- [インド・カナダ首脳会談]2026年2月27日から3月2日にかけて、カナダのカーニー首相が就任後初となるインド訪問を実施した。モディ首相と会談し、エネルギー、貿易など幅広い分野での協力に合意した。カナダ首相としては2018年以来ぶりの訪印となる。主な合意内容は以下のとおり。
●エネルギー:カナダのウラン生産企業カメコとインド原子力省の間で、インドの民生用原子力発電向けに26億カナダドル(約19億米ドル)規模のウラン供給契約が締結された。また、LNGや重要鉱物での協力推進を確認した。
●貿易:二か国間貿易額を、2030年までに700億カナダドル(約500億米ドル)まで拡大させることに合意した(2024年時点の貿易額は約103億米ドル)。2026年末までの妥結を目指して包括的経済連携協定(CEPA)の正式な交渉を再開させることに合意した。
●防衛・安全保障:インド太平洋を念頭に、新たに発足した「海洋安全保障パートナーシップ」を歓迎したほか、両国の防衛政策や地域・世界情勢に関する意見交換を実施する「インド・カナダ防衛対話」を制度化することに合意した。また、テロ対策やサイバーセキュリティ、国境を越えた犯罪(麻薬密売やサイバー犯罪など)に対処するための法執行連絡メカニズムの構築でも一致。
なお、2024年の両国間での貿易額は約103億米ドルとなっている。インドにとってカナダは第35位の貿易相手国である一方で、カナダにとってインドは第9位の貿易相手国となっている。インドからカナダ向けの主な輸出品(2023年時点)は、医薬品(約2.74億米ドル)、原子炉・ボイラー関連(約1.95億米ドル)、電気機械(約1.61億米ドル)など。一方、カナダからインド向けの主要輸出品には、鉱物、豆類、カリ肥料、新聞用紙、産業用化学品などが挙げられる。
両国は1947年の国交樹立以降、カナダのウラン輸出などを通じて外交関係を構築し、2006年には「戦略的パートナーシップ」へ関係を格上げしていた。また、カナダに在住するインド系移民はカナダの全人口の約3%を占めるほか、約23万人のインド人留学生が学術・研究機関に在籍するなど、従来から人的結びつきが強い。他方で、2023年6月にカナダ国内でシーク教分離独立派(カリスタン運動)の活動家が暗殺された事件について、カナダ政府がインド政府関係者の関与を非難したことで、在カナダ外交官の追放やビザ発給の一時停止を決定した。これにより、包括的経済連携協定(CEPA)の交渉も2023年9月に凍結されるなど、両国の外交関係は冷え込んだ。
こうした中、2025年3月に就任したカーニー首相は、イデオロギーよりも実利を重んじる「原則的かつ現実的」な外交姿勢へ転換した。特に、アメリカへの警戒から、同国への過度な依存を減らし、急成長するインド市場との関係修復を急ぐ必要に迫られていたことが、今回の急接近の大きな背景にあると考えられる(ロイター通信、2026年2月27日付記事)。またカーニー政権下でのインドへの接近は、「ミドルパワー」が連携し、アメリカの覇権や米中対立から距離を置くための多国間戦略という文脈に位置づけられる(アルジャジーラ、2026年2月27日付記事)。
一方で、最大の課題・リスクは、シーク教徒の分離独立運動を巡る問題が根本的には未解決のままな点である。今回のカーニー首相訪問の直前にも、カナダ警察が国内のシーク教活動家に対して「命が狙われている」と警告を発しているほか、カナダ国内のシーク教団体からは、カーニー首相がインドの責任を追及していないとの強い批判が上がっている。
- [イラン情勢と中国]米国・イスラエルによるイラン攻撃に対し、中国は公式には主権侵害であり国際法違反だとして強く非難している。しかし、実際の対応は抑制的であり、軍事的支援に踏み込む可能性はほとんどない。攻撃が発生する2~3日前、ロイターは中国とイランが超音速対艦ミサイルの売却について合意間近だと報じたが、攻撃発生後、中国外交部はその予定はないと否定した。報道の真偽にかかわらず、中国がイラン情勢に軍事的に関与する意思を持たない姿勢の表れといえる。
中国は、体制転覆を伴う民衆蜂起には強い警戒感を抱く一方、外部からの空爆による指導者殺害については管理可能な危機とみなしている。米国の軍事行動を批判しつつも、事態の帰結次第では自国に有利に働く可能性があると見ている。仮に米国が中東に再び深く関与すれば、対中競争に割ける資源が制約されるとの期待もある。
また、事態を受けたエネルギー価格の上昇については懸念しているものの、中国のイラン産原油への依存比率は約12%にとどまり、調達先の多角化や戦略備蓄も進んでいるため、短期的な混乱には耐えられるとの認識が強い。むしろ、中国にとってはサウジアラビアやUAEなど米国同盟国との経済関係の方がはるかに大きく、地域秩序の急激な不安定化よりも現状維持を望んでいる。
中国の専門家の間では、今回の衝突を「小冷戦」あるいは「宗教戦争2.0」と位置づけ、長期的な低強度の対峙が続くとの見方が有力である。中国はイランの体制そのものよりも、エネルギー価格の安定、投資環境の確保、核拡散の抑制といった実利を重視している。米国の行動を表向きは批判しつつも、戦闘には距離を置き、イランの新たな政府と安定した関係を築くこと、将来的な制裁緩和や復興局面で経済的利益を得ることを目指している。
- [米・イスラエル・イラン/軍事攻撃の応酬]2月28日、米・イスラエル軍がイランに対する大規模攻撃を開始し、ハメネイ最高指導者をはじめ、革命防衛隊(IRGC)司令官や軍参謀総長、国防相ら約40人の政府・軍高官が殺害された。軍事施設や防衛システム、ミサイル発射装置なども標的となっている。これに対しイランも、イスラエル本土や湾岸諸国の米軍基地に加え民間施設に向けても弾道ミサイルやドローンで報復攻撃を実施。戦闘は継続中で、ホルムズ海峡は事実上閉鎖状態となり、航空・物流に深刻な影響が出ている。
被害は地域全体に拡大している。イランでは24州約1400か所以上が攻撃を受け、555人が死亡。イスラエルでもミサイル攻撃により死傷者が発生し、国家非常事態が宣言された。UAEやカタールなど湾岸諸国にも多数のミサイルが着弾し、空港や港湾施設が被害を受けたほか、クウェートにおいて米兵6人の死亡も報告されている。パキスタン、イラク、レバノン、シリアでも抗議活動や武力衝突が起き、紛争は広域化の様相を呈している。
イラン国内では、最高指導者選出までの暫定体制として3人から成る「暫定指導評議会」が設置された。実質的な行政運営は軍・治安当局を中心とする少数グループが主導している可能性が高い。憲法上は専門家会議が後継者を選出するが、会議開催自体が攻撃対象となる懸念もあり、短期決定は不透明である。一方、革命防衛隊の新司令官も任命され、体制維持の動きが進んでいる。
今後について、トランプ大統領は攻撃が4週間程度続く可能性に言及する一方、イランとの協議継続の可能性も示唆している。イランの弾道ミサイル在庫は約2000~2500発と推定され、報復は1~2週間で収束するとの見方もある。湾岸協力会議(GCC)はイランの攻撃を強く非難し、情勢次第では湾岸諸国が反撃に加わる可能性も指摘されている。戦争が長期化すればイランで国家分裂の危険も、早期停戦でも革命防衛隊主導体制への移行の可能性もあり、情勢は依然不透明である。
- [日本/緩やかな回復と先行きの警戒]財務省「法人企業統計」によると、2025年10~12月の全産業(除く金融・保険業)の経常利益は30.0兆円、前年同期比+4.7%となり、5四半期連続のプラスだった。ただし、上昇率はQ3(+19.7%)から縮小した。そのうち、製造業は+0.9%と2四半期連続のプラス、非製造業は+7.1%であり、全体をけん引した。製造業では、情報通信機械(+52.9%)や電気機械(+21.8%)が増加した一方で、生産用機械(▲25.5%)や輸送用機械(▲6.4%)が減少した。非製造業ではサービス業(+20.7%)や情報通信業(+20.9%)の伸びが目立った。
売上高は全産業で+0.7%、Q3(+0.5%)からやや縮小したものの、プラスが継続している。製造業(+1.0%)と非製造業(+0.5%)はそれぞれ増加した。また、設備投資は+6.5%と、4四半期連続のプラスだった。都市開発やデータセンター関連が伸びた。ただし、製造業(0.0%)は横ばいにとどまった。化学(+18.7%)や食料品(+13.6%)が増加した一方で、情報通信機械(▲38.2%)などで減少した。非製造業(+10.1%)は、Q3(+3.9%)から上昇率を拡大させ、4四半期連続の増加となった。特に、不動産(+40.7%)や情報通信(+24.0%)などが増加した。
また、全産業の経常利益は前期比+1.6%、3四半期連続で増加した。製造業が+9.8%と、2四半期連続で増加した。これは米国の関税措置などの影響から、Q1~Q2にかけて減少した反動が表れている。その一方で、非製造業(▲2.6%)は減少に転じるなど、方向が異なった。また、売上高は全産業で+0.7%と3四半期ぶりに増加した。製造業(+0.9%)が3四半期ぶりに増加したほか、非製造業(+0.6%)が2四半期連続で増加した。設備投資は+3.5%となり、2四半期ぶりに増加した。ただし、製造業(▲0.2%)が2四半期連続で減少した一方で、非製造業(+5.4%)が2四半期連続で増加するなど、これも産業によって異なる動きになった。
これらの結果に基づくと、景気は緩やかに回復していると判断される。しかし、2月になってから相互関税にかわり代替関税が適用され、2月末から米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まった。それらの影響が今後表れてくるため、物価や景気への悪影響が懸念される。
- [コロンビア、今後を占う議会選挙]コロンビアでは2026年3月8日に議会選挙と予備選が実施される。この二つの選挙は5月31日の大統領選に大きな影響を与えるとみられており、右派・中道・左派それぞれが予備選を事実上の前哨戦として位置づけている。
農村部の動向が注目されるが、地方では武装勢力による脅威が続いており、一部の候補者の活動や投票が妨げられる可能性も指摘されている。政府は複数の武装勢力と一時停戦の合意形成を急いでいるが、停戦が有効に機能するかについては強い懐疑が残る。
コロンビアの議会は現在32もの政党が議席を分け合う分断された構造にあり、歴史的にも政党間のかけ引きが選挙戦を左右する状態が常態化してきた。左派の中ではペトロ大統領率いるヒストリック・パクト(PH)が最も組織力のある勢力で、強固な基盤を維持している。一方、右派の中心は民主中道(CD)であるが、全国的な一枚岩ではなく、議会内でまとまった投票行動を取れるかは不透明である。伝統的な政党である自由党、保守党、国民統一党、急進変革党は「キングメーカー」として重要な役割を果たす見込みであり、選挙後の議席配分を見定めつつ、最も有利な条件で支持先を選ぼうとしている。
大統領候補については、左派PHはすでにイバン・セペダ氏を候補に指名しており、選挙体制を固めている。一方、右派と中道はまだ最終候補者を決めていない。予備選は、大統領選本番に向けて単一候補を選ぶことになる。
また、最新の世論調査では、セペダ氏が大統領選第1回投票の最有力候補とされ、次点には右派のエスプリエラ氏が続いている。ペトロ大統領が選挙に直接関与することは法的に禁じられているものの、その存在感は強く、左派支持層を動員する力を依然として保持している。最低賃金を23.7%引き上げた政策は経済的には企業負担やインフレを招き論争を呼んでいるが、政治的には左派候補に有利に働くとみられている。ただし、決選投票では、右派票、反ペトロ票が集約されることから、右派が優勢とみられている。
いずれにせよ、103議席の上院と183議席の下院のいずれでも過半数を獲得できる政党は存在しないと考えられる。結果として、次期議会も政党が入り乱れた構造が維持される可能性が高い。次期大統領は財政赤字という深刻な課題を引き継ぐことになり、反発の多い財政引き締め政策が避けられない見通しとなっている。議会で政策を進められない場合、大統領令などに頼らざるを得ないリスクも高まる。こうした不確実性は企業活動にも影響を及ぼし、投資判断の棚上げやリスク回避姿勢を強める要因となり得る。
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