原油生産4か国合意について

2016年02月22日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子


 先週2月16日にサウジアラビア、ロシア、ベネズエラ、カタールの4か国石油相が非公式の会合を開いた。原油価格が2016年年初から15%近く急落するなか、OPECに加盟していない産油大国のロシアも加わるこの会合でいよいよ協調減産が合意されるのでは、とマーケットは大きく期待した。合意された内容は、【図表1】の通り、4か国以外の主要産油国も足並みを揃えることを条件に、今後の産油量を各国の1月生産水準以下に留めること、そのうえで各国の原油生産の遵守状況をモニタリングしていくというものだった。

 

 

合意内容

 

 

 市場では、期待していた減産でない上に、1月の産油量は各国ともに過去最高水準に近いことから、原油市場の供給過剰が改善する内容でないとして失望が広がった。【図表2】はOPECの産油量だが、1月は日量32.63百万バレルと2015年から増産基調を維持していることが見てとれ、【図表3】のロシアは日量10.88百万バレルと過去最高を記録している。なお、実施条件となっている他の産油国も同調することについては、【図表4】の通り、オレンジ色に印した多くのOPEC諸国が既に賛同の意を示している。

 

 

OPEC産油量
(出所:IEAより住友商事グローバルリサーチ作成)
ロシア産油量
(出所:Bloomberg、ロシアエネルギー省中央派遣ユニットより住友商事グローバルリサーチ作成)
各国の立場と1月産油量
(出所:IEAより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

 ただし、1月に経済制裁が解除されたばかりのイランは、4か国の決定を支持するとコメントしたものの、自国も従うかについては一切立場を表明していない。【図表5】の通り、イランは経済制裁前の水準まで増産するとの意思を繰り返し示しており、2016年は日量50万バレルの増産を明言している。一部報道では、イランを枠組みに加えるべく、イランにのみ限定的な増産を認める特別条件を提示したとも言われているが、OPEC内で生産量が3番目に多いイランが増産を続けるのであれば、合意内容は形骸化したと捉えられかねない。国際エネルギー機関IEAによるとOPECが1月産油量を維持した前提で、今後の世界原油需給を予測すると、2016年いっぱいまで供給過剰が継続する見込みとなっている。仮にイランが増産すればその分だけ供給過剰幅が増えることになり、今回の合意内容の実効性の如何を問わず、『減産』とならない限り、供給過剰は解消しないだろう。このため、供給過剰の改善という観点からは、今回の会合は大きな意味を持たないと思われる。

 

イラン産油量
(出所:IEAより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

 一方で、評価できる点もある。これまで、産油国同士の協議は一切必要ないとの立場にあった産油大国のサウジアラビアおよびロシアが油価防衛に向けて動きだしたことである。S&Pが油価下落による財政赤字拡大を理由にロシアおよび中東諸国の格付けを軒並み引き下げている状況が示すように、長期化する油価低迷に産油国が危機意識を高めていることが背景にあると考えられる。サウジアラビアの石油相が会見で、今回の会合は最初の一歩とコメントしたように、6月に控えたOPEC総会に向け今後何らかの協議が進展するという期待だけでも今の原油相場には一定のプラス効果があると言える。以上のように、2014年以降、需給調整機能の役割は放棄したOPECだが、市場のセンチメント、価格の方向性にはまだに強い影響力を有しており、今後の展開に注視する必要がある。

 

 

以上

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