- [米サウジ原子力協定の波紋]トランプ政権はイランに対しては核開発を理由に軍事的圧力を強める一方で、7月22日にはサウジアラビアとの民生用原子力協力協定に合意した。この協定は30年間にわたり、米国の原子力技術やノウハウをサウジに提供し、原子力発電を通じて電力需要の増大や石油輸出余力の確保を支援する内容とされる。しかし、イランの核開発を強く非難しながら、地域大国であるサウジに高度な原子力技術を提供することは、中東における核拡散リスクを高めるとの懸念が広がっている。
さらに翌23日、トランプ大統領は突然、この協定の「完全な条件」としてサウジアラビアがイスラエルとの国交を正常化し、「アブラハム合意」に参加することを要求した。原子力協力とアブラハム合意への参加を切り離して協議していたため、この方針転換により協定の先行きは一気に不透明となった。サウジはパレスチナ国家樹立への具体的な道筋が示されない限りイスラエルとの国交正常化には応じない立場を維持しており、イスラエルの現政権もパレスチナとの二国家解決に否定的であることから、条件実現の可能性は低いとみられている。
仮に米国との協定が頓挫すれば、サウジは中国、ロシア、フランス、韓国など他国との原子力協力へ転換する可能性があるとの指摘もある。一方で、米国が従来「ゴールドスタンダード」としてきた「ウラン濃縮・再処理の放棄」と「IAEAによる厳格な査察」という原則が緩められれば、世界の核不拡散体制そのものに悪影響を及ぼしかねない。
サウジのムハンマド皇太子はかつて「イランが核兵器を保有すれば、我々も保有せざるを得ない」と発言しており、民生用原子力計画が将来的な核武装につながる可能性を専門家は以前から警戒してきた。実際、米国の安全保障への信頼が揺らぐ中、湾岸諸国はイランとの関係改善や独自の安全保障戦略を模索し始めており、地域全体で軍備増強や核開発競争を誘発する恐れがある。イランの核保有阻止を掲げながらサウジには原子力技術を提供するという米国の政策は、核不拡散政策の一貫性を損ない、中東の安全保障環境を一層不安定化させる可能性があるとの懸念が強まっている。
- [サブサハラ/米国・AGOA]7月23日、米・通商代表部(USTR)は「アフリカ成長機会法(AGOA)」の年次審査にかかる公聴会を実施した。同法は米国が指定する「法の支配」や「市場経済」といった適格性を満たしたサブサハラの受益国・33か国(注)に対して、約6,900品目の米国向け輸出品の無税アクセスを提供するものだ。受益国の適格性は毎年審査にかけられ、USTRは公聴会に先立って7月13日までパブリックコメントを募集していた。
報道によると、公聴会に出席したアフリカ連合(AU)米代表部は、AGOAがサブサハラ域内で適格・非適格国を分かつことが、アフリカ全体をカバーする「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」に基づく市場統合の推進を難しくしていると指摘。また、米国の非営利団体「アフリカ企業連盟(CCA)」からは、トランプ政権において関係が著しく悪化している南アフリカ(南ア)について、AGOAに基づく自動車や縫製業等のサプライチェーンの基盤をなしている工業国である南アをAGOAから除外すべきではないといった意見が出された(7月24日、Africa Report)。公聴会を経て、USTRは7月30日まで最終意見書を受け付け、その後、数か月内に報告書を公表するとみられる。
年次審査は例年通り行われた一方で、2026年12月31日に失効を迎える予定のAGOAの延長法案についての具体的な審議はみられない。4月に米・下院歳入委員会が実施した「トランプ政権における2026年の通商政策アジェンダ」と題した公聴会に出席したグリアUSTR代表は、AGOAは米国にとって中国などに対抗する重要政策であることから、超党派の協力を得て複数年の延長を検討していくと回答。その後、USTRは「AGOAの近代化(modernization)」に向けたパブリックコメントを募集し、6月15日までに120件以上の意見が寄せられた。なかでも米・商工会議所は、現代の貿易実態に沿っていない物品貿易に偏った政策を見直すべきだと指摘するとともに、政策予見性を高めるために15年のAGOAの延長を求めるなど産業界からの期待の声も大きい。
しかし、現実には今回の公聴会が行われた日にUSTRが米・通商法301条に基づく追加関税(10~12.5%、サブサハラでは南ア、ナイジェリア、アンゴラが対象)を課すと発表するなど米国の通商政策に対する疑問の声も多い。カーネギー国際平和基金は、アフリカにとって米国は、中国、欧州、その他新興勢力の中のひとつの選択肢に過ぎないにもかかわらず、AGOAによる厳しい条件付けはアフリカでの競争の遅れをもたらすと指摘(2026年5月27日)。他方で中国は、5月1日にアフリカ53か国(エスワティニを除く)を対象とした関税撤廃政策を実施するなど米国と対照的な対アフリカ通商政策をとっている。 - [インドネシア/中銀総裁の辞任]7月27日、インドネシア大統領府のハディ国家官房長官は、インドネシア銀行(中央銀行)のペリー・ワルジヨ総裁が個人的な理由を基に辞表を提出したと発表した。同氏は2018年から中銀総裁を務めており、2028年まで2期目の任期を残していた。
ペリー氏は、2020年のコロナ禍の際に財政規律を乱さない程度に国債の直接買い入れを実施したり、2022年のウクライナ戦争を背景とした高インフレ局面では迅速に利上げを実施しており、スリ・ムルヤニ元財務大臣と並び市場の信認を確保するためのキーパーソンと見られていた。財政悪化懸念や中銀の独立性低下懸念(後述)を踏まえ直近でルピアの対ドルレートが減価したことを受け、5月・6月には合計で100bpsの利上げを実施するなど、ルピア安抑制に向けた金融政策を実施してきた。同氏の辞任により、中銀が(ルピア安・インフレ時局面で利上げを含めた金融引き締めを実施するなど)今後も適切な金融政策が続くか懸念する声もある。ペリー氏の辞任報道を受け、ルピアの対ドルレートは、1ドル17,900ルピア台から18,000ルピアまで減価した。
なお今年1月には、ジュダ・アグン元副総裁が任期(2027年1月)前に突然辞任を表明しており、後任としてプラボウォ大統領の甥であるトマス・ジワンドノ元財務副大臣が就任している。トマス氏はプラボウォ大統領による推薦を受けた形で就任しているため、政府が中銀人事に介入することで中銀の独立性が低下することが懸念されていた。今回のペリー総裁の辞任も、プラボウォ大統領が掲げる8%の経済成長目標を支援するよう中銀に圧力がかかっていたことが背景にあるとの見方も存在する。
ペリー氏の辞任を受け、2019年より中銀の上級副総裁を務めるデストリ・ダマヤンティ氏を暫定総裁に就任している。同氏は過去にマンディリ銀行でチーフエコノミストを務めたほか、インドネシア預金保険機構委員の歴任経験もある。同氏はプラボウォ大統領との関係性が薄いと考えられているほか、ルピアと金融システムの安定維持に引き続き注力すると発言していることから、市場には一定の安堵感が生まれているとの指摘がある。新総裁の選定プロセスに関し、プラボウォ大統領が正式な後任候補を指名し(最大3名)、国会にて審査された後に承認される。デストリ氏以外にも、政治色が薄いテクノクラートが新総裁に就任した場合には、中銀は政府の意向に依らずに金融政策を決定することができると想定される。他方で、プルバヤ財務相が新総裁に就任したり、トマス副総裁などプラボウォ大統領との政治的繋がりの強い人物が任命された場合、中央銀行の独立性に対する疑念が決定的なものとなり、さらなる資本流出や深刻な通貨危機を招くリスクが指摘されている。 - [コロンビア/大使館閉鎖]2026年8月に発足するコロンビアの新政権は、外交政策の大幅な見直しを進める方針である。次期大統領のアベラルド・デ・ラ・エスプリエラは、就任後に約14カ所の大使館を閉鎖し、限られた外交資源を戦略的に重要な国や地域へ集中させる考えを示している。これは近年のコロンビア外交の方向性を大きく転換する動きとして注目されている。
閉鎖対象には、キューバ、ニカラグア、ハンガリー、ルーマニア、チェコ、アゼルバイジャン、ベトナム、マレーシア、アルジェリア、ガーナ、セネガル、エチオピア、ハイチ、バルバドスの大使館が含まれる。対象地域は欧州、アジア、アフリカ、中南米・カリブ海にまたがり、コロンビアの在外公館ネットワークの大幅な縮小となる見通しである。
新政権は、この措置を財政再建と行政効率化の一環と位置付けている。大使館運営にかかる経費を削減し、その財源を国内の治安対策や安全保障政策へ振り向ける考え。また、政権発足後100日以内に残る外交拠点の監査を実施し、各公館の役割や費用対効果を再評価するとしている。
特に注目されるのは、キューバとニカラグアとの関係見直しである。デ・ラ・エスプリエラは両国の現政権を「独裁的」と批判し、外交関係を大幅に縮小する意向を示した。今後は高官レベルの政治対話を停止し、領事業務や人道支援など最低限の関係維持にとどめる。
ペトロ現政権はキューバを含む左派政権との関係を重視し、地域の政治対話における仲介役を目指してきた。一方、新政権は保守色を強め、左派権威主義体制との距離を置く姿勢を鮮明にしている。これは近年の中南米における保守勢力の台頭とも軌を一にする動きである。
一方で、新政権は新たな重点地域への関与を強化する。これまで閉鎖されていたイスラエル大使館を再開し、アフリカ最大の人口と経済規模を持つナイジェリアに新たな大使館を開設する計を発表し、中東および西アフリカとの安全保障協力や経済関係の強化を重視する姿勢を示した。
今回の外交再編は、単なる予算削減策にとどまらず、コロンビアの国際的な立ち位置そのものを見直す試みで、今後は、大使館閉鎖がどの程度迅速に実施されるか、対象国がどのように対応するか、そして外交ネットワーク縮小が国際機関や多国間外交の場におけるコロンビアの影響力にどのような影響を与えるかが注目される。 - [ユーロ圏/期待インフレ率]欧州中央銀行(ECB)の6月の「消費者期待調査」によると、ユーロ圏の1年先の期待インフレ率は3.0%となり、5月調査の3.5%から鈍化した。中東紛争が激化する前の2月時点の2.5%から3月と4月に4.0%まで拡大していた。
一方、3年先の期待インフレ率は2.8%で、4~5月の2.9%から小幅に縮小した。2月の2.5%から3月に3.0%へ拡大していた。5年先は2.4%であり、3月以降、横ばい。1~2月は2.3%だったものの、2025年12月は2.4%だった。ただし、その前の2025年11月までは2.1~2.2%であり、それらに比べると、足元の5年先の期待インフレ率もやや高めと言える。
6月の米国とイランの停戦に向けた覚書の合意などを受けて原油価格が一時低下したことから、先行きの物価見通しがやや落ち着いたとみられる。しかし、その後再び緊張が高まり、原油価格なども上昇に転じたため、期待インフレ率もやや高まっている可能性がある。ただし、短期の期待インフレ率が高い一方で、中期の期待インフレ率が落ち着いていることに変わりはない。このため、一旦落ち着く動きを見せた消費者物価指数や期待インフレ率が、今後どの程度まで高まっていくのかが注目される。
- [豪州/約60年ぶり製油所新設案]7月28日、オーストラリア連邦政府と西オーストラリア州政府は、同国で約60年ぶりとなる大規模製油所の新設に向け、共同で事前実現可能性調査(400万豪ドル)を実施すると発表した。建設候補地は化学・肥料会社Perdamanが提案する西オーストラリア州カラサ地区。同社は既にカラサで大型尿素工場を建設中。実現すれば国内3カ所目の大規模製油所となる。
オーストラリアの製油所の大半は1950~60年代に建設されたが、高い運営コストとアジア各地の大型製油所の台頭により、過去30年で製油所の閉鎖が相次いだ。現在は、クイーンズランド州のAmpolのライットン製油所とビクトリア州のViva Energyのジーロング製油所の2製油所しかなく、20年前の8か所から大幅に減少している。西オーストラリア州は2021年のBPのクイナナ製油所閉鎖後、石油精製能力を持っていない。
現在、同国は燃料需要の約8~9割を輸入に依存している。主にシンガポールから輸入しており、ガソリン輸入の約55%、ジェット燃料の23%、軽油の15%を占める。しかし、米国とイランの紛争やホルムズ海峡を巡る情勢により、ガソリン、軽油、肥料の供給リスクが顕在化した。
オーストラリアはシンガポールとの間で、重要物資や経済安全保障に関する協力強化プロトコルに署名した。アルバニージー首相は、過去数十年の「海外から安く調達できる」という従来の考え方が、国内製造業や精製能力の衰退につながったと主張している。
また、オーストラリア財務省は、ホルムズ海峡を巡る対立が未解決であり、石油市場は今後も供給途絶リスクにさらされると警告している。
ただし、アジアの大型製油所とのコスト競争は厳しく、採算性には課題もあることから、まずは事業性を検証した上で建設の可否を判断する見通し。
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