- [米国/物価上昇率の拡大]労働省によると、4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.8%となり、3月(+3.3%)から上昇率を拡大させた。市場予想(+3.7%)を小幅に上回った。上昇率は、中東紛争前の1~2月の2%台前半(ともに+2.4%)から1ポイント以上拡大しており、足元では2023年5月以来の高い伸び率になった。また、物価の基調を表す食品とエネルギーを除くいわゆるコア指数は+2.8%であり、これも3月(+2.6%)から拡大した。1~2月(+2.5%)に比べると、物価の基調もやや強まっている。
内訳を見ると、エネルギー(+17.9%)の上昇が目立った。特にガソリン(+28.4%)や燃料油(+54.3%)が大幅に上昇した。また、電気代(+6.1%)やガス代(+3.0%)もじわりと上昇している。その他では、食品(+3.6%)や財(+1.1%)、サービス(+3.3%)も上昇している。サービス価格では、燃料サーチャージの影響もあって、航空料金(+20.7%)は2桁増になった。
物価上昇率が一段と拡大した一方で、雇用環境が底堅く推移している現状を踏まえると、市場では政策金利が当面据え置かれるという見方が広がっている。コロナ禍後、物価上昇率が2%目標から乖離した状況が継続していることもあり、物価の安定により注力する状況になっているためだ。経済環境を踏まえれば、政策金利の据え置きが妥当な判断とみられる一方で、トランプ大統領はこれまで繰り返し利下げを求め、パウエルFRB議長を批判してきたこともあり、近く議長就任も承認される見通しのウォーシュFRB理事は次回6月会合で難しい状対応に迫られるだろう。
- [農産物需給報告と小麦サプライズ]米国農務省が5月に公表する「世界農産物需給報告」(WASDE)は、新穀年度の需給予測の初回報告となる重要回。2026年5月は一言で言えば「小麦ショック」ともいえる内容だった。市場の反応も極めて大きく、5月12日のシカゴ農産物先物市場では大豆・トウモロコシが2%程度の上昇にとどまったのに対し、シカゴ小麦先物は前日比+7.1%高の1ブッシェル6.79ドル(中心限月:2026年7月限ベース)で取引を終えた。
米国では冬小麦産地で干ばつなどによる作柄不良が伝えられているが、米国農務省が示した2026/27年度の単収予測は1エーカーあたり32.9ブッシェル(前年度37.2ブッシェル)、収穫高は推定15億6,100万ブッシェル(前年度19億8,500万ブッシェル)と、前年水準や市場の事前予想を大きく下回った。
また小麦は産地が世界に分散しているが、2026/27年度は世界的に減産となり、米国の2割超もの減産を埋められる国がない。主要輸出国のロシア・EU・豪州・カナダ・アルゼンチン・ウクライナ・カザフスタンが軒並み前年比で減産となり、世界全体の収穫高は前年度を1,150万トン下回る8億1,900万トンと予想されている。
世界在庫水準自体は比較的高いが、在庫の「質」も問題となる。世界在庫の44%を占める中国は基本的に輸出を行わず、次いで在庫の多いインドやロシアは自国供給状況次第で輸出制限を行うことがあるため、市場で利用可能な輸出余力は見た目ほど大きくない可能性がある。
- [タジキスタン大統領、中国を国賓訪問]2026年5月11~14日に実施されたタジキスタンのラフモン大統領の訪中は、中国との経済関係を一段と深化させる重要な機会となった。訪問期間中、ラフモン大統領は北京で中国企業幹部らと会談し、インフラ、エネルギー、デジタル、農業など幅広い分野において協力拡大を協議した。その結果、両国企業間で50件以上の協力文書が締結され、総額約80億ドル規模の投資誘致で合意した。
同大統領は、タジキスタンの地理的優位性を強調し、中国と南アジア、中東を結ぶ輸送・エネルギー回廊の中核として自国を位置付けた。これにより、物流・電力インフラの整備を通じて地域連結性を高める戦略が改めて打ち出された。また、2025年に改正された投資法により、外資保護や手続き簡素化を進めている点もアピールし、投資環境の改善を強調した。
中国は既にタジキスタンにとって最大の経済パートナーとなっており、累計投資額は約60億ドル、国内では700社以上の中国企業が活動している。今回の訪中は、こうした関係をさらに強化するものとなり、同時に同国経済の対中依存を一段と高める可能性も示唆される。中央アジアにおける中国の影響力拡大の流れの中で、タジキスタンの位置付けが一層重要性を増している点が注目される。
- [イランがUAEを強く警戒する理由]イランが近年、湾岸諸国の中でも特にUAEへの警戒と批判を強めている背景には、UAEと米国・イスラエルとの急速な接近がある。2020年、UAEは米国仲介の「アブラハム合意」に署名し、イスラエルと国交を正常化した。以降、両国は軍事・情報分野で協力を拡大しており、イスラエル企業による防衛事業進出も進んでいる。さらに、イスラエルはUAEへ防空システム「アイアン・ドーム」を提供しており、ハッカビー米駐イスラエル大使は、同システムと運用要員がUAEに派遣されていることを公に認めている。こうした動きは「アブラハム合意」に基づく特別な安全保障協力の象徴と受け止められている。
加えて、UAE国内には米軍の重要拠点であるアル・ダフラ空軍基地が存在し、多数の米兵やレーダー・情報収集システムが配備されている。このためイランは、UAEを単なる湾岸の隣国ではなく、「米国・イスラエル陣営の前線拠点」とみなす傾向を強めている。
実際、イランの革命防衛隊(IRGC)系の司令部や議会関係者は、UAEを「敵対拠点」と公然と呼び、米国やイスラエルによる攻撃に協力した場合には「壊滅的な報復」を行うと警告している。一方、UAE側もイランによる攻撃や威嚇を非難し、イラン系企業や送金ネットワークへの規制強化、在留イラン人へのビザ制限などを進めている。
もっとも、湾岸諸国の中には、イランとの全面対立には慎重な姿勢を維持する国も少なくない。サウジアラビアなどは、イスラエルとイランの対立に湾岸諸国が巻き込まれれば、地域全体が破滅的な戦争に陥ると警告している。現在の中東情勢でにおいて、UAEが「親米・親イスラエル路線」を最も鮮明に打ち出す湾岸国家の一つとなっていることが、イランの強い警戒感を招く最大の要因となっている。
- [南アフリカ/外国人排斥運動]5月12日、南アフリカ(南ア)内務省は、難民申請を却下された外国人は再申請できないとの憲法裁判所の判決について、「難民制度の悪用に対する勝利だ」と声明を発表した。経済の低迷や失業の増加などを背景に、南アではここ数か月でアフリカ系の移民・難民に対する排斥運動(ゼノフォビア)が過熱している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2025年時点では南アには16万7千人以上の難民および庇護申請者がおり、出身地の大部分はブルンジ、コンゴ民主共和国、ジンバブエなどのアフリカ諸国が占めている。過去30年近く続いた最大政党「アフリカ民族会議(ANC)」単独政権下では、国境管理の甘さや内務省・警察等の汚職が進み、実際には難民ではない不法移民の流入も続いた。こうした外国人が南ア国内の職業機会や社会保障を不当に得ているとして、南ア国民による政府への不満につながっていた。そうした中で、2024年に連立政権(GNU)入りした「民主同盟(DA)」出身のレオン・シュレイバー内相は、自身が内務省を改革した成果としてアピールするために、今回の憲法裁判所の判決を称賛しているとみられる。
南アではこれまでも度々外国人排斥運動が繰り返されてきたが、3月に南ア在住ナイジェリア人がイボ族(ナイジェリア3大民族のひとつ)の「王」として戴冠式を行ったとのSNSに対して、「外国人が南アを統治しようとしている」との批判が殺到。4月末には最大都市ヨハネスブルグでも1,000人規模の抗議活動が行われた。抗議活動は、不法移民の国外退去を求める政党「アクションSA」や活動家グループ「マーチ・アンド・マーチ」などが主導しており、外国人排斥運動は政治色を強めている。この抗議活動を受けて、ナイジェリア政府は南ア政府を外交的に非難するとともに、希望する在南ア・ナイジェリア国民を帰還させると発表。また、ガーナや、国連も南ア国内における外国人に対する人権侵害の疑いに懸念を表明する事態となっている。
南ア政府は、外国人を攻撃したように装う「フェイクニュース」が拡散しているとして、各国政府や自国民に冷静さを保つよう促しているが、11月に5年ぶりに実施される統一地方選における投票活動の焦点の一つとなる可能性がある。
- [アジア大洋州/エルニーニョ現象の影響]4月24日、世界気象機関(WMO)は、2026年半ば(5~7月)頃からエルニーニョ現象が発達する可能性が高いと予測している。通常、エルニーニョ現象は2年から7年ごとに発生し、約9ヶ月から12ヶ月続く。前回は23年春から24年春にかけて発生した。なお一部の専門家は、太平洋の表面海水温が平均より少なくとも2℃上回るなど特に気象への影響が顕著となる「スーパー・エルニーニョ」が発生する可能性を指摘している。
エルニーニョの影響により、アジアの多くの地域で平年より高温で乾燥した天候になると予想される。例えばインドや東南アジア、オーストラリアでは多くの地域で夏の降雨量が平年の水準を下回る可能性が高いと指摘されている。これにより、農作物の収穫量が減少し、ひいてはコモディティ市場にも影響が波及することには留意が必要である。例えばインドでは米、綿花、大豆など夏に収穫される農作物の収穫量減少に加え、土壌水分の減少により小麦・ナタネなど冬作物にも悪影響が及ぶと懸念されている。特にインドの米の生産量は世界第1位(国別シェアは28%)・世界の輸出量に占めるシェアは約3割と世界最大の輸出国である。米の生産量全体のうち約4割に関しては、モンスーンの時期に合わせて毎月6~8月に作付を実施・10~翌年1月にかけて収穫している。エルニーニョ現象により6~8月の降雨量が減少する場合、作付した稲が十分に育たず、収穫量も減少することが懸念される。
これら農作物の収穫量低下は自国の食料インフレ・食料不足に加え、輸出規制などの国内供給優先策を通じて二次的にコモディティ市場にも影響を及ぼしかねない。2023年にインドは、豪雨による稲作被害による米の不作と国内供給優先を理由に白米の輸出を禁止した。これにより、2023年8月の国連食糧機関(FAO)のコメ価格指数が15年ぶりの高水準を記録するなど、米の市況価格が混乱した。足元ではイラン情勢激化により尿素の主要輸出国であるカタールからの輸出量が激減したことでアジア各国にて肥料価格が高騰しているほか、肥料の供給量自体が減少している。そのような中でエルニーニョ現象により降雨量が減少する場合は、食料供給減少・食料品価格高騰を加速させかねない。
また降雨量減少による水力発電量減少・冷房の使用増加が電力需給を逼迫し、経済活動停滞に繋がることも懸念される。特にラオス・ベトナム・カンボジアなどメコン川流域の国々は電力供給全体(発電量ベース)に占める水力発電の割合が3割を超えている。2023年にはエルニーニョ現象による猛暑と降雨量の減少により、ベトナム北部の水力発電所においてダムの水位が低下し、稼働率が20%台まで低下した。これを受け、ベトナム電力公社はハノイ近郊の工業団地に電力使用量の50%削減を要請するなど、経済活動への影響も顕在化した。
- [アルゼンチン民営化の現状]ミレイ大統領は、2023年12月の就任以来、国家の役割を大幅に縮小し、経済分野を民間に委ねることを主要な改革方針として掲げ、国営企業の大規模な民営化計画を打ち出した。大統領は、公営企業は腐敗や非効率の温床となり、財政を圧迫していると主張し、民間部門の活力を引き出すためには国家の関与を減らすべきと主張する。
しかし、当初意図された民営化は、現時点ではほとんど進展していない。議会は一部の民営化を承認したものの、実際の成果は小さい。最大の要因は経済環境であり、景気回復は不均一で、マクロ経済の安定性に強い不確実性が残っている。この状況は、国内外の投資家にとって魅力的とは言い難く、特に老朽化が進んだインフラ分野では多額の初期投資が必要となるため、参入のハードルが高い。さらに、将来の政権が過去と同様に民営化を撤回する可能性も否定できず、長期投資を判断するうえでの不確実性となっている。
2024年に承認された、「経済再建・自由化に向けた基本法」には多くの構造改革が盛り込まれ、その中に民営化対象企業の規定も含まれていた。当初は約44の国有企業が対象とされる予定であったが、議会交渉の結果、最終的に認められたのは8社にとどまった。国営石油会社YPF、アルゼンチン航空、アルゼンチン国営銀行、国営メディアといった基幹企業は対象から外された。基本法では、完全民営化だけでなく、部分的な民営化や、公共サービスの運営を民間に委ねる譲許方式も認められたものの、各分野には固有の課題が存在する。これまで国営分野ゆえに守られると同時に、補助金により国民の負担が大幅に軽減されていた分野が多く、民営化により価格が高騰すれば、国民の反発を招きかねない。エネルギー分野では、すでに政府は、補助金を廃止し、電気・ガス料金の大幅な引き上げがおこなわれ、道路や高速道路においても、補助金廃止と引き換えに通行料の引き上げが想定されている。また、鉄道では、民営化に先立ち運賃が引き上げられた。これら料金の引き上げは、緊縮財政であるとともに、民営化された際の地ならしの意味合いもあるとみられる。
今後については、ミレイ大統領は、前回否決された企業においても再び民営化に挑む姿勢を崩しておらず、先日打ち出したSUPER RIGI構想など、企業の投資を呼び込む施策で民営化を進展させる考えであるが、マクロ経済の安定確保と、投資家にとって予見可能で信頼できる制度設計を示せるかどうかが今後の進を左右すると考えられる。
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