- [米イラン合意内容に関する報道]米国とイランは、停戦延長とホルムズ海峡の再開を柱とする枠組み合意に達し、6月19日にスイス・ルツェルン近郊のビュルゲンシュトック・リゾートで正式署名を行う予定となった。既にトランプ大統領、バンス副大統領、イランのガリバフ国会議長が電子署名を済ませているとされるが、合意文書の全文は公表されておらず、バンス副大統領も「1ページ半程度の非常に大まかな文書」と説明している。署名後には文書の詳細が公表される見通しである。
報道によれば、今回の合意は恒久的な和平ではなく、今後60日間の本格交渉に向けた枠組みである。イランは核兵器を開発・取得しないとの従来の立場を再確認する一方、核活動は現状維持とし、濃縮ウランの処理や将来の核開発のあり方について協議を行う。米国は海上封鎖の解除や新規制裁の停止、イラン産石油に対する制裁緩和を実施し、イランはホルムズ海峡を通過する商船の航行を戦前水準まで回復させることを約束するとされる。また、イランが国外に保有する凍結資産の段階的な解除も盛り込まれている。
さらに、最終合意が成立した場合には、イラン復興と経済開発を目的とする総額3,000億ドル規模の「復興・開発基金」が創設される可能性がある。この基金は政府資金ではなく民間投資を活用する仕組みで、エネルギー、物流、製造業、インフラなどへの投資が想定されている。韓国、日本、シンガポール、マレーシア、米国などの企業が参加する可能性が報じられているが、実際の設立は最終合意成立後となる。世界2位の天然ガス埋蔵量、世界4位の石油埋蔵量を持つイランにとって、制裁解除と外国投資の回復は大きな経済的利益につながる可能性がある。
一方で、合意の先行きには依然として不透明感が残る。米政権内でもバンス副大統領らは同合意を支持する一方、ルビオ国務長官らはイランの履行能力に懐疑的とされる。イスラエルは合意内容の詳細な説明を受けておらず、イランが60日間の交渉期間を利用して核開発を進める可能性を警戒している。また、レバノン情勢をめぐっても、イランはイスラエルの攻撃停止を要求する一方、ネタニヤフ首相はレバノン南部への駐留継続を表明しており、停戦履行の障害となる可能性がある。市場は合意を好感し、原油価格は急落したが、機雷除去やインフラ復旧には時間を要するとみられ、エネルギー市場の完全な正常化にはなお数か月を要する見通しである。
- [アフリカ/エボラ出血熱流行]6月16日、アフリカ疾病予防管理センター(Africa CDC)はコンゴ民主共和国(DRC)で発生しているエボラ出血熱の流行が「史上最悪なものになる可能性がある」と警告した。
5月15日に国際保健機関(WHO)がエボラ出血熱の流行を宣言して以降、6月16日までにDRCで837件の感染が確認され、死者は196人となっている。隣国ウガンダでも19件の感染と2人の死亡が確認されており、感染者のうち14人は隣国DRCから渡航してきたとみられている。2014~2016年にかけてギニア、リベリアを中心とする西アフリカの国々でエボラ出血熱が大流行した際には1万人以上の死者が生じたが、Africa CDCは感染者の接触者のうち数万人が特定されていないことから、流行の全容が確認できないことに懸念を示している。感染の中心地であるDRC北東部のイトゥリ州、北キブ州、南キブ州は複数の武装グループがDRC国軍との戦闘を継続している地域であり、住民が避難を繰り返していることも感染経路の特定を困難にしているとみられる。
また、国際赤十字委員会(IFRC)もエボラ出血熱の流行はまだピークに達しておらず、流行の収束には約1年を要するとの見解を示している(6月16日付、Le Monde紙)。エボラ出血熱をもたらすエボラウイルスは死後、遺体になってからも強い感染力を維持する性質がある一方、伝統的な慣習により葬儀の際に家族らが遺体に触れることも感染抑止の妨げになっているとの指摘も多い。
今回DRCを中心に拡大しているエボラウイルスのブンディブギョ株には有効性が認められたワクチンや治療法が存在しない。英・オックスフォード大学と米・モデルナ社はワクチン候補の開発を進めており、早ければ7月にも第1期臨床試験に入る可能性があると報じられているが、WHOはワクチンの完成まで9か月程度を要するとの見解も示している(6月16日付、Al Jazeera)。ブンディブギョ株に対する知見が十分に蓄積されていないことも(過去の大規模な流行はザイール株によるもので、有効なワクチンも存在する)感染の早期発見が遅れた理由としてあげられている。
6月16日にフランスのエビアンで開催されたG7サミットにおいて「エボラ出血熱の流行への対応」に関する共同声明が発出された。同声明では、米国がエボラ出血熱対策向けに最大で5億ドルを追加で拠出するとの公約が高く評価されたほか、欧州連合(EU)も対策に向けた支援を継続する意向が強調されている。
- [東南アジア/IEAエネルギー見通し]6月16日、IEAは東南アジアのエネルギー見通しを公表した。レポートの概要は以下のとおり。
・東南アジアは中東諸国への原油・石油の輸入依存度が高いため(原油輸入の約60%を依存)、イラン情勢による経済への悪影響が他の地域よりも大きい。
・これらを受け、東南アジア各国では足元では石炭回帰が進むほか、EVシフトが加速する。EVに関してはシンガポール、ベトナムでは既に2025年時点で新車販売台数の約4割を占めると推計。
・経済成長を踏まえて、中長期的にも電力需要は増加し続けることが予想される。具体的には、今後10年間で現在の日本の年間電力総発電量(約10万GWh)に相当する需要増加が見込まれる。
・エネルギー需要増加に対応しつつ、脱炭素化達成とエネルギー安全保障の確保を両立するためにも、各国にとり再エネや原発導入やそれに伴う送配電網整備が急務となる。再エネ容量は2024年に121GWであるが(全容量の32%)、現在発表されている目標が全て達成されたシナリオの下では2035年までに335GW(全容量の49%)、各国ネットゼロ目標が全て達成されたシナリオの下では596GW(全容量の60%)まで増加すると見込まれる。
IEAは、脱炭素化のみならずエネルギー安全保障確保のために、東南アジア各国を巻き込んだ多国間協調が不可欠と指摘している。例えば多国間共同石油備蓄タンクの新設や、ASEAN各国同士が電力を多国間で融通し合うASEANパワーグリッド構想が挙げられている。なかでも、ASEANパワーグリッドに関して、IEAは2040年までに合計約270億ドルの投資が必要と指摘している。東南アジアの資本コストが先進国に比べて割高なため、公的機関による支援とそれによる民間資金呼び込みが不可欠としているが、これら多国間協調はファイナンス面のみならず、各国ごとの法制度や電力市場構造の違いもボトルネックとなっている。例えばある国の発電事業者が他国の売電先と締結する越境電力購入契約に関し、送電が中断された際の補償義務や契約履行の強制などの保証制度が各国間で合意されていない。また、国により電力市場の自由化度合いが異なっているが、(フィリピン・シンガポールなど)電力市場が自由化されており電力価格も変動的な国に売電する際には、電力事業者にとっては固定価格にて電力を買い取る国に比べて収益性見通しが立ちにくいため、発電事業への参入を躊躇する可能性もある。
また現在の再エネ製品市場の状況を踏まえると、再エネ導入やEVシフトによる中国への投資面での依存度が上昇し続けると考えられる。例えば同地域の太陽光パネルの生産キャパシティのうち、現時点で約6割が中国企業によるものである。またインドネシアでは、2024年に電池材料メーカーBTRがEV用電池の陽極材工場を設立した(生産能力は100GWh)。再エネ転換による中東へのエネルギー輸入依存度低下は期待できるが、その裏では中国への資本面での依存度上昇は避けられない状況である。
- [中国・アルゼンチン/通貨スワップ延長の動き]アルゼンチンが中国との通貨スワップ協定の延長に向けて動いていると、香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が報じている。6月に上海で開催された国際決済銀行(BIS)のシンポジウムに出席したアルゼンチン中央銀行のサンティアゴ・バウシリ総裁は、中国人民銀行の潘功勝総裁と会談し、世界経済や金融情勢、中央銀行間の協力について意見交換を行った。アルゼンチン政府は協定更新に関する交渉を否定しているが、現地報道によれば協議は進展しており、正式合意に向けた事務手続きが残るのみとされる。
中国とアルゼンチンの通貨スワップ協定は2009年に開始され、直近では2023年6月に3年間延長された。現在、総額1,300億元(約190億ドル)のこの枠組みは、2026年8月6日に期限を迎える。中国はアルゼンチンにとってブラジルに次ぐ第2位の貿易相手国であり、このスワップは人民元による輸入決済や外貨準備の補強に利用できるため、アルゼンチンにとって重要な金融安全網となっている。
もっとも、ミレイ政権の発足以降、中国への金融依存は縮小している。実際に利用されていたスワップ残高は2024年末の210億元から2025年末には約70億元へ減少し、借入資金の大部分も返済された。これは、財政再建やIMF支援などにより外貨事情が改善したためとみられる。一方で、協定そのものは維持されており、バウシリ総裁も「中央銀行の資金管理上有用な制度」であるとして廃止を否定している。
他方、米国はミレイ政権に対し、中国との経済的結び付きの縮小を促してきた。トランプ政権の中南米担当特使は中国のスワップを「搾取的」と批判し、2025年にベッセント米財務長官はアルゼンチンとの200億ドル規模の通貨スワップを発表した。とはいえ、米国の支援は危機対応の性格が強く、利用分も短期間で返済されたのに対し、中国のスワップは2009年以来継続する恒常的な枠組みとなっている。
親米路線を掲げるミレイ政権であっても、中国との金融協力を完全に切り離すことは容易ではない。アルゼンチンは中国からの借入依存を減らしながらも、将来の通貨危機や外貨不足に備える「保険」として中国とのスワップ枠の維持を望んでいるとみられる。
- [ペルー/経済は安定]2026年4月のペルー経済は、前年同月比で3.73%成長し、市場予想(3.55%)を上回った。これは過去5か月で最も高い伸びであり、政治的な不透明感が強い状況にもかかわらず、景気の底堅さを示す結果となった。この背景には、国内需要の回復と非資源部門の拡大がある。
まず成長を支えた最大の要因は、内需の力強さである。特に建設業は前年比12.88%増と大きく伸び、不動産開発やインフラ投資、個人による住宅建設が活発だった。建設活動の先行指標として重要なセメント消費量も13.92%増となり、15か月連続で増加していることから、継続的な強さが確認できる。また、商業やサービス業も堅調であり、商業は7.31%増、サービスは3.27%増となった。とくにホテルや飲食業は4.48%増と観光や外食需要が回復している。雇用環境の改善と所得の安定が、個人消費を押し上げていると考えられる。非資源部門全体は4.4%増となり、25か月連続で拡大を続けている。
一方で、ペルーの主要産業である鉱業およびエネルギー部門は3.24%減、農業も1.64%減と低迷した。これらは資源の生産減少や天候不順が主な原因となっている。
今後の見通しとして、2026年1月から4月までの成長率は前年同期比3.58%と安定的であり、ペースとしては順調だが、通年の経済成長率についてはやや慎重な見方も出ている。大手金融機関の予測では、2026年の成長率は従来の3.1%から2.9%へ小幅に下方修正された。これは、年初から続く天候リスクや資源価格の変動といった外部要因が短期的な重しになると考えられているため。しかし、これらの要因は一時的と見られており、2027年には3.1%程度まで再び加速する見込みである。インフレ率も中央銀行の目標である約2%前後に収まっており、財政や金融の基盤は安定している。ペルーは南米の中でも財政規律と中央銀行の独立性が高く、マクロ経済の基盤が強固な国とされている。
ただし、経済の先行きを左右する最大の不確実性は政治情勢であり、大統領選挙は接戦となり、決選投票後も多数の異議申し立て票の確認作業が続いている。政治的不透明感は企業の投資判断に影響を与え、大規模な投資案件の先送りや慎重姿勢を招く可能性もある。もっとも、ペルー経済は、政治が不安定でも比較的安定していて、過去数年間、政権交代や政治対立が頻発したにもかかわらず、中央銀行の独立性と堅実な財政運営によってマクロ経済の安定は維持されてきた。このため、今回の選挙による混乱も経済全体を大きく崩す可能性は低いとみられている。
- [ドイツ/景況感の回復期待]欧州経済研究センター(ZEW)によると、6月の景気期待指数は+10.5と5月から20.7ポイント上昇した。5月(▲10.2)のマイナスからプラスに転じた。内訳を見ると、「改善」の回答割合は28.1%(+6.6ポイント)へ上昇した一方で「悪化」は17.6%(▲14.1ポイント)へ低下したため、悪化の減少が期待指数改善の主因だった。
また、現況指数は▲81.0であり、5月から▲3.2ポイントの低下だった。これも内訳を見ると、「良い」の割合はゼロ%で5月から変わらず。「悪い」は81.0%(+3.2ポイント)へ上昇し、「悪い」の増加が現況指数の低下の主因だった。
これらの結果を受けて、バンバッハZEW所長は「金融市場の専門家は、イラン紛争が終結に近づいていると予想している」と指摘した。中東情勢の変化が、エネルギー価格や物価上昇の圧力を緩和させ、エネルギー集約産業や家計の恩恵となり、内需を強める予想につながっている。
また、先行きについて産業別の指数を見ると、自動車(▲35.3)は21.9ポイント上昇、化学・医薬品(▲26.7)は16.0ポイント上昇、小売・消費財(▲29.9)は11.7ポイント上昇したものの、指数(「改善」-「悪化」)自体はマイナス圏(悪化超過)にとどまっている。その一方で、銀行(30.0)や保険(34.7)、通信(26.6)、情報技術(59.6)などはプラス圏にあるなど、産業によって状況が大きく異なっている様子がうかがえる。
- [日本/機械受注統計調査報告(4月)]6月17日、内閣府は機械受注統計調査の4月実績を公表した。機械等製造業者の受注した設備用機械類について、毎月の受注実績を調査しているもの。民間設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需は、4月は1兆985億円で前月比+8.7%と2か月ぶりに増加した。さらに3か月移動平均の前月比も+3.7%となったが、基調判断としては、4月の増加は3月に▲9.4%となった後の単月の動きであるとし、「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
4月の受注総額は4兆388億円で前月比+3.4%と2か月連続で増加した。
需要者別にみると、船舶・電力を除く民需の内訳は、製造業で+5.1%、非製造業(船舶・電力除く)で+6.7%。主要業種別にみると、製造業では、鉄鋼業で▲41.9%、化学工業で▲36.7%と前月比での落ち込みが大きく、造船業で+160.7%、繊維工業で+61.7%、非鉄金属で+51.3%、業務用機械で+50.3%と増加した。非製造業では、不動産業で+107.7%、運輸業・郵便業で+36.9%の増加、一方、鉱業・採石業・砂利採取業で▲45.3%、情報サービス業で▲14.1%の減少となった。
なお、ほかの需要者として、官公需は3月に▲14.5%の後、4月は▲0.9%、外需は3月に+31.0%の後、4月は▲8.6%、代理店経由の受注(最終需要者不明)は3月に+6.9%の後、4月は+1.4%となった。
5月21日に公表された2026年4~6月の四半期の受注見通しでは、前期比+0.3%と小幅増が予想されている。2025年10~12月から前期比プラスが続く見通しで、今後の設備投資が増える可能性がある。ただし、中東情勢による不確実性などもあり、設備投資の実施が後ずれするかもしれない。
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