあたるため、米国産輸出の引き合いは堅調さが続く。また、エタノール向け需要も好調で、生産量は過去最高水準の日量100万バレル超が続いている。不安要素としては、保護主義的・温暖化懐疑的なトランプ政権の政策動向が挙げられる。米国産の最大輸入国メキシコとの関係悪化による輸出減少、2017年のエタノール使用義務量の下方修正といった懸念が浮上しており、相場が大きく左右される可能性には注意が必要である。

 

 

◆主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品年初来騰落率(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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