インドネシア、未加工鉱石の禁輸措置で一部政令改定

2017年02月03日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

◆資源の政府管理強化の方向性そのものは変わらず

 

 1月12日夕刻、インドネシア政府は「鉱業事業活動に係る2017年第1号政令」を11日付で公表。2017年1月12日から発効予定だった鉱石禁輸措置について修正が行われた。資源の政府管理強化・国内付加価値化を推進する新鉱業法の基本原則は変わらないが、今回の政令により同日付での鉱石完全禁輸が延期され、一定の条件を満たすことで5年間は鉱石輸出が認められることになる。

 

 詳細は依然不透明な点が多い。銅については現在輸出が停止中で、再開時期がポイント。ニッケルは禁輸措置施行からわずか3年での予想外の政策変更で市場の初期反応はネガティブだったが、現時点では実需給や価格への影響を測りきれず、競合国フィリピンの政策動向と併せて様子見姿勢が強い。

 

 以下、現状をまとめる。

 

 

インドネシアの鉱物輸出状況(出所:Jakarta Post, ITCより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

銅:現在精鉱輸出停止中。問題解消しなければ減産の可能性

 

 インドネシア政府は2009年新鉱業法(鉱物石炭鉱業法)に基づき、原則として2014年1月12日から国内での付加価値化を義務付け、鉱石輸出を禁止したが、銅などについては製錬所建設にコミットする条件付きで3年間の経過措置を設けた。2017年1月11日にこの期限を迎え、翌1月12日から輸出は停止している。

 

 だが近年の市況悪化による設備投資の減少や許認可手続きの遅れ等から、製錬所建設は停滞している。銅は同国にとって主力輸出品であり、このまま禁輸に踏み切れば経済への打撃を免れないことから、禁輸措置導入の延期は必至と思われていた。

 

 ただ、今回の政令では1月12日以降も輸出を認める条件として、「外資鉱業者は5年以内に既存の鉱業事業契約(CoW)を鉱業事業許可(IUP)または特別鉱業事業許可(IUPK)に切り替えること」「5年以内の製錬所建設の確約」「最大10%の輸出税支払い」「外資企業は10年以内に現地資本に株式51%譲渡(従来の規定では30%)」等、追加の条件が示されている。

 

 

 政府はCoWからIUPKへの切り替えは書類が整っていれば2週間で可能だとしているが、同国最大の銅鉱山Grasbergを擁する米FreeportはIUPKへの切り替えの条件として「CoWと同等の条件が認められること」を求めており、順調な契約変更がなされるかは不明。また同社がこれまでに現地資本に譲渡した株式は9.36%に過ぎず、インドネシア国内で51%を取得可能な買い手が現れるかも不透明だ。なお、鉱業ライセンスの期限延長は満了期限の5年前から申請可能となった(従来は2年前)。Freeportは輸出停止が続けば2月にも産出した銅の置き場がなくなるため減産を免れないと警告、政府はFreeportに一時的に輸出を許可する可能性を示唆している。

 

 

インドネシア鉱業セクターへの直接投資(出所:インドネシア投資調整庁より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

インドネシアの銅輸出(出所:Statistis Indonesiaより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

ニッケル:予想外の輸出規制緩和。国際需給の著しい悪化

 

 ニッケルについては2014年1月からの禁輸措置を受け、インドネシア国内への製錬所建設プロジェクトが進められてきた。これまでに中国資本が同国の精錬設備に投資した額は150億ドルに達するとされ、ようやく精製品輸出が拡大し始めたところだ。このため、政策変更は投資先としての同国の信頼感を損ねかねないとして、輸出規制緩和には懐疑的な見方が多かった。今回、一定の制約付きとはいえ輸出規制が緩和されたことは、市場にとってはネガティブサプライズといえる。

 

 今回の法令では、純分1.7%以下のニッケル鉱石について5年間、製錬所の処理能力の30%相当量を国内処理した後の余剰分のみにつき海外販売を認める方針とされた。この背景には、国内処理できない低品位鉱が行き場をなくし国内で在庫として蓄積していたこと、輸出減少で製錬所建設プロジェクトへの資金難が生じていること等を理由に、国営鉱山会社Antamが輸出規制緩和を強く求めてきたことが指摘される。他方、同国精錬業界は、上述の理由に加え、国内の川下産業育成が主眼であるはずの規制を現時点で緩和することは時期尚早であるとして強く反発している。

 

 インドネシア産のニッケル鉱石は一般にフィリピン産より高純度であるため、フェロニッケル・ニッケル銑鉄の原料に適しており、2014年の禁輸措置施行まで日本や中国の精錬業者が活発に輸入。輸出停止後は他国産鉱石の代替利用や事前確保した鉱石在庫とのブレンドが行われてきたが、昨年来のフィリピンの鉱業監査の影響もあって、在庫払底後の原料調達に不安が生じていた。今回の規制緩和でインドネシア鉱が再び調達可能になれば、同国産への回帰が起きる可能性は高い。ただ輸出条件として高コストの低品位鉱の処理義務が課せられること、輸出税、5年間の時限措置などの制約や、製錬所を新設した企業の投資回収効率などに鑑みれば、どれだけの供給増に繋がるかは不透明。Ignasius Jonanエネルギー鉱物資源相は低品位鉱石の輸出は最大520万トン(純分ベース5~6万トン)と予想しているが、フィリピンでは2月2日に鉱業監査結果が発表され、同国生産能力の5割に相当する鉱山(推定16~17万トン相当、純分ベース)に閉鎖指示・停止勧告が下ったため、最終的なフィリピン鉱の供給減少幅や閉鎖期間が現時点で不明であるにせよ、インドネシアの供給増はフィリピンの供給減で一部相殺されることにもなる。最終的な国際需給への影響は見通しづらく、市場の需給観は揺れ動いている。

 

 

インドネシアのニッケル鉱石輸出(出所:Statistics Indonesiaより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

ボーキサイト:輸出規制緩和でも市場への影響は限定的か

 

 ボーキサイトについても2014年1月から輸出禁止となっているが、今回の法令でアルミナ分42%以上のボーキサイトについては条件付きで一部輸出が認められた。

 

 インドネシアは新鉱業法施行前の数年でボーキサイト生産を急拡大し、中国のボーキサイト輸入の大半をインドネシア産が占めるに至っていたが、ボーキサイトは世界的に生産国が分散しているため、禁輸措置導入後は豪州、インド、マレーシア、ギニアの生産国へと調達先をシフトすることでインドネシアの供給減少の穴は既に埋められている。2016年以降はマレーシアが環境問題を理由に採掘停止中だが、市場での調達に支障は生じていないため、インドネシアがかつてのシェアを奪い返すことは容易でないと考えられる。現在インドネシア国内で計画されているアルミナ製錬所・アルミ製錬所の規模では、新鉱業法施行以前のボーキサイト生産・輸出量を回復することは難しい。またボーキサイトについても輸出は時限措置であるため、買い手がインドネシアの政策変更のリスクを取ってまで長期契約先を変更する可能性は高くないとみられる。

 

 

世界のボーキサイト生産(出所:WBMS、Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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