- [中間選挙後の米中関係]11月3日に行われる米国中間選挙について、中国の専門家の間でも、民主党が下院の多数派を奪還する可能性が高いとの見方が優勢になっている。ただし、民主党が勝利しても、トランプ大統領の外交政策を大きく制約することは難しく、米中関係への影響については見方が分かれている。
中国側識者は、民主党が下院を奪還しても、上下両院での圧勝には懐疑的であり、民主党が多数派を確保しても議席差は小さく、党内の政策的対立もあり、独自の政策を推進する能力には限界があるとみている。
民主党が下院を掌握すれば、政権への調査や監視が強まり、立法、予算、人事などでトランプ大統領の政権運営が難しくなるが、外交や安全保障、関税、制裁などでは大統領に大きな裁量権が残る。中国側識者は、トランプ氏が大統領令などを活用して議会を迂回し、外交政策を積極的に展開すると予測している。任期後半に歴史的業績を残そうとする動機も強まり、外交が一段と取引的になるほか、短期間で成果を得られると判断した問題については、リスクの高い行動に踏み切る可能性も指摘している。
他方で、米中関係では、民主党が議会の主導権を握ることで、トランプ氏の対中妥協が難しくなるとの見方がある。また、議会による監視が強まるだけでなく、トランプ氏が共和党議員の支持に依存する結果、党内の対中強硬派が台湾問題などで影響力を強める可能性を懸念する声もある。半導体などの先端技術分野では、超党派の対中競争路線が維持されるとみられる。
他には、国内政策で議会の抵抗に直面したトランプ氏が、外交成果を求めて中国との交渉を積極化させる可能性を指摘する声もある。また、中間選挙の結果以上に、米中双方の相互牽制が関係の安定を左右するとの見方もある。中国側識者の間では、米中関係の限定的な安定は維持され得るものの、議会の対中強硬姿勢とトランプ氏の取引外交によって、今後の不確実性が高まるとの見方が強い。(国際部 前田宏子) - [ソマリア/国連ミッション終了]10月31日、国連は「国連暫定ソマリア支援ミッション(UNTMIS)」を10月末で終了すると発表した。1991年に国内での武装蜂起によりシアド・バレ政権が崩壊した後、ソマリアは「無政府状態」が続いた。国連はソマリアの国家形成や憲法制定などを支援する政治ミッションとして、1995年に「国連ソマリア政治事務所(UNPOS)」を設立。その後、2012年に新暫定憲法が採択され、新連邦議会と大統領が選出されたことを受け、2013年に「国連ソマリア支援ミッション(UNSOM)」に移行し、ソマリアの平和構築と国家建設を支援してきた。2024年11月には、国連安全保障理事会の決議に基づきUNSOMがUNTMISに移行し、2年間の移行期間の下で、ソマリア政府や国連各機関への業務の段階的な移管が進められてきた。しかし、今回の発表で、30年以上にわたる国連ミッションの歴史が幕を閉じることとなる。
UNTMISの終了は、2022年に就任したハッサン・シェイク・モハムッド大統領の要請に基づくものだ。国連は、UNTMISは閉鎖されるが「国連は撤退しない」と明言しており、今後は国連の各専門機関に業務を移行する意向を示している。
国連ミッションが終了を迎えた一方で、ソマリアの政治情勢や治安は一向に安定していない。モハムッド大統領は2026年に二期を満了して任期を終えるはずだったが(一期目は2012~2017年)、2026年に憲法を改正するとともに、選挙を2027年に1年延期した。これに対し、モハムッド氏が任期をリセットして事実上の三期目を可能にするものだとして、野党から強い反発を受けていた。さらに、モハムッド氏は、主要氏族ごとに間接選挙で下院議員を選出するソマリアの伝統的システムを、新憲法で強硬的に「一人一票」の直接選挙へ移行すると規定したため、モハムッド氏と対立する主要氏族や野党から激しい反発を受けている(2026年10月20日デイリーアップデート参照)。
野党側が直接選挙に反対している理由は、ソマリア国内の治安の悪化だ。特に南西部を中心にイスラム系過激派組織「アル・シャバブ」が支配する地域は、ソマリア全体の約3割に上るとみられている。こうした治安状況では全国での投票は事実上不可能であり、トルコなどの軍事支援を受けて警備を強化している首都モガディシュ周辺のみで投票が行われ、モハムッド氏が有利になるとの見方から反発が起きている。
2012年以降に実施されたソマリアの間接選挙では、大統領はいずれもダロッド氏族(バレ元大統領など)とハウィエ氏族(モハムッド大統領など)の間で交代しており、間接選挙が実施されればモハムッド氏は不利になるとみられる。そのため、モハムッド氏は「民意をより反映する」という名目で直接選挙の導入を発表し、国連をはじめとする国際的な支援を受けつつ、不安定な治安状況が続く中で、選挙プロセスの監視役である国連ミッションの撤退を要請した可能性もある。仮に治安問題を理由に投票を実施できないと判断した場合にも、モハムッド氏はそれを口実に選挙をさらに延期し、権力にとどまることが可能になるとの見方もできるだろう。
国内での政治対立は実際に武力衝突にも発展している。しかし、国内の分断が進むほどアル・シャバブなどの反政府組織を利するとの見方が多い。米国も2026年1月にソマリア向けの支援を停止しており、アル・シャバブ対策のためにアフリカ連合(AU)が1万人規模の兵士を派遣している「アフリカ連合ソマリア支援安定化ミッション(AUSSOM)」の継続性も不透明である。
さらに、バレ政権崩壊直後の1991年に独立を宣言したソマリア北西部の「ソマリランド共和国」は、地政学上の要衝にあることから、イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアなどとの関係を強化している。ソマリアは諸外国による国家承認に強く反対しているが、2025年12月に国連加盟国として初めてソマリランドを国家承認したイスラエルは、11月1日、首都ハルゲイサに駐在予定のイスラエル大使がソマリランド大統領宛てに信任状を提出するなど、外交関係を強めており、国連の支援により連邦制をとってきた国内の分断は一層顕著になっている。こうした中、2027年の選挙に向けてソマリア国内がさらに混乱する可能性もあり、注視が必要だ。(国際部 髙橋史) - [米国/アフォーダビリティ事情]物価上昇が米国家計の生活を侵食している。問題は足元の支出負担だけではなく、貯蓄や老後資金まで圧迫し、将来不安につながり始めていることである。
これまではガソリンや食料品など日々の支出上昇が注目されてきたが、最近は医療保険料の上昇も看過できなくなっている。2026年7~9月期の賃金・給与は前年比3.1%増だったのに対し、雇用主の医療保険負担は6.4%増と、過去20年で最速クラスとなった(米BLS、Burning Glass Institute)。また、ACA(Affordable Care Act、いわゆるオバマケア)に基づく個人向け医療保険の中位プランでは、40歳の平均月額保険料が2025年の497ドルから2026年624ドル、2027年には704ドルへ上昇する見込みとなっている。
こうした固定費上昇は家計の可処分所得を圧迫し、将来不安にもつながっている。1965年から1980年前後生まれのGen X(ジェネレーションX)を中心とする退職準備世代では、快適に退職できることに「非常に自信がある」と答えた労働者はわずか18%にとどまっている。その上、退職口座残高の中央値は11.3万ドルと、本人たちが必要と考える75万ドルを大きく下回る(Transamerica Center for Retirement Studies調査)。こうした状況から3分の1超が70歳以降まで働く、あるいは完全には退職しないと回答している。
その結果、消費者は何を買うかだけでなく、どこで最も安く買えるかを強く意識するようになっている。直近12カ月の食品・飲料小売シェアはWalmartが20.3%、Costcoが8.4%へ上昇した一方、Krogerは8.2%、Albertsonsは4.5%へ低下した(消費者調査Numeratorのデータより)。低価格を維持できる大手に消費が集まりつつある。
戦時下の競争では調達力が依然重要だが、川下では「どこまで価格を下げられるか」がより大きな競争軸になってきている。大規模調達、物流効率、在庫管理、プライベートブランドを通じてコストを抑えられる企業が競争優位に立つ一方、川下における価格競争はサプライヤー側にも納入価格の引き下げや効率化を求める圧力となる。物価高は家計を圧迫するだけでなく、小売業の競争構造を変え、サプライチェーン全体に新たなコスト削減を迫る多重の圧力を加えている。(経済部 本間隆行)
- [貴金属/10月の価格下落]2026年10月の商品先物市場では原油・天然ガスが上昇する一方、金属・主要穀物は下落。中でも貴金属の下落が目立った。スポット金価格は月末に1トロイオンス4,000ドルの大台を割り込み、月末終値は3,875ドル前後と1年ぶり安値圏。銀も50ドルの節目を下回り49.1ドルで終了。パラジウムも1,000ドルの大台を割り込み、銀・プラチナ・パラジウムは前月末比で2桁の下落率となった。
背景には、地政学的情勢の緊迫化によるエネルギー価格高騰とインフレ再加速、高金利長期化への警戒がある。10月28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に米国短期金利とドルは軟化したが、翌29日発表の米国の9月個人消費支出(PCE)は前年比+3.6%、コアPCEは同+3.1%。2026年7~9月期の実質GDP成長率も年率+3.4%と高く、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げ転換までは織り込まれていない。
一方、Bloombergによると、世界の株式市場の時価総額は10月末時点で約161兆ドルと、前月末比で約4.5兆ドル減少した。中でも中国・米国などのハイテク関連の下げが目立つ。
従来、地政学的緊張やインフレ懸念、株式市場の下落リスクなどは金への資金逃避を促すことが多かったが、最近はこの相関の弱まりが指摘されている。原油高が高金利長期化につながり、金の保有コストを強く意識させることに加えて、原油そのもの、あるいは戦略資源としての需要や供給制約が強い銅などがヘッジ先として選好されている側面があるとみられる。
むしろ、他資産の下落に伴う証拠金確保や流動性需要から、金が換金売りの対象になっている可能性もある。10月29日には暗号資産取引所Binanceで推定63億ドル規模のハッキング事件が発生し、ビットコイン(BTC)は一時7.7万ドルを割り込んだ。その際、貴金属を含む他の資産の換金売りを誘発したとの見方がある。
また、米国商品先物取引委員会(CFTC)が発表する先物建玉報告では、10月20~27日の週は、大口投機筋の分類である「Managed Money」よりも、「Other Reportables」「Non-Reportables」に分類される市場参加者の売りが目立つ。
金についてはなお、中央銀行の需要による価格下支えへの期待が高いが、工業系貴金属は需給緩和も投資心理の悪化につながっている。貴金属調査会社Metals Focusによると、ロンドンの銀在庫は9月末に約9.32億オンスと約4年ぶりの高水準を記録。ETFからの資金流出や取引所在庫の増加がみられる一方、高値による宝飾品需要の減退や太陽光発電分野での省銀化も進んでいる。同社は2027年に世界の銀需給が供給過剰に転じると予想している。(経済部 鈴木直美) - [メキシコ/Q3は底堅い成長に]メキシコ経済は2026年7~9月期も底堅い拡大を続けた。GDP速報値は前期比0.9%増、前年同期比3.2%増となった。産業別ではサービス業が前期比1.1%増、鉱工業が0.8%増と成長をけん引した一方、農業は0.4%減となった。
今回の結果を受け、2026年通年の実質GDP成長率は財務省予想である1~2%の上限に近づく可能性が高まった。IMF予想の1.5%を上回る可能性もある。もっとも、メキシコ経済が今後も同じペースで成長を続けるとは限らない。2026年は四半期ごとの振れが大きく、力強い成長と減速を繰り返しながら、段階的に景気が回復していると捉えるのが妥当と考えられる。特に注目されるのが、4~6月期に続いて7~9月期も比較的高い成長率を維持した点である。2026年1~3月期には麻薬カルテルの掃討作戦など、治安情勢に関連する一時的要因が経済活動を下押しした。その反動に加え、ワールドカップの効果もあり、4~6月期の前期比1.4%成長を押し上げたとみられる。しかし、その反動効果が薄れる7~9月期にも0.9%成長を確保したことは、一時的な反動だけでなく、景気の基調自体が改善している可能性を示している。
これは金融政策を考えるうえで重要である。景気が従来の想定より強ければ、経済全体の需要不足を示すマイナスの需給ギャップも想定ほど大きくない可能性がある。需要不足が小さくなれば、景気低迷による物価への下押し圧力も弱まる。この意味では、今回のGDPはメキシコ銀行にとって利下げを急ぐ必要性を低下させる「タカ派」的な材料と解釈できる。今後、インフレ、とりわけサービス価格の上昇圧力が根強く残る場合には、追加利下げを慎重に進める理由が一段と強まる。ただし、今回の結果を一方向に評価するのは適切ではない。7~9月期の前期比0.9%という成長率は、4~6月期の1.4%を下回っている。このため、景気の水準そのものは底堅い一方、成長の勢いは4~6月期をピークに鈍化しているとの見方も可能である。メキシコ銀行総裁も、7~9月期には4~6月期と比べて成長ペースが鈍化した可能性を指摘している。したがって、金融政策を判断する際には「成長率が高い」という事実だけでなく、その高い成長が今後も持続するのかを見極める必要がある。
今回のGDP速報値は、2026年のメキシコ経済が従来想定より底堅いことを示す結果と評価できる。一方、その金融政策への意味は単純ではない。4~6月期から成長率が低下した点を重視すれば追加利下げを妨げる材料ではないが、一時的な反動が薄れた後も比較的高い成長を維持した点を重視すれば、利下げを慎重にすべき材料となる。
今後の焦点はGDP成長率そのものから、成長の持続性、需給ギャップ、サービスを中心とするインフレ、そしてメキシコ銀行がこれらをどのように評価するかへ移る。財政面では景気上振れによる税収増が健全化を支える一方、金融政策では景気の底堅さが追加利下げの余地を狭める可能性がある。(国際部 小橋啓)
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