「ロシア・トルコ・イランのトップが3者協議を実施」中東フラッシュレポート(2022年7月後半号)
調査レポート
2022年08月09日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2022年8月4日執筆
1.ロシア・トルコ・イランのトップが3者協議を実施
バイデン米大統領の中東歴訪が終わってわずか3日後の7月19日に、ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領がイランを訪問し、イランのライーシ大統領と3者協議を実施した。
ロシアにとっては中東での存在感をアピールし、欧米から制裁を科されながらも国際社会で孤立していないことをアピールする良い機会となり、イランとしても米国制裁に苦しむ中でロシア・トルコの大統領を呼んで会議を行ったことで、地域における重要国であることをアピールできた。ロシアとイランは、さまざまな軍事・経済協力でも合意。トルコにとっては、ウクライナの穀物輸出に関してプーチン大統領からの了承が得られたが、シリア北部への越境軍事作戦の計画に対しては、ロシア・イラン両国から反対された。
2.サウジアラビア:「The Line」プロジェクトの詳細発表
7月25日、サウジアラビアのムハンマド皇太子は同国北西部に建設する新産業都市NEOMの中心プロジェクトであるゼロカーボン都市「The Line」の詳細を発表。今は何もない土地に、幅200メートル、高さ500メートル、全長170キロメートルの鏡張りの構造物を建設し(総工費1兆ドル)、そこに2030年から人が住み始め、将来的には900万人が住むという大構想。「The Line」の中には高速鉄道が設置され全長170キロメートルを20分で移動できるようになるため車は必要無く、この都市のエネルギー源は100%再生可能エネルギーが利用されるため二酸化炭素の排出もゼロになる計画。
3.サウジアラビア:ムハンマド皇太子が2018年以来初の欧州訪問
サウジアラビアのムハンマド皇太子は、7月26~29日の日程でギリシャとフランスを訪問した。ギリシャでは、グリーン水素や海底データケーブル敷設などに関する合意に署名し、ミツォタキス首相と投資や安全保障などに関して協議。フランスでは、マクロン大統領とがっちり握手をし、原油増産やイラン核合意について話し合ったとされている。同皇太子は、2018年のカショギ氏(米国在住サウジ人ジャーナリスト)殺害事件への関与を疑われ国際的な場から姿を消していたが、原油価格が上がり始めた2021年後半以降、主要国のリーダーたちが増産余力を持つとされるサウジを続々と訪問。油価高騰を背景に立場が強まった同皇太子の国際舞台への復帰が予想される。
4.原油価格高騰の影響で産油国経済に明るい見通し
2022年は原油価格が高値で推移しており、日本などのエネルギー輸入国はインフレや輸入額の急増に苦しんでいるが、サウジアラビアを筆頭に中東の産油国は原油販売収入で潤い、2022年は双子の黒字を記録しそうだ。債務残高の減少も期待される。サウジアラビアでは2022年第2四半期の成長率が、石油セクターのけん引で11年ぶりの高水準となる前年同期比+11.8%を記録。第3四半期は原油のさらなる増産もあり、通年でも2桁の成長率を記録するものとみられる。産油国が潤えば、出稼ぎ労働者も増え仕送り送金の増額などで周辺国にも好影響が及ぶことが期待される。また同様に、産油国からの投資や援助、貿易額も増えることが期待される。
5.チュニジア:大統領権限を大幅に拡大する新憲法案が国民投票で可決
7月25日、サイード大統領が公表した新憲法案の是非を問う国民投票が実施された。大統領権限を大幅に強化する同案に対しては、主要政党や司法からの反発も強く、幅広くボイコットが呼び掛けられていた。選挙委員会の発表によると、投票率は30.5%と過去の選挙と比べてもかなり低かったが、賛成に投票した人が94.6%に達したため、可決されたとの最終判断が下されるものと予想される。主要政党などは、投票率の低さを理由に「正当性がない」として今後批判を展開するとみられる。2022年12月には議会選挙を実施予定。
6.リビア情勢
- 7月22~23日にかけて、首都トリポリと同国西部の都市ミスラタで武装勢力の衝突が発生し、民間人を含む17人が死亡、52人が負傷した。ドゥベイバ国民統一政府(GNU)首相とハフタル・リビア国民軍(LNA)司令官の裏合意でリビア国営石油会社(NOC)会長の交代を実現し、油田・石油施設の閉鎖が解除されたことで石油生産が通常運転に戻りつつあることは良い兆候だが、ドゥベイバ氏がハフタル氏と結託したことをよく思わない武装勢力が、ドゥベイバ氏から離れ、対立するバシャガ国家安定政府(GNS)首相支持に乗り換える動きが出始めていることに要注意。
- 7月31日、ウィリアムズ国連事務総長特別顧問がリビアでの任務を終了。2021年11月に突然辞任を発表したクビシュ前国連特使に代わって2021年12月にリビア入りしてから、8か月間にわたってさまざまな関係者との協議を重ね選挙実施への道筋を付けようと尽力してきたが、7月31日をもって任務を終了。新たな国連特使の人選は紆余曲折ありまだ決まっていないため、8月1日以降はゼネンガ国連リビア支援ミッション副代表が代理を務めている。ノーランド駐リビア米国大使兼リビア特使も近日中に交代するとの報道あり。
- 7月31日、NOCは、リビアの石油生産量が日量120万バレルを記録し2022年4月半ばから始まった油田・石油施設の閉鎖以前のレベルまで戻ったことを発表した。また、アウンGNU石油相はサナッラー前NOC会長と激しく対立してきたが、ベン・グダラ新会長とは互いに緊密に協力していくことを確認した。
以上
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