ベトナム経済:輸出好調、サービス業回復で、第2四半期の経済成長が加速(マンスリーレポート7月号)

2022年07月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:堅調に推移している。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.72%と、四半期ベースで2009年以降最大の伸びを記録。輸出が好調さを維持し、COVID-19収束によりサービス業が急回復。前期は同+5.03%。ウィズコロナ政策のもと、2021年第3四半期(同▲6.02%)を底にV字回復が続いている。先行きについては、堅調さを維持する見込み。インフレや電力不足などが懸念されるものの、コロナ禍で帰郷した出稼ぎ労働者が徐々に都市部の職場へ戻ることにより人手不足が解消されつつある。また、最近相次いだ大手電子部品メーカーの中国からの工場移管により、製造業が勢いづくと予想する。2022年の実質GDP成長率の政府目標は+6.0~+6.5%。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+6.0%、+5.5%、+6.5%。注目点は、6月末からガソリンなど石油製品に関する特別消費税(SCT)と付加価値税(VAT)の引き下げが検討されていることだ。詳細は公表されていないが、実現すれば大幅な減税になると政府は示唆している。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:回復ペースが加速している。6月の小売売上高(年初来)は、前年同期比+11.7%と5月の同+9.7%から伸びが加速。ガソリンなど石油製品が同+22.0%、文化・教育が同+16.3%,レストラン・宿泊が同+20.9%と伸びが2桁台になったほか、入国制限の緩和に伴い観光業が急速に伸び、同+94.4%となった。今後は、観光分野が後押しし回復が続くとみられる。

 

生産:堅調に推移している。6月の鉱工業生産は、前年同月比+11.5%と前月の同+10.4%を上回る伸びとなった。衣料品、電子部品、電子機器はそれぞれ同+23.1%、同+18.8%、同+23.2%と高い伸びになった。今後は、生産拡大や猛暑による電力需要の増大により電力が不足していることから、生産活動が鈍化する可能性がある。サプライチェーンでの中国依存からの脱却のため、米アップルなど大手電子部品メーカーがベトナムに工場を移管する動きがあり、同分野での生産拡大が期待できる。

 

貿易: 輸出入ともに好調を維持している。輸出額は、6月に前年同月比+20.0%の326.4億ドルと5月の同+16.4%の304.8億ドルを上回った。主要10品目中9品目が同プラス成長となり、特に機械・機械設備が同+69.0%の40.0億ドルと急増した。輸入額は同+16.3%の323.7億ドル。貿易収支は前月の17.3億ドルの赤字から2.8億ドルの黒字に転じた。先行きについては、輸出入ともに引き続き堅調さを維持するものとみられる。

 

    主要経済指標(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが加速している。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.37%と前月の同+2.86%から加速。特に交通が同+21.41%と前月の同+18.42%から加速。ガソリンなどの燃料費高騰の影響が顕著に表れている。7月に入りガソリンなど石油製品の小売価格の上限が引き下げられたものの、資源価格の上昇は依然続くとみられる上、入国制限の緩和などにより国内消費が増加しインフレ圧力は高まるため、今後、2022年のインフレ目標である+4%を超える可能性がある。

 

金融政策: 緩和を維持。年内は、できる限り緩和を維持するものと予想する。

 

財政政策: 景気刺激策が継続。2021年の一般政府の財政収支GDP比は▲4.1%(IMF推計)。2022年のIMF予測は同▲5.0%。減税などを含め景気刺激策が続くとみられる。

 

    物価(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

為替:下落している。米国の利上げに伴い、ベトナムを含む新興国の通貨が下落基調にある。しかし、今後は、米国の利上げによりドン売りドル買いが進むことを見越し、中央銀行はドル売りドン買い介入を積極的に実施していく方針。国内の景気回復は堅調に続くとの期待感から、他の新興国と比較し緩やかな下落にとどまると予想する。

 

株価:年初まで過去最高値を更新したものの4月以降、下落基調が続いている。ウクライナ情勢などの影響で世界的にリスクオフとなり、年初から6月までで約20%下落。世界で最もパフォーマンスの悪い国の1つとなった。先行きについては、国内では経済成長が期待されるものの、米国などの利上げペースの加速による世界景気の減速懸念から、軟調に推移すると予想する。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。