商品市況:2022年3月

2022年03月31日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

概観

 

 ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してからの1か月で国際商品を取り巻く世界情勢は大きく変化した。需要・供給の見通しだけでなく取引環境までもが極めて不確実な状況となり、商品市況のボラティリティは極度に高まった。当初は比較的小規模だった西側の経済制裁や企業などによる自主規制は、前例のない規模へと急拡大している。ロシア中銀との取引停止・金融機関のSWIFT排除や株式・債券指数からのロシア除外、企業によるロシア事業の縮小・撤退など、マネーや技術のフローが遮断されただけでなく、船舶の寄港禁止や領空の飛行制限など物理的にも断絶が生じた。ロシア産エネルギーの輸入制限に関してはもともとロシア依存の低い米国・カナダが先陣を切り、ロシア依存が極めて高い欧州までもが「脱ロシア」を急速に進めようとしている。これは容易なことでなくエネルギー政策にも影響が及ぶ。西側がロシアの国際金融へのアクセスを遮断しドルを「武器化」したのに対し、ロシアは「非友好国」に自国商品の購入代金支払いをルーブル建てにすることを要求。一連の動きで、ロシアと西側との断絶・分断がこの先も多かれ少なかれ、続くであろうことが決定的となった。

 

 その一方で、中国・インドをはじめ、ロシア非難を最小限にとどめ、ロシアとの貿易を継続する国もある。国際商品はこれまでドル建て価格をベンチマークとしてきたが、ドル以外の通貨建てでの取引が急速に増えようとしている。

 

 

市況

 

 国際商品はコロナ禍による供給制約と需要拡大などにより、戦争勃発前から供給が逼迫していたが、ロシア産以外の商品に対する需要が高まったことで、価格は急騰した。リーマンショック後の相場回復はボトムから約2年で頭打ちになったが、今回は資源ブームだった前回とは異なり、コロナ危機発生前の10年間の市況低迷や前回のブーム期の過剰投資に対する反省、ESG重視の機運から生産企業の設備投資は抑制されており、価格が上昇しても供給側の増産対応が弱い。また、原油は行き場をなくしたロシア産原油の貯蔵能力が問題となる4月以降に減産が拡大する可能性があり、農産物は戦時下のウクライナ・経済制裁下のロシアの2022年春以降の農業生産への制約が懸念されることなどから、まだ供給逼迫のピークに達していない可能性もある。その分、需給安定には需要削減も必要で、それを促す高値がしばらく続くとの見方が多くなっている。

 

 

商品先物価格(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

需要

 

 米国の世論調査では米国成人の多くが遠くのウクライナ情勢以上に足元のインフレを懸念しているとの結果が示されており、中間選挙を控えたバイデン政権がガソリン価格抑制策を講じているだけでなく、FRBも金融引き締めに積極的な姿勢を見せている。安価なロシア産エネルギーに頼れなくなった欧州をはじめエネルギー輸入国の景気悪化も懸念される。購買力があれば単に価格の問題で済むが、購買力や供給そのものがなければ消費できず、消費行動の変化や代替をもたらす。「アラブの春」のように物価高騰が社会不安を生み、新たな供給不安を引き起こす可能性がある。インフレに悩む新興国が割安になったロシア産商品の調達を増やす兆候も既に出ている。コロナ禍も長引き、中国では昨年来の景気減速に加えて、オミクロン株感染拡大で複数の都市でロックダウン措置が取られ、原油や金属などの需要を抑制している。 商品の需要見通しも流動的だ。

 

 

流動性低下

 

 ボラティリティと商品価格の極端な上昇は商機でもある一方で、先物市場を利用する当業者や投機筋は巨額の追加証拠金請求への対応を余儀なくされ、資金繰りに苦慮。取引コストの上昇で保有ポジションを削減する動きも相次いだ。3月のニッケル市場の混乱もロンドン金属取引所(LME)のマージンコール(追加証拠金請求)が大きな引き金の一つだった。市場の流動性低下もまた、ボラティリティを高める要因となる。

 

 

米国主要商品先物総取組高(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。