- [世界のエネルギー投資の趨勢]5月28日に国際エネルギー機関(IEA)が公表した「World Energy Investment 2026」によると、2026年の世界のエネルギー投資額は過去最高の3.4兆ドルに達する見通し。投資の約半分は電力部門に向けられており、AIやデータセンターの急拡大、電化の進展を背景に、発電・送電網・蓄電池への投資が加速している。
今回のレポートでは、脱炭素のみならずエネルギー安全保障の観点が強く意識されている点が特徴的だ。地政学的リスクの高まりを受け、各国はエネルギー供給の安定性や自給能力の向上を重視しており、天然ガス開発やガス火力発電への投資も拡大している。特にガス火力発電の投資決定額は25年ぶりの高水準となった。一方で、過去10年のクリーンエネルギー投資が、主要エネルギー輸入国において2025年だけで約2,600億ドルの燃料コスト削減に寄与したという成果も示されている。
一方で、エネルギー転換を支える資金調達環境には課題も残る。クリーンエネルギー分野は初期投資負担が大きく、金利上昇の影響を受けやすい。新興国・途上国では資本コストが依然として高く、十分な投資拡大の障害となっている。また、エネルギー関連スタートアップへのベンチャーキャピタル投資は3年連続で減少しており、研究開発やイノベーションを支える資金の確保も課題として挙げられている。
地域別では中国の存在感が際立つ。2026年のエネルギー投資額は約9,450億ドルと世界最大であり、石炭、原子力、送電網、クリーンエネルギー製造、重要鉱物、水素など全方位で投資を拡大している。中国の投資動向は、第15次5か年計画(2026~30年)を控え、容量拡大からシステムの質的向上へとシフトしており、世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼしている。
2026年の報告書は、エネルギー転換が引き続き進展する一方で、その成否が技術革新だけでなく、地政学、資本コスト、供給網の強靭性といった現実的な要因に大きく左右される段階に入っていることを示唆している。
- [ロシア・カザフスタン/首脳会議]5月27~29日、ロシアのプーチン大統領はカザフスタンを訪問し、28日にカザフスタンのトカエフ大統領と首脳会談した。両国の首脳は友好・善隣関係に関する共同声明を採択し、両国関係の戦略的強化を確認した。経済面では、2025年の貿易額が約290億ドルに達し、300億ドル超への拡大を目指す方針が示されたほか、投資規模も約300億ドルに達するなど、相互依存関係が深化している。特にエネルギー分野が中核であり、ロシア企業の関与によるカザフスタン初の原子力発電所建設(ロシア政府融資を含む)で合意した。また石油・ガス供給や輸送面でも密接な連携が維持されている。加えて、無人貨物輸送ルート、バイコヌール宇宙基地の共同利用、デジタル技術など先端分野での協力拡大が強調された。
トカエフ大統領は、国際情勢が不安定化する中でロシアとの関係は「安定的かつ信頼性の高いパートナーシップ」であると評価し、エネルギー・宇宙協力の重要性を改めて強調した。
両首脳は29日にユーラジア経済同盟(EAEU)首脳会合にも参加する予定で、アルメニアの欧州連合(EU)加盟志向について今回、議論される予定となっている。
- [ドイツ/カナダからLNG調達]ドイツの国有エネルギー企業Sefe(2022年に独が国有化した旧ロシア系ガスプロムの子会社)は、エネルギー供給網の再構築を目指し、カナダのKsi Lisims LNG社と長期的な液化天然ガス(LNG)供給の基本合意書に署名。この契約に基づき、2030年代初頭から最長20年間にわたり、前年のドイツのLNG輸入量の約8分の1に相当する年間100万トンのLNGが継続的に供給される予定。
ドイツが調達先の開拓を急ぐ背景には、深刻なエネルギー危機がある。ウクライナ侵攻によるロシア産ガスの供給途絶に加え、最近のイランでの紛争に伴うエネルギーショックの懸念から、ドイツは2026年の成長率予測を0.5%に下方修正するなど経済的に大きな打撃を受けている。現在、ドイツはLNG輸入の多くを米国に依存しているが、カナダからの調達ルートを新たに確保して供給源を多様化し、グローバルな地政学的リスクに対するレジリエンスを高める狙いがある。
一方、生産する石油・ガスのほぼ全量を米国に輸出しているカナダにとっても、本協定は米国以外の市場を開拓するという国家目標に合致しており重要。ブリティッシュコロンビア州の沿岸部で計画されているKsi Lisims輸出ターミナル(水力発電を利用した低排出施設)にとって、ドイツのような大国との長期契約の獲得は、総額100億カナダドルに上る巨大プロジェクトの最終投資決定を下すための重要な後押しとなる。
- [米国・イラン/停戦交渉の進展]米国とイランは、現在の停戦を60日間延長し、その期間中にイランの核開発問題を中心とした包括的な交渉を進めるための覚書(MOU)締結に向けて大きく前進している。米当局者によれば、双方は原則合意に達しており、バンス副大統領も「最終合意に非常に近い」と述べた。ただし、トランプ大統領はまだ正式承認しておらず、最終条件の精査や国内政治への影響を見極めるため、数日間の判断猶予を求めている。一方でイラン側も正式受諾を公表していない。
この覚書が成立すれば、戦争開始以来最大の外交的成果となる。ただし、これはあくまで本格的な核交渉に向けた枠組みづくりであり、最終的な包括合意には今後さらに難しい交渉が必要となる。米当局者は「まず全ての当事者を交渉のテーブルにつかせるための合意であり、詳細はこれから詰める」と説明している。
覚書の柱の一つは、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の正常化である。海峡の航行制限は課されず、イランは30日以内に機雷を撤去することとされている。米海軍による封鎖措置も、商船の安全な航行が回復する状況に応じて解除される見通し。また米国は、イランの石油輸出を可能にする一部の制裁免除を実施し、将来的な制裁緩和や凍結資産の解放についても協議する方針を示している。イランは世界の金融機関に、総額1,000億ドル規模の凍結資産を有しているとされる。
核問題では、イランが核兵器を追求しないことを約束し、高濃縮ウランの処分やウラン濃縮活動の制限が最優先の協議事項となる。さらに、人道支援や物資供給の拡大に向けた仕組みづくりも議論される予定とされている。加えて、覚書にはイスラエルとレバノンのヒズボラとの戦闘終結も盛り込まれる見通しで、この点を巡ってはトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の間で緊迫した協議も行われたとされる。停戦を強いられる可能性を見越してか、イスラエルはここ数日、レバノンに対する激しい攻撃を続けており、停戦前に少しでも有利な既成事実を積み上げようとしているとの見方もある。
今回の枠組みがイランにとって、経済制裁からの脱却と国際社会への再接近の機会になるとの期待がある一方、今後60日間の交渉を通じてその真意が試されることになる。なお、米当局者は、制裁緩和や資金供与に関する秘密合意や裏取引は存在を強く否定している。
- [フィリピン/日本との首脳会談]5月28日、訪日中のフィリピンのマルコス大統領は、高市首相と会談を実施した。会談では、両国の関係を「戦略的パートナーシップ」から「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げすることを確認した。主な議題は以下のとおり。
1.防衛・安保面での連携強化
2.貿易・投資やエネルギー安全保障、脱炭素分野での協力強化
今回の会談では、フィリピン・日本間の防衛・安保面での関係深化が注目された。2025年9月には部隊間協力円滑化協定(RAA)が発効したほか、2026年1月には食料、燃料、弾薬などを自衛隊とフィリピン軍との間で融通する物品役務相互提供協定(ACSA)が署名された。これらを足掛かりに、今回の会談では、安全保障関連の機密情報を両者で共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の交渉を開始することが合意されている。日本とこれら3つの協定を締結している国は、英国・豪州のみ。
背景には、日本・フィリピン共に中国の東シナ海・南シナ海進出を強く警戒していることが挙げられる。2025年9月には、中国がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるスカボロー礁を自然保護区と指定した上で、付近で補給任務を行っていたフィリピンの公船に向けて放水するなど、中国とフィリピンとの間で南シナ海を巡る領海権の対立が激化している。また日本にとっても、台湾有事の際に中国人民解放軍が台湾とフィリピンの間に位置するバシー海峡を封鎖した場合は、エネルギー・食料をはじめとした物資の海上輸送が困難となることが懸念される。上記に加え、今回の会談では日本からの防衛装備品輸出に関しても議論された。具体的には、海上自衛隊の中古護衛艦「あぶくま」型護衛艦の輸出について今後防衛当局同士で協議することが確認された。なお会談に先立ち、防衛省がフィリピン軍に対する88型地対艦ミサイルの輸出の検討を開始すると発表した。
経済面では、日フィリピン経済連携協定(EPA)のアップグレードなど二国間での関係強化に加え、2026年後半にアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合を開催することや、日本がアジア域内の原油備蓄のインフラ建設等を支援するパワー・アジアの下での協力を確認するなど、多国間での経済協力にも合意した。フィリピンが2026年、ASEANの議長国であることを踏まえたものと考えられる。
- [EU/対中規制強化と域内分断]5月29日の対中政策に関する戦略討論で、欧州委員会は中国との経済関係を見直すための重要な討論を実施し、今後数か月以内に新たな通商・産業政策を打ち出す可能性が高まっている。欧州では、中国製品の急速な市場拡大によって域内の産業基盤が弱体化するとの危機感が広がっており、ブリュッセルではこれを「中国ショック2.0」と呼ぶ声も出ている。
討論では、シェフチョビッチ欧州委員(通商担当)が、重要産業において「2か国以上・3社以上の供給元を確保する」ことを求めるサプライチェーン多角化制度を提案する見通しである。また、セジュルネ欧州委員会副委員長は、これまで個別企業を対象としてきた外国補助金規則(FSR)の適用対象を産業全体へ拡大し、中国の補助金政策による市場歪曲への対応を強化する方針を支持している。さらに、輸入急増時に関税や輸入枠を発動できるセーフガード措置の活用も検討されており、化学や機械分野では、反ダンピング調査よりも迅速な保護措置を導入する案も浮上している。
欧州委員会内では、フォンデアライエン委員長を含む多数派が対中規制の強化を支持している。欧州側は、中国企業が政府補助金を背景に価格・品質の両面で競争力を高め、欧州市場のみならず第三国市場でも欧州企業を圧迫しているとみている。欧州委員会は、中国の世界生産シェアが現在の約30%から2030年には45%へ上昇する一方、消費シェアは13%程度にとどまると分析しており、「世界経済が吸収できない不均衡」が生じるとの警戒感を強めている。
一方で、加盟国間の足並みは必ずしも揃っていない。フランス、イタリア、オランダ、スペイン、リトアニアは、中国の過剰生産能力への対抗を目的とする共同提言を発表し、緊急関税や輸入制限措置の強化を求めたが、ドイツは署名を見送った。ドイツ政府内には対中強硬派と慎重派が混在しており、中国市場への依存度が高い自動車・機械産業への影響を懸念している。また、スペインについても、当初の強硬姿勢から後退し、共同提言への署名撤回を検討しているとの報道が出ている。
中国はこうした動きを強く警戒しており、欧州が新たな規制や関税措置を導入した場合には対抗措置を講じる構えを示している。外交部の毛寧報道官は、「デリスキング」や「貿易均衡」を名目とする措置は実質的な保護主義であり、欧州企業や消費者の利益を損なうものだと批判した。その上で、中国はEUの動向を注視しており、必要な措置を講じると警告している。
- [ブラジル/家計債務の増加]中央銀行によると、同国の家計債務は年間所得の約49.9%に達し、2005年に統計を開始して以来の最高水準となった。この指標は、過去12か月の世帯総債務額を同期間の所得と比較したものであり、数値が高いほど家計の負債負担が重いことを意味する。中央銀行や金融機関は、この比率を家計の健全性を測る重要な指標として注視している。
また、債務返済負担も増加している。月収に占める返済割合は約29.7%に達し、前年と比べておよそ2ポイント上昇した。これは、家計の可処分所得のうち相当部分が借入返済に充てられていることを示している。
この背景には高金利環境がある。政策金利が歴史的に高い水準に近い状態が続いており、あらゆる借入コストが上昇している。その結果、既存のローンやクレジットカード残高の維持費用が増大し、家計の負担を押し上げている。特に問題となっているのがクレジットカードのリボルビング払いである。ブラジルでは年率が数百%に達するケースもあり、少額の未払い残高であっても短期間で急増しやすい構造となっている。
それにもかかわらず、個人の借入は拡大を続けている。個人向けローン残高は今年に入って二桁の伸びを示しており、多くの世帯が借入を増やしながら、その返済負担も同時に拡大している状況である。
こうした状況を受け、政府および政策当局は対策の検討を進めている。現在、債務再交渉プログラムの導入が準備されており、既存の取り組みを基盤としながら、家計の負担軽減を図る方針である。具体案としては、貯蓄残高を活用した債務清算や、高コストの信用へのアクセス制限などが検討されている。ただし、制度設計は最終段階にあり、詳細や実施時期は今後変更される可能性がある。
家計債務の増加は、経済全体にも大きな影響を及ぼす。返済負担が増えるほど、消費に回せる資金は減少し、内需の減速要因となる。ブラジル経済において個人消費は重要な成長ドライバーであるため、その動向はマクロ経済に直結する。また、金利政策にも影響を与える要素となる。金利を高く保てば債務負担は一層重くなる一方、早期に引き下げればインフレ再燃のリスクが生じるため、中央銀行は慎重な判断を迫られている。
さらに、ブラジルはラテンアメリカ最大の経済規模を持つ国であるため、その家計の健全性は地域全体にも波及する。消費の動向は貿易相手国の需要にも影響を及ぼし、中南米全体の経済環境を左右する要因となる。
- [米国/物価上昇]商務省によると、4月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+3.8%となり、2023年5月(+4.0%)以来の高い伸び率になった。上昇率は3月(+3.5%)から拡大し、2か月連続で3%を上回った。
内訳を見ると、財が+4.4%となり、3月(+3.8%)から拡大、今回の中東紛争前の2月(+1.8%)の2倍以上の上昇率になった。食料品(+2.5%)は2月(+2.3%)から小幅拡大にとどまった一方で、エネルギー価格(+18.3%)は2月(▲0.2%)から上昇に転じ、2か月連続で2桁上昇になった。特にガソリン等は+29.0%と3月(+22.0%)に続き20%超だった。
財では、耐久財(+3.4%)に比べて、非耐久財(+4.9%)の上昇が目立った。耐久財は2月(+2.8%)から0.6ポイントの拡大だった一方で、非耐久財は2月(+1.3%)から大幅に拡大した。耐久財では、娯楽財・乗り物(+6.2%)や家具・家庭用品(+3.7%)が高めの上昇率だったのに対して、自動車・同部品(▲0.1%)や横ばいにとどまるなど、強弱は異なった。非耐久財では、食料品(+2.5%)や衣服・履物(+3.8%)などが高めの伸びとなり、前述のガソリン等が大幅に上昇した。
サービス(+3.5%)は3月(+3.4%)から小幅拡大にとどまった。宿泊・飲食サービス(+3.6%)や金融・保険サービス(+6.3%)などが上昇率を拡大させた一方で、ヘルスケア(+2.9%)や輸送サービス(+5.6%)が3月から縮小しており、全体としては3月並みにとどまった。
なお、物価の基調を表す食料品とエネルギーを除くPCEコアは+3.3%で、3月(+3.2%)からやや拡大した。家賃・エネルギーを除くサービス(スーパーコア)は+3.5%で3月と同じだった。雇用環境が底堅い中で、物価抑制が大きな課題になっているため、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利が据え置かれるとみられる。
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