商品:世界の食料価格動向(2022年5月)ほか

2022年06月09日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

2022年6月6日執筆

 

食料価格

 

 国連食糧農業機関(FAO)が6月3日発表した5月の世界食料価格指数は月間平均157.4と、過去最高だった3月(159.7)からは2か月連続低下。サブ指数では穀物・食肉が前月比で上昇し、植物油・乳製品の価格は低下した。前年同月比では22.8%高の水準となっている。

 

 セクターごとで見ると、穀物では、国際小麦価格は4か月続伸し、過去最高を更新。5月は主要生産国の減産見通しやインドの禁輸措置導入を背景に5.6%上昇し、2008年3月に記録した過去最高値まであと11%の水準に迫った。この強さが波及した大麦価格も前月比1.9%上昇、コメは5か月連続上昇した一方、トウモロコシは収穫期を迎えた南米の新穀供給と、作付期にある米国産地の天候改善を受け下落、ソルガムの価格も下落した。

 

 植物油はなお歴史的高値圏にあるため需要低下でやや軟化したが、インドネシアのパーム油輸出を巡り二転三転する規制やウクライナ国内でのヒマワリ油滞留などで価格は下げ渋っている。肉類は豚肉・牛肉は下げたが、家禽価格の高騰で指数は上昇した。砂糖は2か月連続上昇のあと、小反落。乳製品は8か月続伸していたが、5月は前月比▲3.5%の下落となった。

 

 

FAO食料価格指数(出所:FAOより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

穀物需給:2022年度は生産・消費・在庫・貿易量全て減少?

 

 なおFAOは現時点で、2022/23年度は世界の穀物(小麦+粗粒穀物+コメの合計)生産が27億8,400万トンと、4年ぶりに前年割れになると予想。前年度比では1,600万トンの減産を予想している。これは既に作付け済みの作物と、今後の作付意向に基づいた推定値であり、作況次第で変動するが、現状、トウモロコシ・小麦・コメの順に減産幅が大きくなるとみられ、大麦・ソルガムは増加の見込み。これに伴い20年ぶりに穀物消費量も減少すると予想されている。また穀物生産量は消費量を下回り、期末在庫も減少すると推定されている。貿易についてはコメ貿易量の見通しは良好である一方、粗粒穀物と小麦の貿易量は減少すると見込んでいる。上記のようにFAO穀物価格指数は2022年5月に史上最高値を更新しており、2022/23年度前半までは穀物価格は上昇が続く可能性があると指摘している。

 

 

穀物需給(出所:FAOより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

なお、5月の各種報道・統計資料から上記の状況を補足すると以下の通り。

 

天候

 

 米国・カナダの今年度の作付作業は春先の悪天候により出足が大幅に遅れ、ここ数週間で急ピッチで進められた。ただ作付け時期の遅れはこの先、収量低下や収穫の遅れのリスクを生む。欧州も一部地域が干ばつに見舞われ、5月は特にフランス小麦の作柄が急速に悪化した。インドは2022年度に過去最高の小麦生産が見込まれていたところ、記録的熱波で一転して減産の見通しとなった。豪州では2022年度冬作物の作付面積拡大が見込まれているが、東部では長雨と洪水の影響が残る。他方、ロシア・ウクライナは天候には恵まれている。ウクライナは作付面積が前年を30%近く下回る見通しではあるものの、予定面積の大半について作付作業を終えている。ロシアは豊作となる見通し。多くの国が天候不順に見舞われる中、米国農務省は現時点で2022年度は小麦・大麦・トウモロコシいずれも世界全体で減産となると予想。小麦については主要輸出国が軒並み減産で、2021年度に減産となったロシアが輸出シェアを回復する見通しとなる。

 

 

米国:トウモロコシ作付進捗状況(出所:米農務省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

インド:小麦需給(出所:米農務省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

輸出制限

 

 世界的に食料危機が社会問題となる中、自国供給を確保し価格を安定させるため、輸出制限や関税率変更を行う国が相次いでいる。インドは5月、小麦輸出奨励の姿勢を翻して輸出禁止に踏み切り、今年度の砂糖輸出にも上限1,000万トンの輸出制限を設けて6月1日~10月31日の輸出を認可制とした。また大豆油・ヒマワリ油の輸入には2024年3月までの免税輸入枠を設けた。インドネシアは国内の食用油供給を安定させるため政策変更を繰り返しており、4月28日からはパーム粗油と一部派生品の輸出禁止を導入していたが、国内在庫の急増とヤシ価格暴落を受けて零細農家が禁輸措置撤回を訴えたため、5月23日から輸出を3週間ぶりに解禁して国内供給義務(DMO)制度に切り替えた。マレーシアは6月1日から鶏肉輸出を停止し、一部食料輸入については許可制度を廃止。メキシコは5月16日、食品や一部日用品の輸入関税を17日から1年間免税とすることを発表。この措置は更に1年間延長する可能性もあるとしている。

 

 

ウクライナ穀物を世界へ!

 

 上記のように生産国は天候リスクにさらされ、輸出制限を導入する国が増える中、世界の食糧不足を補えるような解決策は限られる。ロシアのウクライナ侵攻でウクライナの黒海沿岸の港湾は封鎖されており、西側国境から鉄道やトラックでEU域内に輸送して輸出するにも限界がある。間もなく収穫期を迎えるが、ウクライナ国内で滞留している穀物を輸出できなければサイロの空きが不足し収穫できない。こうした中、ウクライナ国内に滞留する穀物の輸出を急ぐため、EUが鉄道輸送の迅速化を図ったり、有志国の国軍が参加する国連主導の船団結成で海上交易の安全を確保する案が浮上したりなど、さまざまな取り組みがなされている。ロシア・ウクライナと関係が良好なトルコが仲介に乗り出し、ロシアも条件付き輸出を提案するなど、状況は日々変化している。

 

 

以上

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