商品(2026年9月)米中首脳会談とコモディティ
調査レポート
2026年09月29日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美
概要
- 注目された米中首脳会談は、レアアースや台湾問題などの重要案件では大きな進展はみられず
- 新たな動きがあったのは石炭。米国は中国が米国産石炭を年間1,000万トン購入すると発表
- 中国側は具体的数量に言及していないが、300億ドル相当の関税引き下げ対象に石炭や農産品を含む
- ただし、米国産大豆、原油、LNGは関税引き下げ対象外
米中経済休戦の2か月延長、表面上の緊張緩和
中国の習近平国家主席は9月23~25日にかけて米国を訪問し、24日にトランプ大統領との首脳会談に臨んだ。大統領自らが出迎えた空港での異例の応対や、華やかな歓迎式典・晩餐会からは、双方が表面上の緊張緩和と対話維持を演出する思惑がうかがえる。一方、レアアースのサプライチェーンや台湾問題といった重要案件では、新たな具体的成果は限定的だった。
通商面では、米中経済対立の「一時休戦」の行方が注目された。両国は2025年10月、マレーシア・クアラルンプールでの実務者協議を経て、同月30日に韓国・釜山で行われた首脳会談で、米国の対中追加関税の一部や輸出規制、中国側の対抗措置などを1年間停止すると発表した(「クアラルンプール合意」)。今回、同合意の期限を2026年11月10日から2027年1月10日まで2か月延長し、課題解決に向けた協議を継続することで合意したと発表された。
個別の貿易促進に向けた限定的な成果もあった。2026年5月の北京首脳会談で設置が決まった「米中貿易理事会」の枠組みを具体化し、双方は2024年の貿易額をベースに、それぞれ300億ドル相当の品目について関税を引き下げることで合意。9月25日に米ホワイトハウスが発表したファクトシートでは、関税引き下げは「機微でない(non-sensitive)」品目が対象だとされ、中国は米国産農水産物・木材・化粧品・医療機器、米国は中国製の小型家電・玩具・季節装飾品・チャイルドシート等の消費財の関税を引き下げると例示した。翌26日に中国外交部が公表した「8つの成果」では、具体的品目への言及はなかったが、28日に商務部が追加説明を行い、中国が関税を引き下げる米国産品の詳細リストを公表している。
以下、コモディティ市場の視点から、今回の合意で注目された点を整理する。
中国が米国産石炭を年間1,000万トン輸入?
今回、新たに一定の進展がみられたのが、中国による米国産石炭の輸入に関する合意だ。
米ホワイトハウスが9月25日付で発表したファクトシートには、「中国が2027年と2028年にそれぞれ少なくとも1,000万トンの石炭を米国から輸入する」とある。
一方、中国商務部の説明によると、米国産石炭の輸入は上述した300億ドル相当の米国産品に対する関税引き下げの枠組みに含まれ、原料炭、一般炭、無煙炭、褐炭等がいずれも対象となっている。具体的な購入量には触れていない。商務部は、米国炭の輸入は「中国国内市場の有益な補完」であるとし、石炭分野での協力深化に期待を示した。
年間1,000万トンの米国炭輸入は達成不可能な規模ではない。実際、中国は第2次トランプ政権発足前年の2024年には米国から約1,200万トンを輸入している。これは米国の2025年の石炭輸出量の1割強に相当するが、中国の石炭輸入全体からみれば2%程度だ。また、中国では2026年5月に山西省の原料炭鉱山で発生した大規模事故と、その後の安全規制強化により、石炭生産が減少している。最大の石炭輸出国であるインドネシアは、国産資源の国家管理強化の方針を打ち出しており、輸出見通しに不透明感がある。一方、トランプ大統領は石炭産業の活性化を掲げているものの、米国では趨勢的に石炭火力発電向け需要が減少し、輸出市場の重要性が高まっている。
中国が購入する炭種についての言及はないが、状況からみて原料炭の割合が大きくなると推測される。2024年の中国の米国産原料炭輸入は1,067万トンと、米国炭輸入の大半を占めた。また、5月の炭鉱事故後、中国では原料炭供給が逼迫し、8月には価格が急騰した。コストプッシュによって鋼材価格も上昇したが、原料高で製鉄所のマージンは悪化した。
国際エネルギー機関(IEA)は最新の石炭レポートで、2026年の中国の海上一般炭輸入が減少する一方、モンゴルからの原料炭輸入が急増すると予想し、米国を「スウィング・サプライヤー」として、価格次第で有望な調達先と位置付けている。S&P Globalによると、米国でもウエストバージニア州の炭鉱再開やWarrior Met CoalのBlue Creek鉱山稼働により原料炭の輸出余力が拡大している。
農産物は既存合意の具体化が中心
農産物については、新たな大規模購入というより、これまでの首脳会談で合意した内容の具体化、ないしは「焼き直し」の側面が強い。
2025年10月、ホワイトハウスや米通商代表部(USTR)は、中国が2025年中に1,200万トン、2026〜2028年まで毎年2,500万トンの米国大豆を購入すると発表した。さらに2026年5月の北京での首脳会談後には、大豆とは別に、その他の農畜産物について2026〜2028年に年間少なくとも170億ドル相当を購入すると発表した。いずれも、中国側は具体的な購入量や購入額については明言していない。それでも、2025/26年度産の米国大豆については実際に1,200万トン強を輸入し、現在収穫期を迎えている2026/27年度産についても、着実に購入予約を積み上げている。
今回、中国側が発表した米国産品の関税引き下げ対象リストには、小麦、大麦、トウモロコシ、コメ、ソルガム、食肉、水産物、乳製品、果物、ナッツ類など幅広い米国産農産物が含まれる。大豆関連では種子用大豆、大豆油、大豆粕が含まれるが、大豆そのものは含まれていない。ロイター通信は、対象となった農産物・関連品目の2024年貿易額が約170億ドルに相当し、米国側の発表と平仄が合うと指摘している。大豆に対する10%の追加関税は継続することになり、国有企業が米国産大豆の購入を増やしても、民間業者にとってはブラジル産に比べてコスト高であることには変わりない。
なお、米国農務省(USDA)の資料『Outlook for U.S. Agricultural Trade』によれば、米国産農産物の対中輸出(大豆を含む)は2024年度が約257億ドル、2025年度は162億ドルだった。2026年8月時点では、2027年度について215億ドルと予測している。仮に大豆2,500万トンを単価1ブッシェル12ドル、約110億ドル相当とすれば、それ以外は単純計算で105億ドル相当にとどまる。中間選挙を控え、トランプ政権は農家支援と農産物輸出の拡大を重視しており、中国向け輸出の回復への期待は高い。ただ、今回の中国の発表は購入額の確約ではなく関税引き下げであること、中国の穀物輸入需要自体が低迷していること、国際農産物価格が上昇していること等を踏まえると、実際の数量純増につながるかは不透明だ。
新たな情報が乏しい石油・LNG・レアアース
事前に市場の注目を集めたものの、今回新たな進展がなかった主要品目としては、レアアースや石油・LNGが挙げられる。ホワイトハウスのファクトシートには、「世界の石油精製品供給の安定のため、米国が中国に生産拡大を促した」「米国と中国は希土類その他の重要鉱物の供給懸念に対応し、出荷量を適切な水準に戻すことを目指す」とあるが、中国側の発表にはこれらに該当する記述はない。また、いずれの発表文書にも、中国のロシア産・イラン産原油購入に関する直接的な言及はない。
中国が公表した関税引き下げ対象品目のリストには、原油(現行の対米関税20%)・LNG(同25%)は含まれていない。この関税障壁は高く、企業が契約を有する米国産LNGなどの多くは中国に輸入される代わりに第三国に販売されているが、今回、直接購入につながる関税引き下げには至らなかった。
今回の首脳会談は、中国側にとっては米国と並ぶ大国としての存在感を示し、米国側にとっては農産物や石炭などの輸出拡大を国内向けの成果として示すという、政治的な側面も強かったとみられる。一方、重要鉱物など「機微な」商品を巡る構造的な対立にはほとんど手が付いていない。米中間の緊張が解消したわけではなく、「クアラルンプール合意」の延長もわずか2カ月にとどまる。今回の合意が商品市場に及ぼす影響は限定的でも、今後の協議の行方を引き続き注視する必要がある。
以上
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