二兎は追えるか?

2021年11月09日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 COP26[*1]が開催されています。各国の目標の修正で、今世紀中の気温の上昇を1.8度までに抑えることが可能との試算も出されています。気候変動は人類の活動が生態系にもたらしている負荷の結果とも言え、それを修正していくことは人類の存続に不可欠です。

 

 一方、温暖化を抑えるための世界の努力が、図らずも今年世界中で起きているエネルギー危機の一因ともなっています。その状況を受けて、欧州は天然ガス供給の増加をロシアに求め、ロシアも表面的には柔軟な姿勢を示すものの、実際には供給はなかなか増えていません。ロシア側からは、欧米が石油ガスの上流部門への投資を止めている中でロシアに追加供給を求めることへの疑問の声もあるようです。米国のOPEC+[*2]に対する増産要請についても同様のことが起きています。国内のガソリン価格の上昇が社会的な問題に発展しかねないことから、米国はサウジアラビア、ロシア、UAEなどに増産を要請。しかし、OPEC+は、他国にとやかく言われることを嫌気してか、これ以上の増産をしないことを決めました。ここでも米国内での石油・ガスの上流への投資の減少の影響がみられます。

 

 さらに中国では、製造過程で大量の電力を消費するマグネシウムやシリコンについて、当局が生産制限を求めたために、世界的に供給が減少。多くの部材の原料となる必須物資であるだけに、在庫が底を尽きつつある欧州は中国に増産を求めました。中国は、先進国が温暖化防止の旗を振るから、中国も電力消費を減らそうとしているのであり、増産は受け入れられないという姿勢です。

 

 人々の生活や日々の産業活動の死活を左右する燃料や物資の確保と温暖化対策、そのどちらもまさに今すぐ対応が必要なことです。二兎を追っていくことは容易ではありません。ただ、長い目で見れば、日々の生活や産業活動におけるある程度の不便やコストの上昇を甘受しながら、それに人々が慣れていく、そうした行動変容なしには、温暖化対策はうまくいかないでしょう。我慢すれば何とかなる部分の行動変容を加速しながらの対応が必要になります。今年の経験をよい教訓として、世界中での行動変容を加速する中で、そこに新たなビジネスチャンスが出てくるかもしれません。

 


[*1] COP26:国連気候変動枠組条約第26回締約国会議。10月31日から11月12日まで英国グラスゴーで開催中。

[*2] OPEC+:石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシア・メキシコなど非加盟産油国で構成される組織。原油の価格安定をめざし2016年に結成された。

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