世界のカーボンプライシング

2021年07月26日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 7月は、温暖化対策の中でも「カーボンプライシング」[*1]に関連する注目すべき動きが世界中で相次ぎました。14日には、欧州委員会が2030年のCO2排出量55%削減(1990年比)を実現するための政策パッケージを発表しました。EU-ETS(排出量取引システム)の陸上交通・建築部門への拡大は、燃料や電力・ガスの最終需要家である国民の負担につながるという点で、また鉄・アルミ・電力など5分野についての炭素国境調整措置の導入は、産業競争力に大きな影響がある点で、それぞれ大いに注目されます。前者に熱心なドイツと後者に熱心なフランスとで立場が大きく異なることもあり、今後1年半はかかるだろうといわれる欧州議会・欧州理事会との調整でどのような妥協が成立するのか関心を集めています。

 

 この発表の前日の13日には、米国で国境炭素税に関する法案について民主党内での合意が成立しました。また、中国では、16日に温室効果ガスの排出量取引システムの取引が始まりました。これらは、いずれもCO2の排出に関し一定のコスト負担を求めるもので、カーボンプライシングの一種です。日本でもいずれ導入されるとの見方が強まっています。21日に発表された新しいエネルギー基本計画の骨子においては触れられていませんが、夏中には、現在政府で行われている検討において具体案が示される予定です。

 

 欧州の案もこれまでのところ妥協を重ねながら作られているものの、今後の調整で内容がどう変わるか分かりません。米国の場合も与党が法案内容に合意しても、本格的な調整はこれから。日本は経産省案、環境省案がこれから示されます。カーボンプライシングは、直接的・間接的に域外の国や企業にも影響が大きいだけに、実際にどこでどんな仕組みが導入されそうなのかを見極めながら、仕組みが導入される前に言いたいことは言い、日本企業にとって不利でない仕組みになることを期待します。

 


[*1] カーボンプライシング:気候変動問題の主因であるCO2(二酸化炭素:カーボン)に価格付け(プライシング)を行い、CO2を排出する企業などに排出量見合いの金銭的負担を求める温暖化対策の仕組み。

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