フィリピン経済:内需の勢いが増し、回復ペース加速(マンスリーレポート6月号)

2022年06月13日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:堅調に推移している。実質GDP成長率は、2021年第2四半期に前年同期比+12.0%とプラスに転じ、その後も第3四半期が同+7.0%、第4四半期が同+7.8%とプラスを維持した。2022年第1四半期も引き続き好調となり同+8.3%。雇用状況と所得の改善により家計の消費が増え、建設などの民間投資も拡大し、さらに各政党・候補者による総選挙関連の支出が増えたことなどがGDPを押し上げた。先行きについては、労働市場が回復傾向にあり、郷里送金も好調であることに加え、主要政策である「ビルド・ビルド・ビルド」によるインフラ投資が後押しし、アジア新興・途上国の中でも特に高成長となり堅調さを維持するとみられる。また、運輸、レストラン、食品サービス、小売りなどのサービス業の回復に加え、海外からの入国制限の緩和によって観光業の再開が顕著になるとみられる。しかし、ウクライナ情勢、米国の利上げを受けインフレが高進し国内外で需要が鈍化することが懸念されるため、政府は5月初旬、2022年の実質GDP成長率が+6%程度にとどまり政府目標である+7~9%には達しないとの見通しを示している。IMF、世界銀行、ADBの2022年の実質GDP成長率は、それぞれ+6.5%、+5.7%、+6.0%。注目点は、6月30日に誕生するマルコス政権の経済閣僚が明らかになり財界の評価は現時点では高いが、ドゥテルテ政権の経済改革路線を発足後しっかりと継続できるかという点だ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

生産: 堅調に回復している。製造業PMIは、1月はCOVID-19感染がピークであったにもかかわらず50となり、景気の節目である50を下回らなかった。5月は54.1となり前月の54.3をやや下回ったものの堅調を維持。今後、生産者物価指数(PPI)の上昇によりコスト増となり生産が鈍化する動きがでる可能性はあるものの、回復基調は続くだろう。

 

貿易: 輸出は、2021年3月以降、伸びはプラスを維持。4月は前年同月比+6.0%の61.3億ドルと、3月の同+5.9%より伸びはやや上回った。今後は主な輸出先である中国でのロックダウンの緩和により輸出増が期待される。輸入は、2021年3月以降、2桁以上の伸びで推移している。4月は同+22.8%の109.0億ドルだった。コモディティ価格高騰とペソ安が輸入額を押し上げていることに加え内需の増勢により今後しばらく増加し続けるとみられ、貿易収支は赤字が続いている。今後も輸入額の増加により赤字は継続するだろう。

 

    主要経済指標(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが加速している。5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+5.4%と前月の同+4.9%より加速しインフレ目標である+2~4%を2か月連続で上回った。ロシアのウクライナ侵攻を受け穀物・原油価格が高騰しているほか、中国でのロックダウンに起因するサプライチェーンの混乱、ペソ安進行からの輸入物価高騰などがインフレ加速の主な要因になっており、今後数か月は、インフレが加速するとみられる。中央銀行は、食品価格などの上昇から賃上げが実施されており、価格転嫁が相乗的に進むことを懸念している。

 

金融政策: 5月、2018年11月以来3年半ぶりの利上げ(年2.0%から2.25%)が実施された。5月に入り米国の利上げ幅が0.5%に引き上げられ、資金流出によりペソ安が加速する懸念が高まっていたことに加え、経済活動が回復してきたことも利上げの要因となった。今後数か月は追加利上げが実施されるだろう。

 

財政政策:大幅な赤字が続いている。COVID-19による経済の落ち込みにより税収減となりCOVID-19対策のための支出が膨らみ、財政収支のGDP比は2019年の▲3.4%から2020年は▲7.6%、さらに2021年は▲8.6%にまで悪化した。2022年は、政府見通しでは▲7.6%。

 

    物価(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

為替: 下落が続いている。6月は2019年8月以来の最安値となった。ペソ安は米国の金融引き締めが主な要因。今後は、米国による金融引き締めに加え、インフレ、経常収支の悪化が懸念され、年内はペソ安が続くだろう。

 

株価:軟調に推移している。5月は大統領選でマルコス氏が圧勝したが、マルコス家が再び政治のトップに返り咲くことを懸念する外国人投資家など一部投資家が保有株の売りの動きに出たとみられる。今後は堅調な景気回復が見込まれているため、大幅な下落の可能性は低いと予想する。    

 

為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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