ベトナム経済:堅調さを維持も、人手不足解消が課題(マンスリーレポート5月号)

2022年05月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:堅調に推移している。2020年はCOVID-19の抑制に成功しASEANで唯一実質GDP成長率がプラスだった(+2.9%)。2021年は第2四半期まで実質GDP成長率はプラスだったものの、感染が拡大し各地でロックダウンとなったため第3四半期は統計作成開始以来初のマイナス成長を記録した(前年同期比▲6.9%)。10月にゼロコロナからウィズコロナに政策を転換し、第4四半期はプラスに転じた(同+5.2%)ため通年では+2.6%とプラスを堅持した。2022年第1四半期は+5.0%と堅調さを維持。先行きについては、堅調さを維持する見込み。ただし、2021年のロックダウンにより労働者が大量に帰郷した後、都市部の職場への戻りが鈍く人手不足が解消されておらず、中国でのゼロコロナ政策、ウクライナ情勢に起因したサプライチェーンの分断やインフレなどが重石になるだろう。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率の見通しはそれぞれ+6.0%、+5.5%、+6.5%。注目点は、主力産業である製造業や観光業での人手不足の改善だ。

 

    

 

個人消費:回復しつつある。小売売上高(年初来)は、ロックダウンにより2021年8月から12月まで前年同月比でマイナスとなった後、2022年1月以降プラスに回復。しかし、4月は前年同月比+6.5%にまで達したものの、COVID-19以前の平均10%以上には戻っていない。今後は、ウィズコロナ政策の下、回復ペースが加速するとみられる。

 

生産:堅調に推移している。4月の鉱工業生産は、前年同月比+9.4%とCOVID-19前の2019年4月の同+9.3%を上回る伸びとなった。労働集約型の業種である縫製品や自動車などが2桁台の伸びとなった一方、主力である携帯電話は同▲9.8%の落ち込みになった。ゼロコロナ政策に伴うロックダウンが各地で実施されている中国からの部品調達の遅れが生産に影響している可能性がある。

 

貿易: 輸出入とも好調を維持している。輸出額は、感染が広がっていた2021年8月、9月に伸びがマイナスとなった後反転し好調を維持している。2022年4月は前年同月比+25.0%の332.6億ドルと好調だった。中でも最大輸出品目である電話・電話部品は同+62.8%と急増した。輸入額は同+15.5%の321.9億ドルだった。特に価格が高騰する石油・石油製品と石炭はそれぞれ2.7倍だった。数量でもそれぞれ同+79.1%、2.4倍に増加した。貿易収支は10.7億ドルの黒字。

 

先行きについては、生産・輸出入とも引き続き堅調さを維持するとみられるものの原材料価格の高騰やサプライチェーンの混乱が重石となるだろう。

 

    

 

物価:上昇ペースが加速している。政府の物価統制や石油価格安定基金の補助金が寄与し上昇が抑えられているものの4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.64%と前月の同+2.41%から加速。今後、資源価格の上昇によりインフレ目標である+4%未満に抑えることは難しいかもしれない。

 

金融政策: 緩和を維持。今後可能な限り緩和を維持するとみられる。

 

財政政策:感染に対する景気刺激策を講じたため2021年の財政収支(基礎的財政収支)はGDP比▲4.2%(IMF推計)。今後改善へと向かう。

 

    

 

為替:好調な輸出と海外直接投資の回復などにより緩やかな下落にとどまっている。今後も緩やかに下落基調が続く見込み。

 

株価:年初まで過去最高値を更新したものの4月以降、やや軟調気味。4月は、米国の大幅な金融引き締め観測の強まりなどの外部要因のほか国内で不動産企業の経営者逮捕が相次いだことが嫌気され国内勢の売りが主導し下落。先行きについては、外国人投資家の資金流入も増加していることに加え経済のファンダメンタルズが堅調であり高い経済成長が期待されるため上昇基調に転じると予想する。    

 

 

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