中国:2016年中央経済工作会議 ~2017年秋の党大会を控え、安全運転を最優先~

2016年12月26日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
貞川 晋吾


1.概要

 2016年12月14日~16日、北京で行われた2016年中央経済工作会議について解説する。中央経済工作会議は毎年11~12月に共産党中央と内閣に相当する国務院が合同で行うもので、その年の経済情勢のレビューを行った後、翌年のマクロ経済の運営方針を策定するものである。ここで決めた方針が、翌年3月に開催される全人代で具体的な政策に落とし込まれる。

 

 

2.2017年の位置付け

 まず、2016年の中央経済工作会議では、2017年の経済の位置付けを次の2点とした。2017年秋の党大会を控え、経済の安全運転を最優先したものとみられる。

(1)新常態を認識し、「穏中求進」を基調に

 1点目は、経済の発展段階が、高度成長時代から6~7%成長に変わった新常態にあるという認識の下、経済と社会の安定を大前提として、成長を促進するという意味である「穏中求進(安定の中で前進を求める)」を基調とすることである。この言葉は2012年から既に経済運営上のキーワードになっているが、2017年は、第19回党大会が開催され、習政権の2期目がスタートするため、「発展」よりも「安定」により重点が置かれているように思われる。

(2)サプライサイドの構造改革深化の1年

 2点目は、サプライサイドの構造改革を深化させる1年にするということである。これについては、後ほど解説するが、すでに2016年のマクロ経済運営方針にも盛り込まれており、2017年は更に深化させるとしている。

 

 

3.2017年のマクロ経済運営方針

 次に、2017年の具体的な経済運営方針について解説する。

(1)財政政策

【図表1】セクター別の固定資産投資伸び率推移(出所:中国国家統計局データを基に住友商事グローバルリサーチ(SCGR)作成)

 財政政策について、2017年は2016年より更に「積極的、効果的に」としている。
【図表1】は、中国の固定資産投資の伸び率を、全体、民間、国有の3つに分けて示したものだが、2016年は民間投資の伸び悩みを国有投資の伸びが支えた形になっている。中国のGDPは、2015年の実績で約45%が投資によるものであり、インパクトが大きい。2017年は、民間投資の動向にも左右されるかも知れないが、より積極的な財政出動によって、インフラ投資や企業に対する減税やコスト削減につながる政策、小型車に対する引き続きの減税(注:12月13日、財政部は、2017年の小型車取得税の減税幅を従来の5%から2.5%に変更する通達を公布)などが行われることが予想される。

 

(2)金融為替政策

 金融為替政策では、これまでの「穏健」という表現が、「穏健中立」に変わっている。これは、2016年の緩和気味であった金融政策を、2017年は中立に戻す、即ち、必要なタイミングでやや引き締めも行う方向に微調整すると思われる。人民元の為替相場については、柔軟性を高め、合理的な水準に安定させるとしている。

 

(3)サプライサイドの構造改革の継続・深化

 前述の通り、サプライサイドの構造改革はすでに2016年から運営方針になっており、2017年はその深化のステージに進む。具体的な内容を、ここでは6項目に絞って解説する。

 

①過剰生産能力の削減(鉄鋼、石炭)

【図表2】上場企業に占めるゾンビ企業の比率TOP5(2013年)(出所:2016年7月 中国人民大学 「中国ゾンビ企業研究報告」データを基にSCGR作成)

 【図表2】は、2013年時点の上場企業に占めるゾンビ企業の比率が高い5つの業種をあげたものである。ゾンビ企業とは、生産活動をほぼ行っておらず、赤字が何期も連続しており、債務超過に陥っているにも関わらず、政府の補助金や銀行の追い貸しで倒産を免れている企業のことを言い、鉄鋼、不動産業、建設業などで比率が高くなっている。政府が過剰生産能力の解消を何年も先送りし続けた結果、ゾンビ企業が増え続け、習政権では、喫緊の課題として認識されている。余剰設備の廃棄については、確実に成果を上げつつあり、例えば、2016年の鉄鋼製造設備4,500万トン分の廃棄目標は既に達成されたとの報道がある。しかし、この4,500万トン分の中身は従来の有休設備の処分がメインで、従業員の解雇など、痛みが本格化するのはこの先だとの観測もあり、2017年は難しいさじ加減が求められそうだ。

 

②不動産在庫の圧縮と市場の安定(住宅は住むもので、投機の対象ではない)

 地方の中小都市では、住宅販売が回復せず大量の在庫がはけないままになっており、問題になっている。一方、大都市では2014年から始まった住宅政策の緩和を受け、住宅価格の急上昇が続いている。「住宅は住むものであって、投機の対象ではない」という強い言い方で、本格的に投機を抑制する方向が打ち出されている。

 

③企業レバレッジ率の引き下げ(重点中の重点)

 次に「重点の中の重点」とされる企業レバレッジ率、即ち、負債比率の引き下げだが、目下の中国経済の問題として、まず想起されるのがこの問題である。中国の代表的なシンクタンクである中国社会科学院の報告では、2015年末現在、非金融企業の資産に対する負債の比率は、156%と高い水準になっている。企業のレバレッジ率の引き下げの方策としては、企業合併、リストラ等があるが、政府は将来性のある企業に対しては、デットエクイティスワップによる負債比率削減を奨励している。

 

④農業(安心安全、農産物買い付け・備蓄制度、農村改革)

 農業分野のサプライサイド構造改革では、安全安心で高品質の農作物の供給を主眼とすること、トウモロコシを中心に、穀物の政府による買い取り制度や国家備蓄制度にメスを入れること、農地の財産権問題等の改革も実施することとしている。

 

⑤貧困や社会インフラ等弱点の補強

 また、貧困や社会インフラ等弱点の補強についても触れられている。これは、経済や社会の発展を阻害する分野をハード、ソフトの両面からテコ入れするという意味合いである。貧困については、2020年には貧困人口を基本的になくす小康社会の実現を目標としている。2015年末で、中国の貧困人口は約5,575万人。政府は、2016年既に、貧困人口を1,000万人以上減らしたとしているので、2017~20年の4年間をかけて、残りの約4,500万人を貧困から救わなければならない。

 

⑥実体経済の振興(「職人魂」「百年の老舗」)

 実体経済の振興というのは、製品とサービスの競争力を強化するというものである。企業が「職人魂」を発揮して、ブランド作りを行い、「百年の老舗」をより多く育成するという言い方をしている。この「職人魂」という言葉は2016年3月の全人代で初めて使われ、今年の流行語トップ10にもランクインした。ジョブホッピングが頻繁に行われる中国社会で、このような考え方がどこまで根付くかは別として、こういった日本的な価値観を政府が奨励し始めたのは興味深い。

 

 その他、電力、石油等の国有企業独占分野に民間資本を導入する国有企業改革や、個人や企業の財産権保護、中央・地方政府の租税分配改革、年金改革等、他にも進めるべき改革項目が列挙されている。

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。