協調減産とトランプ政権

2016年12月13日

住友商事グローバルリサーチ 代表取締役社長
高井 裕之

 主要産油国が大幅減産に動いた。石油輸出国機構(OPEC)総会前の懐疑的な見方で空売りを仕掛けていた投機筋の買い戻しから油価は50ドル台半ばまで大幅反発した。産油国が需給調整に動くのは2年ぶりのことで協調減産まで踏み込んだのは8年ぶりとなる。しかも今回はロシアなど非加盟国もすぐに追随減産を決議しまさに全産油国が油価防衛で一致団結した形だ。

 

 背景には2年に及ぶ油価下落による苦しい台所事情がある。どの産油国も油価低迷による収入減と高止まりする政府支出で財政赤字が膨らみ我慢の限界にきていた。

 

 特にサウジアラビアは隣国イエメンへの軍事介入で戦費が急増する中、再来年には国営石油会社サウジアラムコの上場を控える。ここで油価の更なる下落を食い止め世界的な需給のリバランスを加速する狙いもあったのだろう。

 

 しかし満を持して協調減産のカードを切った産油国にもリスクが存在する。米国シェールの生産動向だ。米国では民間企業が経済合理性に従い産油量を決める世界。もし今回の減産で相場が上昇すれば増産に動くのは確実だ。しかもトランプ次期米大統領は国内の石油掘削業界を政策面で支援すると明言している。

 

 ただし、米国シェール業界は油価の低迷から今は減産体制に入っている。ここで油価が反転してもどれだけ短期間で増産に転じるのかまだ見えない。さらに米国の失業率は4%台の完全雇用状態で、中でも産油業界は過去2年間で大幅に人員削減してきた経緯がある。しかもトランプ氏が移民労働者を制限する動きに出ればますます掘削現場の作業員が払底、掘削機材も人材もコスト増は必至だ。

 

 減産合意はそんな米国の事情も見透かしての賭けだったのかもしれない。来年は油価防衛の一点で結束した産油国と米国産油業界とのイタチゴッコの一年になりそうだ。

 

2016年12月13日 日本経済新聞 夕刊 5ページ(十字路)掲載

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