マレーシア経済:雇用状況が改善し、景気は回復を維持(マンスリーレポート6月号)

2022年06月14日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2020年の実質GDP成長率は、COVID-19抑制のためのロックダウンが実施され大幅に落ち込み▲5.6%。2009年の金融危機(▲1.9%)以来のマイナスを記録、1998年のアジア通貨危機(▲7.4%) 以降最大の落ち込みとなった。2021年は再びロックダウンが実施され第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比▲4.5%となったが、第4四半期にはロックダウンが緩和され持ち直し(同+3.6%)、通年では+3.1%のプラス成長となった。2022年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比+5.0%とCOVID-19対策の緩和で経済活動が正常化し、雇用環境が改善されたことで内需が拡大した。先行きについては、回復が続くとみられる。引き続き半導体製品およびその部品の外需、コモディティ価格の上昇の恩恵を受け輸出が好調さを維持し、入国制限緩和で観光業も回復しパーム油農園などの産業では海外からの出稼ぎ労働者が戻り労働不足が解消されるだろう。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率見通しはそれぞれ+5.6%、+5.5%、+6.0%。注目点は、イスマイルサブリ・ヤーコブ首相が打ち出した消費税(GST)再導入が実現するかだ。2018年にGSTに替えて、免税対象がより多い売上税・サービス税(SST)が再導入され国民の税負担は軽減されたものの税収が減っている。

   経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

生産: 堅調に推移している。4月の鉱工業生産は前年同月比+4.6%と、前月(同+5.1%)より伸びが下回ったが、電気・電子製品含む製造業(全体の比率68%)の生産(同+6.2%)がけん引した。先行きは、雇用状況の改善がさらに進み堅調さを維持するとみられる。

 

貿易:好調を維持している。輸出入とも伸びは2桁台が続いており3月には輸出入とも過去最高額を更新。4月の輸出額は前年同月比+20.7%の1,275億リンギット(約290億ドル)だった。パーム油(同+35.3%)や半導体需要を追い風に電気・電子製品(同+27.0%)の輸出が伸びている。輸入額は同+22.0%の1,039億リンギット(約236億ドル)。中間財(輸入全体の57.3%)が同+28.1%、消費財(同8.0%)が+9.7%と増加した一方、資本財(同8.8%)は同▲2.8%に落ち込んだ。貿易収支は235億リンギット(約54億ドル)の黒字。今後も資源価格の上昇や外需の高まりで輸出は好調を維持すると予想する。6月1日から国内供給不足解消のため鶏肉を禁輸しているが同輸出割合は0.05%以下であり全体への影響はほぼないだろう。

 

    主要経済指標(出所)マレーシア統計庁よりSCGR作成

 

物価: 消費者物価指数(CPI)は、安定的に推移している。4月のCPIは前年同月比+2.3%と前月の同+2.2%から伸びがわずかに上回った。ただし、世界的なサプライチェーンの制約や需要増が押し上げ要因となり生産者物価指数(PPI)の上昇ペースが加速している。PPIからCPIへの転嫁が生じるなどで年内にCPIは同+3%を超える可能性がある。物価上昇に対応するため5月に全国一律で最低賃金が1,000~1,200リンギットから1,500リンギットまで大幅に引き上げられている。

 

金融政策: 緩和を解除。5月11日、政策金利を0.25%引き上げ2.00%にした。それまで2020年7月以降、過去最低水準である1.75%を維持していた。インフレ圧力の高まりと米国などの利上げ開始に対応するため、これから2023年にかけ緩やかに追加利上げが実施されると予想する。

 

財政政策: アジア通貨危機後の1998年以降、慢性的な赤字が続いている。COVID-19対策のため景気刺激策や税収減により2020年の財政収支GDP比は当初予算▲3.2%から▲6.2%、2021年は▲6.5%と拡大。2022年も▲6%の見込み。景気回復による税収増、歳入の脱石油依存などで財政の改善が期待される。なお、財政基盤の拡大に向け消費税(GST)再導入が検討されている。

 

物価(出所)マレーシア統計庁よりSCGR作成

 

為替: 下落している。5月の利上げを受けやや上昇する場面はあったが、米国株安を受けたグローバルなリスクオフの流れからアジア通貨が弱含み、同国も同様の動きとなり下落。5月中旬には2年2か月ぶりに4.4リンギットを突破した。しかし、好調な輸出、潤沢な外貨準備高などが下支えするため他国と比較し急激な資金流出にはならないとみられ、通貨安は進んでも緩やかなペースになるだろう。

 

株価: COVID-19拡大が始まった2020年3月、10年ぶりの安値を記録。その後国内でのCOVID-19拡大や政局の混迷により下落した時期もあったものの比較的安定的に推移している。今後、景気回復に向かい緩やかに上昇すると予想する。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。