- [ナイジェリア/選挙戦開始]8月19日、ナイジェリアで2027年1月26日に実施される大統領選の選挙活動が正式に開始された。19人の大統領候補者の中で最有力視されているのは、与党「全進歩会議(APC)」候補で、再選を目指す現職大統領のボラ・ティヌブ氏だ(74歳)。APCは2015年に現在の最大野党「人民民主党(PDP)」から政権交代を実現。現在、上下院の3分の2以上の議席を有し、全国36州のうち31州で知事を擁するなど、全国的な基盤を確立している。APCは経済改革と財政規律の維持、全国のインフラ整備、治安回復などを公約に掲げている。
対抗馬は前回2023年の大統領選でも争った「アフリカ民主会議(ADC)」候補のアティク・アブバカル元副大統領(元PDP)と、「ナイジェリア民主会議(NDC)」候補のピーター・オビ元アナンブラ州知事だ。前回選挙ではティヌブ氏の得票率36.6%に対し、アティク氏が29%、オビ氏が26%で接戦となった。アティク氏はティヌブ政権が断行した燃料補助金の廃止により、国民生活が困窮しているとして、燃料補助金の復活やナイジェリア国営石油会社(NNPC)などの民営化を訴えている。一方のオビ氏は、クリーンな政治家とのイメージから若者らの人気が高く、主要大統領候補の中で唯一のキリスト教徒だ(ナイジェリアの人口の約半分)。同氏は「1期4年限りの大統領任期」や治安回復を公約に掲げるとともに、副大統領候補としてイスラム教徒が多い北部で強い支持を得ているラビウ・クワンクワソ元カノ州知事を指名した。クワンクワソ氏は前回選挙でも得票率6%と4位につけた実力者だ。
理論的には、今回の選挙でアティク氏、オビ氏ら野党陣営が統一候補を擁立すれば、ティヌブ氏にとって大きな脅威となる。特に北部のフラニ=ハウサ族出身(注1)でイスラム教徒のアティク氏と、南部のイボ族出身でキリスト教徒のオビ氏が大統領・副大統領候補として出馬すれば、ナイジェリアが歴史的に国内の民族・宗教間の対立への配慮のために採用してきた「ジョイント・チケット」を復活させることができる(注2)。実際に2025年にオビ氏、クワンクワソ氏はアティク氏率いるADCに合流し、ティヌブ氏に共同で対抗する姿勢を示したが、2026年5月にオビ氏とクワンクワソ氏が同党を離脱した。結果的に2023年と同様の選挙戦を再び迎えることになった。
ユーラシア・グループは、もともと現職が有利な中で、この野党の分裂により、ティヌブ氏が大統領選で勝利する確率は75%に上昇したとの見解を示している。一方で、ティヌブ氏の経済改革は国際通貨基金(IMF)や外国投資家から評価を受けているが、改革の痛みとして10%台のインフレが続いており、目立った治安の改善もみられていない。2027年1月の選挙は現政権に対する国民の審判を仰ぐものとなるだろう。(国際部 髙橋史)
(注1)ナイジェリアの主要3民族は、ヨルバ(南西部)、イボ(南東部、キリスト教徒が多い)、フラニ=ハウサ(北部、イスラム教徒が多い)。
(注2)現ティヌブ政権では、ティヌブ大統領(イスラム教、南西部ヨルバ)、カシム・シェティマ副大統領(イスラム教、北部カヌリ族)の組み合わせが「ムスリム・ムスリム・チケット」と呼ばれ、主に国内のキリスト教徒らが反発している。 - [EU/ICCに対する米国の制裁]米国のトランプ政権は8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子院長とアブドゥラーイェ・セイエ検察局上級裁判弁護士を追加制裁対象に指定した。米国務省は、両者が、政府がICCの管轄権に同意していない国の当局者を捜査、逮捕、拘禁または訴追するためのICCの活動に直接関与したことを指定理由としている。2025年2月の大統領令以降、制裁対象は検察官、裁判官、検察局職員へ段階的に広がり、今回、ICC院長にまで及んだ。ICCは、一連の制裁が裁判所の独立性と法の支配を損なうと批判している。
欧州にとって、これは単なる米国とICCの対立ではない。ICCは、EUおよび加盟国が創設以来、一貫して支持してきた国際刑事司法の中核であり、その独立性の擁護は、EUが掲げる法の支配と多国間主義の実践に関わる。他方、制裁対象となった判事からは、米国系の決済、予約、配送などのサービスが利用できなくなったとの証言も報じられており、制裁の影響は欧州域内にも及んでいる。EU首脳や主要加盟国はICCへの支持を表明したが、政治的支持を制裁対象者の実効的保護につなげることが課題となっている。
また、欧州諸国はウクライナ情勢に関するICC捜査を積極的に後押ししてきた一方、パレスチナ情勢をめぐるICCの判断にも同様に一貫した支持を示せるかが問われる。今回の制裁は、欧州が対米関係を維持しながら国際刑事司法をどこまで実効的に擁護できるか、また米国系の金融・デジタルサービスへの依存が対外的な行動余地をどこまで制約するかを示す、戦略的自律の試金石となっている。(国際部 濱嵜隆吏) - [中国/ロボット警察官]The Next Web(TNW)は中国・杭州では西湖周辺に15体のヒューマノイド型「交通警察ロボット」が投入されていることを報じている。ロボット自体の配備は5月1日の労働節に合わせて始まったもので、中国国営メディアは国内初の「ロボット交通警察隊」と紹介している。
ロボットは交通整理、歩行者や自転車利用者への注意喚起、観光案内などを行うほか、画像認識で交通違反を検知し、信号に合わせて交通整理のジェスチャーも行う。ただし、違反切符を発行したり人を拘束したりする権限はなく、違反情報は警察の警戒センターに送られ、最終判断は人間の警察官が行う。稼働時間も1日8~9時間程度で、完全自律型の警察ではない。
TNWが注目しているのは、これが単なる省人化ではなく、中国のロボット産業育成策の一環である点だ。開発は先行しているが現状ではヒューマノイドの民間の商業需要が十分に育っておらず、地方政府による公共調達が重要な初期市場となっている。また、観光客や車両が行き交う実社会で稼働させれば、研究室では得にくい大量の実環境データを蓄積できるため、AIの認識・制御技術の改善にもつながると見られている。一方、違反検知精度や実際の処罰につながった件数について独立した検証はないため、実用性や今後の拡張性についてはなお慎重な評価をしている。(経済部 本間 隆行) - [日本/消費者物価指数(7月)]8月21日、総務省は7月の消費者物価指数(CPI、2025年=100)を発表した。総合指数は102.0で前年同月比+1.9%となった。変動の大きい生鮮食品を除く総合(コアCPI)は102.1で+1.8%。6月の+1.6%から0.2ポイント上昇幅が拡大したものの、2026年1月から7か月連続で1%台となった。上昇幅拡大は2か月連続。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は102.1で+1.9%。
生鮮食品を除く食料は+3.0%と、6月の+3.1%から僅かに下落した。価格高騰していたコメ類は▲11.6%と、5月▲4.8%、6月▲8.3%から3か月連続でマイナスとなり、6月から更に下落幅を拡大させた。緑茶の+29.2%などにより飲料が+5.5%、ポテトチップスの+13.3%などにより菓子類が+6.1%上昇した。外食は、ハンバーガー(外食)の値上げもあり+1.7%上がった。
エネルギー価格は+0.6%と、6月の▲0.4%から上昇に転じた。ガソリンは▲1.8%と、6月の▲0.8%から下落幅が1.0ポイント拡大した一方、電気代は▲0.1%(6月▲1.7%から1.6ポイント)、都市ガス代は▲1.1%(6月▲3.2%から2.1ポイント)と、いずれも下落幅を縮小したことでエネルギー全体での上昇幅が拡大した。
また、住居に関しては、中東情勢に伴うナフサショックにより塗料メーカーが値上げを行った影響で、外壁塗装費が+7.8%上昇した。民営家賃は+0.7%。そのほか、交通・通信では、任意の自動車保険料+5.9%などにより自動車等関係費が+2.1%、携帯電話の通信料の+4.6%などにより通信が+3/8%となった。
家具・家事用品に関しては、家庭用耐久財が+3.5%(6月+2.7%)。内訳では、全自動洗濯機+7.3%、冷暖房用器具+10.1%、ルームエアコン+11.4%などの上昇が目立った。家庭用消耗品は+6.3%(6月+3.7%)。
コメ類は下落が続いているが、その他の食料品価格の上昇や、生活に必要な財・サービスの価格の上昇がみられた。また、私立高校授業料の無償化(▲73.2%)やガソリン暫定税率廃止などの政策要因を加味するとCPIは2%を超える水準となる。
なお、消費者物価指数は7月分より、従来の2020年基準から2025年基準に移行した。指数品目には新たに、香辛料、グミ、たこ焼き、プロテインパウダー、カーリース、ペット保険料などが追加された一方、煮干し、婦人用帯、婦人用ストッキング、サッカー観覧料、ビデオソフトレンタル料、振込手数料などが廃止されるなど、消費構造の変化が伺える。2020年基準の582品目から、2025年基準では19品目を追加、11品目を廃止、2品目を1品目に統合することで589品目となった。(経済部 菊井彩乃)
- [砂糖/8月の価格急騰]砂糖の国際価格が8月に入り急騰している。8月20日のNY粗糖先物(期近)は17.52セント/ポンド、ICE白糖先物(同)は552.2ドル/tと、いずれも月初から約20%上昇し、約1年数か月ぶりの高値圏にある。エルニーニョの発達が予想される中、ブラジルやインド、EU、タイなど主要生産地の天候不安や、世界需給の逼迫観測が強まっている。
砂糖取引大手Czarnikowは6月、米・イラン戦争による原油高でブラジルの製糖所が砂糖からエタノール生産にシフトするとして、2026/27年度の世界需給見通しを140万トンの余剰から▲10万トンの不足に下方修正した。先週には、インド、EU、タイの天候要因などから2027/28年度は▲290万トンの不足になると予想した。StoneXも7月末、2026/27年度の不足予想を▲55万トンから▲170万トンに引き上げている。
最大生産国ブラジルでは、業界団体Unicaが8月6日に発表した中南部の6月の砂糖生産量が前年比▲26.3%の390万トンに減少した。降雨でサトウキビ圧搾が減少したほか、原油高を背景にエタノール向けの比率も上昇した。市場が重視するUnicaの隔週データは6月下旬から約2か月間公表が停止し、ようやく発表された数値が6月の月間データだったことから、ブラジルの生産状況が見えづらいことも供給不安を誘う一因となっている。
世界第2位の生産国インドでも、モンスーン期の累積降雨量が8月19日時点で平年を13%下回る。サトウキビ作付面積も前年を下回り、国内砂糖価格は過去最高値圏まで上昇している。祭礼期を控え、需要増も見込まれる。
こうした中、インド政府は8月20日、10月末まで最大100万トンの粗糖の無税輸入を許可すると発表した。通常100%の輸入関税を課しているが、自社で精製能力を持つ企業に限り免税する。インドが国内消費向けに大口輸入を行うのは2017/18年度以来。通常は砂糖の純輸出国であるインドが輸入に転じることは、国際市場の需給逼迫観測を強める材料となりうる。
エルニーニョによる農業生産への影響や輸出入を巡る政策変更のリスクが懸念されるなか、引き続きこうしたニュースに留意していく必要があるだろう。(経済部 鈴木直美) - [スウェーデン/金利据え置き]スウェーデン中央銀行は20日、政策金利を1.75%に据え置くことを決定した。据え置きは市場予想通りだった。
物価上昇率は落ち着いている。7月の消費者物価指数(CPIF)は前年同月比+0.7%となり、6月(+1.3%)から上昇率が縮小した。これは、中銀目標の2%を下回っている。9月13日の選挙を控えて、食品や燃料を対象に一時的な減税措置が実施されており、それが物価上昇の抑制要因となっていた。食料品の付加価値税(VAT)は2026年4月から2027年12月まで6%へ半減されている。また、スウェーデンの電力の大半が化石燃料以外であるため、中東情勢の緊迫化によるエネルギー価格の上昇が直撃しなかったとみられている。
経済成長率は6月時点の見通しに比べて底堅く推移している。企業の価格設定行動は抑制されており、グローバルな供給網の寸断も緩和している。しかし、先行きについては、不確実性が残っており、中東情勢や供給ショックなどを踏まえると、物価の基調が上振れるリスクが残っている。そのため、経済見通しはおおむね変化していないと評価された。
なお、上昇ペースが加速すれば、引き締めに動く用意があるという姿勢も示された。「夏場に予想外に高まった物価上昇が、より大きく持続的な上昇の始まりとなるならば、金融政策を引き締め方向に調整することになる」と声明文に記載された。その上で、「年内の利上げの可能性は残っている」とも指摘された。今後の物価上昇率の拡大や欧州中央銀行(ECB)の利上げなどの見通しを踏まえると、年内の利上げが実施される可能性があるとみられている。(経済部 鈴木将之)
- [ロシア:再燃する燃料危機、供給不足が全国に拡大]ロシアでは今夏2度目となる燃料危機が発生し、ガソリンの供給不足と価格上昇が再び深刻化している。8月中旬時点で約6割の地域で給油制限が導入され、一部地域では長蛇の列や欠品が発生している。特に需要が高まっているハイオクガソリン(AI-95)の不足が顕著で、モスクワやサンクトペテルブルクでも販売量の制限が実施されている。
今回の危機の主な要因は、ウクライナによる無人機攻撃の再開に伴う製油所設備の停止である。8月以降、ヤロスラブリ、ニジネカムスク、ウファ、サラトフ、オルスクなど複数の製油所が被害を受け、影響を受けた設備能力はロシア全体の石油精製能力の半分超に達する。さらに、夏季の旅行需要や農業向け需要の増加が重なり、供給不足が拡大した。
政府はガソリン輸出禁止措置の延長や低品質燃料(Euro-2~4)の販売容認などの安定化策を講じているが、その効果は限定的である。ベラルーシ、インド、カザフスタン、モロッコからの輸入も始まったものの、輸入量で補えるのは国内需要の1割強にとどまる。
市場関係者は、夏の需要ピークが過ぎる9~10月以降には一定の改善を見込む一方、製油所への攻撃継続や修理の長期化により、年末まで局地的な供給不足が続く可能性を指摘している。また、燃料不足は物流コストの上昇やモーターオイル供給への支障にも波及しており、ロシア経済に新たなインフレ圧力をもたらす懸念が高まっている。(国際部 ゴロシニコフ アントン)
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