香港/中国 ~あまたの困難に直面する国際都市、実は日本が大好き~
香港政府による「逃亡犯条例」改正案に反対するデモを発端とし、2019年の香港は民主化デモによって騒乱状態になりました。2020年に入ってからは新型コロナウイルスや、中国政府による「香港国家安全維持法(国安法)」制定により、大規模デモはなくなり、香港の街は落ち着きを取り戻しました。国安法によって香港の高度な自治は傷ついたかもしれませんが、経済的には中国本土から独立した金融・財政制度、法制度(英国系のコモン・ロー)を背景として、香港は引き続き世界有数の自由で国際的な経済都市であり、アジアの重要な金融センターです。
果たして香港は今後もこの地位を維持し続けることができるのでしょうか? 中国は香港に対して今後も政治介入を続けるでしょうし、外国からの干渉に対しても厳しく対処していくでしょう。一方、中国自身が香港の経済メリットを十分に認識していますので、それを損なうような行動は当面避けるものと思われますが、今後、中国政府が香港の経済に対しても統制を強める可能性がゼロではないことから、情勢については引き続き注意深く見ていく必要があります。
ここで香港と日本との関係について見てみましょう。香港は16年連続で日本の農林水産品の輸出先1位の座を維持しています。香港の人たちは日本が大好きです。コロナ前の2019年には、約229万人(香港総人口約750万人の3割に相当)が日本に旅行していました。今は新型コロナ対策の出入境規制で日本に行けないため、香港にいながら日本を感じることができる場所や日本の食材・商品が大人気です。例えば、総合ディスカウントストアのドン・キホーテ。香港では「DON DON DONKI」という名前で、日本の商品を扱う専門店を2019年7月に1号店オープン以来、7店舗が営業中で、いつも香港人でにぎわっています。また日本料理店は約1,300あり(2020年現在)、外国料理店では最多です。あちこちに日本食や日本関連商品があふれているので、われわれ日本人駐在員が生活上困ることはありませんが、値段は日本の1.5~2倍程度します。日本のアニメも大人気で、2020年11月に公開された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、初日だけで2020年の年間映画興行収入トップになったと報じられていました。
香港の人たちが大好きな日本に再び行けるようになるには、ワクチン接種などによるコロナ出入境規制の緩和が必要ですが、香港では市民のワクチン不信もあってなかなか接種が進んでいません。このため、香港政府は民間と協力して、ワクチンを接種すれば応募ができる、総額1億8,000万HKドル(約25億5,000万円)の懸賞を打ち出しました。その甲斐(かい)もあってか、直近のワクチン接種回数(延べ)はすでに300万回の大台を突破していますが、接種率ではまだ約3割強[*1] にとどまっています。香港政府は、集団免疫獲得のためには7割以上のワクチン接種が必要としており、さらなる接種率向上のため、引き続きさまざまな刺激策を打ち出していくものと予想されます。今後、香港と日本双方のコロナ禍が収束して、お互いに制限なく往来できる日が戻ってくることを切に願っています。
[*1] (少なくとも1回接種を受けた人数)÷(接種可能な12歳以上の人口)= 2,212,375人÷ 6,820,000人 = 32.5% [2021年6月29日現在] (出典:香港政庁 “Hong Kong Vaccination Dashboard” )
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