- [セネガル/内政・債務問題]7月9日、セネガル憲法評議会は6月29日に国民議会で可決された大統領と同議会の権力を均衡させる憲法改正案を無効とした。同法案には大統領が政党を率いることを禁ずるほか、国民議会と首相の権限強化、憲法裁判所の新設、大統領権限による議会解散を1回までに限定するなどの内容が盛り込まれていた。憲法評議会は法案を無効と判断した主な理由として、憲法裁判所設置にかかる財源の裏付けが示されていないことが憲法に違反していると説明した。
今回の憲法改正案の提案の背景には、国民議会議長を務めるウスマン・ソンコ前首相と、バシル・ファイ大統領の間で深まる政治対立がある。ソンコ氏は国民から圧倒的な支持を得ている政治家で、与党・「労働・論理・博愛のためのセネガル・アフリカ愛国党(PASTEF)」の党首でもある。PASTEFは国民議会165議席中、130議席の圧倒的過半数を占めている。しかし、2024年の大統領選では政治犯として立候補資格が剥奪されたソンコ氏に代わり、同氏の税務調査官時代の愛弟子で、PASTEF党員でもあったファイ氏が出馬し、勝利を納めた。新政権ではファイ氏が大統領に、ソンコ氏が首相に就任する形で二大体制が敷かれたが、ソンコ氏は自身の権限強化を求めてファイ氏と対立。5月にファイ氏はソンコ氏を首相職から解任し、PASTEFを離党してファイ氏独自の政党を設立するなど両者の対立が激化した中で、議会を主導するソンコ氏が憲法改正案を提案したものだ。
今回の違憲判断をソンコ氏は承服しているが、依然としてセネガルの政治は不安定な状況が続く。ファイ氏は新首相に元中銀総裁を指名したり、ソンコ氏と近い国営企業トップらをテクノクラートに次々と置き換えたりするなどして新しく政治基盤を築こうとしているものの、今後ソンコ氏率いる議会が不信任決議案を提出する可能性もある。
両者の対立が最も大きな影響を与えるのは債務問題の解決に向けた議論の停滞だ。ファイ大統領は就任後に独自監査を行った結果、マッキー・サル前政権下で少なくとも70億ドルの非開示債務があったことが発覚。これによりセネガルの公的債務は対GDP比で132%に拡大。国際通貨基金(IMF)からの財政支援も凍結し、信用の低下から国債価格が大幅に下落するなど財政は危機的状況に陥っている。ファイ氏はIMFらが後押しすることとなる債務再編に前向きである一方で、ソンコ氏は「国家主権にかかわる不名誉だ」と強く反発していることも両者の関係悪化の大きな要因となっている。
- [バングラデシュ/IMF新プログラム]7月12日、IMFのミッションは、バングラデシュに対する新プログラムの実現可能性を評価するため、ダッカを訪問した。
2023年1月、ハシナ前政権は資源価格高騰による経常収支悪化とそれに伴う外貨準備高減少に対処するため、IMFとの間で47億ドル相当分のプログラムを締結した。その後、2024年8月のハシナ首相退陣を経て発足したユヌス暫定政権下で、プログラムの枠が55億ドル相当に増額された。これまで38億ドル相当分が拠出されている。他方、バングラデシュ政府がプログラムの条件を満たせなかったことを理由に、IMFは2025年12月分の拠出を停止した。
その後、2026年4月の春季会合で、IMFは6月に予定されていた13億ドル分の拠出も実行しないことを明確にした。バングラデシュ政府も条件の厳しさを理由にプログラムの離脱を決定しており、現在の厳しい経済状況に合わせ、新たに40億?45億ドル規模のプログラム実施を求めている。
13日、チョードリー財務相はIMFのミッションとの対話を終えた後に、IMFが新プログラムに向けた基本枠組みに合意したと発表。2026年9月または10月に開催されるIMF・世界銀行年次総会の後に、新たな融資額や詳細な条件に関する正式な交渉が開始される見通しである。
他方で、財政・銀行セクター改革については未だIMFとバングラデシュ当局との間で認識の乖離が大きい。財政面では、歳入拡大策の進捗が遅いことに対し、IMF側が不満を示していた。バングラデシュの歳入の対GDP比は8.3%と、インド(20.5%)やパキスタン(12.7%)と比べても相当低い水準に留まっている(IMF)。IMF側はこれまでのプログラムで、単一の付加価値税(VAT)税率の導入や税制上の減税・免税措置縮小などを要求してきた。これら政策は短期的には国民の可処分所得低下に繋がるため、ハシナ前政権や暫定政権は政治的不満拡大を恐れて政策実施を躊躇してきた。銀行セクターに関しては、同国ではこれまでに銀行のガバナンスの杜撰さも要因となり、2025年12月時点での不良債権比率が30.6%と高い水準に留まっている。IMFはこれまで、不良債権処理や銀行の破綻処理実施を求めてきた。他方でバングラデシュ当局側は、銀行の自己資本が減少することで民間部門向け融資の停滞に繋がることを懸念し、これまでは不良債権処理に躊躇してきた。これらの課題を解消できない限り、新プログラムの履行も困難となると見込まれる。なおバングラデシュ政府は、今年度の税収目標を6兆4,000億タカと前年度比で約64%増やすことを目指しているが、主要財源である法人税・付加価値税の税率引き上げは予定されていない。脱税取締など徴税強化策のみで本目標を達成できるか疑問が残る。 - [ブラジル、バイオ燃料強化]ブラジル政府の国家エネルギー政策評議会(CNPE)が、燃料価格の安定化や輸入燃料への依存低減を目的とした複数の政策を承認した。今回の決定の中心は、ガソリンへのエタノール混合比率の引き上げで、従来30%だったエタノールの混合率を32%へ引き上げることが決定された。この措置は180日間の時限措置として導入されるが、必要に応じて延長される可能性がある。政府は、この変更によって年間約9億リットルのガソリン輸入を削減できると見込んでおり、国際原油価格の変動による影響を和らげる効果も期待している。
ブラジルでは、主にサトウキビからエタノールが生産されており、エタノール生産業界にとって、この決定は大きな追い風となり、国内市場での生産拡大や投資促進が見込まれる。2024年に成立した法律では、ガソリンへのエタノール混合率を最大35%まで引き上げることが認められているため、今回の32%への引き上げは将来的なさらなる拡大への通過点とみる向きもある。
一方で、バイオディーゼル市場に関しても重要な決定が下され、ディーゼル燃料への混合に使用されるバイオディーゼルは、今後、ブラジルの燃料規制当局であるANP(国家石油・天然ガス・バイオ燃料庁)の認可を受けた国内工場からのみ調達できることになり、輸入品の使用が認められなくなる。
バイオディーゼルは大豆油や牛脂などから製造されているが、政府は、国内の生産能力だけで需要を十分に満たせると説明している。この措置は国内産業の保護を目的としているが、燃料輸入業者や流通業者、ガソリンスタンド関係者からは反発の声も上がっている。市場競争の縮小や価格上昇につながる可能性を懸念する意見も少なくない。
また、政府は燃料の品質管理強化にも乗り出した。新たな決議では、ガソリンスタンドにおける燃料の不正混合や品質偽装への対策を国家的な優先課題と位置付けている。ANPだけでなく、検察当局、警察、消費者保護機関、計量検査機関などが連携し、違法行為の取り締まりを強化する方針である。さらに、電子的な記録管理システムの導入や検査体制の強化も進められる予定である。
加えて、政府内ではガソリンに対する連邦補助金の廃止も検討されている。ただし、この判断はCNPEではなく財務省が担当しており、今後の国際原油価格の動向が大きく影響するとみられる。 - [米国/CPI上昇率の鈍化]労働省によると、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.5%だった。上昇率は5月(+4.2%)から鈍化し、市場予想(+3.8%)を下回った。ただし、中東紛争前の1~2月(+2.4%)を依然として上回っている。また、物価の基調を表す食品とエネルギーを除く、いわゆるコア指数は+2.6%となり、5月(+2.9%)から鈍化した。これは、1~2月の上昇率(+2.5%)に近づいた。
足元の変化を表す前月比で、6月の消費者物価指数(CPI)を見ると▲0.4%であり、2024年6月(▲0.0%)以来のマイナスになった。中東情勢の緊張の緩和などから、ガソリン価格が一時期から低下したことなどが、足元の物価上昇ペースの減速につながった。
内訳をみると、食品(前月比+0.2%)は5月と同じ伸び率だった一方で、エネルギー(▲5.7%)や財(▲0.1%)は低下し、サービス(0.0%)は横ばいだった。エネルギーでは、ガソリン(▲9.7%)や電気代(▲1.0%)が低下した影響が大きかった。また、財では、新車(0.0%)が横ばいだったのに対して、中古車・トラック(▲0.2%)や衣服(▲0.6%)が低下した。サービスでは、家賃(+0.1%)が上昇した一方で、医療サービス(▲0.1%)や輸送サービス(▲0.3%)が低下した。
ただし、前年同月比の伸び率で見ると、ガソリンは+26.7%と2桁増であり、エネルギー全体でも+15.7%と、まだ上昇率は大きい。エネルギーを起点とした物価上昇圧力は大きなまま残っている。
6月の消費者物価指数を踏まえると、利上げの必要性はやや低下したと市場では受け止められている。しかし、これは過去の話にすぎない。足元では米国やイランが再びホルムズ海峡の封鎖を表明しており、エネルギー価格は上昇する動きも見せている。そのため、7月以降の物価上昇率が連邦準備理事会(FRB)の目標である2%に向けて縮小していくとは想定し難いことも事実だろう。
- [ホルムズ危機が迫る供給網の見直し]ホルムズ海峡を巡る緊張は、石油・LNGだけでなく、アルミ、硫黄、肥料などを含む幅広いコモディティの供給網に影響を及ぼしている。7月に入り、米国とイランの停戦合意が崩れたことで、同地域を航行する船舶に対する戦争危険保険料も大幅に上昇しているとされる。Bloombergは「リスクは石油をはるかに超えて広がっている」と指摘。企業の危機対応は供給停止への備えから、サプライチェーン再構築の段階へ移りつつあり、企業が高コストを受け入れながら物流や調達先の見直しを進める事例が多く報道されている。
例えば、湾岸のアルミ製錬所は従来、原料のアルミナをホルムズ海峡経由で輸入していたが、平時の「バルク船→製錬所近郊港→サイロ・コンベヤ」による専用物流に代え、ホルムズ海峡外のオマーンやフジャイラなどで袋詰めアルミナを荷揚げし、トラックで製錬所へ運ぶ迂回ルートの構築が進んでいる。Kplerによると、袋詰めや陸送などにより追加コストは1トン当たり100~160ドルと、アルミナ価格の3~5割にも達するが、高水準のアルミ価格がこれを吸収している。
一方、硫黄は物流だけでは解決できない課題を抱える。S&P Globalによると、世界の海上ドライバルク肥料輸送量は2026年Q2に前年比20%減少し、主因となった硫黄輸送は47%減となった。ホルムズ海峡再開後も増加したのは滞留船の解消が中心で、新規積み込みは低調だ。硫黄は石油・ガスの脱硫工程で生産される副産物であり、湾岸設備の正常化が遅れる限り、供給回復も限定的となる。さらにロシアの輸出停止延長や中国の硫酸輸出停止も重なり、インドネシアのHPALニッケルやチリのSX-EW銅など、硫酸を大量消費する産業への影響が広がっている。一方、ロンドン金属取引所(LME)が開催したウェビナーでは、中東産硫黄の代替案模索が加速していると指摘されており、黄鉄鉱や石膏を利用した代替原料、リサイクル、代替ルート模索などに言及されている。
ホルムズ危機は、物流混乱が短期的なものにとどまらないリスクを強く意識させた。「最適なサプライチェーン」から、「止めないためのサプライチェーン」への転換が始まっている。
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