- [コンゴ民主共和国・米国・ルワンダ関係]4月5日、コンゴ民主共和国(DRC)通信省は、米国との合意に基づき、米国から強制送還されたDRC国籍を持たない「第三国」の国民の受け入れを開始すると発表した。到着予定人数は明らかになっていないが、強制送還の費用は米国側が負担するとしている。
第2期トランプ政権では米国内に滞在する不法移民や犯罪歴のある外国籍の移民を、出身国とは関係のない「第三国」に強制送還する動きが強まっている。アフリカでもすでに南スーダン(約8人)、エスワティニ(20人以上)、赤道ギニア、カメルーン、ルワンダ(250人までの受け入れを表明)、ガーナ(西アフリカ諸国出身者に限定)、ウガンダ(アフリカ諸国出身者に限定)が受け入れを開始している。DRCが受け入れを開始すれば8か国目となる。情勢が不安定かつ出身国と関係のないアフリカの国々にも米国滞在者を強制送還する一方的な対応には人権面からの批判は尽きない。一方で、移民受け入れの対価として米国から金銭が授与されたり、米国との関係強化を図ったりすることがインセンティブとなり、移民の受け入れを行う国が増えている。
特にDRCのチセケディ大統領政権は、トランプ政権との関係強化に力を入れている。背景にあるのはDRC東部地域を実効支配しているルワンダ系反政府勢力「M23」と、M23を支援するルワンダ国防軍(RDF)の存在だ。ルワンダのカガメ大統領政権は、M23支援やDRC国内へのRDF派兵を公式には認めていないが、国連の調査などで広くその事実は明るみになっている。M23およびRDFは、DRC軍をはるかに上回る戦闘能力・装備を備えていることから、DRCは東部で実効支配されている地域の奪還に苦戦している。そこでチセケディ大統領が切った戦略は、「重要鉱物」を梃子に米国をこの紛争に誘い込むというものだ。DRC南部には世界の銅の約3%、コバルトの約6割の埋蔵量があるほか、M23が実効支配する地域を含むDRC東部は半導体や電子機器の原料となるタンタル、タングステン、スズ、金(3TGs)の主要産地となっている。
他方で、米国は中国への対抗を強めるために重要鉱物へのアクセス強化を国家戦略に掲げる一方で、DRCの鉱山の権益をほぼ有していない(米・フリーポートマクマランは2016年にテンケ・フングルメ鉱山の権益を中国モリブデンに売却)。DRCで産出される銅・コバルトの約8割は中国企業が支配していることから(米・外交評議会)、米国は再度DRCの重要鉱物アクセス確保に躍起になっている状況だ。DRCのジョセフ・カビラ前大統領(~2019年)は中国企業と排他的・蜜月な関係を築くことで私腹を肥やしたと指摘・批判されてきたが、チセケディ大統領は就任直後から米国をはじめ西側諸国との関係強化を進めてきた。その米国がDRCに対して「ラブコール」を送っている状況を同氏は巧みに利用している。
2025年12月には米・ワシントンでトランプ大統領主宰のもと、DRC・ルワンダ両大統領は「ワシントン平和協定」に調印。DRC、RDF双方の停戦と和平合意に向けた取り組みが約束された。しかし、その数日後にM23がDRC東部の都市・ウビラを掌握。これに対して米国はRDFがM23を支援したことは明らかであり、和平の仲介を行ったトランプ大統領を侮辱するものだとして、3月にRDF幹部らに経済制裁を発動した。ルワンダは第2期トランプ政権において、いち早く250人まで米国からの強制送還者の受け入れを発表するなど米国との関係強化を図っていたが、この経済制裁を機に米・ルワンダ関係は一気に冷え込んだ。ルワンダ政府は米国による経済制裁発動後に、モザンビーク北部のカーボ・デルガド州に治安維持のために派遣している約2,000人のRDF兵を撤収させる可能性があると発表。同地域では仏・資源大手トタル・エナジーズや、米・資源大手エクソン・モービルが開発を進める大型液化天然ガス(LNG)プロジェクト周辺でのイスラム過激派対策をRDFが担ってきた。そのためRDFの撤退はプロジェクトの進展にも影響を及ぼすことから、事実上、ルワンダによる米国・西側諸国に対する「脅し」となっている状況だ。
この米・ルワンダ関係の関係悪化は、DRC・チセケディ大統領にとっては結果的に米国を自陣側に引き寄せることとなり、DRCに対するルワンダの行為を非難する国際的な支持を獲得するうえで好機となる。3月末の米ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、米国に拠点を置くVirtus MineralsがDRC南部のエトワール鉱山とムトシ鉱山を所有するアラブ首長国連邦(UAE)系企業・Chemaf社から7億ドルで事業を買収したとのこと。両鉱山のコバルト生産量は世界の約5%を占めている。Chemaf社は2023年のコバルト価格の急落を受けて経営が悪化したことを受け、2024年6月に中国最大の陸上兵器製造者である国有企業・ノリンコの子会社から14億ドルでの買収提案を受けていた。しかし、2025年1月にトランプ大統領が就任し、DRCの重要鉱物への関心が高まったことを受け、ノリンコの提案を却下。ノリンコの半額の提案額ではあるもののDRC政府は米国との関係性を重視し、米国系企業への売却を指示したと報じられている(3月29日、WSJ紙)。また、Virtus Mineralsの資金調達を支援している米投資ファンドのオリオン・リソーシス・パートナーズは、米・国際金融開発公社(DFC)、アブダビの政府系投資ファンド(ADQ)の3者で構成されるコンソーシアムを通じて、スイスのグレンコアが所有するDRCの銅・コバルト鉱山の40%株式取得(約90億ドル)の最終化を進めているとも報じられている(4月4日付、Le Monde紙)。
米国からの強制送還者の受け入れと、米国企業への重要鉱物の優先的なアクセスの提供を通じて、DRC・チセケディ政権は米国という強力な「後ろ盾」を得て、国際的な立場を強化しようとしているとみられる。
- [パキスタン/UAEからの外貨預金引き出し]4月3日、パキスタンの政府高官は、パキスタン国立銀行(中銀)がアラブ首長国連邦(UAE)から受け入れているドル預金について、当初の満期どおり返済すると発言した。預金総額は35億ドルと見込まれている(The Express Tribune、2026年4月4日付記事)。2026年3月末時点で中銀が保有する外貨準備高は約164億ドルであるため、外貨準備高の2割強が減少することになる。引き出しは4月中に実施されるもよう。
3月27日、パキスタン政府はIMFとの間で拡大信用供与措置(EFF)の下で10億ドル相当、強靭性・持続可能性ファシリティの下で2.1億ドル相当の金融支援にスタッフレベル合意に達している。2022年以降の資源価格高騰を踏まえ、外貨準備高は2021年8月末時点の201億ドルから2023年6月末時点の約45億ドルまで大きく減少した。2023年6月末時点での輸入カバー比率も2.2か月分と、適正水準である3か月を大きく下回っていた。その後はIMFプログラムの下での為替自由化により、銀行を経由した正規ルートでの労働者送金が回復したことも奏功し、2026年2月時点では輸入カバー比率4か月分まで回復した。
同国はIMFによる金融支援のほかに、世界銀行(約220億ドル)・ADB(約169億ドル)からの融資、中国(約235億ドル)からの二国間融資、及びサウジアラビア(約50億ドル)とUAE・クウェート(合計37億ドル)など湾岸諸国からの預金受け入れが外貨繰りを支える要素となっている。湾岸諸国からの預金に関し、通常は満期1年程度・低利で受け入れていた。他方で2025年12月以降、UAEは満期を1~2か月まで大きく短縮したことに加え、金利も年率3%から6.5%まで上昇させた。加えて満期日のロールオーバーが恒常化していたが、今般はロールオーバーされずに引き出された形となる。背景には、UAEのインフラ施設等を攻撃するイランをパキスタンが強く非難しないなど、同国の外交姿勢への不満が拡大していることや、イラン情勢を受けてUAE自身が外貨流動性を確保したい狙いがあると指摘されている。
なお4月8日には、13億ドル分の10年物ユーロ債の返済も予定されている。UAEの預金引き出しと合わせると、合計48億ドル分の返済を迫られることになる。イラン情勢により化石燃料の輸入額増加や湾岸諸国在住の海外労働者からの送金額減少が見込まれる中で、外貨繰りが悪化することが懸念される。
- [韓国/紅海ルート輸送を容認]中東情勢の悪化によりホルムズ海峡が事実上封鎖される中、韓国政府は原油の安定確保に向け、紅海経由の代替輸送ルートの活用に踏み切る方針を示した。4月6日の協議で、政府・与党はサウジアラビア西部ヤンブー港を起点とする紅海ルートに韓国船籍タンカー5隻を投入する計画を決定したほか、サウジやオマーン、アルジェリアへの特使派遣も検討している。
紅海ルートは、ペルシャ湾岸で積み出した原油をサウジ国内の東西パイプラインで紅海側へ輸送し、ヤンブー港から再びタンカーでアジアへ運ぶ迂回経路である。ホルムズ海峡を通る通常ルートに比べ、航海日数は約1週間長くなる。ただし、紅海ではイラン支援のフーシ派による攻撃リスクが高く、バブ・エル・マンデブ海峡の安全も不透明である。このため韓国政府はこれまで同ルートの航行自粛を求めていたが、供給不安の深刻化を受けて方針転換に踏み切った。周辺海域に韓国軍を派遣し、航行の安全確保にあたる。
もっとも、紅海ルートはパイプライン容量や港湾の積出能力といった制約を抱える。複数国が一斉に利用すれば、積み替え待ちや護衛体制の制約により、実際の遅延は1週間にとどまらず、2?3週間に拡大する可能性もある。タンカーの回転率低下も加わり、世界的な供給逼迫要因となり得る。
李在明大統領は「一定のリスク受容は不可避」と述べ、安全確保と供給維持の両立の難しさを認めた。政府は当面、備蓄原油の放出や精製業者への供給調整で国内需給を支えつつ、到着後に補填する方針である。
- [ブラジル/燃料対策]2026年4月6日、ルーラ大統領は、イラン情勢の緊迫化に伴う国際エネルギー価格の急変が国内経済に与える影響を抑えるため、国民生活と産業活動を強力に保護することを目的とした新たな緊急経済対策パッケージに署名した。今回の措置は、短期的な価格安定と供給確保を最優先課題と位置付けたもの。
まず、家庭用エネルギー対策として、調理用ガスである液化石油ガス(LPG)の輸入補助が決定された。ブラジルではLPGが広く使用されており、価格上昇は低所得世帯に直接的な打撃となる。このため政府は、輸入LPGに対して1トン当たり850レアルの補助金を支給し、国際価格の上昇分を政府が吸収する仕組みを導入した。関連予算としては、総額3億3,000万レアル(6,500万ドル)が充てられる。ブラジルにおいてガス価格は、単なる生活コストではなく、政権が貧困層の生活を守っているかを測る政治的バロメーターとされてきていた。
次に、物流や農業、公共交通を支えるディーゼル燃料についても、支援策が拡充された。3月に実施された連邦税の免除措置に加え、今回新たに連邦政府と州政府が共同で負担する輸入補助制度が導入された。輸入ディーゼル1リットル当たりの補助額は合計1.20レアルで、そのうち半分を連邦政府、残り半分を州政府が負担する。
エネルギー価格高騰の影響を強く受けている航空業界に対しても、大規模な金融支援が打ち出された。航空機燃料であるジェット燃料(ケロシン)の価格上昇により、多くの航空会社が資金繰りの圧迫に直面していることから、政府は当初想定を上回る規模となる総額90億レアル(17.7億ドル)の融資枠の確保だけでなく、機体更新や持続可能な航空燃料(SAF)への投資にも活用できる設計となっている。融資はブラジル国立経済社会開発銀行を通じて実行され、航空産業の中長期的な競争力維持も視野に入れている。
これらの補助金や支援策が実際に消費者や利用者に還元されるよう、燃料やガス価格を巡る不当な便乗値上げを犯罪と位置付ける緊急法案が議会に提出され、悪質な場合には2年から5年の禁錮刑を科すことも決めたとなっている。価格形成の透明性を高め、補助金が企業の利益拡大にのみ使われる事態を防ぐことが狙いである。
今回の緊急経済対策パッケージは、2026年の大統領選挙を強く意識した政治的意味合いを強い。しかし、ブラジルの財政健全性に対しての不安も残る。
- [日本/さくらレポート]日本銀行は「地域経済報告」(さくらレポート)を公表した。それによると、全国9地域の景気判断は、前回から据え置かれ、「緩やかに回復」または「緩やかに持ち直す」基調が続いている。このうち、持ち直しは、北海道や東北、四国だった。ただし、今後の展開次第では、地域の景気を下押しする可能性があると指摘された。
掲載されたコメントをみると、中東情勢について先行きの懸念ともに、影響が調査時点で表れていた。例えば、大阪の化学企業は、3月中旬から工場の稼働率を下げて、生産を調整していた。金沢の繊維企業は、中東向け繊維の出荷を見合わせていた。大阪の運輸企業は、関西国際空港からドバイ経由の輸出ルートが使えず、代替輸送に伴う経費の増加を報告していた。高松の飲食店は、ガソリン価格の高止まりや株価下落などから、消費者マインドが悪化して、先行きの節約志向が一段と高まることを懸念していた。
一方で、賃上げについては、中小企業も2026年度に、2025年度とおおむね同程度の賃上げ方針を示すケースが多かった。鹿児島の飲食企業から、最低賃金の引き上げも、賃上げに影響していると報告された。前橋の経済団体は、価格転嫁が十分ではなく、利益の圧縮で対応している中小企業もあるとしている。仙台の建設会社では、初任給の引き上げに伴い、既存社員の給与調整によるベアの実施が必要になっていた。ただし、中東情勢次第で賃金設定スタンスが慎重化される可能性がある。
また、今後の物価動向を見通す上で注目される企業の価格設定行動について、名古屋の宿泊業は、人件費増加分の価格転嫁を受け入れ、それを販売価格に転嫁していた。仙台の小売は、消費者の買い控え姿勢の強まりから、さらなる値上げは難しいと述べていた。青森の電子部品・デバイス企業からは、中小受託取引適正化法の施行によって、価格交渉が進展し、労務費の価格転嫁が進む見通しという声も出ていた。価格転嫁が進む一方で、難しさが改めて指摘されていた。
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