混迷の中東情勢、原油供給の長期リスクに

2017年07月23日

住友商事グローバルリサーチ 代表取締役社長
高井 裕之

 商品市況はパッとしない展開が続いている。中でも原油は協調減産の合意が来年3月まで延長されたにもかかわらず、1バレル40ドル半ばで足踏みしている。旗振り役のサウジアラビアをはじめ、減産に参加した産油国は期待外れの相場に頭を抱えているだろう。

 

 さてそのサウジだが、突然皇太子の交代人事を発表した。現国王の甥(おい)にあたるナエフ皇太子を退け、息子のムハンマド副皇太子を皇太子に昇格させた。ナエフ氏は長年テロ対策を指揮し、欧米諸国からの信頼も厚い。その重要人物を皇太子のみならず全てのポストから外す衝撃的な人事だ。弱冠31歳の若い皇太子の誕生で、将来の指導体制が確立したと言っても過言ではない。

 

 同じ時期に発表した隣国カタールとの断交も皇太子の人事と無関係ではあるまい。陸海空の交通を遮断し、人や物の移動も制限する極めて厳しい内容だ。カタールの首都ドーハは、ドバイと並ぶ域内のハブ空港でありその経済的ダメージは大きい。

 

 カタールは液化天然ガス(LNG)では世界最大の生産者で、パイプラインを通じ隣国へのガス供給も担っている。プロパンなどの液化石油ガス(LPG)やヘリウムでは、日本の重要な供給元でもある。

 

 同国には米空軍基地もあり、断交が武力衝突に発展することは考えにくい。目先、石油ガスの供給が途絶して相場が乱高下する可能性は低い。むしろ長期的に同国のLNG生産拡張計画が遅延するリスクが心配だ。核合意後のイランへの投資が進まないのと同様に、断交で視界不良となった湾岸情勢は同地域への長期投資を停滞させる。

 

 国際エネルギー機関(IEA)は今月発表の「世界エネルギー投資2017」で、石油ガスの上流投資が規模も開発期間も縮小傾向にあることに警鐘を鳴らしている。在来型の大型油ガス田の投資が停滞すれば、シェールだけで長期的な世界需要を賄うことは困難だ。

 

 イラクの内戦長期化、悪化する米イラン関係、そして湾岸協力会議(GCC)の分裂危機と中東情勢が迷路に入っている。それが油価低迷と相まって石油ガスの上流投資が手控えられ、長期的な供給リスクに黄色信号が点滅している。マーケットがそのリスクを過小評価しているような気がしてならない。

 

 

2017年7月23日 日経ヴェリタス 22ページ(コモディティウォッチ)掲載

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。