中東フラッシュレポート(2022年2月後半号)

2022年03月09日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年3月7日執筆

1. UAE:国連安全保障理事会でウクライナ侵攻に関するロシア非難決議案を棄権

 2月25日、国連安全保障理事会(UNSC)でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案の採決が行われ、ロシアが拒否権を行使したため同決議案は採択されなかったが、米国の同盟国であるはずのアラブ首長国連邦(UAE)が中国やインドとともに棄権に回ったことが注目された。UAEの大統領外交顧問はその理由を、「どちらかの側に付くことはさらなる暴力を生むだけであり、紛争の政治的解決のためには外交と交渉が優先されるべき」と説明している。

 

 UAEは、リビアにおいてロシアとともに東部のハフタル将軍側を支援、「OPECプラス」の枠組みでは原油の協調減産でロシアと協力している。さらに、米国が中東からの撤退姿勢を示しているため、UAEはロシアや中国との関係を重視し両国との経済・軍事関係強化を進めている。またUAEは、2月28日にUNSCでイエメンの反政府勢力フーシ派に対する制裁決議案を提出しており、その際にロシアの支持を得るため2月25日のUNSCでのロシア非難を避けたとみる専門家もいる(実際にロシアはUAEの制裁決議案を支持した)。

 

2. ガス輸出国会議開催

 2月21~22日、ロシア産ガスの供給懸念が広がる中で、 ガス輸出国会議(GECF)がドーハで開催された。

 ウクライナ侵攻に対するロシア制裁で欧州へのロシア産ガスの供給が停止した際に、米国はカタールに欧州へのガス供給を期待するが、カタールのLNG輸出は長期契約で売り先が決まっているため、短期間内に欧州に融通できる量は限定的。

 

3. トルコ:地中海から黒海に通じる海峡における軍艦の通航制限を発表

 2月28日、トルコ政府はロシアによるウクライナへの軍事侵攻を「戦争」と定義し、モントルー条約の規定により、地中海と黒海を結ぶダーダネルスおよびボスポラス海峡における軍艦の通航を制限すると発表した。同条約には、戦時およびトルコが脅威にさらされた時に、トルコ政府はこれらの海峡における軍艦の通航を制限できるとの規定がある。2月にはロシアの軍艦6隻と潜水艦が同海峡を通過して黒海に入っており、ロシアによる侵攻が始まった2月24日にウクライナ政府はトルコ政府に軍艦の通航を制限するよう要請していた。今後黒海を登録基地にしていない軍艦の海峡通過が制限されるが、どの程度の影響が出るのかは不明。

 

4. イランのライーシ大統領がカタールを訪問

 2月21日から2日間、イランのライーシ大統領が外相・石油相など5人の大臣を伴ってカタールを訪問した。大統領はタミーム首長と会談し、航空、海運、貿易などに関する14の覚書に署名した。ライーシ大統領の就任後初めてのアラブ国家訪問で、イランの大統領がカタールを訪問するのは11年ぶりのこと。両国外相は2022年1月に相互に訪問しており、またタミーム首長およびカタールの外相は1月末にワシントンでバイデン米大統領と会談していることから、カタールは核交渉の仲介を行っているとみられている。ライーシ大統領はガス輸出国会議にも出席した。

 

5. 大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の稼働開始

 エチオピアのアビィ首相はナイル川に建設中の大エチオピア・ルネッサンスダム(GERD)の水力発電の一部稼働を開始したと発表した。同ダムは、完成すれば5,000MW級のアフリカ最大の水力発電ダムとなるが、今回稼働したのはその一部のみ(375MW)。ナイル川下流に位置するエジプトやスーダンは、エチオピアに対し、3国の合意のもとにダムの貯水や運用を行うよう求めているが、エチオピアは主権の問題として法的拘束力のある合意への署名を拒否し続けている。国際社会やアフリカ連合の仲介も、これまでのところ功を奏していない。

 

6. リビア情勢

  • 代表議会(HoR)により新首相に指名されたバシャガ氏は、3月1日にHoRに閣僚名簿(3副首相、29大臣、8国務大臣、うち女性2人)を提出し、同日の出席議員101人中92人の賛成を得て新政権「国家安定政府(GNS)」が承認された。3月3日の議会での宣誓就任式を経てバシャガ新首相率いる政権が正式に発足したが、現職のドゥベイバGNU首相はいまだ権限移譲を承諾しておらず首相職継続の意思を示しており、1国2政府状態となっている。今後、国連主導の政治プロセスの停滞とリビア内政のさらなる混乱が予想される。

 

  • ファトヒ・バシャガ新首相は59歳、ドゥベイバGNU首相と同じリビア西部のミスラタ出身で、2018~21年まで国民合意政府(GNA)で内務大臣を務めた人物。元空軍パイロットで、その後ビジネスマンに転身しタイヤや建材の輸入業に従事した。カダフィ政権崩壊後に政界に進出し、2021年2月のドゥベイバ首相選出時には対抗馬として立候補した。2021年12月に予定されていた大統領選挙にも立候補していた。トルコやムスリム同胞団との強いつながりを持つと言われるが、米、仏、露、エジプトなど諸外国とも良好な関係を構築している。

 

  • 2022年1月の原油生産量は、輸出施設の封鎖やメンテナンス、悪天候の影響などで日量99万バレル(bpd)に減少した。2020年10月の停戦合意以降に生産が復旧し、2021年は110~120万bpdで比較的安定した生産量で推移したが、石油関連インフラの老朽化や内政の混乱で原油生産の不安定化が懸念されている。

 

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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