中国トウモロコシ備蓄正常化への方策と国際価格への影響

2016年11月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
山野 安規徳


◇ 破綻した備蓄政策

 

 中国政府は、食料生産量を増やし国内市場を安定させるために2007年からトウモロコシの臨時備蓄政策及び価格支持政策を実施してきた。価格支持政策のもと、政府は国際価格より高い価格で農家からトウモロコシを購入していたため、国内価格は国際価格より最大で170%以上高い水準まで上昇した。農家の生産意欲は増したが、飼料業者は割安な海外産のソルガムやDDGsといったトウモロコシ代替品を使用したため、国内備蓄は積み上がり、国家財政を圧迫するという弊害を引き起こした。現在のトウモロコシ備蓄量は保守的な米農務省の推計でも1.1億トンと全世界の在庫の半分を占めるとみられており、調査会社上海JCインテリジェンスの発表では2.5億トンにものぼるという。政府は10月から臨時備蓄政策を取りやめ、価格支持政策から農家への直接補助金支給に移行した。これらの膨大な備蓄をどのように処理していくのか、処理できるのか、世界が注目している。

 

 

◇ 様々な方策で備蓄量正常化を目指す

 

 トウモロコシは綿花等と比べて劣化ペースが速く使用期限が短いこともあり、中国政府は様々な手を使い備蓄量の正常化を図ろうとしている。政府は、毎年備蓄の競売を行っており、2016年は5月末から約5か月間に渡り備蓄トウモロコシを競売にかけたが、成約率(競売に対する売却量)は約20%の2,200万トンに留まっている。

 

 加えて、国内トウモロコシ消費を促進するために、政府は9月に米国産DDGsに輸入税賦課(反ダンピング税33.8%と相殺関税10~10.7%)、10月に国内トウモロコシ圧砕業者への補助金支給を行った。中国の圧砕能力に鑑みて、これらの政策変更によってもトウモロコシ需要は年500~600万トン増加するに過ぎず、2.5億トンの備蓄に対して効果は小さいとみる。

 

 

最終手段の「輸出」へ

 

 中国政府はトウモロコシの輸出再開に向けて動き始め、9月には国有企業の少なくとも2社にトウモロコシ200万トンの輸出枠を割り当てた。中国は過去、最大で年間500万トンのトウモロコシを輸出した実績がある。仮に500万トン輸出したところで備蓄の正常化への影響は小さいとみられるが、国際市場、特に中国産が流入する可能性のあるアジア市場にとっては無視できない量であり、国際価格の下押し圧力となる可能性が懸念される。今までは中国国内価格と国際価格の値差が大きいために、輸出の可能性は低いとされてきた。しかし、価格支持政策廃止の可能性が伝えられ始めてから国内価格は下落し、現在10年ぶり安値圏で推移している。中国が地理的優位にあるアジア向け価格については、北米産CFR価格が200ドル/トンに対して、中国産260ドルといまだ高いながらも値差は縮まっており、中国の輸出の現実味を帯びてきている。更に中国のトウモロコシ輸出には増値税(13%)がかけられているが、政府はより競争力を向上させるために税還付することも検討しているとされる。同国の輸出競争力上昇は米州やほかトウモロコシ輸出国にとって脅威になる可能性があり、中国国内価格の推移と税還付のタイミングに注目が集まる。

 

 

◇ 今後の見通し

 

 中国のトウモロコシ需給は、前述の様々な方策によって少しずつ改善していくとみられるが、既存の膨大な備蓄を使用期限内に処理することは難しいだろう。市場が警戒する中国産の輸出については、中国産には品質劣化や不純物が多いといった不安があることから、仮に中国産価格が国際価格より20~30ドル安くなったとしても、海外の需要家は購入せずに様子見するだろうとの意見が多数見られる。そのため、中国からすぐに大量のトウモロコシが市場に出てくることは考えづらく、国際価格への影響は限定的とみる。なお、このまま備蓄がなかなか減らない状況が続くのであれば、中国は最終的に数十億ドルともいわれる備蓄資産の評価損を計上する必要があるだろう。

 

国際価格と中国国内価格の推移(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

世界と中国のトウモロコシ期末在庫量(出所:米農務省より住友商事グローバルリサーチ作成) 

 

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。