中国の変化

2021年09月28日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 市場経済の一員となって急激な成長を遂げてきた中国ですが、ここにきて転換点を迎えているようにみえます。昨年以来、アリババなどをターゲットとした大手ハイテク企業への活動規制、テンセント等ネット系を中心にした独占禁止法による取締り強化などが相次ぎました。最近では、滴滴(ディディ)など個人情報を扱う企業へのサイバーセキュリティ規制の強化、教育と関係する学習塾やオンラインゲーム企業への規制、さらには美容整形業への管理強化や仮想通貨の取引の禁止と多分野で規制が強まっています。

 

 経済成長の過程で新たに富を集中し、その一部を海外に流出させている可能性のある企業が増える中、いかにそれらを党のコントロール下に置き、「共同富裕」を標榜して「古き良き時代」の統治システムに回帰するかに神経をとがらせているようにも見えます。このところ一帯一路の活動が急速に不活性化していると指摘する人もおり、中国は、来年の党大会を意識してか、国内の体制固めに重心を置きつつあるともとれます。

 

 そんな中、CPTPPへの加盟申請が注目を集めましたが、これも結果的に台湾問題の色が濃くなってしまいました。また、気候変動分野では、海外の石炭火力への支援停止を表明しましたが、これも国内事情を一部反映しているでしょう。実際、国内では今年前半だけで20件以上の新規の石炭火力プロジェクトを承認しており、国内の電力不足解消に躍起になっているとの見方もあるようです。

 

 今やGDPは世界一の米国に迫りますが、これまでのようなスピードでの経済成長は難しいだけに、こうした規制強化・国内回帰で、成長の期待値は下がらざるをえません。そうなると心配なのは、中国の経済を支える不動産業。恒大集団の債務問題もこれからの政府の対応に要注目ですが、期待成長率の低下と不動産価格の高騰の中、不動産バブルが崩壊することへの不安は消えません。世界中の経済活動へのインパクトがあるだけに、注意深く変化を察知することが重要と思います。

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