米国原油生産を下支えするPermian盆地

2016年10月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子


 

◇注目されるPermian盆地

 

 米国ではテキサス州西部とニューメキシコ州の東南部にまたがるPermian盆地が、原油生産の回復を牽引する地域として大きな注目を集めている。原油価格が5月に50ドル付近に回復したのを機に底打ちし、それ以降米国の石油掘削リグ数は増加を続けているが、増加した98基のうち70%をPermian盆地が占めている。Permian盆地の原油生産シェアが全米の25%に過ぎないことに鑑みれば、Permian盆地でのリグ数の増加率がいかに高いかがうかがえる。また、原油価格が下落した2014年以降、他のシェールオイル生産地Eagle Fordはピーク時から原油生産量が40%、Bakkenでは25%減産となったが、Permian盆地のみ原油生産が減少に転じていない。

 

主要シェール地域(出所:EIAより)

 

石油掘削リグ数の推移(出所:Baker  Hughes, Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

シェール生産地別原油生産(出所:EIAより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

リグ当たり石油生産量(出所:EIAより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇地質構造に強み

 

 Permian盆地が他のシェールオイル地域に比べ優位性を保っているのは恵まれた地質構造にある。Permian盆地は通常のシェール層に比べ原油の堆積する層がミルフィーユ状に幾重にも重なっているという特徴がある。このため、他のシェール層と同じ投下資本でより多い原油を確保でき、原油価格が50ドル以下でも生産維持が可能となっている。さらに、Permian盆地は他のシェール層に比べ開発時期が遅かったこともあり、生産効率の改善余地も大きい。リグ当たりの石油生産量は、500バレルとEagle Fordの半分以下で、今後採掘経験を蓄積するなかで更にリグ当たりの生産を増やせる強みがある。

 

主要シェール層/盆地の断面図(出所:Pioneer Resources株主向け説明資料より)

 

 

◇Permianの資産買収の状況

 

 2016年発生した米上流投資の半数がPermian盆地の権益買収に関わるもので、原油安のなかにあってもいかに魅力的かを示す一例となっている。6月以降実施された資産買収7件のうち、5件の買収価格は1エーカーあたり3万ドルと原油価格が100ドルで推移した2014年上期から取引価格が変わっていない。QEP Resourcesに至っては1エーカーあたり6万ドルと破格の買収を実施しており、Permian盆地の権益の収益性の高さを裏付けている。

 

 また、ロイターによると2016年1~8月のシェール開発企業による新株発行額は204億ドルと2014年に並び、1996年以来の高水準となっている。新株発行した32社のうち、16社が資金調達用途を権益取得に充てており、Permian盆地権益を購入したQEP Resources、Concho Resources、SM Energyなどが含まれる。

 

Permian関連のM&A一覧(出所:Seeking Alphaより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇更なる埋蔵量の可能性

 

 9月7日に米石油大手Apache Resourcesは、Permian盆地の東部に新たな大規模油田を発見したと発表。東部は粘土質であるためこれまで重要視されてこなかったが、同社は初期調査の原油埋蔵量を30億バレルと試算している。今後より精緻な調査が必要だが、仮に採算性の合う油田であればPermian盆地のポテンシャルがさらに高まる可能性がある。

 

 

◇今後の見通し

 

 米エネルギー省はPermian盆地を中心とする石油掘削リグ数の増加をうけ、9月に米国の原油生産見通しを上方修正し、減産幅を2016年日量▲65万バレル(前回見通し▲70万バレル)、同▲26万バレル(前回見通し▲42万バレル)とした。また、同地の主要生産者Pioneer Resourcesは、Permian盆地につき2025年まで現状の油価で毎年日量30万バレルずつ増産でき、2025年には日量500万バレルに達すると見込むなど、長期的にも米国の原油生産を牽引し続けることが期待されている。

 

米国の原油生産見通し(出所:EIAより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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