デイリー・アップデート

2026年9月2日 (水)

[米・イラン/攻撃の応酬が激化] 

米軍は、ヨルダン駐留米軍や商船への攻撃、ホルムズ海峡への機雷敷設の試みへの報復として、9月1日夜、イラン南部に大規模な空爆を実施した。標的は防空拠点、レーダー、海上施設、機雷敷設能力、通信拠点などで、バンダル・アッバース、ゲシュム島、コナラク、チャバハールなど、ペルシャ湾・オマーン湾沿岸の広い地域で爆発が報告された。イラン政府によると、南部シリク郡では結婚式の祝宴が行われていた住宅が攻撃され、子供を含む少なくとも5人が死亡、63人が負傷した。同郡知事は、死傷者のうち50人が女性と子供だったと発表した。

これに対し、イランの革命防衛隊(IRGC)は、ヨルダン、クウェート、バーレーン、イラク北部の米軍関連施設に対し、弾道ミサイルやドローンによる報復攻撃を実施した。ヨルダン軍は、領空に侵入した13発のミサイルのうち10発を撃墜し、残る3発は人口密集地から離れた場所に着弾したと発表。クウェートとバーレーンでも防空システムが飛来したドローンを迎撃した。イラン側は米軍施設に大きな損害を与えたとし、米国が自らの行動を後悔するまで攻撃を続けると表明している。

トランプ米大統領はXへの投稿で、イランが報復すれば、さらに大規模な攻撃を加え、最終的には「イラン・イスラム共和国がほぼ消滅する」と警告した。さらにイランを「崩壊国家」と呼び、イラン国民に体制へ立ち向かうよう促した。

攻撃の応酬とトランプ氏の発言を受け、紛争が中東各地へ拡大する懸念が一段と強まった。原油市場では供給途絶への警戒から、ブレント原油が1バレル=95.52ドル、WTI原油が91.02ドルまで上昇した。ホルムズ海峡の航行状況については、米政府は「8月31日に原油1,700万バレルが通過した」と説明している。一方、船舶追跡データでは、同日に海峡を通過した貨物船はわずか5隻で、タンカーの通過は確認されなかった。ただし、船舶自動識別装置(AIS)を切って航行する船は追跡データに反映されないため、米政府の発表とは大きな隔たりがある。(国際部 広瀬真司)

[米国/金利上昇と燃料高騰] 

9月1日、日本の10年国債利回りは1996年以来で初めて3%を超え、米国の30年国債利回りはベッセント財務長官が国債買入増額を発表する前の水準に戻した。中東での戦闘が再び激化し、ブレント原油価格は前日比約5%上昇。欧州ガス先物は3月の水準を上回ってきている。財政悪化や、ハイパースケーラーの巨額社債発行による需給悪化懸念などから既に不安定だった債券市場に、エネルギー高が新たな重石となっている。

石油市場では原油以上に石油製品の逼迫が大きな問題となっている。原油はホルムズ海峡からの輸出回復などから比較的落ち着いていた一方、米国ではディーゼルクラック(ディーゼルと原油価格の差)は1バレル100ドルを超え、小売価格は2022年高値の1ガロン5.8ドルに迫る。国際エネルギー機関(IEA)は8月月報で、中東やロシアの製油所停止、原油供給制約などを背景に、7月の世界の製油所処理量が前年を約500万バレル/日下回り、精製燃料が極めて逼迫していると警告した。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)も「Drill, baby, drill」をもじって「Refine, baby, refine」と題し、問題の中心が原油供給から精製能力に移っていると報じていた。

トランプ政権はこれまで、SNSでの口先介入などで原油価格を抑え、第2四半期に巨額利益を上げた精製会社を批判してきた。しかし、足元では米国の製油所稼働率は12週連続で95%を超える一方、中間留分在庫は歴史的低水準にある。原油価格だけを抑えても、燃料価格を十分に下げられない構図が鮮明になっている。特にディーゼル燃料は産業や農業、輸送に不可欠であり、中間選挙を前に政治的な課題となってきている。

トランプ政権は8月31日、製油所のコスト負担を下げるため、小規模製油所へのバイオ燃料混合義務免除(SRE)を拡大し、2025年分で17.6億RINを免除することを決定した。これに農家・バイオ燃料業界が反発したため、免除分は2026~27年の混合義務に振り替える。製油所を救済すれば農業側にしわ寄せが出るため、問題を先送りする形だ。9月1日には石油会社幹部をホワイトハウスに招集し、米国での精製能力拡大を求めた。米国では大規模な新設は1977年以来行われておらず、精製能力は漸減している。3月にインドRelianceが製油所新設計画を発表しているが、建設は短期では実現しない。短期的にはむしろ、製油所のメンテナンスやハリケーンによる操業停止などが現実的な稼働低下リスクとなる。(経済部 鈴木直美)

[日本/商業動態統計(7月)] 

8月31日、経済産業省は商業動態統計の7月分速報値を発表した。

 

7月の商業販売額は58兆3,730億円で前年同月比+7.7%と、2025年12月から8か月連続前年同月比プラスとなった。内訳では、卸売業が44兆4,920億円で+9.0%(8か月連続プラス)、小売業が13兆8,800億円で+4.0%(5か月連続プラス)。

 

なお、商業販売額の季節調整済前月比は+1.5%で、卸売業+1.5%、小売業+2.4%。

 

小売業の業種別では、自動車小売業が前年同月比+16.2%と好調なほか、その他小売業が+7.3%、家電などの機械器具小売業が+6.3%とプラスの一方、織物・衣服・身の回り品小売業が▲6.6%とマイナスとなった。

 

小売業の業態別では、百貨店が5,347億円(+4.3%)、スーパーが1兆4,251億円(+0.8%)。

 

百貨店では、主力商品である衣料品は+5.6%(身の回り品+9.4%、その他の衣料品+3.9%、婦人・子供服・洋品+3.7%、紳士服・洋品▲0.1%)。飲食料品は▲0.5%。その他は、家庭用電気機械器具で+26.2%、食堂・喫茶で▲3.3%など。

 

高額品の需要が引き続き好調だったことに加え、7月中旬以降の猛暑にて夏物の販売が活発化し、また、下旬は夏休みが始まり手土産等の需要も高まった。

 

スーパーでは、衣料品で▲5.8%(婦人・子供服・洋品▲9.1%、身の回り品▲8.0%、紳士服・洋品▲4.8%)、主力商品である飲食料品で+0.8%、その他は、家庭用電気機械器具+12.2%、食堂・喫茶+3.1%、家庭用品▲5.9%など。

 

その他の業態では、コンビニエンスストアの商品販売額及びサービス売上高は1兆2,052億円(+1.3%)、家電大型専門店は4,770億円(+10.4%)、ドラッグストアは8,519億円(+3.4%)、ホームセンターは3,037億円(+1.0%)。

 

家電大型専門店では、エアコンなどの季節家電が+33.8%と大きく増加した。

 

経済産業省は参考として提示している小売業販売額の基調判断につき、季節調整済指数前月比の7月までのトレンドとして「上昇傾向にある小売業販売」とした。ただし、小売販売額は物価変動を含めた名目値であり、物価上昇による押し上げの影響も大きいとみられる。

 

供給側からみた個人消費は、自動車やエアコンなどを中心とした耐久財の販売をはじめ、インバウンドや夏休みシーズンの需要もあり、底堅く推移している。今後、台風シーズンの到来による集客への影響や、相次ぐ食料品値上げなどの影響に注意が必要。(経済部 菊井彩乃)

[インド/BRICS首脳会合] 

9月12日から13日にかけて、デリーにてBRICS首脳会合が開催される。今回会合には、加盟国11か国の首脳に加えて、パートナー国10か国・特別ゲスト国5か国が招待されている。

 
議長国のインドにとり、今回会合での最優先事項は中国との関係改善だ。今回会合では、習近平国家主席が7年ぶりにインドを訪問するとされている。インドと中国との関係は、2020年6月に国境付近で両軍の衝突が生じたことと前後し、中国を含みインドと陸上で国境を接する国からの直接投資を制限したほか、中国製アプリの使用を制限するなど悪化した。他方で、2024年10月にロシアで開催されたBRICS首脳会合にてモディ首相と習近平国家主席が会談を実施して以降、両国関係は改善しつつある。例えば国境問題に関しては、今年8月にドバル国家安全保障顧問が王毅外相との間で会談を実施し、実効支配線における境界画定を進めることを確認した。また経済面でも、今年3月にインド政府が直接投資制限を一部緩和している。今回の会合においても、国境問題や両国間の投資枠組みの設立などが協議される見込みである。
 
他方で、インド側も中国に対する警戒感が残っていることには留意が必要である。国境問題においては、インド政府が8月に中国と国境を巡り係争しているアルナーチャル・プラデーシュ州の公式地図を更新したが、その中でも中国の実効支配下にある地域をインド領と記載している。また経済面においても、2025年8月にはインドのFoxconn子会社が中国人エンジニアを急遽帰国させたほか、今年以降はインド人エンジニアが中国に入国するためのビジネスビザ申請が拒否されているとの報道が複数存在する(NDTV、2026年8月10日付記事)。インドが中国に代わる製造拠点となることを妨害するため、中国政府が意図的に実施した措置であるとの指摘もある。このように、両国関係は2020年の国境紛争以前の状態まで改善するものの、構造的・持続的な関係改善には至らないとの見方が多い(East Asia Forum、2026年5月26日付記事)。
 
また、インドにとり、バングラデシュとの関係も重要だ。バングラデシュでは今年2月にタリク・ラーマン新首相率いるBNP政権が誕生した。インド政府はBNP政権との関係を深化すべく、今年7月にはバングラデシュをBRICS首脳会合の特別ゲストとして招待した。他方で、バングラデシュからインド北東部に渡る不法移民に対し、北東部の州政府が強制送還を実施するなどの強硬な措置を取っていることから、バングラデシュ政府のインドに対する不満が拡大している。加えて、今年8月にハシナ前首相が亡命先のインドにて外国記者向けの会見を開催し、今年12月をめどとしてバングラデシュに帰国することを示唆した。バングラデシュ政府はインド政府が記者会見実施に関与したとして抗議し、BRICS会合への参加を見送る見込みである。加えて、今年8月にはバングラデシュ政府はメッカ協定への参加を前向きに検討していると表明している。メッカ協定にはインドと国境紛争を抱えるパキスタンが参加しているため、バングラデシュ政府としては本表明を通じてインド政府を牽制する狙いがあるとみられる。(国際部 土田慧)

[英国/バーナム英首相演説] 

2026年9月1日、バーナム英首相は、議会で就任後初となる演説を行った。1980年代以降の国政を中央集権と民営化による「誤った進路」と批判し、「地方第一」の政治による国家再生を掲げた。 演説の主要論点は以下の通り。

① 国防と外交:前首相の方針を継承し、ロシアの不法侵入に立ち向かうウクライナへの揺るぎない支援を継続する方針を示した。国防こそが国家の最優先事項であると位置付けた。

② 治安・司法改革:警察への投資や警察官増員の議論を進めることを表明。刑務所の逼迫への対策として、外国人犯罪者の強制送還プロセスの強化などにより、刑務所内の物理的なスペースを確保する方針を示した。

③ 気候変動対策:国内で観測史上最も暑い夏を記録した現状を「気候危機の具体的な姿」と指摘。11月にトルコで開催されるCOP31への出席を発表した。また、今夏の貯水容量不足や下水流出を巡り、水道会社が気候変動に対応できていないと強く批判し、これら重要インフラの公的支配・管理を強化する方針を示した。

④ 国境管理:フランス政府との協力(4万8,000人以上の渡航阻止)により、今夏の海峡横断者数が前年比で半減し、2021年以降で最低水準となった実績を強調した。

⑤ 経済・生活費対策:国民や企業への短期的な負担軽減として、電気料金のVAT(付加価値税)引き下げ、パブなどの事業減税、2027年中のバス運賃2ポンド上限維持を実施する方針を示した。

⑥ 地方分権と地域成長:過度な中央集権を排し、英国史上最大の権力再配分を目指すとした。「ナンバー10・ノース」主導でコーンウォールなどの分権を進め、16歳以降の技術教育や滞在税設定などの裁量を委譲する予定である。

⑦ 公共サービスとインフラ:水道や交通など重要インフラの公的支配・管理を強化する「10か年計画」を2026年後半に発表する予定。また、地方独自の産業戦略の支援や公営住宅の拡張も進める方針である。

 

メディアや野党は、防衛費3%目標の「具体的な達成時期」が示されていない点を問題視している。かつて早期達成を求めていたヒーリー氏が財務大臣に就任したものの、具体的な日付の設定を来春の歳出見直しまで引き延ばしており、財政規律との整合性をめぐる追及にさらされている。 保守党のベイドノック党首は、バーナム氏の経済分析を「国家介入と増税を増やすだけの誤った理論」と批判した。さらに、国政では市長時代とは異なり、複雑な予算要求や利害対立の中で「厳しいトレードオフ」の決定が迫られる現実が報道でも指摘されている。 また、北海油田の開発をめぐり、環境派(緑の党)と右派(リフォームUK)の板挟みとなり、COP31出席を誇る一方で、「現実的な移行アプローチ」で対応せざるを得ない姿勢も注目されている。(国際部 濱嵜隆吏)

[ザンビア/大統領就任式] 

9月1日、ザンビアの首都ルサカでハカインデ・ヒチレマ大統領(通称:HH)の2度目の就任式が開催された。8月13日の大統領選で得票率約60%で再選を果たした同氏は、2031年まで2期目の大統領職を務めることとなる。現行のザンビア憲法上では最後の任期となる。


満員のスタジアムで開催された同就任式には、ケニア、タンザニア、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビアといった周辺国の大統領のほか、米国、中国の代表も出席した。ヒチレマ氏は、大統領選において野党「トンセ・バモジ同盟」のブライアン・ムンドゥビレ候補が約38%の票を得たことを踏まえ、「選挙の結果がザンビア国民を永久に分断してはならない」と国民の団結を訴えた。


また、2021年の就任後、前年にデフォルトに陥ったザンビア経済を再生させた同氏は、第1期で達成した経済の安定化の成果を新たな段階に引き継ぐため、2期目は「Grow Zambia Agenda」を経済政策の中核に据えると発表した。具体的には、同氏が任期満了を迎える5年後の2031年までの数値目標として「10-10-5-3-3-1-1-1」を提示した。これには、ザンビアの基幹産業であるトウモロコシの年間生産量1,000万トン、発電量10GW(現在は4GW程度)、年間観光客数500万人(主要観光地はビクトリア・フォールズ)、銅と大豆の生産量約300万トン(銅はアフリカ第2の生産量で現在は年間約60万~80万トン)、小麦と砂糖の生産量100万トン、10億ドルの牛肉輸出が含まれている。


他方で今回の選挙について、欧州連合(EU)選挙監視団は投票日直後から与党「国民開発統一党(UPND)」に有利になるよう票の不正操作などがあったとし、選挙の公平性に疑義を示している。ムンドゥビレ候補と支持者は投票日翌日に警察による家宅捜索を受け、元運輸大臣が射殺されたほか、ムンドゥビレ氏は「国家反逆罪」の罪で拘束・起訴されている。『アフリカ・ガバナンス指数(IIAG)』を策定しているモ・イブラヒム財団は「ザンビアには競争的な選挙、平和的な政権交代、そして憲法上の手続きの尊重といった誇らしい伝統があるが、そのすべてが崩れ去ることは無駄であり、残念なことだ」と深い懸念を示している(8月26日)。


一方で、海外の投資家たちはザンビアの政治的混乱を多めに見ており、投資意欲を損なうまでのものではなかったとの見方が多い(9月1日、FT、Bloombergなど)。ザンビアの通貨クワチャは、世界的な半導体やAI関連の需要を受け、銅価格が2026年に入ってから15%上昇したのと連動する形で16%上昇している。ヒチレマ政権下でデフォルト後の債務再編を完了したザンビアの信用回復と経済への期待は、2026年に入ってからザンビアの現地通貨建て国債のリターンが37%と、コロンビアに次ぐ高水準となっていることにも表れている。投資家らは目下、ヒチレマ政権が国際通貨基金(IMF)の新規プログラムの交渉をまとめるかに注目しているとの見方がある一方で、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)は「(今回の選挙は)長期的には制度の強化や持続的な投資環境につながる良い例とは言えない」との現実的な見解もある(9月1日、ロイター通信)。(国際部 髙橋史)

 

[ブラジル/2027年度予算提出] 

2026年8月31日、ブラジル政府は2027年度予算案(PLOA)を議会へ提出した。予算案では、プライマリーバランスの黒字化を目指しつつも、年金や公務員給与などの義務的支出が引き続き財政を圧迫する構造が鮮明になっている。

2027年度の基礎的支出は2兆8,300億レアルと見込まれており、国内総生産(GDP)の約19%に相当する。一方、国債の借り換えなどを含めた総予算規模は7兆5,000億レアルに達する。また、2027年予算は税制改革によって創設された新たな付加価値税(VAT)制度を初めて本格的に織り込んだ予算となった。政府は連邦VAT(CBS)と選択税から合計6,779億レアルの税収を見込んでいる。
しかし、財政運営には依然として大きな制約がある。年金支出は1兆1,690億レアル、公務員給与は4,407億レアルに達する見通しであり、義務的支出の増加ペースがやや鈍化したことで確保できた裁量的支出の余地は387億レアルにとどまる。
政府は2027年度の実質的なプライマリー黒字を186億レアルと予測している。これは近年では改善といえるものの、予算指針法で定められた目標であるGDP比0.5%となる約732億レアルの黒字には遠く及ばない。それでも財務当局は、過去数年と比較すれば実質的な黒字への転換であると強調している。さらに、2026年度予算案とは異なり、新たな増税法案の成立を前提としていない点を成果として挙げている。
今回の予算案における社会保障関連費用では、低所得世帯向け給付制度であるボルサ・ファミリアは総額1,571億レアルを計上しているものの、給付額の引き上げは盛り込まれなかった。一方で、最低賃金は法律に基づき1,621レアルから1,741レアルへ約7.4%引き上げられる見通しで、義務的支出を約99億レアル押し上げる要因となる。
また、議会議員が地元事業などに配分できる義務的予算枠として448億レアルが確保された。この金額については財政規律の観点から既に批判の声が出ている。
予算案提出後には、ルーラ大統領が大手銀行や主要企業の経営者を大統領公邸に招いて会食を行ったことも注目を集めた。大統領選を控え、金融界との関係維持を重視しているとみられる。その一方で、ルーラ陣営の関係者からはブラジルに財政危機は存在しないとの発言も出ており、財政規律を重視する財務当局との温度差が浮き彫りになっている。(国際部 小橋啓)

[米国/電力事情] 

米国では、AIの急速な普及により、電力制約がデータセンター投資の前提条件として浮上している。論点は単なる発電量の不足にとどまらず、送電網への接続可否、需要予測の精度、24時間稼働できる安定電源の確保、さらには軍事・重要インフラのレジリエンスにまで広がっている。以下の事例は、AIインフラ競争が半導体やGPUの確保だけでなく、電源・系統・立地を含む総合的な産業競争へ移行していることを示している。
9月1日付TechRadarによると、米陸軍は「Project Janus」として、Antares Nuclear、BWXT、General Atomics、Radiant Industries、Westinghouseの5社を選定し、2028年までに5基地で原子力マイクロリアクターの導入を進める。原子力マイクロリアクターは、SMR(小型モジュール炉)の中でもさらに小型の原子炉で、一般に数MW~数十MW級。工場で製造して現地に運び、軍事基地や遠隔地などで系統に依存しない電源として使うことを想定している。Project Janusでは最終的に20基超を展開する構想で、狙いは外部系統が停止しても基地機能を維持できる独立電源の確保にある。重要施設は系統だけに依存しないという発想が鮮明になっているといえる。
同日付The Next Webは、ERCOT(テキサス電力信頼度評議会)などへのデータセンター接続申請が474GWに達したと報じた。これは州の過去最大電力需要の5倍超だが、すべてが実需ではない。開発業者が複数候補地で同時に接続枠を申請するghost demand(幽霊需要)が大量に含まれているためだ。実際、接続申請に担保や調査費を求めると案件数が大幅に減る例も出ている。AI向け電力需要そのものは確実に増えているものの、申請容量をそのまま将来需要とみなせば、発電所や送電網への過剰投資につながりかねない。今後は、土地、資金、顧客、電源契約まで確保された案件がどの程度あるかを見極める必要がある。
一方、Googleは、シェール開発で培われた水平掘削技術などを地熱に応用する米新興電力会社Fervo Energyと契約し、ユタ州のデータセンター向けに2028年以降最大396MW、2030年までに追加で600MWの地熱電力を確保する計画を進める。最大では約1GWとなり、AI事業者が既存系統から電力を買うだけでなく、必要な電源そのものを先に押さえる動きといえる。地熱は太陽光や風力と異なり、24時間安定供給できる点でデータセンターとの相性はよいと見られている。
これらのニュースに共通するのは、AIが米国の電力システムを変え始めていることだ。半導体やGPUを確保しても、電力がなければデータセンターは動かない。結果として、AI競争は送電網、原子力、地熱、天然ガス、蓄電池まで含むエネルギー競争へ拡大している。しかも、系統拡張だけでは需要増に間に合わず、重要施設や大口需要家では独自に電源を確保する動きを強めている。米国の電力トレンドは、単なる需要増ではなく、AIを起点に「集中型の系統依存」から「電源の分散確保と直接調達」へ重心が移りつつある。(経済部 本間隆行)

[中国/外国人配当に20%課税] 

9月1日、中国財政部と国家税務総局は、外国人個人が中国国内の外商投資企業から受け取る配当について、個人所得税の免税措置を同日付で廃止した。今後は「利子・配当・利益分配所得」として原則20%の個人所得税を課す。1994年以来、30年以上続いてきた外国人向けの税制優遇が終了した。外商投資企業が外国人に配当を支払う際に原則として源泉徴収し、翌月15日までに申告・納付することになる。


中国は改革開放を進める中、海外からの資本を積極的に呼び込むため、外国人個人が外商投資企業から受け取る配当を個人所得税の対象外としてきた。しかし、中国経済の規模が拡大し、外資企業が中国への投資を判断する際にも、税制優遇だけでなく市場規模や産業集積、法制度などが重要になったとして、中国政府は外国人だけを対象とした特例を整理する方向に転換した。政府系専門家は、経済が一定の発展段階に達すれば、税制優遇に依存して外資を誘致する必要性は低下すると説明している。


今回の変更で、中国はこれまで免税していた外商投資企業の外国人個人株主への配当から税収を得ることになる。ただし、外国人本人の最終的な税負担が20%分そのまま増えるとは限らない。欧米など多くの国では居住者の全世界所得に課税しており、従来も中国で免税された配当に居住国で課税される場合があった。中国で納めた税金について居住国で外国税額控除を利用できれば、その分を居住国での税額から差し引けるため、全体の税負担が大きく変わらず、従来は居住国に入っていた税収の一部が中国側に移る形となる場合もある。


今回の措置は外国企業など法人投資家への課税変更ではなく、外国人個人に認められてきた免税特例の廃止であり、中国が外資誘致を目的とした過去の優遇策を整理し、内外でより統一的な税制へ移行する動きと位置付けられる。(国際部 前田宏子)

[ユーロ圏/物価上昇] 

EU統計局(Eurostat)によると、8月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は前年同月比+3.3%となり、市場予想と一致した。上昇率は7月(+2.9%)から拡大し、5月(+3.2%)以来の3%台となった。上昇率は中東紛争が緊迫化する前の2月(+1.9%)から6か月連続で欧州中央銀行(ECB)の中期目標の2%を上回っている。

 

基調を表す食品とエネルギーを除くコア指数は+2.4%であり、7月(+2.5%)から小幅に縮小したものの、6月と同じだった。5月以降、おおむね2.5%前後で推移している。

 

内訳を見ると、食品(+1.2%)は7月と同じ伸び率だった。5月以降、2%を下回っており、次第に上昇率は縮小してきた。その一方で、物価上昇のけん引役であるエネルギー(+14.3%)は7月(+10.3%)から拡大した。3月以降プラスに転じており、それ以降、6月(+8.5%)を除いて2桁上昇となっている。また、エネルギー以外の財(+1.2%)は7月(+0.9%)から拡大し、24年3月(+1.1%)以来となる1%台の伸び率となった。それに対して、サービス(+3.0%)は7月(+3.3%)から縮小し、4月以来の低い伸び率だった。

 

 

域内の主要国を見ると、スペイン(+4.5%)がやや高かった一方で、イタリア(+3.2%)はユーロ圏並み、ドイツ(+2.9%)とフランス(+2.7%)は3%を下回った。リトアニア(+5.8%)やキプロス(+5.2%)、ブルガリア(+5.1%)が5%を上回った一方で、エストニア(+1.3%)やマルタ(+1.9%)は2%を下回るなど、引き続き上下の幅が広い。

 

物価上昇率は市場予想通り7月から拡大し、ECBの中期目標からの乖離幅を拡大させた。市場では、9月理事会で0.25%の利上げが実施されると予想されている。ECBは6月に利上げを実施し、7月に据え置いたものの、物価抑制に注力する姿勢を見せてきた。全会一致で据え置きが決定された前回7月の会合では、公表された議事要旨から、利上げが提案されていれば反対しなかったという参加者が複数人いたことが分かっている。前回会合時点でも、利上げを容認する意見があった。その当時より物価上昇率が高まり、高めの物価上昇が収まる気配が見えないため、9月会合では利上げが実施されるとみられている。(経済部 鈴木将之)

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