LNG急騰、中国「無計画経済」のツケ

2017年12月25日

代表取締役社長
高井 裕之

 アジアで液化天然ガス(LNG)価格が急騰している。世界的な供給過剰から年央には100万BTU(英国熱量単位)あたり5ドルまで下落したアジア向けスポットLNG価格だが、足元では10ドルで推移する。半年で相場が2倍になるのも国際商品では珍しい現象である。

アジアスポットLNG価格(出所:ロイターより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 背景には中国の環境対策がある。中国政府は2013年9月に発表した「大気汚染防止行動計画」を軸に今まで段階的に脱石炭対策を進めてきたが、この冬の大気汚染防止を徹底すべく地方政府に対し一段の強化策を指示。中央からの指令を受けた2+26都市(北京・天津と北部4省26都市)では10月から、順次全面的な石炭禁止令を発令した。

 

 翻って地方政府ではこうした段階的な中央指令の実行が後手に回り、天然ガスが大幅に不足する事態に陥っている。厳冬も重なって一部地域では暖房供給が停止する事態が生じている。国内のガス価格も急騰、12月になって政府が再び石炭の使用を認める緊急通達を出す事態に発展。地方都市の受け入れ態勢も確認せずに中央政府主導でガスへの方針転換を強行したことを、1958年の毛沢東時代の政策になぞらえて「大躍進」とやゆする声も上がる。

 

 ガス不足となった北部向けに急きょ供給を求められた南部や西部でもガス不足となり、政府は四川省・重慶の石油化学プラントに来年3月までプラントを閉鎖、稼働率を下げるよう指示。独石化大手BASFは不可抗力条項の適用を宣言する事態に。政府の燃料転換政策を受け、2017年のLNG輸入量は1~10月実績で2920万トンと前年同期の1977万トンから約50%増で推移する。このペースだと今年は、中国の年間LNG購入量が韓国を抜いて世界2位に膨らむ。

 

 今月になって慌てて石炭の使用を認めたものの、今度は石炭火力発電所や国内石炭生産者の方で、すぐに使える石炭の在庫が不足していたことから発電用石炭の価格も上昇、18日の鄭州先物取引所では今年最高値の698.8元にまで相場が急騰している。

 

 本来は中央と地方政府が足並みをそろえて計画的に実施されるべき環境・エネルギー政策だが、実態はバラバラである。地方の財政難もあろうが、国土が広く人口も多い中国だけに脳から出た指令が、末端の手足や指先にまで行き渡らない。計画経済と言いながら実態は無計画に近い。燃料に限らず商品の需給予測をするうえで、大きな不確実要因がそこに隠れている。

 

 

2017年12月24日 日経ヴェリタス 22ページ (コモディティウォッチ掲載)

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