- [アルゼンチン対米貿易協定]アルゼンチンが米国との貿易協定に署名した。協定は合計1,675品目に及ぶ関税撤廃と非関税障壁の削減を柱とし、3億5,000万人規模の巨大な北米市場への門戸をアルゼンチン企業に開放する。この協定では、多くの米国製品について関税を削減または撤廃する方針が示されている。対象は医薬品、医療機器、化学品、機械、自動車、IT製品、さらに幅広く農産物に及ぶ。またアルゼンチンは、自動車や医療機器の輸入に関して米国の安全基準を受け入れ、肉や家禽(かきん)については米国農務省(USDA)の食品安全基準に従うことを約束している。アルゼンチン側の最大のメリットは牛肉輸出であり、低関税枠が従来の2万トンから10万トンへと大幅に拡大された。この追加枠は、主にハンバーガーの原料となる赤身のトリミング肉に限定されており、米国の牧場主らによる反発を最小限に抑えつつ、食品加工企業の利益率向上に寄与する設計となっている。これにより、農業部門全体で約8億ドルの輸出増、鉄鋼・アルミニウム等の見直しを含めれば総額10億ドル超の経済効果を政府は見込んでいる。また、アルゼンチンは、データ転送やデジタルサービスへの課税禁止を確約し、国境を越えた自由なデータ流通を保障した。これは単なる経済協力に留まらず、両国の安全保障体制を統合する試みでもある。さらに、重要鉱物供給に関する枠組み協定を通じ、アルゼンチンは「市場操作を行う経済(第三国)」、すなわち中国を念頭に、米国を銅やリチウムの優先的な取引相手とすることを明言した。この「フレンド・ショアリング」の徹底は、米国輸出入銀行(EXIM)等による金融支援を呼び込み、供給網の強靭化に寄与する。技術と資源の緊密な連携は、地政学的な対立構造の中でのアルゼンチンの立ち位置を鮮明にするものである。
これらの施策は、国内製造業には厳しい試練を強いることにもなる。特に化学分野や車両・農業機械部門は、米国製品との競争にさらされる。また、牛肉輸出が5倍増となれば、輸出優先による国内供給の減少がさらに進み、国内向けの牛肉価格を押し上げるリスクは否定できない。
一方で、アルゼンチン政府は中国からの投資を完全に排除しないとの建前を維持しつつも、中国との潜在的な緊張を生む要因となっている。中国が依然として主要な投資国である現状において、この地政学的な綱渡りがアルゼンチンの資源外交にどのような摩擦をもたらすかは、今後の最大の懸念事項である。
- [エチオピア・エリトリア関係]2月7日、エチオピアのゲディオン・ティオモテオス外相は、隣国エリトリアの外相宛の書簡において「エリトリア軍がエチオピア北東部国境付近を長期にわたり占領し、北西部国境付近ではエチオピアの(反政府)武装集団と共同軍事演習を行っている」と非難し、エリトリア軍の即時撤退を求めた。また、ゲディオン外相は「エリトリアがエチオピアの領土保全を尊重するならば、エチオピアはエリトリアのアッサブ港を通じた紅海へのアクセスを含む、相互利益に関わる事項について誠実な交渉を行う用意がある」と述べた(2月8日付、英BBC等)。エリトリア側はエチオピアの書簡に対して公式な回答を行っていない。
内陸国であるエチオピアのアビィ首相は、過去数か月で「エチオピアが海上アクセスを有する」との発言を繰り返し行っている。エリトリア側はこれを(エチオピアによる)暗黙の軍事的脅威だとみなしていることから、両国間の緊張が高まっている。エチオピアは、1993年にエリトリアが分離独立したことにより内陸国となった。現在は海上物流のほとんどを隣国ジブチ港に依存している。しかし、アビィ首相はジブチに支払う年間約20億ドルの港湾使用料を抑える観点から、ソマリア国内の国連未承認国家であるソマリランドのベルベラ港や、エリトリアのアッサブ港へのアクセス確保に強い意欲を示しており、この動きがエリトリアやソマリアなどから「領土・主権侵犯」との反発を招いている。
加えて、1991年以降、2018年にアビィ首相が就任するまで政権の中枢を担っていた「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」とアビィ氏(オロモ人)率いる連邦政府の間の緊張が高まっていることも今回の書簡の背景にある。エリトリアはTPLFと同じティグライ人を母体としながらも、1998年~2000年に約10万人が死亡したとされるエチオピア・エリトリア国境紛争でTPLF率いる「エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)」政権と対立。2020~2022年に約60万人が死亡したティグライ紛争でも、エリトリアはTPLFが脱退したエチオピア連邦政府軍と協力し、TPLFへの攻撃を行うなど対立を深めてきた。しかし、エチオピア政府とTPLFとの和平合意を定めた「プレトリア宣言」において、エリトリアが除外された形で文書がまとめられたことを受けてアビィ政権との溝が深まったため、一転してエリトリアはTPLFに軍事支援を行っていると広くみられている。今回の外相の書簡に含まれていた「武装集団」はTPLFが保有する「ティグライ人民軍(TDF)」を指しており、外相はエリトリア軍がTDFに協力していることを暗に非難している。今回の書簡は、2月3日にアビィ首相は議会で「ティグライ紛争の際にエリトリア軍がエチオピア国内で住民を虐殺した」とエリトリアを非難した直後のタイミングで送付されたことから、緊張のエスカレーションが憂慮されている。
さらに、エチオピアでは6月1日に5年ぶりに人民代表議会(下院)の総選挙が実施される予定だ。前回2021年の総選挙ではアビィ首相率いる与党「繁栄党」が473議席中457議席を確保して圧勝。ティグライ紛争勃発後にTPLFはエチオピア選挙管理委員会(NEBE)に解散を命じられたことから前回選挙にも参加していなかったが、今回の選挙でもTPLFが政党としての法的地位を得るための再登録を行っていないことを理由に参加資格を剥奪されている。TPLFは、プレトリア宣言の当事者であるTPLFは国際的に認められていることため、国内政党としての再登録は必要ないと強く反発している。しかし、仮にこのままTPLFもしくは代理の小規模政党が2026年6月の選挙に参加できない場合、連邦政府への対抗措置としてTPLFはエリトリアと共同で軍事作戦に出る手段しか残されていないとみられることから、今後の情勢に注視が必要だ。
- [豪州・インドネシア安全保障条約]2月6日、インドネシアのプラボウォ大統領はオーストラリアのアルバニージー首相とジャカルタにて会談後、安全保障条約である「ジャカルタ条約」を締結した。いずれか一方の国が脅威にさらされた場合、互いに対応を協議する条項が盛り込まれている。
オーストラリアは、中国が太平洋諸国との間で外交・防衛面での関係を深化していることに対して懸念を示している。2022年4月には中国がソロモン諸島との間で安全保障協定を締結したが、これによりソロモン諸島に警察や軍隊を派遣できるほか、中国人民解放軍海軍艦艇の寄港や燃料補給の可能性が示唆されている(米AP通信、2022年4月20日付記事)。これに対してオーストラリアは、2024年12月にソロモン諸島の警察部隊の拡大・訓練・インフラ整備に4年間で1億9,000万豪ドルの支援を表明した(英ロイター通信、2024年12月20日付記事)。
このほかには、2024年12月にツバルとの間で安全保障・防衛分野のほかにオーストラリアへの移住受入れを取り決めたファレピリ連合条約を締結したほか、同月にナウルとの間で、5年間にわたる直接予算支援を行う引き換えに第3国がナウルの通信・金融インフラに関与する際にはオーストラリアの合意を必要とすることを定めた経済・安全保障協定を締結した。さらに2025年10月にはパプアニューギニアとの間で相互防衛条約を締結するなど、中国の影響力に対抗する動きを示している。インドネシアとの間でも2024年8月には当時国防相であったプラボウォ氏との間で共同軍事演習や相互の軍事基地利用の円滑化などを定めた防衛協力協定に合意したほか、2025年11月にはジャカルタ条約の締結で合意していた。
インドネシアも、南シナ海のナトゥナ諸島周辺での資源開発をめぐって中国との対立が継続している。これまでの非同盟中立外交の方針を堅持しつつも、本条約締結やオーストラリア・米国・日本なども部隊を派遣する多国間大規模軍事演習「スーパー・ガルーダ・シールド」の定期的な実施を通じて中国に対抗する姿勢を示している。
- [日本の賃金]厚生労働省によると、2025年12月の実質賃金は前年同月比▲0.1%だった。1月以降マイナスが継続している。消費者物価上昇率(持家の帰属家賃を除く総合)は+2.4%であり、11月(+3.3%)から上昇率を縮小させたものの、実質賃金はプラスに転じなかった。
内訳を見ると、名目賃金(現金給与総額)は+2.4%であり、11月(+1.7%)から上昇率を拡大させた。また、基本給(所定内給与)は+2.2%、10月(+2.4%)以来の上昇率に拡大した。そのうち、一般労働者(+2.5%)が11月(+2.4%)から小幅に拡大した一方で、パートタイム労働者の時間給は+3.4%で、11月(+4.0%)から縮小したものの、10月(+3.2%)を上回った。残業代(所定外給与)は+0.9%と、8月(+0.4%)以来の1%割れになった。ただし、残業時間(所定外労働時間)は▲3.0%で、11月(▲3.8%)からマイナス幅を縮小させており、残業の時給は上昇している。ボーナス等(特別に支払われた給与)は+2.6%で、11月(▲1.5%)から2か月ぶりのプラスに転じた。なお、共通事業所ベースの名目賃金は+2.0%であり、これも11月(+1.1%)から上昇率を拡大させた。
2025年通年の名目賃金は+2.3%となり、2024年(+2.8%)に続いて2年連続で2%超の伸び率になった。また、上昇は2021年以降、5年連続だった。内訳を見ると、基本給は+2.0%となり、2024年(+2.1%)並みの上昇率を維持した。残業代は+1.3%、2024年(+0.0%)から加速した。その一方で、ボーナス等は+3.8%であり、2024年(+6.7%)から縮小した。なお、実質賃金は▲1.3%で、2024年(▲0.3%)からマイナス幅を拡大し、4年連続のマイナスになった。
- [米・イラン交渉]2月11日、イスラエルのネタニヤフ首相は2月、米国ワシントンでトランプ大統領と会談する予定であり、イラン情勢や核問題を巡る協議が主要議題となる見通しである。ネタニヤフ氏は、米国が進めるイランとの核交渉において、核開発だけでなく、弾道ミサイル開発の制限や、中東の親イラン武装組織への支援停止も議論に含めるよう求めている。
一方、米国とイランは6日、オマーンの首都マスカットで高官協議を実施し、今週にも再協議を行うことで合意した。米国は、①核兵器につながるウラン濃縮活動の完全停止、②弾道ミサイルの射程や保有数の制限、③親イラン勢力への支援停止を要求している。しかしイラン側は、交渉の議題を核問題に限定する立場を崩しておらず、特にミサイル開発については国防の問題であり「交渉できない」と強く反発している。イランは平和利用目的の核開発は国家の権利だと主張し、ウラン濃縮の放棄も拒否している。
今回の協議は約8か月ぶりの再開となり、双方は対話を前向きに評価しているものの、議題の範囲を巡る溝は依然として大きい。米国は中東海域に原子力空母を派遣するなど軍事的圧力を強めており、協議には米中央軍司令官が軍服姿で出席するなど、強硬姿勢を示した。またトランプ大統領は、イランと取引する第三国に対して追加関税を課す大統領令にも署名し、外交と経済、軍事を組み合わせた圧力を強化している。
これに対しイランは、武力による威圧には屈しない姿勢を示しつつ、外交的解決を模索している。さらに中国もイランの立場を支持し、外部からの圧力に反対する考えを表明した。こうした中、トランプ氏は交渉が合意に達する可能性に言及しつつ、合意に至らなければ重大な結果を招くと警告している。米イラン関係は対話の兆しを見せながらも、相互不信と安全保障上の対立が続いており、今後の協議の行方が注目されている。
- [ウクライナ和平交渉]2月6日、ロイター通信は、ロシアの侵攻を受けるウクライナと和平仲介を担う米国が、2026年3月中の和平合意締結の可能性を協議していたと報じた。複数の関係者の話だとしている。だが、ロシアとウクライナは領土問題で立場の相違が埋まっておらず、2026年3月中の締結は困難とみられる。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月7日、記者団に米国が2026年6月までの戦闘終結を目指し、ロシアとウクライナ双方に圧力をかけるだろうと述べた。
米国のトランプ政権は2026年11月の米中間選挙を見据えて、2026年3月までの和平合意と5月のウクライナ選挙実施を急いでいるとみられる。しかし、ウクライナ国内では、領土割譲への強い反対意見や戦い続けるという依然として高い国民の志気などの背景があり、早期合意への大きなハードルとなっているとみられる。
- [中国/メルスコール協力とブラジル]2月初め、ウルグアイのオルシ大統領が訪中した際に発表された共同文書では、早期の南米南部共同市場(メルコスール)と中国の貿易関係強化への期待が明記された。ウルグアイは従来から中国とのFTA締結に積極的な姿勢を示しているが、メルコスールの他の加盟国の中には慎重な立場を取る国もある。特にブラジルは、中国産製品が国内製造業を圧迫するとの懸念などから、時期尚早との見方を示してきた。
しかし最近、ブラジルで、中国とメルコスールとの貿易関係強化に向けて、従来の慎重姿勢を転換する兆しが見られる。ブラジル政府高官によれば、全面的な自由貿易協定(FTA)ではなく、限定分野に絞った「部分的合意」を検討する可能性が浮上しているという。これは、長年にわたり正式交渉を事実上拒んできた姿勢からの変化である。
転機となったのは、米国による関税強化を背景とした国際貿易環境の変化だ。米国の保護主義的な通商政策が世界の貿易秩序を揺るがす中、ルラ政権は貿易相手国の多角化を戦略課題として位置付け、中国との実務的な協力の余地をあらためて評価している。
ブラジル側が現実的とみているのは、関税撤廃を伴う包括的な協定ではなく、輸入割当、通関手続き、衛生・安全基準など、非関税障壁の調整である。こうした分野に限定した合意であっても、中国市場へのアクセス改善効果は大きいとされる。一方で、合意にはメルコスール加盟国の全会一致が必要となるため、台湾と国交を有するパラグアイや、米国重視の外交路線を取るアルゼンチンが難色を示す可能性もある。
トランプ米政権の通商政策が、結果的に中国と中南米諸国の接近を促し、停滞していたメルコスール・中国関係が動き出す可能性が出てきている。
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