ドイツ極右AfDの台頭と東独諸州議会選挙
2026年09月04日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
濱嵜 隆吏
エグゼクティブサマリー
本稿は、2026年9月に東独で相次ぐ3つの州議会選挙(ザクセン=アンハルト州(投票日9月6日)、メクレンブルク=フォアポンメルン州(同9月20日)、ベルリン州(同9月20日))を対象に、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の動向と、日本企業を含むビジネス環境への影響を整理するものである。
AfDは2013年2月にベルリンで設立されたユーロ批判政党として出発し、2015年以降の難民流入等を契機に移民批判の受け皿として支持を拡大した。2017年連邦議会選挙で12.6%を得て第3党となり、2025年2月の連邦議会選挙では得票率を2021年比でほぼ倍増させ20.8%を獲得、以降最大野党となっている。AfD支持拡大の背景には、移民問題、地位不安と社会変容への恐怖、旧東独固有の歴史的経験、政治不信と非投票者の動員という複数要因がある。2025年連邦議会選挙でのAfDへの最大の新規投票者は2021年選挙の棄権者であったとされる。
最新の公共放送委託調査では、ザクセン=アンハルト州でAfDが40〜42%の第1党となり、メルツ連邦首相所属のキリスト教民主同盟(CDU、約22%)を約20ポイント引き離す。メクレンブルク=フォアポンメルン州ではAfD(35〜36%)が社会民主党(SPD)をリードするが過半数には届かず、ベルリン州ではCDU(約21%)が首位を回復し、左派党(約19%)、AfD・緑の党(各約18%)が競り合うものの、政権入りは想定されない。
最注目のザクセン=アンハルト州議会選挙について、州首相選出に必要なのは「得票」ではなく「議席」の過半数であり、5%阻止条項を割る政党が増えるほどAfDが議席過半数に要する得票率は下がる。緑の党・SPD・ザラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)等が僅差で議会入りできるか否かが今回の最大の焦点となる。現時点での世論調査結果に基づけば、AfDが第1党となりつつも過半数を欠き最大野党にとどまるシナリオが現時点で最有力とされる。
政策面では、移民厳格化(Remigration)、エネルギー転換の廃止と原子力・化石燃料回帰、EU・ユーロ離脱、公共放送への制度的挑戦が連邦・両州で共通軸をなす。ただし移民・通貨・外交は連邦専管事項であり、教育・警察・文化・公共放送が州固有の権限であるため、AfD綱領の重要施策の多くは州単独では完結せず、憲法・連邦法上の制度的限界が大きい。ビジネス環境への影響としては、再生可能エネルギー・洋上風力への否定姿勢、外国人材の受入抑制的傾向等が主要な懸念点として挙げられる。半導体・化学・再エネのサプライチェーンに参加する日本企業にとって、これらの補助金スキームの継続性は拠点選択の重要変数となる。
目次
1.1 設立経緯と沿革
1.2 AfD支持拡大の構造的要因
1.2.1 移民問題
1.2.2 地位不安と社会変容恐怖:経済・文化因子の交差 4
1.2.3 東独における構造的・歴史的固有性
1.2.4 政治不信と非投票者の動員
1.2.5 まとめ
2.AfDの主要政策
2.1 基本政策
2.2 独の連邦制について
2.3 ザクセン=アンハルト州の選挙綱領・筆頭候補プログラム
2.3 メクレンブルク=フォアポンメルン州の選挙綱領
2.4 連邦・州政策の一貫性と特徴
3.各州の選挙情勢
3.1 ザクセン=アンハルト州(投票日:2026年9月6日)
3.2 メクレンブルク=フォアポンメルン州(投票日:2026年9月20日)
3.3 ベルリン州(投票日:2026年9月20日)
4.1 ザクセン=アンハルト州
4.2 メクレンブルク=フォアポンメルン州・ベルリン州
4.3 連邦政治への波及
4.4 欧州政治への影響
6.参考文献
1.AfDとは何か
1.1 設立経緯と沿革
「ドイツのための選択肢(Alternative für Deutschland: AfD)」は2013年2月にベルリンで設立された。当初はユーロ圏救済策(欧州安定メカニズム)への反対を主軸とする「ユーロ批判政党」で、党名は、ギリシャ支援を「代替案なし(alternativlos)」としたメルケルの表現に由来する。経済学者ルッケ氏の主導の下、党は市場自由主義と社会的保守を結ぶ穏健な性格を帯びていたが、右翼ポピュリズム的立場も当初から内在していた。2013年連邦議会選挙では5%阻止条項をわずかに下回ったが、2014年欧州議会選挙で7.1%を得て初議席を確保した。2014年の東独3州(テューリンゲン・ザクセン・ブランデンブルク)における州議会選挙で躍進したことは、党の右傾化を招き、ルッケ氏はこれに反対するも失敗した。
その後、2015年9月以降の難民流入や、2016年のフランスや独国内で発生したイスラム過激派によるテロ攻撃等が更なる転機となり、AfDは移民批判の受け皿として世論調査で急伸、2016年の州選挙で決定的な躍進を遂げた。2017年連邦議会選挙では12.6%を得て第3党として初めて連邦議会に進出した。
2018年以降、党内右翼過激勢力が影響力を拡大。2021年に連邦憲法擁護庁(BfV=連邦内務省の下で国内の反憲法的な動きを監視する情報機関)が党を「右派過激主義の嫌疑事例」に分類するに至っている(その後BfVは2025年にAfDを最高ランクの「確実に極右」に分類したが、AfDの申立てを受けケルン行政裁判所は2026年2月、本案訴訟の決着まで同分類の公表・適用を差し止める仮処分を出している)。「確実に極右」に分類されることで、情報機関的手段を用いた監視措置適用のハードルが下がる。州レベルの党組織については、テューリンゲン、ザクセン=アンハルト、ザクセン、ブランデンブルクの各州組織が「右派過激主義的活動」に認定されている。
2022年以降、ロシアのウクライナ侵攻後に起因するエネルギー危機及び当時の連立政権への信頼低下により、AfDへの支持は更に高まっている。2024年欧州議会選挙と東独3州選挙での記録的結果を経て、2025年2月の連邦議会選挙では得票率を2021年比でほぼ倍増させ20.8%を獲得し、以降議会では最大野党勢力となっている。

1.2 AfD支持拡大の構造的要因
本節では、AfDの支持拡大を、①移民問題、②社会変容不安、③東独における構造的・歴史的固有性、④政治不信と非投票者の動員の視点から分析する。
1.2.1 移民問題
ザールラント大学の研究は、移民への懸念がAfD支持者の実際の投票行動の約90%を単独で説明可能とする結果をまとめている(Schröder, Rehm & Röcke, 2026)。同研究は「近代化の敗者」仮説(注:グローバル化や情報化といった社会変革の結果として発生する新たな弱者の不満が、右翼ポピュリズムや自国優先主義的な政治運動を強く支持するようになるという学説)への一部反証を提供するものとなっている。また、AfD支持者は移民・難民政策に対してほぼ全員が一致して拒絶的立場を取っているという結果もある(Decker et al., 2024)。
1.2.2 地位不安と社会変容恐怖:経済・文化因子の交差
ただし、移民への懸念だけでAfDの躍進を説明することはできない。Kohlrausch(2026)は、メルツ首相率いる現政権が移民政策を厳格化した後もAfDの支持率が低下せず、むしろ上昇したことを踏まえ、移民問題だけに支持拡大の原因を求める説明には限界があると指摘する。Kohlrausch(2026)によれば、AfD支持に関係するのは、単なる家計所得の低さではない。より重要なのは、産業や雇用の構造変化により、それまで仕事を通じて得てきた社会的評価や職業上の誇り、尊厳を失うのではないかという「地位の脅威(Statusbedrohung)」である。
これは、先に述べた「近代化の敗者」論と重なる議論である。産業構造の転換により、熟練労働者が自らの技能や職業経験を十分に評価されなくなり、職業的アイデンティティを損なわれる場合、所得が社会保障や移転給付によって補填されたとしても、本人にとっては屈辱的な経験となり得る。問題となるのは所得の減少だけではなく、社会の中で自らが占めてきた地位や、労働を通じて得てきた承認が失われることである。こうした状況では、難民や低所得層への公的資源の配分が、既存の労働者に本来配分されるべき資源を奪うものとして受け止められやすくなる。Kohlrausch(2026)は、AfDが、このような経済的・社会的な被不利益感を、移民、国民的帰属、文化的価値をめぐる対立として提示することに成功した側面があると論じている。
1.2.3 東独における構造的・歴史的固有性
東部ドイツでは、AfDの得票率が連邦・州選挙ともに西部の約2倍に達し、2024年のテューリンゲン州議会選挙では32.8%を記録した。ifo DresdenのRagnitz(2024)は、東部におけるAfDの得票について、地域GDPや失業率などの客観的経済指標よりも、「自分たちは不利に扱われている」という主観的な認識(gefühlte Benachteiligung)との関連が強いと指摘する。具体的には、高齢者が多く、将来を悲観的に捉え、自らの経済状況への不満が強い地域ほど、両党の得票率が高い。
ドイツ経済研究所(DIW)のFranz et al.(2024)は、AfD支持に関係する地域条件が東西で異なることを示している。東部では人口高齢化の進んだ地域で支持が強い一方、西部では、自動化による雇用への脅威が大きい産業地域や、所得水準が低く外国籍住民の比率が高い地域で支持が強い。したがって、東部では人口動態と地域の将来展望、西部では産業構造、所得、移民をめぐる地域条件が、それぞれAfD支持と関連している。
Kohlrausch(2026)は、東部の不満を、統一後の急激な産業再編がもたらした失業や所得減少だけでなく、技能、職業上の誇り、社会的地位の喪失経験と関連づけている。現在の産業・エネルギー構造の転換は、過去に経験した職業的・社会的地位の喪失が再び生じるのではないかという「二度目の変容」への不安を呼び起こし得る。ここで重視されるのは、現在の経済的困窮だけではなく、将来も自らの職業、評価、生活の安定性を維持できるかという懸念である。
外交政策も、AfDが既成政党との違いを示す争点となっている。Mehrer and Puglierin(2024)によれば、AfDは2021年の戦略文書で、ドイツを「ロシア・アジア地域への橋渡し役」と位置づけ、EUを「改革不能なプロジェクト」と評価した。AfDは、東部で相対的に強い米国・NATOへの距離や対ロシア融和姿勢に訴え、ウクライナ支援、対ロシア制裁、NATOとの関係を、既成政党の外交路線への異議を示す象徴的争点として提示している。
1.2.4 政治不信と非投票者の動員
2025年連邦議会選挙でAfDへの最大の新規投票者は、2021年選挙の棄権者であった。旧棄権層と小規模政党の旧支持者を合わせると、新規支持者の約半数を占めたとされている。一方、緑の党及び左翼党からの移動は限定的であり、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、自由民主党(FDP)、社会民主党(SPD)からの流入も、旧棄権層と小規模政党からの流入を下回っている(Neu, 2025)。Hahn(2026)は、この支持基盤の拡大は、AfDが一時的な不満の受け皿である「抗議政党」から、同党の政策や政治的立場に対する持続的な支持を含むようになりつつあることを示している。
Lochocki(2025)は、AfDが連邦共和国史上初めて第2党となった2025年選挙を、従来の政治的先例を打ち破る転換点と位置づける。同氏によれば、若い保守層ほど強硬な政策や極右政党を受け入れやすく、ナチズム及びホロコーストの歴史を背景に形成された極右への忌避による影響も、上の世代ほど強く受けていない。この世代間の変化は、AfDの躍進が一時的な抗議現象ではなく、極右政党がドイツの政党政治に持続的に定着する長期的な変化でもあることを示している。
1.2.5 まとめ
AfDの支持拡大は、移民をめぐる懸念、将来の地位喪失や社会変容への不安、旧東独に固有の歴史的経験、既成政党や政府への不信など、複数の要因を背景としている。そのため、AfDの躍進を一つの争点や一つの社会集団だけで説明することはできない。新たなAfD支持者の最大の供給源は、既成政党の旧支持者ではなく、従来選挙に参加していなかった旧棄権層であった。小規模政党からの流入も含めると、AfDは、既成政党間の票の移動だけでなく、政治的に十分に代表されていないと感じる有権者を新たに動員することで支持を拡大している。
2.AfDの主要政策
2.1 基本政策
AfDの政策は、2016年にシュトゥットガルトの党大会で採択された基本綱領「Programm für Deutschland」に総括される。本節では、同綱領及び直近の選挙プログラム等をもとに、AfDの政策を分野別に整理する。
①移民政策
基本綱領は、大量移民への反対、庇護制度の濫用防止、国境の実効的保護、そして統合の前提としての独語習得と「ドイツ主導文化(Leitkultur=移民に対しドイツの言語・価値・慣習への同化を求める概念)」の受容を掲げる。2025年の連邦議会選挙に際して採択された選挙綱領「Zeit für Deutschland」はこれを先鋭化し、①国境管理強化と不法入国者の追い返し、②滞在資格のない者の本国送還(Remigration)推進、③庇護審査をドイツ国外の「処理センター」で行うこと、④国連の移民協定・難民協定からの脱退、⑤庇護申請者への現金給付を廃止し現物給付に切り替えること、を求める。
なお、「Remigration」は2023年に「今年の粗悪語(Unwort des Jahres)」に選ばれた言葉で、独シュピーゲル誌等は、移民背景を持つ人々の事実上の追放・大量送還を含意し得ると警告する。連邦憲法擁護庁の報告書も、党内に「数百万人規模のRemigration」を志向する潮流があると指摘する。移民政策の州単独実施は連邦・EU法上限界が大きい一方、言説の先鋭化そのものが州内在留外国人・外国人材の心理的コストを高め得る。
②EU・通貨
基本綱領は「祖国から成る欧州(Europa der Vaterländer)」を掲げ、EUに移譲された加盟国の権限の返還を求めている。2025年の連邦議会選挙綱領も、単一通貨ユーロからの離脱を求めているほか、現行EUに代わる新たな「経済・利益共同体(Wirtschafts- und Interessengemeinschaft)」に移行すべきであること及びEU残留の是非を問う国民投票の実施を掲げている。単一市場は維持するとしつつも、EU・ユーロからの離脱を志向する点は変わらない。なお党大会では、過激さを和らげるため「Dexit(独のEU離脱)」という語そのものの綱領明記は見送られたが、内容(EU・ユーロ離脱)は維持された。
独経済研究所(IW Köln)は、Dexitの場合は5年間で約6,900億ユーロの付加価値喪失、約250万人の雇用喪失、GDP▲5.6%(コロナ危機とエネルギー危機を合わせた規模に匹敵)をもたらすと試算する。独政府経済諮問委員会のシュニッツァー委員長はハンデルスブラット紙に対し、マルク回帰は輸出経済に「甚大な破壊力」を持つと発言。IWは自動車・機械・化学・電機が特に打撃を受けると分析している。ドイツ在拠の日本企業にとっての警戒論点であるが、EU脱退はEU加盟が基本法に組み込まれているため実際には連邦議会の3分の2の賛成を要し、実現の法的ハードルは高い。
③エネルギー・気候
基本綱領はエネルギー転換(Energiewende)に批判的で原子力発電の再開を主張している。2025年の連邦議会選挙綱領は、気候変動に対する人間の関与割合は科学的に実証されていないとし、①原子力への回帰、②石炭火力稼働延長、③CO2税(CO2-Abgabe)の廃止、④風力発電の拡大停止による送電料金の高騰の防止等を掲げる。加えて内燃機関の存続を前提に「自動車産業を基幹産業として維持」するとし、EUのエンジン車規制(2035年の実質的な新車禁止)に反対するほか、電気自動車(EV)に対する一極集中的な優遇措置の停止を主張している。企業の視点からすると脱炭素・再エネ・EV関連の事業環境に直接影響するものとして注意が必要である。
④経済・財政・社会保障
基本綱領は社会的市場経済を掲げつつ、官僚主義の削減、最低賃金の維持等を主張する。2025年選挙綱領は、EUサプライチェーン法や各種報告義務の撤廃をはじめとする規制緩和と官僚主義の削減を進め、法人減税や社会保険料の引下げ、所得税基礎控除の引き上げ(14,000ユーロへ拡大)を推進することとしている。税制面では財産税および相続税に加え、固定資産税、連帯付加税、CO2課税の廃止を要求し、財政面では憲法上の財政均衡原則である債務ブレーキの堅持と国家債務の削減を命題とする。さらに労働・社会保障分野では、最低賃金制度の維持方針を示しつつ、社会保障政策として、受給条件の厳格化や公益労働義務(Bürgerarbeit)を盛り込んだ「就労促進型基本保障(aktivierende Grundsicherung)」への移行を求める。
⑤外交・安全保障
基本綱領はNATOを防衛同盟として認め、独連邦軍の強化及び兵役義務の再導入を求めている一方、「欧州軍」には反対姿勢を明確にしている。2025年綱領は外交政策について、独の利益に沿ったリアルポリティクスであるべきと主張。ロシアは安価なエネルギーの供給者であったため、エネルギー集約型産業を抱えるドイツにとって重要であるとし、通商関係の回復及びそのための対露経済制裁への反対を求めている。ウクライナについては、NATO・EUの外に置く中立化を主張している。
⑥文化・メディア・家族・直接民主制
基本綱領は、教育、文化、そしてアイデンティティの相互関係は、社会の発展において極めて重要な意味を持つとし、2025年の連邦議会選挙綱領は、多文化主義ではなく、キリスト教や啓蒙思想に基づく「ドイツ主導文化」を社会結束の基盤と位置づけている。負の側面偏重の歴史観を見直し、プロイセン等を含めた歴史全体の再評価や旧東独被害者の支援を掲げている。
言語政策ではドイツ語を国語及び公用語として憲法に明記することを要求しており、公的機関でのジェンダーフリー表記等の使用禁止を要求。メディア政策では、巨額のコストや偏向報道を理由とし、現行の受信料制度(GEZ)と公共放送体制を解体することを主張している。
2.2 独の連邦制について
ドイツは連邦制をとり、連邦(Bund)と州(Land)で権限が分かれる。憲法に相当する基本法は立法権を①連邦の専属的立法権、②競合的立法権、③州の管轄権等に区分している。移民・通貨・外交は連邦専管であり州政府は変更できないが、教育・警察・文化・公共放送は原則として州固有の権限である。
したがって、州AfDの綱領が学校・文化・放送・警察運用に施策を集中させるのは、連邦制の下で州が実際に動かせる領域がそこに限られるという制度的帰結でもある。移民・通貨など連邦政府の所管事項については、当然ながら州政府単独では実現できず、州は連邦参議院を通じて連邦に働きかけることが可能にすぎない。
この点を踏まえ、以下ではザクセン=アンハルト州及びメクレンブルク=フォアポンメルン州のAfDが打ち出している政策について、①連邦の政策との関係、②州の政策に関連する項目、③ビジネス環境への影響、の3点で整理する。
2.3 ザクセン=アンハルト州の選挙綱領・筆頭候補プログラム
ザクセン=アンハルト州AfD(州憲法擁護庁が「確実に極右」に分類)の政策は、州政権綱領「DAS LAND ZUERST(この州を第一に)」(2026年4月11日採択)と、州首相候補ジグムント氏の「100日即時プログラム」に示されている。
①連邦の政策との関係
州政権綱領は連邦の路線を州次元で具体化するが、上述のとおりその多くは制度上、州単独では完結しない。ある分析によると、州政権綱領の要求のうち法的・財政的に実現可能なのは概ね3分の1にとどまり、特に移民分野は連邦・EU法との抵触が大きいとの評価もある。
②州の政策に関連する施策
- 教育・文化
州のスローガンの刷新等(「#moderndenken(近代的に考える)」→「#deutschdenken(ドイツ的に考える)」)を掲げる。複線型教育を維持しつつ、職業教育等の重点を高める。また、インクルージョン教育の中止や、難民児童向け特別学級(母国への帰還を前提とした学級)で授業を行うことを求めている。さらに、政治的非科学分野の解体として、ジェンダー研究等への公金投入を停止するほか、大学・研究機関におけるあらゆる女性クオータ(割り当て数)を全廃することを求めている。
- 経済・エネルギー
地場中小企業(Mittelstand)優先を掲げ、外資巨大企業(インテル等)への巨額補助金を止め、地元中小企業へ支援を集中することを求めている。また、再生可能エネルギー拡大が高いエネルギー価格を招いているとし、再生可能エネルギーやヒートポンプ等に対する州の補助金を打ち切るとともに、風力発電建設の一時凍結(州内の設置許可の一切発行停止)等を主張している。
- メディア
現在の公共放送体制の基礎をなす州間公共放送協定(注)からの脱退を「最初に行う公務」に掲げ、公共放送の財政基盤に挑戦している。
- 治安・移民
キャパシティを超えた自治体への難民割り当て停止等を掲げる。また、海外へ流出したドイツ人専門人材の帰国・定住を支援する再移住プログラムを設置することを求めている。
- 家族
出産祝い金(第1・2子各2,000ユーロ、第3子以降各4,000ユーロ)や子ども手当の拡充を主張。
③事業環境への影響
特に再エネへの否定姿勢は重大なリスク要因。また、州内中小企業優遇姿勢や、外国人材の受入抑制的な傾向は外国企業にとってマイナスに働き得る。
(注)州間公共放送協定:16州が締結し全州議会の批准で効力を持つ枠組みで、公共放送の任務と、その主財源である放送負担金(世帯単位で月18.36ユーロ)を定める。AfDが「脱退」を掲げるのは公共放送の財政基盤の縮小・再編を狙うためだが、一州が単独で制度を廃止することはできず、州の離脱は財源全体を不安定化させ得る。
2.3 メクレンブルク=フォアポンメルン州の選挙綱領
メクレンブルク=フォアポンメルン州AfD(連邦・州いずれの憲法擁護庁からも「確実に極右」とは分類されず、嫌疑事例の段階)の政策は、選挙綱領「Bereit für die blaue Wende(青い転換への備え)」(2026年5月30日採択)に体系化されている。同州は洋上風力の集積地である点が注目点となる。
①連邦の政策との関係
連邦路線を踏襲しつつ、州が実際に握る教育・治安・地域産業(風力・海運・造船)に直結する主張が前面に出る。ザクセン=アンハルト州より穏健な語り口だが、移民・エネルギーの方向性は連邦綱領と同じである。尤も、原子力回帰やノルドストリーム再稼働は連邦・EUの権限に依存するため州単独では実現し得ない。
②州の政策に関連する項目
- 教育
十分なドイツ語能力等のない移民児童向けの準備学級の設置や、特別支援学校の維持(安易なインクルージョン教育の廃止)、義務的就学前教育の導入を掲げる。さらに、学校での政治的プロパガンダの禁止、7年生までの私的スマホ利用の全面禁止、非EU留学生に対する授業料徴収などを求めている。
- 経済・エネルギー
ヘルスケア産業、食品産業、観光業を主幹産業と位置付け、支援拡充を約束。加えて、AIのデータセンター誘致を掲げるが、そのための安価な電力源確保のためのガス火力発電所誘致や原子力発電所の再導入、そしてノルドストリーム2の再稼働も主張している。また、風力発電の拡大にも反対姿勢を明確にしており、環境アセスメントの厳格化や森林内の風力発電設置禁止方針に加え、農地への大規模太陽光発電設備の設置禁止も掲げている。
雇用面では、国内の失業者・若者の活性化、海外へ流出した人材の帰還支援を実施を掲げる。
- メディア
ザクセン=アンハルト州同様、公共放送体制の基礎をなす州間公共放送協定(注1)からの脱退を求めるほか、公共放送NDR(北ドイツ放送)の廃止も主張している。
- 移民
最終手段として州独自の難民受入停止措置の明確化を主張しているほか、国境・送還警察の創設、外国人犯罪者対策タスクフォースの設置を掲げる。治安面では、外国人犯罪統計の公開を掲げている。
- 家族
出産歓迎手当(出産時、3歳時、6歳時の3回に分けて計3,000ユーロ)の支給や、保育所(Kita)の無償化維持と配置基準の改善を主張している。
③事業環境への影響
特に風力発電等に対する再エネ否定姿勢は、外資やESG投資を抑止する重大なリスク要因。また、地場中小企業の優先保護や大企業向け補助金の制限、厳格な移民統制や非EU留学生の有料化は、外国企業の参入意欲を削ぐリスク要因。
2.4 連邦・州政策の一貫性と特徴
連邦・両州のAfD政策を横断的に見ると、①移民・庇護の厳格化・逆行(Remigration概念の制度化)、②エネルギー転換政策の廃止と化石燃料・原子力の推進、③既成政治・公共放送への制度的挑戦、④文化的ナショナリズム(Leitkultur・旗の象徴政治・反ジェンダー)という共通軸が確認される。連邦綱領と各州綱領の一貫性は高い。他方、重要施策の多くが連邦法・憲法・連邦憲法裁判所の判断に抵触し得るため、州単独での実現には構造的な限界がある点は、複数の専門家が一致して指摘している。
3.各州の選挙情勢
以下では、公共放送が委託した最新の世論調査に基づき各州の情勢を概観する。数値は各時点のスナップショットであり、誤差はおおむね±2.5〜3ポイントである。とりわけ5%前後の政党は誤差の範囲で議席獲得の可否が変わり、連立の帰趨を大きく左右する。
3.1 ザクセン=アンハルト州(投票日:2026年9月6日)
2021年州議会選挙ではCDUが37.1%でAfD(20.8%)を抑えて第1党を維持し、CDU・SPD・FDPの3党連立が成立した。今回はAfDが40〜42%まで上昇し、CDU(約22%)との差が約20ポイントに拡大している。一方、公共放送ZDFの調査によれば、州首相候補の個人支持率ではシュルツェ氏(CDU)が48%なのに対しジグムント氏(AfD)は32%、AfD単独政権への反対は54%となっている。AfDが過半数を達成すると考える割合は48%、投票先未定は31%であった。選挙後にあり得る政権については第5章で検討する。
3.2 メクレンブルク=フォアポンメルン州(投票日:2026年9月20日)
現職州首相のシュヴェーズィヒ氏(SPD)は2017年就任、2021年州議会選挙でも所属政党SPDは39.6%の得票を得て大勝した。直近の世論調査ではAfD(35%)がSPD(32%)をなおリードするが、その差は約3ポイントまで縮小している。シュヴェーズィヒ氏の個人支持率は依然強く、SPD+左派党(合計約43%)に緑の党(5%)を加えれば僅差の過半数を形成し得る(緑の党の議会入りが条件)。今後の鍵は緑の党・ザラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)が5%条項を突破できるかにあり、AfDの政権入りの可能性は現時点で比較的低い。
3.3 ベルリン州(投票日:2026年9月20日)
ベルリン州(人口約392万人)では、2023年2月の州議会選挙でCDU(28.2%)が第1党となりヴェグナー氏(CDU)が州首相に就いたが、2026年1月の大規模停電をめぐる危機対応への批判等を受け、CDUは選挙直前に次期州首相候補をヴェグナーからエファース氏へ交代させた。最新の世論調査では、CDUが持ち直して首位(21%)に返り咲き、左派党(19%)が約2ポイント差で続き、AfD・緑の党(各18%)、SPD(11%)が競り合う展開となっている。
4.選挙結果の見通しと欧州政治への影響
4.1 ザクセン=アンハルト州
要点は、州首相選出に必要なのが「得票の過半数」ではなく「議席の過半数」である点にある。州議会は基準83議席で、議席配分はヘア・ニーマイヤー方式(各党の得票に比例して議席を割り振る計算方式)により行われ、超過・調整議席で総数は変動し得る。5%阻止条項で議席を得られない政党が増えるほど、その票は議席に反映されず、条項を越えた政党に議席が回るため、AfDが議席過半数に必要な得票率は下がる。AfDのジグムント氏は「45%プラスα」を掲げている。
上述の世論調査結果を踏まえるならば、緑の党・SPDが辛うじて議会入りする限りAfDの議席過半数には届かない公算が高い。逆にいえば、緑の党・BSW・FDP・SPDのうち複数が僅差で5%を割れば、AfDは40%台前半でも議席の過半数に達する可能性があり、ここが今回の選挙の最大の焦点である。選挙後のあり得べきシナリオを以下3件検討してみたい。
①AfD野党・現状維持(現時点で最有力)
AfDが第1党ながら過半数を欠き、CDU主導の「AfD抜き」広域連立が成立し、AfDが最大野党にとどまるシナリオ。ただしCDUはAfDに加え左派党との連立も内規(不両立決議)で排除しており、左派党の閣外協力への州民の支持も低い。なお選挙後に議員が所属会派・政党を変えること(造反=Überläufer)は制度上可能であり(議員は「自由委任(freies Mandat、基本法38条)」の下にあり、当選後に会派や政党を離脱・変更しても議席を失わない(州議会も州憲法上同様))、したがって僅差の議会では選挙後の会派移動が政権形成を左右し得る。MDRの報道によると、この局面で想定される造反はむしろ「AfDからCDU」だとする関係者の見方を伝えている。
②AfD州首相(ジグムント州首相の誕生)
AfDが議席の過半数を獲得し、ジグムント氏が州首相に就任するシナリオ。ドイツ史上初のAfD州首相の誕生となる。州政府に入れば、連邦参議院(16州の政府代表で構成され、州が連邦の立法に関与する機関)における議決力学に影響し、州の同意を要する連邦法案の帰趨を左右し得る。さらに、AfDが自らの政策を初めて州のレベルで実装する試験場となり、外国人政策、再エネ政策、公共放送政策で大きな注目を集めることとなる。
③政治的膠着(連立形成困難)
AfDが40%台前半で議席過半数に届かず、AfDを除く諸党だけでも過半数連立を組めない状況。この場合は、①少数政権(過半数を持たない政権が案件ごとに他党の賛成を得て運営する形態)、②連立協議の長期化、③州議会の解散・再選挙、のいずれかとなり得る。いずれも行政の停滞や投資判断の先送りにつながり、企業にとっては予見可能性が低下する局面である。
4.2 メクレンブルク=フォアポンメルン州・ベルリン州
メクレンブルク=フォアポンメルン州では、AfDが第1党でも議席過半数には届かない見込み(35%)であり、現時点で可能性が高いのは、SPD主導の政権継続で、SPD+左派党、または緑の党を加えた組み合わせが、緑の党の議会入りを条件に過半数を形成し得るとみられる。CDUは一桁台(8%)に低迷し、BSW・緑の党の5%条項突破が連立算術の鍵を握る。AfDの政権入りは現時点で連立上困難である。
ベルリン州では、左派党・CDU・緑の党・AfDが18〜21%で競り合う。CDU+SPDの現行大連立は過半数を失う見込みで、CDU+緑+SPD、またはSPD+緑+左派などの3党連立が現実的な選択肢となる。複数政党が明示的にAfD(約18%)との連立を排除しており、AfDの政権入りは想定されない。
4.3 連邦政治への波及
連邦レベルでは、メルツ首相(CDU)がAfDを「主たる敵(Hauptgegner)」と位置づけ、自らの下でのAfDとの協力を明確に排除し「防火壁」政策(極右政党などの過激派勢力に対し、既存の主要政党が連立政権の樹立や協力、妥協を一切行わないとする不文律)の維持を繰り返し表明している。
他方、メルツ首相は難民対策の文脈で「街の景色・雰囲気(Stadtbild)に問題が残っている」と発言したが、これはまさにAfDのレトリックであると批判を浴びたが、これはCDUの戦略的ジレンマを象徴している。AfDに流出した保守層の奪還に向け移民対策で右傾化を図りたい一方、過激な語法への接近は党内中道派の離反や極右主張の正当化を招くためである。CDU系のコンラート・アデナウアー財団(KAS)の選挙研究が、2025年連邦選挙前にCDUがAfDの賛成も得て移民関連の動議を通した対応は必ずしも得票増につながらず、むしろ一部支持層をSPD・緑の党へ流出させたと分析している(ZDF、2025年12月)。移民争点の前面化がかえってAfDを利する場合すらあり、CDUには「厳格化による対抗」と「穏健化による中道固め」の間で緊張が残る。政治学者フォアレンダー氏(MIDEM)も、「右から追い越す戦略はうまくいかない」と論じるように、中道右派が右傾化で対抗しても必ずしも奏功しない。
州選挙は連邦政治にも影響を与えうる。第一に、州選挙の結果は州政府の党派構成を変え、州の同意を要する連邦法案の可否に影響するため、州選挙は常に連邦政治的な意味を持つ(bpb)。第二は、シグナル効果である。ザクセン=アンハルト州でAfDが第1党・州首相に迫れば、東部でのCDUの信頼回復圧力と「防火壁」論争を再燃させ、CDU/CSU・SPD大連立内の移民・財政をめぐる緊張を高める。いずれにせよ、2029年の次期連邦選挙を見据えた政治的議論が今後更に激化していく見通しである。
4.4 欧州政治への影響
本節は、AfDの躍進が欧州政治に及ぼす影響を、①EUレベル、②各国内政、の二つの観点から概観する。
①EUレベルへの影響
AfDは欧州議会で最も急進的とされる会派「主権国家のヨーロッパ(ESN)」に属する。尤も、欧州の右派は、ESNのほか「欧州の愛国者(PfE)」「欧州保守改革(ECR)」の三つに分裂しており、統一ブロックを形成していない。仏国民連合(RN)はAfDとの関係を当面断っており(緊密な連携は限定的)、独SWPのオンダルツァ氏は、右派間の実質的連携は選挙・広報キャンペーンの相互学習やSNSでの共通ナラティブの増幅にとどまると指摘している。したがってAfD躍進のEUレベルの影響は、統一的な右派支配というより、争点(移民規制の強化、気候野心の後退、国家主権の重視)を欧州全体で押し上げ、親欧州勢力の機能を弱める方向に働く。AfDが掲げるEU・ユーロ懐疑主義は欧州で孤立を招く要因ともなっており、同党の連携余地をむしろ狭めている。
②各国内政への影響
AfDの伸長は欧州全体の右傾化トレンドの一部である。右派ポピュリストは欧州の多くの国で支持を伸ばし、5か国では支持率が40%前後に達している。この文脈で移民強硬路線を掲げるAfDがEUの屋台骨である独で躍進していることは、EU及び欧州各国の中道勢力全体に圧力をかける。KASによる比較研究では、AfDが文化・経済政策の両面で墺FPÖより右に位置し、党内対立が常に急進派の勝利に終わってきたと分析する。総じてAfDは欧州右派の中でも相対的に急進・孤立気味であり、他国右派への影響は幾分限定的で、制度的な連合形成には至っていない。
5.ビジネス環境への影響
ザクセン=アンハルト州では、化学産業、再生可能エネルギー産業、農業が主要産業となっている。前述のとおり、AfDが州政権を取った場合、州の再エネ補助金の打ち切りや風力発電の建設凍結、外国人技術者の採用・在留許可手続きへの影響が懸念される。以下の表5は、AfD単独過半数政権(ジグムント州首相就任)を前提として、主要政策領域ごとの影響を整理したものである。
メクレンブルク=フォアポンメルン州では、ロストック港を核とするロジスティクス・海運、観光、農業・食品加工、造船などが主要産業となっている。AfDが政権を取る可能性は限定的であるが、AfDは議会で最大勢力になることが見込まれており、の再エネ政策や原子力回帰の主張は、再エネ・海洋産業に不確実性をもたらすものであり、エネルギー政策は要注意である。
特筆すべきは、ザクセン=アンハルト州及びメクレンブルク=フォアポンメルン州のいずれにおいても、AfDは専門人材不足(Fachkräftemangel)への移民活用を否定し、「送別の文化」「送還・再移民攻勢」を掲げるほか、州内の地場産業優先などを掲げている。政権入りした場合、外資系企業には次のリスクが生じ得る点に留意が必要。
- 就労許可・在留許可の審査厳格化・遅延リスク(連邦法の適用だが、州レベル行政の運用姿勢に影響される)
- 域内投資誘致機関の政策変更及び外国投資歓迎姿勢の後退リスク
- 在州の外資系企業に対するローカルコミュニティからの社会的圧力の増大リスク。
ベルリン州においては、R&D・スタートアップ・テクノロジー企業などが多く立地しており、行政・外交機能を有する首都である。多党競合で連立形成が長期化する場合、行政対応の遅延リスク等が想定されるが、AfD(約18%)の政権入りは非現実的で、ビジネスリスクは相対的に低い。
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以上
<執筆者・アーカイブ>濱嵜 隆吏
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