大統領のブレーン

2017年01月20日

住友商事グローバルリサーチ 代表取締役社長
高井 裕之

 本日米国でトランプ新政権が正式に発足する。世界をアッと言わせた劇的な当選から約2か月。主要閣僚人事も発表され、政治、経済、外交、安全保障など新政権の具体的政策に世界の注目が集まる。

 

 閣僚の人選については、政治経験の少ないビジネスマンと元軍人のうごうの衆と揶揄する向きも多い。だが、トランプ氏が選挙期間中に「沼地のヘドロをかき出す」と公言したように、ワシントンにいる百戦錬磨の政治のプロをあえて政権から排除し、全く新しい眼で見直すという持論に基づく人選とも考えられる。

 

 現時点では能力が全く未知数の新閣僚だが、その中で1人私が四半世紀に渡って交友のある人物がいる。国家経済会議の議長になるゲーリー・コーン氏である。ゲーリーと私は1990年代前半に共にロンドンに駐在しメタルトレードの世界で切磋琢磨(せっさたくま)した仲である。

 

 労働者階級の家庭に生まれ幼少時の難読症を努力で乗り越えた商品先物取引所の仲買人出身のゲーリーは、フロアでの売買の才覚を認められゴールドマン・サックスに採用された経歴を持つ。ロンドンでもメタルトレードで頭角を現し同社の最年少パートナーに抜てきされる。

 

 私が彼を深く知るようになったのは、ロンドン市場を舞台にした、とある事件を通じてであるが、彼と彼のチームから様々な助言をもらい大きな危機を乗り越えることができた。その後彼は米国本社に戻り商品のみならず債券や為替部門の最高責任者を経てトップに上り詰めた。今でも超多忙の中、年に一度は会って世界観を交換し合っている。

 

 その経歴からただのマネーゲームの達人と誤解されがちだが、彼の職務への厳しい姿勢と常に先を読む世界観は出色である。世界経済をも左右する大統領の経済ブレーンとして彼以上の適任はいないだろう。健闘を祈りたい。

 

 

2017年1月20日 日本経済新聞 夕刊 5ページ(十字路)掲載

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