- [インドネシアの石炭減産]2025年の世界石炭需要は過去最高水準に達したが、石炭の海上貿易量は減少に転じた。背景には、中国・インドの国内石炭生産拡大と、代替エネルギーの活用がある。中国の石炭生産は過去最高の48.3億トンに達したが、石炭火力発電量は約10年ぶりに減少。インドも生産拡大と再生可能エネルギー導入を進め、2025年は火力発電量が減少した。中国沿岸部では輸送コストや品質面から輸入炭の競争力が依然として高く、インドでも沿岸部火力や非電力用途で輸入依存が続くため、需要が消失するわけではない。それでも中長期的には石炭の海上貿易にとっては逆風となる。
一方、大きな不確定要因が最大輸出国であるインドネシアの供給政策だ。2025年に価格低下・輸出減少で石炭関連の歳入が減少したのを受け、政府は2026年に石炭減産による価格押し上げを図る。既に、2026年生産計画(RKAB)について大幅削減を示唆しているとされ、業界に混乱が広がっている。生産削減幅は40~70%に及ぶ可能性が指摘され、企業側は強く反発している。
生産割当を巡る不透明感を受け、一部鉱山会社はスポット輸出を見送り、供給は一時的に逼迫している。採掘計画や船腹手配はRKABを前提に組まれており、急な変更は操業全体に支障をきたす。大規模な減産を行っても価格上昇に至らなければ、雇用喪失やシェア低下のリスクとなるほか、税収・企業収入に逆効果との懸念もある。
インドネシアは世界最大の一般炭輸出国であり、その供給制限はアジア市場に直結する。ロイターによれば、フィリピン、バングラデシュ、マレーシア、ベトナムなどはインドネシア依存度が極めて高い。供給減少は代替炭の確保などを通じて他の炭種の需給や価格にも影響し、最終的に電力コスト上昇を招く可能性がある。
現時点では割当削減は最終決定には至っていない。割当削減は主に中小生産者が対象で、大手への影響は軽微という一部報道もあることから、動向が注目されている。
- [メキシコ 労働時間改革承認へ]シェインバウム政権は、労働者保護を最優先課題として掲げ、メキシコ社会の構造的転換を加速させている。就任時に示された「100の公約」の中心に据えられた週40時間労働制への移行は、国家の近代化と国際標準への適応を目指す戦略のひとつとなっている。2025年12月に法案が議会に提出されていたが、2026年2月11日に上院にてほぼ修正がないまま承認される見通しとなった。政府が産業界とのコンセンサスを重視しながら、法改正に伴う予見可能性の欠如を補完し、企業側に段階的な適応の時間を与えるという現実的な政策運営に転じたことが評価されている。
具体的には、急激な変化による経済的混乱を回避するため、段階的導入スケジュールを採用した。現行の憲法第123条で規定された週の法定最大労働時間48時間を週40時間へと削減するこのプロセスは、2026年を体制整備のための移行準備期間とし、2027年1月に46時間、2028年に44時間、2029年に42時間、そして2030年に最終目標の40時間へと、毎年2時間ずつ削減される計画である。また、週の労働日数についても週休2日は明記されず、企業側と労働者の間で柔軟に対応できるようになった。ただし、2027年1月からは、労働時間の電子記録も義務化され、メキシコに根強いサービス残業を構造的に排除する仕組みとなっている。
一方で、企業はかつてない労働コストの上昇圧力に直面する。今回の法改正案では、労働時間の短縮に伴う給与や福利厚生の削減が法律で厳格に禁止されており、労働時間の減少がそのまま時間単価の上昇へと直結する仕組みとなっている。残業規定についても、現行の週9時間という基準から週12時間へと上限が緩和される一方で、その代償として割増率は大幅に強化された。具体的には、最初の12時間までは通常の2倍(100%割増)、超過分については3倍(200%割増)の支払いが義務付けられ、18歳未満の労働者による残業は一律禁止となる。こうしたコスト構造の変化は、2026年1月に実施された「最低賃金の13%引き上げ」と重なり、企業経営に対して「複合的な上昇圧力」として重くのしかかる。
本改革はメキシコが長時間労働に依存した低付加価値モデルから脱却するための大きな契機となり得る。 国内におけるこうした構造的変化は、対外的な投資環境への影響にも注目される。ニアショアリングの主要拠点として注目を浴びるメキシコだが、進出企業、特に製造業や自動車関連の日系企業にとって、これまでの労働集約的なオペレーションは再考を余儀なくされる。
メキシコにおいて、これまでの安価で豊富な労働力という点が、これまでより弱まることは避けられないとみられるが、他の中南米諸国においても労働時間はすでに短縮されてきていることや、法的安定性と透明性が高まることから成熟した労働市場としての投資優位性は失われないとみられる。
- [ナイジェリア治安]2月3日、ナイジェリア北中央部クワラ州で正体不明の非国家武装集団が2つの村を襲撃し、少なくとも162人が殺害されたと報じられている。同集団は住民に対してナイジェリア国家への忠誠を捨て、厳格なシャリーア法に移行するよう要求。これを拒否した住民らを次々と銃殺し、放火したとみられる。
ナイジェリアでは主に北西部でイスラム国サヘル州(ISGS)と関連のある「ワクワラ」と呼ばれる民兵や、「バンディット」と呼ばれる強盗集団が、北東部ではボコハラムから分裂した「JAS(旧ボコハラムの本流、略奪など攻撃性が高い)」と「イスラム国西アフリカ(ISWAP、住民統治を好む)」などが住民への襲撃を続けており、治安の悪化に歯止めがかからない状況が続いている。今回のクワラ州での襲撃に関してこれまで犯行声明を出した武装集団はいないが、現地報道や攻撃の性質から、北東部にも細胞組織を有しているJASの犯行であるとみられている。
ナイジェリア政府は1月以降北部での治安対処のために、クワラ州に治安部隊を展開し、1月30日に150人の武装勢力を「無力化」したと宣言していた。今回のクワラ州での襲撃は、ナイジェリア政府に保護を求めた住民への報復の可能性が高いと報じられている(2月5日付、英Guardian紙)。また、これまで北東部の過激派勢力の活動はニジェール国境に近いソコト州やケビ州などで活発だったが、こうした地域で政府が治安強化に乗り出していることから、武装勢力は森林地帯をつたってナイジャー州やクワラ州に南進しており、武装勢力の「ホットスポット」と化していると英・ロイター通信等が報じている。
トランプ米大統領は「ナイジェリアでキリスト教徒が虐殺されている」との主張のもと、2025年12月25日にソコト州での空爆を実施。ISIS(イスラム国)系勢力を無力化した、と作戦の成果を一方的に強調しているが、実際に何らかの成果を上げたかは明らかになっていない。また、ナイジェリア北部(注)はおおむねイスラム教徒が多数派であり、イスラム系過激派などの武装勢力の被害に遭っている大多数はイスラム教徒であることから、米国の軍事作戦によりキリスト教徒が保護されているかは懐疑的な見方が多い。米ワシントン・ポスト紙は「ナイジェリア北西部は特に武装集団の数が多く、それらの集団間の同盟関係も変化しているため、正確な情報を入手することが困難。これが「標的」を定める上で、実際の作戦上の課題となっている」と武装勢力に対する作戦の難しさを指摘している。しかし、各武装勢力グループはナイジェリア政府に対抗するという共通の目的のために連携を行う可能性がある点も示している(2月5日付、WP紙)。
クワラ州での襲撃があった2月3日、米・アフリカ軍(Africom)司令官は、ナイジェリアに小規模な部隊を派遣したと発表。ナイジェリア政府も米軍との共同作戦に対して協力の姿勢を示している。しかし、複数の武装勢力が拡大、統廃合などを続け、森林地帯に潜伏したり、住民になりすましたりしている中での政府による治安対策の難しさが浮き彫りとなっている。 (注)ナイジェリア北部は北東部、北西部、北中央部に大別される
- [ウクライナ和平交渉]2月5日、ウクライナとロシア、米国の3か国高官は、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで2月4日に続き協議した。ロシアとウクライナは157人ずつの捕虜交換で合意し、2月5日に交換が実施された。焦点の領土問題や「安全の保証」では実質的な進展は乏しかったもよう。今回は主な議題は経済問題、領土問題、停戦メカニズムだった。ロシアのラブロフ外相によると、ロシアにとって重要なのは「領土そのものではなく、そこに住む人々」であり、ウクライナが「中立で友好的でなくとも、ロシアに対して敵対的でない」ことを求めると強調している。
一方、米欧州軍(米欧州軍司令部=EUCOM)は、米国とロシアの両政府が2021年秋を最後に中断されていた軍事対話を再開することで合意したと発表した。これは今回、アブダビで行われた米国、ロシア、ウクライナの軍高官による三者協議で決まったとしている。今後、NATO欧州司令官グリンケビッチとロシア参謀総長ゲラシモフのホットライン再開などが再開されるとみられる。ただし、ロシア側の公式確認はまだない。
- [インドネシアGDP成長率]2月5日、インドネシア統計局は2025年第4四半期および通年の実質GDP成長率の速報値を発表した。第4四半期の成長率は5.4%、通年の成長率は5.1%を記録。四半期の成長率は、2022年第3四半期以来最高となった。通年の成長率に関し、2023年度の水準(5.0%)よりわずかに上昇した。
通年での成長率の支出別内訳に関し、GDP全体の約5割を占める家計消費の伸び率は、2025年9月に実施された政府による現金給付・観光支援策などの景気対策や、若者約10万人向けのインターンシッププログラム実施などの財政政策が奏功し(マンディリ銀行、2026年2月5日)、5.0%と堅調に推移した(2024年度は4.9%)。GDP全体の約3割を占める総固定資本形成の伸び率も5.1%と2024年の4.6%から上昇した。そのうち機械・設備に関しては成長率が18%と、昨年の水準(7.5%)を大きく上回ったほか、総固定資本形成全体の伸びもけん引した形となった。政府が進める、ニッケルを中心とした下流産業育成策による工作機械受注増加が貢献したもよう。
同国では、財政政策・金融政策への信認低下懸念から、金融市場が混乱している。1月に公表された2025年財政赤字GDP比は2.9%と、コロナ禍以来の最高値を記録しており、法定上限である3.0%まで迫っている。コモディティ価格高騰一服を踏まえたロイヤリティ収入低下も要因ではあったものの、無料給食配布プログラムや上記景気対策による歳出増加も響いた形となった。プラボウォ大統領は過去に、実質GDP成長率を現在の約5%から8%まで引き上げるために、財政赤字にかかる法定上限撤廃や公的債務GDP比を50%まで引き上げることを目指すと一部報道されており、市場からは財政拡張的なスタンスが警戒されている。
直近では中銀の副総裁候補に、自身の甥であり財務副大臣であったトーマス・ジワンドノ氏を指名するなど(その後副総裁に着任)、金融政策にも自身の意向を反映することが懸念視されている。
これら要素を踏まえ、ルピアの対ドルレートは1月20~21日に約17,000ルピアと最安値を記録している。財政の信認を示す10年物国債の利回りも、1月29日には6.4%までじわじわ上昇している(年初は6.2%)。2025年の実質GDP成長率の水準自体は堅調ではあったものの、家計消費が財政支援に下支えされた側面も大きい。今後、財政赤字にかかる法定上限を遵守しつつ、どのように成長を継続させるか、市場の注目が集まる。
- [ECB金利据え置き]2月5日、欧州中央銀行(ECB)は理事会を開催、政策金利を据え置くことを決定した。据え置きは7月以降5会合連続であり、市場予想通りだった。これまで、理事会メンバーからは「利下げ周期は終了」という声が多かった。
ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、金融政策姿勢が今のところ適切だという認識を示した。また、ユーロの対ドル相場は1月下旬に1ユーロ=1.2ドル台と約4年半ぶりの高値を付けていたこともあり、今回の会合では、為替相場の影響についても協議したと述べた。特定の為替相場を目標にしていないとしつつも、ユーロ高が見通し以上に物価上昇率を押し下げることが警戒されているようだ。ただし、物価見通しにおけるリスクは均衡しており、ユーロ相場の現在のレンジはこれまでの平均的な水準にほぼ一致するとも指摘した。ラガルド総裁がユーロ高による物価の下ぶれリスクに触れたこともあり、市場は次の一手について、これまで利上げと見ていたものの、利下げを意識し始めている。
発表された声明文では、前回同様に、「物価上昇率が中期的な2%目標で安定する見通しであることを再確認した」と記された。ただし、その文言に続いて「経済は困難な世界情勢の中で、回復力を維持している。失業は低水準で、民間部門のバランスシートは底堅く、防衛やインフラ投資、過去の利下げの支援効果が成長を下支えする。同時に、特に進行中の世界貿易の不確実性や地政学的な緊張から、見通しは依然として不確実である」と追加され、足元の不確実性の高まりを警戒する内容になった。
一方で、金融政策の姿勢には変化がなかった。「データ依存で会合ごとのアプローチに従う」ことや、「政策金利は、入出する経済・金融データ、基調的な物価動向、金融政策の伝達力の観点からの物価見通しとそのリスクの評価に基づいて決定される。特定の金利経路を事前に確約することはない」という姿勢は維持された。
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