ベトナム経済:観光分野などが内需をけん引し景気回復が加速(マンスリーレポート8月号)

2022年08月09日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:堅調に推移している。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.72%と、四半期ベースで2009年以降最大の伸びを記録。輸出が好調を維持し、COVID-19収束によりサービス業が急回復。第1四半期は同+5.03%。ウィズコロナ政策のもと、2021年第3四半期(同▲6.02%)を底にV字回復が続いている。ただし足元では、ガソリン価格は下落に転じているものの飼料や肥料の高騰や飼料不足から豚肉価格が上昇しており、企業・家計を圧迫しつつある。先行きについては、堅調さを維持する見込み。2022年の実質GDP成長率の政府目標は+7.0%。第2四半期のGDPが好調だったこと、第3四半期が前年同期のコロナ禍の落ち込みの反動から伸びが加速することなどが織り込まれ、2021年11月に設定した政府目標であった+6.0~+6.5%から7月に上方修正した。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+6.0%、+5.8%、+6.5%。注目点は、中央・地方政府が公共投資を積極的に進めており景気回復を下支えしている点だ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:回復ペースが加速している。1~7月期の小売売上高(年初来累計)は前年同期比+16.0%と、6月の同+11.7%から伸びが加速。全体の約8割を占める小売商品およびサービスが同+13.7%。入国制限の緩和に伴い観光業が急速に伸び、同+166.1%となった。今後も国内外からの観光客の増加で内需が押し上げられ、好循環を維持するとみられる。

 

生産:堅調に推移している。7月の鉱工業生産は、前年同月比+11.2%と前月の同+11.5%をやや下回ったものの、3か月連続で2桁台の伸びとなった。ただし半導体不足が影響し、主力の自動車、携帯電話はそれぞれ同+14.8%、同+3.7%と、前月の同+19.9%、同+12.7%を下回った。今後は、半導体不足がしばらく続き世界的な生産の鈍化が懸念されるものの、サプライチェーンでの中国依存からの脱却のため米アップルなどの大手電子部品メーカーがベトナムに工場を移管する動きがあり、同分野での生産拡大が期待できる。

 

貿易:輸出入とも伸びが鈍化している。輸出額は、7月は前年同月比+8.9%の303.2億ドルと、前月の同+20.0%の326.5億ドルを下回った。世界経済の減速の影響を受け、最大の輸出品である電話・電話部品が同▲4.7%と、前月の同+15.3%からマイナスに転じた。輸入額は同+3.4%の303.0億ドルと、前月の同+16.3%から伸びが大幅に縮小した。貿易収支は前月の2.8億ドルから2,100万ドルの黒字に縮小。先行きについては、サムスン電子など製造業での設備投資や購買が手控えられているため、輸出入が一時的に滞る可能性がある。

 

    主要経済指標(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが鈍化している。7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.14%と、前月の同+3.37%から伸びはやや鈍化した。燃料価格などが反映される交通が同+15.22%と前月の同+21.6%より低下。また7月11日から4月に続き年内2度目の石油製品に対する環境保護税の減税が実施されたため、前月比では▲2.85%だった。一方、食品価格は上昇している。今後も食品価格の上昇がしばらく続き、2022年のインフレ目標である+4%を超える可能性がある。

 

金融政策:緩和を維持。インフレが比較的低い水準でもあり、年内は、経済成長を優先し、可能な限り緩和を維持すると予想する。

 

財政政策:景気刺激策が継続。2021年の政府の財政収支のGDP比は▲3.5%(IMF)。2022年のIMF予測は同▲4.70%。7月にインフラなどへの公共投資が大幅に増加した。上記の環境保護税の減税などを含め、景気刺激策が続くとみられる。

 

    物価(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

為替:下落している。米国の利上げに伴い、ベトナムを含む新興国の通貨が下落基調にある。対ドル相場の下限を引き下げ一定程度のドン安を容認している。今後は、貿易収支の悪化が懸念されるものの、景気回復は堅調を維持すると見込まれ他の新興国と比較し緩やかな下落にとどまると予想する。

 

株価:7月初旬以降は上昇している。ウクライナ情勢などの影響で世界的にリスクオフとなり、年初から6月までで約20%下落。世界で最もパフォーマンスの悪い国の1つとなった。先行きについては、世界的な景気減速懸念はあるものの、内需が勢いを増し経済回復が続くことが見込まれ大幅な下落は回避しうると予想する。    

 

為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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