インド経済:資源価格高騰で貿易赤字拡大、インフレ加速(マンスリーレポート6月号)

2022年06月10日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2020/21年度(2020年4月~2021年3月)の実質GDP成長率はCOVID-19抑制のため厳しいロックダウンが実施され▲6.6%まで落ち込んだが、2021年5月にCOVID-19の再拡大がピークに達した際には、部分的なロックダウンなど柔軟な対策が実施されたため、前年よりは経済への影響を抑制でき2021/22年度は+8.7%とプラスに転換した。同年度の第4四半期は前年同期比+4.1%と前期(同+5.4%)から減速した。2022年初めのCOVID-19の再拡大では感染者数がピークアウト後急減し経済へのダメージは限定的であったが、ウクライナ情勢の影響などでインフレが高進し内需への下押し圧力となっている。特に輸入依存度が高い原油、肥料、食用油などの価格高騰が企業・家計への負担になっている。先行きについては、サービス業などが成長ドライバーとなり回復が続くとみられる。ただし、コモディティ価格の高騰、通貨安、利上げなどが逆風となり投資・消費が抑制されることが懸念される。IMF、世界銀行、ADBによる2022/23年度の実質GDP成長率の見通しはそれぞれ+8.2%、+7.5%、+7.5%。注目点は、ルピー安や資源価格高騰により輸入物価が高騰しその結果経常収支が悪化することに加えインフレ抑制のための燃料税の引き下げなどによる税収減や同補助金への支出増で財政収支の悪化が懸念される点だ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

生産:回復しつつある。2021年3月以降、鉱工業生産の伸びは前年同月比でプラスを維持。2022年3月の鉱工業生産は同+1.9%。今後については、金融引き締め、卸売物価の上昇、サプライチェーンの制約、電力不足などが生産活動の足かせとなるものの回復が続くとみられる。

 

貿易:好調を維持している。輸出は2021年3月以降、2桁台の伸びを維持(2021年4月は前年同月比+195.7%)。2022年4月は同+30.7%の402億ドルと伸びは前月の同+19.8%を上回った。先行きについては、通貨安の恩恵を受け好調を維持するとみられる。世界各国、特に中東・アフリカ諸国でウクライナからの小麦の輸出が滞っているため、インド政府は小麦輸出を増加する方針だったが、熱波・干ばつなどで国内での生産減少が予測され5月中旬に輸出を禁止した。輸入も2021年3月以降、2桁台の伸びを維持(2021年4月は同+167%)。2022年4月は同+31.0%の603億ドル。4月の貿易収支は▲201億ドルと赤字幅が拡大している。今後、コモディティ価格の高騰により輸入額が増加し貿易赤字の拡大がさらに進むだろう。

 

    主要経済指標(出所)インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが加速している。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.79%と前月の同+6.95%からさらに加速、4か月連続でインフレ目標である+2~6%を上回っている。3月の卸売物価指数(PPI)も同+15.08%と前月の同+14.55%から加速、13か月連続で上昇幅は+10%台の高止まりになっており、企業収益を悪化させている。今後も主にコモディティ価格の上昇が続くことにより年内はインフレ目標を上回るだろう。

 

金融政策:インド準備銀行(RBI、中央銀行)はインフレ加速に対応し5月4日の臨時会合で政策金利を0.4%引き上げ4.40%とし現金準備率(CRR)も0.5%引き上げ4.5%とした。6月8日の会合でも政策金利を0.4%引き上げ4.90%とした。今後も追加利上げが実施されるとみられる。

 

財政政策:財政赤字の拡大が懸念されている。ガソリンやディーゼルに対する減税などインフレ対策の費用が拡大し2022/23年度の全体の支出の8%ほどを占める可能性がある、そうなると同対策への支出が増えるため公共投資(予算案では前年度比+24.5%)などの景気対策への支出が削減される可能性がある。2021/22年度の財政収支(連邦政府)のGDP比は▲6.9%(見込み)。2022/23年度は同▲6.4%に縮小することを目指している。

 

    物価(出所)インド中央統計局よりSCGR作成

 

為替: 下落している。6月7日現在、1ドル77.75ルピーと史上最安値を更新。4月初旬、RBIによる介入や原油価格の低下により反騰する場面もあった。年内は米国による利上げや経常収支の悪化、政府債務拡大などを背景に嫌気されドル買いルピー売りの動きが続き、ルピーは下落しつづけるとみられる。

 

株価:2021年12月以降、下落基調が続いている。2020年3月に急落後、COVID-19拡大にもかかわらず楽観的な景気回復見通しや個人投資家の新規株式公開(IPO)ブームなどを背景に2021年10月(史上最高値を更新)まで上昇傾向が続いた。今後は財政・経常収支の悪化観測や利上げなどが懸念され軟調に推移するとみられる。     

 

為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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