台湾
社長コラム
2022年08月03日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
今年2月にウクライナでの戦闘が始まってから、次は中国が台湾に軍事侵攻かとの懸念が高まり、その後戦闘の長期化につれて次第に冷静な捉え方も増えていましたが、また、にわかに状況が緊迫化してきました。中国共産党にとって、台湾統一は必ず達成しなければならない使命であり、その優先方針は平和的統一であることを繰り返し述べています。しかし、台湾の人々が自ら統一を求めるように変化する可能性は小さい。そうすると、圧倒的な軍事的優位を確立してどこかのタイミングで何等かの力を使って統一を企てることになりかねません。
平和的統一という方針があるものの、その前提は「これまでの状況が変わらなければ」ということなので、中国共産党が「一線を越える」と認識するようなことが起きれば、力の行使が懸念されます。例えば台湾が独立に動き出すとか、米台の首脳が相互に公式訪問するとか。ペロシ下院議長率いる米国の議員団の8月2日~3日の訪台は、それに極めて近いものです。直ちに、中国は事前に警告していたような報復措置に出ています。具体的には、サイバー攻撃、台湾への貿易制裁、企業の制裁、台湾周辺での大規模軍事演習などが報じられています。直前の7月末の米中の首脳電話会談は残念ながら事態を好転させることにはなりませんでした。
米中双方の非難合戦や制裁がエスカレートしたり、演習が実力行使に変質したり、アクシデントが起きて大規模な衝突になったりすれば、日本そして日本企業のビジネス、さらには世界にとって、ウクライナとロシアの戦闘の比にならない深刻な影響があることは間違いありません。6月のドイツでのG7サミットの首脳宣言でも触れられている「台湾海峡問題の平和的解決」の重要性を思い知らされます。ウクライナでの戦闘を目の当たりにして、これだけ世界の平和の重要性を人々が実感する中、米中両国に、節度と責任ある行動を切に望むところです。
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