インドネシア経済:パーム油禁輸で5月の輸出は一時的に減少も基調は堅調を維持(マンスリーレポート7月号)

2022年07月11日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。実質GDP成長率は2021年第2四半期以降プラスに転じ、第4四半期は前年同期比+5.02%、2022年第1四半期は同+5.01%と、COVID-19以前の平均的な伸びの水準まで達した。COVID-19の感染拡大がピークアウトしたため、国内の経済活動が軌道に乗り始めている。特にウクライナ情勢の影響で世界的にコモディティが不足し、輸出が堅調を維持している。先行きについては、輸出が堅調さを維持するとみられ、回復が続くと予想する。中央銀行による2022年の実質GDP成長率予測は+4.5~+5.3%、IMF、世界銀行、ADBは+5%台まで回復すると予測。注目点は、2024年に移転が予定されている新首都ヌサンタラでのインフラ開発に、民間投資を誘致できるかだ。政府は、投資誘致のため税制優遇などを盛り込んだ政令を策定中。6月には日系企業向けの投資セミナーが開催された。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

個人消費:回復が続いている。5月の小売売上高は前年同月比+5.4%(中央銀行予測値)と前月の同+8.6%から伸びは鈍化したが回復傾向は続く見込み。レバラン(ラマダン明けの祝祭:5/2~5/3)後、需要が鈍化したことが背景にある。物価上昇の影響などを受け食品・飲料・たばこ・自動車燃料が2桁の上昇となる見込み。今後、物価上昇などの影響を受け消費マインドの悪化が懸念されるものの、回復が続くとみられる。

 

生産: 回復がやや緩やかになっている。2021年8月以降、製造業PMIは景気の好不調の節目となる50を上回っているが、ウクライナ情勢による供給網の分断や卸売物価の上昇が響き、6月は50.2と5月の50.8を下回り、直近10か月間で最も低かった。先行きについては、企業が高騰している仕入れコストを消費者へ転嫁していることに加え、金融引き締めにより内需が弱含み、生産が鈍化する可能性がある。

 

貿易: 輸出入ともに堅調を維持している。資源価格の上昇で4月の輸出額は前年同月比+47.8%の273億ドルと過去最高を更新したが、5月は前年の反動と4月28日から5月23日までのパーム油の禁輸が影響したため同+27%の216億ドル、前月比では▲21%だった。今後も堅調を維持すると予想するが、世界的なインフレで外需が低下するリスクがある。4月の輸入額と伸び率は前月(前年同月比+21.9%)を上回り、同+30.7%の186億ドルだった。今後、輸入物価の上昇、ルピア安により輸入を手控える動きが拡大する可能性がある。貿易収支は29億ドルの黒字(黒字は25か月連続)。

 

    主要経済指標(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

物価: 上昇基調。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.35%と前月の同+3.55%を上回った。2021年6月以降、CPIの上昇が加速していたが、今回初めてインフレターゲットである+2~4%の上限を超えた。足元の資源価格が低下傾向にあるため、今後は緩やかな上昇になりインフレターゲットの上限である4%付近にとどまると予想する。

 

金融政策:引き締めに向かっている。米国の利上げを受け、政策金利は据え置いているが中央銀行は、預金準備率を6月に100bp引き上げ6%とした。引き続き7月には7.5%、9月には9.0%に引き上げる予定。年後半以降、政策金利の引き上げが開始される見込み。

 

財政政策: 財政収支は改善しつつある。COVID-19対策のため支出が増加し2021年度の財政収支はGDP比▲4.65%だった。2022年度の予算案で同見通しは▲4.85%だが、財務省は7月に入り▲3.92%に抑制することも可能との見通しを示している。2020年3月に時限措置で上限である▲3%の適用を停止しているが、2023年度には▲3%以内への縮小を目指している。

 

    物価(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

為替:下落している。ルピアの下落幅を抑えるため為替介入を実施しているものの7月に入り2年2か月ぶりに1ドル1万5,000ルピアを超える安値となった。今後も米国の利上げが継続しルピア安基調が続くとみられるが、下落幅を抑えるため中央銀行は引き続き為替介入を実施する方針。

 

株価:下落している。ジャカルタ総合指数は、2020年3月のCOVID-19感染拡大の影響による急落後、上昇基調が継続、2022年4月に過去最高値を更新したものの、5月はラマダン明け後、米国での株安などを嫌気し反落。その後世界経済成長への懸念が高まり大半のアジア株が圧迫を受け、同指数もそれに連なり下落している。米国の利上げで資金流出懸念があり、世界経済の成長に対する不透明感が高まっているため、今後しばらく下落傾向が続く可能性がある。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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