- [OPEC月報が示す中東危機の衝撃]4月13日、OPECが月報を発表。地政学的事情には踏み込まずに実績値を淡々と説明しているが、数値そのものは中東危機によるエネルギーショックの大きさを物語っている。
3月のOPEC産油量は前月比で日量▲788万バレルの日量2,079万バレル。OPECバスケット価格は前月比48.46ドル高の平均116.36ドル/バレルに急騰。「一部制裁原油のフローが許可された」ことから、イラン・ヘビー原油の3月の平均価格は前月比57.51ドル上昇して124.1ドルとなった。IEA(国際エネルギー機関)加盟国は戦略備蓄の協調放出を実施している。
石油精製部門では、近年の製油所閉鎖や定期メンテナンス、中東の混乱、原油不足によるアジアの稼働低下など、供給制約が顕在化している。3月の原油処理量は前月比日量▲500万バレルの同7,710万バレルと、コロナパンデミック以来の落ち込みとなり、精製マージンは世界的に急騰した。中間留分(ディーゼル・ジェット燃料)クラックは数年来の高値で、米国湾岸(USGC)で前月比+150%、欧州ロッテルダムで+333.7%(低水準からの急騰)、シンガポールは約4倍。アジアでは中東の供給混乱を受けて大規模な稼働抑制が発生し、ナフサ不足により石油化学部門も減産。欧州ではジェット燃料やディーゼル輸入が滞り、在庫が減少している。
2026年2月時点でOECD(経済協力開発機構)加盟国の商業在庫は原油が前月比で増加、製品が減少していた。4月に製油所の定修ピークを迎え、夏のドライブシーズンを迎えることから、石油製品の需給バランスはさらに引き締まる見通し。
先物市場では、ICE(インターコンチネンタル取引所)上場のブレント先物の第1限月と第6限月の差が一時35ドルにも達し、3月平均でも17.37ドルもの大幅な逆鞘となった。投資家は短期的な供給逼迫を価格に織り込んでいる。一方、現物と先物の価格も大きな乖離が生じており、アジアや欧州の製油所が高値でも現物確保を優先。それはタンカー運賃高騰や航路の変化など物流面にも波及している。
OPECは一連の混乱の「影響は一時的」だとして、2026年第2四半期の需要を下方修正しつつも通年見通しを据え置き、2026年の世界成長率も3.1%のまま維持している。しかし足元では、アジアでの原料不足による欠品・工場減産や欧州での航空燃料不足などが顕在化しており、次号以降で「混乱は一時的」の認識が修正を迫られるかが注目される。
- [ロシア・インドネシア首脳会談]4月13日、インドネシアのプラボウォ大統領がモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した。プラボウォ氏は2025年6月と12月にもロシアを訪問している。両首脳は今回、戦略的パートナーシップの深化、エネルギー安全保障、ロシア産原油・石油製品の供給を中心に協議した。
中東情勢の不安定化やホルムズ海峡リスクを背景に、同国は原油供給の多角化を急いでいる。同国の原油生産は長期的に減少しており、需要の約3分の2を輸入に依存している。ロシア産エネルギーの対インドネシア輸出は拡大しているものの、全体需要に占める比率は依然として限定的である。
一方、2025年の両国貿易額は約48億ドルと、過去7年で拡大している。ロシアは石炭・肥料・穀物を主に輸出している。エネルギー分野を軸に、経済関係全体の底上げを図る動きと位置付けられる。
- [EU/新たな鉄鋼規制案]4月13日、EU理事会と欧州議会は、世界的な鉄鋼の過剰生産能力からEUの鉄鋼市場を保護するための新たな規制案について暫定合意に達した。新規則は、2026年6月30日に失効予定の現行のセーフガード措置に代わるもの。
新たな枠組みとして、関税割当制度の大幅な改定が行われた。無関税の輸入枠を2024年のセーフガード枠と比較して約47%削減し、年間1,830万トンに制限する。さらに、枠外輸入に対する関税率を現行の25%から50%へと引き上げることとされている。制度の柔軟性として、初年度は全品目で未使用の輸入枠を翌四半期へ繰り越すことが認められ、2年目以降については欧州委員会が市場の状況に応じて四半期ごとの繰越可否を判断するとしている。
また、迂回輸入を防止し追跡可能性を高めるため、鉄鋼が最初に溶融・鋳造された国を特定する「メルト・アンド・ポア」要件が導入される。そのほか、ロシア産鉄鋼輸入の段階的廃止なども盛り込まれた。
EUの鉄鋼産業は経済、グリーン移行、防衛において戦略的に重要なセクターであり、約30万人の雇用を支えている。しかし、世界の過剰生産能力は2027年までに7億2,100万トン(EU年間消費量の5倍以上)に達すると予測されており、2007年以降、EUでは約10万人の雇用と6,500万トンの生産能力が失われてきた。この合意は、WTOルールなどの国際的な貿易義務との適合性を保ちながら、深刻な輸入圧力からサプライチェーンを効果的に守り、公正な競争の維持と脱炭素化に向けた長期的な投資能力を確保するという極めて重要な意義を持っているとされている。
今後の流れとして、この暫定合意は理事会および欧州議会による正式な承認を受ける必要がある。両機関で正式に採択された後、2026年7月1日から新規則の適用が開始される予定。4月13日、EU理事会と欧州議会は、世界的な鉄鋼の過剰生産能力からEUの鉄鋼市場を保護するための新たな規制案について暫定合意に達した。新規則は、2026年6月30日に失効予定の現行のセーフガード措置に代わるもの。
- [イラク/大統領選出]イラクでは2025年11月の議会選挙後、政治的膠着状態が続いていたが、4月11日、議会はニザール・アミディ氏(58)を大統領に選出した。憲法上は新議会初会期から30日以内、すなわち1月末までに大統領を選出する必要があったが、政党間、とりわけクルド系政党間の対立により投票は度重なる延期を余儀なくされた。背景には、クルディスタン地域政府(KRG)における政権発足の遅れもあり、KRG内の政治的停滞や権力争いが中央政治にも影響し、大統領選出に必要な合意形成を困難にしていた。こうした状況下、政治空白への懸念が高まり、議長が3月末に議会開催を決定したことで、選出に至ったものである。
大統領選出は議会の3分の2の賛成を要するが、第1回投票では必要票数に達する候補が出ず、決選投票に移行した。アミディ氏は第1回で首位に立ち、決選投票では227票を獲得して当選した。一部会派のボイコットはあったものの、選挙の成立を妨げる規模には至らなかった。これにより、2003年の体制転換以降6人目の大統領が誕生し、翌4月12日には正式に就任式が行われ、ラシード前大統領からの引継ぎが行われた。
アミディ氏はクルディスタン愛国連合(PUK)の幹部であり、これまで歴代大統領の補佐官や秘書を歴任するなど、大統領府中枢で長年経験を積んできた実務家である。バグダッドとクルド地域の双方にまたがる経歴を持ち、対立勢力間の調整役として評価されてきた。環境相時代には水不足や気候問題を国家安全保障の課題として位置付け、国際舞台でも発信力を発揮した。就任後は「イラク第一」を掲げ、国内の安定と協調を重視する姿勢を示している。
もっとも、イラク政治において大統領の役割は主に儀礼的であり、今後の焦点は首相選出に移っている。宗派間の権力分担制度の下、首相はシーア派から選出されるが、最大会派である「調整枠組み」は依然として候補を一本化できていない。マリキ元首相の再登板を巡る駆け引きや米国の圧力も影響し、複数の有力候補が並立する状況である。議会からは4月26日までに候補指名が求められており、指名後30日以内に組閣と信任を得る必要がある。大統領選出によって一応の政治的停滞は解消されたものの、政権発足に向けた調整は依然として難航が予想される。
- [南部アフリカ/鉱物生産影響]中東情勢の緊迫化は、サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)の中でも石油の中東輸入依存度が高い東アフリカに大きな影響を及ぼしているが(SCGR調査レポート:「緊迫続くイラン情勢とアフリカへの影響:(1)東アフリカ」参照)、その影響は南部アフリカ各国にも拡大している。
南部アフリカの経済の中心である南アフリカでは、政府がガソリン製品の値上げを相殺するために1か月間にわたり燃料税の引き下げを発表した。ジンバブエやナミビアでも燃料税を引き下げた。そして内陸国であるザンビアは、ガソリン輸送のためにガソリンを使用していることから世界的な油価高騰による価格転嫁の影響が大きくなる。そのため政府は4月上旬から3か月間にわたり、ガソリン購入にかかる付加価値税(VAT)をゼロにすると発表。また、ガソリンとディーゼル燃料に課されていた物品税を一時的に撤廃した、国民生活の混乱拡大を食い止めようとしている。(4月13日付、Africa Report紙)。
そして世界的な銅・コバルト産地であるカッパーベルトを有するザンビアと、隣国コンゴ民主共和国(DRC)は、油価高騰と硫黄/硫酸の不足という2つの打撃を受けている。ザンビアは総輸入額の19%を石油が占め、最大の輸入品目である(2024年、国連貿易統計)。アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸諸国からの輸入が約45%を占めており、ホルムズ海峡閉鎖が長期化すれば供給のさらなる逼迫が予想される。DRCも石油輸入は全体の35%を占め、中東からの輸入依存度が約5割と高い。したがって、ガソリン価格が高騰を続ければ、現在ザンビア・DRCで産出・精製される銅・コバルト製品・鉱石の輸出に使用される貨物自動車の燃料コスト増となる。主な銅山から主要な積出港であるタンザニアのダルエスサラーム港までは1,700km以上離れていることから、輸送にかかる燃料費の増加は鉱山の経営を圧迫しかねない。
また、もう一つの懸念材料は、主に酸化銅から粗銅を溶解・抽出するために必要となる硫酸の原料となる硫黄の不足だ。石油や天然ガスの精製の際に副産物して回収される硫黄は、UAEやカタールなどの湾岸諸国が世界の生産量の約24%を占めている(米・アトランティックカウンシル)。しかし、石油・ガス精製施設への攻撃やホルムズ海峡封鎖により、世界の硫黄価格は70%以上上昇している。特にDRCは酸化銅の割合が多いことから、硫化銅の割合が多いザンビアより銅の抽出において大量の硫黄・硫酸を必要とする。DRC全体の輸入で石油に次いで輸入額が大きい品目はまさに硫黄(3.5%)であり、その約85%を湾岸諸国から輸入していたため(2024年、国連貿易統計)銅や、その副産物のコバルト生産や供給にも影響を及ぼしかねない。ザンビアの硫化銅の溶解・抽出時に副産物として回収される硫黄は多くがザンビア国内の銅山で硫酸として加工されているが、国内で産出される酸化銅などに使用されており、DRCへの輸出余力は大きくない。ザンビアは硫黄・硫酸の国内確保を優先すべく、中東情勢緊迫後の2026年3月27日に硫酸の輸出許可制を開始。ザンビアの硫酸輸出のほぼ全量がDRC向けであることから、大規模な硫酸生産施設を持つDRCのカモア・カクラ銅・コバルト鉱山(カナダ・アイバンホー、中国紫金鉱業、DRC政府が所有)以外の鉱山は影響が大きいとの見方もある。DRCの輸出全体の約9割弱が銅・コバルト製品に関するものであり、その大部分が世界の製造業の中心となっている中国向けであることから、世界のサプライチェーンにも今後影響を及ぼす可能性もある。
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