気候関連財務ディスクロージャー

2016年08月23日

住友商事グローバルリサーチ 環境・エネルギー調査部
大代 修司


1. はじめに

 気候変動や温室効果ガスの排出に関して種々規制等の動きがあるが、その中で金融面の動向について解説する。気候変動は金融システムの安定性を損なうものと認識されつつあり、投資家、銀行、保険会社等が投資、貸付、保険引受などに関する意思決定に際し、気候変動リスクを考慮するために、企業から適切な関連情報が開示される必要があるとして情報開示のあり方を整備しようと国際的な取り組みが始まっている。

 

 

2. Task Force on Climate-related Financial Disclosureの設立と目的

 2015年4月にG20は金融安定理事会(FSB: Financial Stability Board)に気候変動に伴う課題に対し金融機関がどのように考慮すれば良いか検討するよう要請した。FSBはこの要請に基づき、気候変動に伴う財務リスクに関する企業の情報開示のあり方について提言をまとめるため、2015年12月に気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosure)を創設した。

 

【図表1】Task Force on Climate-related Financial Disclosureの概要

【図表1】Task Force on Climate-related Financial Disclosureの概要(出所:経済産業省資料より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 化石燃料に関わる企業への投資を引き揚げるダイベストメントや、気候変動対応によって二酸化炭素の排出量削減をしなければならないため、化石燃料資産が地中に埋蔵されたまま使用できず座礁資産(Stranded Assets)化する、といったリスクが喧伝されるようになってきている。これらのリスクに対し金融的な視点から企業のディスクロージャー(情報開示)を充実、強化し新たな枠組みを作ろうというものである。気候関連の財務リスクとしては、気候変動がもたらす「物理的リスク」、気候変動によって損失を被った当事者が他者の賠償責任を問う「賠償責任リスク」、及び低炭素社会への移行に伴い、温室効果ガスの排出量が多い化石燃料関連企業の価値が変動する「移行リスク」の3つがあるとされている。TCFDはこれらのリスクを踏まえた質の高い情報の開示が必要だとしており、さらに企業の経営層が気候関連の財務リスクについてどのように認識、評価、開示するかを充分検討し、それらが財務報告に反映されることが望ましいとしている。

 

 

 3. 今後の取り組みと影響

 TCFDは2016年3月にディスクロージャーの方針等を謳ったPhase Iの報告書を出しており、報告に対するパブリックコメントも求められた。年内にはディスクロージャーのあり方に関するガイダンスをとりまとめた最終レポートがFSBに提示され、2017年2月までにはG20に報告される予定になっている。

 

 この気候関連財務ディスクロージャーの利用者として想定されているのは投資家、銀行、保険会社、及び格付機関等で、ディスクロージャーは任意とされてはいるものの、TCFDの答申を受けて今後国際的に導入されていくものとみられており、企業活動に大きな影響を与える可能性があると言われている。

 

 前述の座礁資産の定義は前提条件次第で大きく異なり、必ずしも二酸化炭素の排出量の多寡だけでなく、シェールガス革命のように技術革新によって資産の競争力が喪失するといった場合もある。また政府の補助金の削減で再生可能エネルギー関連の資産価値が毀損して座礁資産化する場合もある。TCFDも気候変動リスクの定義自体の合意がされていないといった指摘もしている。ただ今後、気候変動リスクが顕在化した場合には気候関連財務リスクへの認識が急速に高まることも予想され、そのディスクロージャーのあり方、動向には充分な注意が必要と思われる。 

以上

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