デモは「ペルシャの春」にあらず

2018年01月11日

代表取締役社長
高井 裕之

昨年末にイランの地方都市で起きた抗議デモは全国に広がった。今回の動きは7年前のチュニジアを想起させる。2010年末、警察に抗議した若者の焼身自殺を契機に政府への抗議運動が国中に広がり、当時の政権が崩壊する事態に発展した。その後、民衆による反政府抗議運動はエジプトやリビアで政権を倒し、シリアでは内戦の発端となった。世にいう「アラブの春」である。

 

 失業問題・経済格差・特権階級の優遇・ソーシャルメディアでの拡散など、アラブの春とイランのデモには類似点が多い。今回のデモを主導するのは失業とインフレで困窮した労働者層であり、政府が提出した予算法案が怒りに火をつけた。宗教指導者の親族が運営する団体などに優先的に予算が割り振られ貧困層への現金支給は大幅カット、ガソリンの大幅値上げ案などが盛り込まれた。政府はデモ拡大を阻止すべくインスタグラムなどソーシャルメディアを遮断している。

 

 イランでは2015年の核合意で海外資産の凍結が解かれ、原油輸出が解禁された。しかし、米国の反イラン政策強化もあって海外からの投融資は伸び悩んでいる。テヘランなど都市部以外の低所得者層には、制裁解除の経済的恩恵が感じられないのだ。

 

 では今回のデモがアラブならぬペルシャの春なのか。答えは否だ。1つは今回の運動は指導者不在で組織化されたものではない。2つに民衆の不満は専ら経済問題で政治体制には向けられていない。それにデモは地方の小規模都市で起きており首都テヘランでは大きな騒ぎは見られない。

 

 予断は禁物だが、今事態を受けたイラン政府の経済政策の見直しは不可避だろう。気掛かりは米国政府の対応だ。核合意の存続を左右する大統領署名が週内にも到来する。冷静な判断を望みたい。

 

2018年1月10日 日本経済新聞 夕刊 5ページ(十字路)掲載

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