フィリピン鉱山監査の結果発表

2016年10月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

 フィリピンでは6月30日に元ダバオ市長のドゥテルテ氏が新大統領に就任した。ドゥテルテ大統領は鉱業が国内の環境汚染の原因になっているとの認識から、「責任ある鉱業(Responsible Mining)」の推進を鉱業界に強く求め、頑強な環境保護派で知られるレジーナ・ロペス氏を環境天然資源省(DENR)大臣に指名。新政権発足から間もない7月8日、フィリピン全土において、鉱山の操業が適切に行われているかを確認する一斉監査を開始した。この結果次第では主にニッケルの供給に影響が及びかねないことから、市場は固唾をのんで結果を見守っていた。

 

 

◇予想より厳しい結果に

 

 9月27日に発表された監査結果は、全国41件の鉱山のうち「合格」とされたのがわずか11件に留まる厳しい内容となった。7月以降、計10件の鉱山が既に操業停止命令を受けており、新たに停止勧告を受けた20件を含めると、全体の75%が環境基準と鉱業法に適合していないと判断されたことになる。摘発内容は堆泥、土壌侵食、発塵、樹木伐採・取水承認の未取得、フィー不払い等をはじめ個々に異なり、各鉱山には是正措置を講じるための7日間の猶予が与えられた後、政府側でのレビューを経て、10月下旬に閉鎖対象となる鉱山が発表される見通しとなった。

 

 

◇ニッケル鉱山に関する監査結果

 

 今回「合格」とされた11件のうち、ニッケル鉱山はNickel Asia社(Rio Tuba Nickel、Cagdianao Mining、Taganito Mining)、Platinum Group Metals社(Ferronickel Holdings)、Pacific Nickel Philippines社(稼働中鉱山なし)のみとなった。監査結果発表より前の時点でニッケル鉱山8件(ニッケル生産量換算で約4万トン)が停止していたが、今回是正勧告を受けたニッケル鉱山の生産規模は約18万トンと推定され、合計するとフィリピンの2015年のニッケル鉱山生産47.5万トン(世界シェア22%)の半分近くに達する。

 

 

◇ニッケル供給への影響

 

 金融機関からは一連の操業停止による生産減少は3~6万トンとの事前予測が出ていたため、停止勧告を受けたオペレーションの大半が閉鎖された場合、供給不足幅や価格に対する上振れ要因になる。だが、勧告を受けた鉱山がすべて閉鎖するとは限らず、不適合箇所の是正や操業再開に要する期間も個々に異なるとみられるため、影響度は今後の対応次第だ。また、第4四半期は雨季のためフィリピンからのニッケル輸出は減少するのが通例であり、ニッケル鉱石価格は現状、供給逼迫を示唆していないため、地金生産への影響が顕在化するとしても年明け以降と予想される。

 

 なお、インドネシアが鉱石禁輸を実施した2014年以降、ボーキサイト資源の乱開発が行われ水質汚染・大気汚染が問題化したマレーシアでは、2016年1月から当初3か月間の予定で導入された採掘停止措置が継続している。フィリピンでも乱開発による環境悪化が生じたことは確かだが、ドゥテルテ大統領が「鉱業なしでフィリピンはやっていける」と述べ、ロペスDENR大臣は露天掘り全面禁止を提唱する一方、監査結果発表にあたっては「鉱業そのものではなく環境破壊を批判している。テストを通過した企業と、カナダや豪州よりも厳格な環境保護対応を取りながらやってゆく」と説明するなど、鉱業に対する新政権の発言も一貫していない。政府内には現実的対応を求める声もあり政策動向は今後も紆余曲折が予想される。

 

 鉱山一覧(出所:フィリピン環境天然資源省及び各種資料より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。