- [原油価格伸び悩みの背景]中東地域の地政学的緊張が続き、世界の石油在庫が急速に取り崩されているにもかかわらず、原油価格が1バレル100ドルを超えない現状についての「謎解き」が活発に行われている。理由の一つは純粋なファンダメンタルズだけでなく、ブレント原油先物市場の総取組高減少が示すように、不確実性の高まりによる投機資金の退出や他市場への資金シフトにあるとみられる。また、トランスポンダー(船舶自動識別装置)を切ってホルムズ海峡を通航したり、海上で船から船へ貨物を移すSTS(Ship-to-Ship)を行ったりすることで、実際にはホルムズ海峡から日量200万バレルを超える石油が供給されているとの指摘もある。イランの戦争開始前よりは大幅に減少しているが、それでも船舶通航データが示すよりは多い。
需要面では、中国の需要減少を巡る議論が活発化している。中国の原油輸入量は4月に前年同月比▲20%急減したのに続き、5月も同▲29%減少して日量780万バレルとなり、8年ぶりの低水準を記録した。
ロイター通信は6月11日付の記事で、中国の石油需要に構造的な変化が生じている可能性を指摘している。中国では近年、電気自動車(EV)やハイブリッド車の普及に加え、鉄道や都市交通の電化が進展。4月のEV充電回数は前年同月比69%増と過去最高を更新したほか、鉄道利用も前年を上回って推移した。中国石油化工(Sinopec)のガソリン・軽油販売量も前年を下回っており、燃料価格上昇を受けて消費者や企業が石油依存度の低い交通手段へ移行している可能性がある。
新型コロナ禍における燃料需要減少は移動制限によるものだったが、今回は消費者や企業が自発的に行動を変えている点が異なる。中国は世界最大の原油輸入国であり、この変化が定着すれば世界の石油需要見通しにも影響を及ぼし得る。市場では、中国の需要減少が景気低迷に伴う一時的な現象なのか、それとも電動化の進展による構造変化なのかを見極めようとする動きが強まっている。
- [米国/中央アジア]6月10~11日、カザフスタンのアスタナで米国と中央アジア5か国(C5+1)による「重要鉱物対話(Critical Minerals Dialogue)」が開催された。この会合は、レアアースやリチウム、ウラン、タングステンなどの戦略鉱物の開発・加工・輸送をめぐる協力を具体化するものであり、米国の対中央アジア政策が新たな段階に入ったことを示す重要な機会となった。会議では、地質探査の高度化、採掘・精錬能力の整備、サプライチェーンの構築を柱とする協力ロードマップの実施が確認された。米国側は単なる資源調達にとどまらず、精錬施設や加工産業、人材育成への投資拡大を打ち出し、中央アジア諸国を世界的な重要鉱物供給網へ組み込む方針を示した。特にカザフスタンは豊富な鉱物資源を背景に、採掘から加工、輸送までを担う地域ハブとしての役割を強調した。また、資源輸送ルートとして、中国やロシアを経由しない「中回廊(Middle Corridor)」の活用も重要なテーマとなり、欧州市場へのアクセス強化が議論された。こうした流れをさらに加速させるものとして注目されているのが、2026年後半に予定されるマルコ・ルビオ国務長官の中央アジア歴訪である。訪問では重要鉱物協力の具体化に加え、中回廊整備、投資促進、安全保障協力などが主要議題となる見通しだ。もし実現すれば、米国の高官による同地域への本格的な関与を象徴する訪問となり、中央アジアを中国・ロシアとの地政学的競争の場としてだけでなく、世界の重要鉱物供給網を支える戦略的パートナーとして位置付ける米国の姿勢を鮮明にすることになる。
- [米国・イラン/トランプ大統領が攻撃停止を発表]今週の米イラン情勢は、軍事衝突の拡大懸念から一転し、外交的解決に向けた動きが急速に強まる展開となった。米軍は6月9日と10日、イラン国内のレーダー施設や防空システムなどを標的に空爆を実施した。トランプ大統領は当初、6月11日夜にも3日連続となる大規模攻撃を実施すると予告し、「イランを極めて激しく攻撃する」と繰り返し警告していた。さらに、自身のSNSでは、イランの石油輸出拠点であるカーグ島やその他のエネルギー施設を制圧する可能性にも言及しており、市場では軍事衝突のさらなる激化が懸念されていた。
しかし、その後情勢は大きく転換した。トランプ大統領は自身のSNSで、「イランとの協議が最高指導部に持ち込まれ、承認された」として、6月11日夜に予定していた空爆を直前で中止したと発表した。さらに、戦闘終結に向けた合意文書が数日以内に署名される可能性が高いとし、週末にも欧州で署名式が行われるとの見通しを示した。トランプ氏によれば、イランは核兵器を保有しないことに同意し、ホルムズ海峡も署名後に再開される見込みだという。一方で、米国による海上封鎖措置については、合意が正式に成立するまで継続すると表明した。
合意の具体的な内容は依然として不透明だが、報道によれば、主な論点は①イランの凍結資産の解除、②ホルムズ海峡の再開、③イラン核開発問題を巡る今後の交渉の進め方の3点とされる。米国とイランの間でこれらの隔たりが大きく縮まったことが、今回の進展の背景にあるとみられている。また、イスラエルに対しては、最終合意に濃縮ウランの撤去、ミサイル生産の制限、親イラン武装組織への支援停止が盛り込まれるとの説明がなされたと報じられている。
ただし、合意成立を断定するにはなお慎重な見方が必要である。イラン政府は「最終決定は下されていない」としてトランプ氏の発言に反論しており、最高指導者モジタバ・ハメネイ師による正式承認も確認されていない。イラン側は原則合意の存在を示唆しつつも、米国が圧力によって譲歩を引き出したとの見方を否定している。ユーラシア・グループなどは合意成立の可能性を高く見ているものの、依然として交渉決裂や米軍による空爆再開のリスクは残ると分析している。今後数日以内に予定される合意文書への署名の有無が、ホルムズ海峡の再開や米イラン関係の安定化を占う重要な分岐点となる。市場もこれを好感しており、原油価格は下落し、米国株式市場も上昇するなど、緊張緩和への期待が広がっている。
- [ナミビア/IMF見通し]6月11日、国際通貨基金(IMF)はナミビアとの4条協議に基づくスタッフレポートにおいて2025年の実質GDP成長率は1.7%に鈍化したと発表した。2026年の成長率は2.1%に回復するとの見通しを示したが、4月時点の予測から0.3pt下方修正した。IMFは、ナミビアの輸出の約13%(2025年、国連貿易統計)を占める天然ダイヤモンド価格下落による生産減のほか、金の生産減、燃料価格の高止まりが成長を抑制していると指摘した。中期的には好調なウラン生産(輸出の約20%)や2028年までに新規の金鉱山の開業により、潜在成長率の3%台に回復する見通しだが、天然ダイヤモンドのさらなる需要低迷や中東紛争による金融引き締めの可能性などを下振れリスクに挙げている。
またIMFは、2025/26年度の財政赤字が「南部アフリカ関税同盟(SACU)」からの収入(注)の急減により、対GDP比で▲6.4%に拡大したと指摘。これに伴い、公的債務は2031年までに政府が目標とする対GDP比66%を超える71%まで拡大する見通しであることから、GDP比で13.4%を占める公務員の人件費削減や、公務員向け医療支援制度(PESMAS)の改革など支出削減を推奨した。人口300万程度のナミビアには、電力公社Nampowerをはじめ70以上の国営企業(PE)がある。失業率が約37%(25年1月、ナミビア統計庁)と高止まりする中で、IMFは省庁およびPEの支出に対する監視強化に加え、民間セクターの開発を通じた雇用促進の必要性を訴えている。
ナミビアのインフレ率については中期的には3%程度で安定する見込みだが、そのためには現在、隣国・南アフリカランドとペッグしている通貨ナミビア・ドルの制度を維持し、南ア中銀の政策金利(7.00%)動向に適合することが不可欠だとしている。
IMFは上方リスクとして、沖合の深海油田の最終投資決定(FID)や、グリーン水素プロジェクトの進展を挙げているが、潜在的に巨額となる原油収入を適切に管理するための財政枠組みを確立することが重要だとしている。ナミビア政府は2024年に「国家上流石油ローカルコンテンツ法」を閣議承認した。同法では資源メジャーがナミビア国内企業と契約を結ぶことや、ナミビア人技術者の雇用・教育を行うことなどが定められている。
(注)南アフリカ、ナミビア、ボツワナ、エスワティニ、レソトの5か国が加盟。加盟国内で得られた関税収入は共通の徴収プールに収められた後、各加盟国政府に分配される。ナミビアの国家歳入の約2割強を占める貴重な税収。
- [バングラデシュ/予算案]6月11日、アミル・チョウドリ―財務大臣は議会で2027年度(2026年7月~2027年6月)の予算案を公表した。予算規模は9兆3,800億タカ(日本円で約12.3兆円)。2025年度からは、約19%の増額となる。GDP比は13.7%。支出項目に関し、教育・保健など人的資本に関する予算が全体で2兆7,900億タカと予算全体の約3割を占める。次いで、治安維持などの行政サービスが約25%、農業インフラ・交通インフラ支援などが約2割を占める。なお利払い費は全体の約14%程度となっている。予算案は今後、一院制の議会にて審議され、6月末には可決される見込み。
本予算案に関し、国内シンクタンクのエコノミストからは税収目標や予算の前提条件に対して疑問の声が上がっている。例えば税収に関しては、6兆4,000億タカと今年度より約64%も増加する計算になるが、税収の約4割を占める法人税については税率(20~27.5%)の据え置きが決定されているほか、同じく約4割を占める付加価値税も税率(15%)の引き上げは予定されていない。政府としては脱税取締りなどにより税収増加を目指すが、国家歳入庁のキャパシティ上、それが可能かという疑問が残る。また予算の前提となる実質GDP成長率は6.5%、インフレ率は7.5%と設定されているが、2025年度の実質GDP成長率は4.1%であった一方で、インフレ率は年度を通じて8%を上回り推移していた。足元ではイラン情勢による原油ガス価格高騰がインフレを進行させているため、今後インフレ率を引き下げるには中銀による金融引き締めを実施する必要がある。この場合、実質GDP成長率にも下押し圧力が加えられることが想定される。そのような中で実質GDP成長率が現時点の水準よりも2ポイント以上高い水準まで回復するかは不透明である。
他方で、今回予算案ではビジネス環境改善に繋がり得る各種措置も公表されており、エコノミストらからは一定の評価を得ている。法人税率の据え置きについては、財政健全化という観点からはネガティブに捉えられるが、他方で外資含めた企業からは事業の不確実性低下要因としてポジティブに捉えられている。加えて海外銀行からの融資から得られる受取利息に課していた源泉徴収税を20%から10%に引き下げることが決定されている。これにより、海外銀行による在バングラ現地法人向け融資の伸びも期待できる。貿易・物流面では、原材料を輸入し、保管・加工・製造・輸出ができる自由貿易地域(FTZ)を設立するための法的枠組みを関税法に新設することが決定した従来は輸出をアパレル製品・既製服に依存していた中で、今後輸出多角化・高付加価値化を進めるにあたり、まずは貿易・物流にかかるコストを下げることを目指している。
- [在中米国企業調査(USCBC・2026年版)]米中ビジネス評議会(USCBC)が、在中米国企業175社を対象に実施している調査の2026年版によれば、米中対立が長期化する中でも、中国は依然として多くの米国企業にとって重要な市場とみなされている。一方で、事業環境の悪化や政策リスクへの懸念は一段と強まっている。
回答企業の95%が「中国事業は世界市場での競争力維持に不可欠」とし、市場規模やサプライチェーン集積、研究開発(R&D)能力を高く評価した。また、中国で得た知見や収益がグローバル展開や米国内のR&D投資を支えているとの指摘も多かった。
他方、回答企業の86%が米中対立の影響を受けていると回答、政策の不確実性による売上減少や「米国製品離れ」が拡大している。72%の企業が関税の影響を受け、コスト吸収や価格転嫁で対応しているものの、生産の米国回帰は限定的で、関税政策の効果には懐疑的な見方が示された。
レアアースについては、2025年10月の米中合意後も許認可の不透明さや遅延が指摘され、36%の企業が影響を受けたと回答している。アクセス「良好」は25%にとどまり、約4分の3が中国以外からの調達を模索しているが、代替供給網の構築には時間を要し、中国の優位は当面維持される見通しである。
また、米国の輸出規制により61%の企業が中国企業への売上流出を経験したとしている。中国企業の技術力や市場適応力の向上も脅威とされ、シェア拡大が続くとの見方が多い。
中国経済については、内需不足や不動産不況などへの懸念がある一方、2025年に中国事業が黒字だった企業は92%と高水準である。ただし、国産優遇政策や税務調査の強化への不満は根強く、投資環境の改善を実感する企業は20%にとどまった。
- [ブラジル/議会歳出拡大求める]ブラジル上院はこの1週間で、政府に大幅な新規支出をさせる複数の法案を相次いで前進させている。内容は、総額で約3,860億レアル(約750億ドル、対GDP3.3%)規模の包括的な支出パッケージに加え、農業部門の債務再交渉や、医師や歯科医に対する月額最低給与の引き上げ(最低1万4,000レアル程度)、さらに地域の保健従事者に特別な早期退職制度を認める憲法改正案などで構成される。議会が急速に支出拡大へ踏み込んだ形となっている。
ブラジルの政治では、このような動きは「パウタボンバ(予算爆弾)」と呼ばれる。人気はあるが財源が裏付けられていない政策を意味し、可決されれば政府は資金の捻出か、既存の財政ルールの緩和・逸脱を迫られる。ルーラ政権は今回の一連の法案を、まさにこの「予算爆弾」に当たると批判し、財政規律が揺らぐ可能性を警告している。政府はこれまで市場に対して財政規律を遵守する管理能力を示そうとしてきたが、その信頼性が問われる状況になっている。
こうした支出拡大要求の背景には、単なる政策判断だけでなく政治的対立がある。特に、ルーラ大統領とアルコルンブレ上院議長との関係が緊張しており、上院の運営次第で政府の政策実現が左右される構図にある。上院側が政府の意向に反して大規模支出法案を通過させようとすることは、立法府の独立性と影響力を誇示する行動とも解釈される。
ブラジルの投資環境は、財政規律の信頼性に大きく依存していることから、この動きを市場も注視している。同国はインフレ抑制のため高金利政策を続けており、中央銀行は政策金利(セリック金利)を高水準に維持している。もし議会が財源を伴わない支出を拡大し続ければ、インフレ圧力や財政悪化への懸念から金利はさらに長期間高止まりする可能性がある。これは通貨レアルへの下押し圧力となり、株式や債券など資産価格にも直接影響を及ぼす。
さらに重要なのは、2026年が選挙年である点である。選挙が近づくと、議員は有権者に訴求しやすい支出政策を支持する傾向が強まる。そのため、今回のような支出拡大の動きは一時的なものではなく、今後も続く可能性がある。結果として、ブラジルの政治が財政規律を維持できるのか、それとも選挙を背景に緩んでいくのかが、国内外の投資家にとって重要な判断材料となっている。
なお、これらの法案はすべてが最終決定されたわけではなく、今後さらなる審議や修正を経る可能性がある。しかし今回の一連の動きは、ブラジルの財政運営をめぐる対立が激化していること、そして政府が想定するほどには支出をコントロールできていない可能性があることを、市場に強く印象づけた。
- [日本/法人企業景気予測調査(4~6月期)]6月11日、内閣府と財務省は4~6月期の法人企業景気予測調査を発表した。景気の現状と見通しを把握するため、企業を対象として、自社の景況、国内の景況、雇用、設備投資に関する現状と2四半期先までの見通しを四半期ごとに調査している。
今回、自社の景況判断指数(BSI、前四半期と比較しての「上昇」-「下降」社数構成比、%ポイント)について、大企業(資本金10億円以上、製造業・非製造業併せた全産業)で▲0.5と4四半期ぶりのマイナスとなった。前回1~3月期(2月15日時点)調査の4.4から中東情勢の影響を受け低下した。
大企業のうち、製造業の現状判断は▲1.8、非製造業は0.027となった。製造業でマイナスが大きいのは自動車・同附属品製造業で▲19.4、食料品製造業で▲7.4、非製造業では情報通信業で▲7.7、建設業で▲10.9。 先行きに関して、全産業で7~9月期は4.3、10~12月期は4.5と改善する見通し。
中堅企業(資本金1億円以上10億円未満)の現状判断は▲3.9、7~9月期は1.8、10~12月期は6.4。中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)の現状判断は▲17.6と低く、7~9月期は▲10.6、10~12月期は▲3.4とマイナス幅は縮小するものの、マイナスが続く見通し。
雇用に関しては大企業、中堅企業、中小企業すべてで、現状判断で不足気味、先の見通しでも不足気味が続く結果となった。 自社の生産や販売のための設備は、現状も先行きも、大企業から中小企業までいずれも不足。 2026年度における設備投資に関するスタンスは、大企業全産業で「維持更新」の重要度が最も高く、次いで「省力化合理化」、「生産(販売)能力の拡大」の順、中堅企業は「維持更新」の重要度が最も高く、中小企業は「生産(販売)能力の拡大」が最も高い。
- [ECB/利上げ]欧州中央銀行(ECB)は6月11日の理事会で、政策金利を0.25%引き上げることを決定した。中銀預金金利は2.25%、主要政策金利は2.40%、限界貸出金利は2.65%に引き上げられる。利上げは2023年9月以来、約3年ぶりであり、前回4月会合まで7会合連続で据え置いていた。声明文では、中東戦争が物価上昇圧力になっていると明記され、それらがユーロ圏経済・物価に中期的に及ぼす影響を想定した上で、利上げが正当化されると説明されている。
ラガルドECB総裁は、全会一致の決定で、何の留意もなく、他の代替案について議論も検討もしていないと述べた。? エネルギー価格が高止まりする期間が長いほど、間接・二次的な影響を通じて、広範な物価上昇の可能性が高まることが警戒されている。ただし、短期のインフレ期待は高まっているとは言え、中長期のインフレ期待は2%前後であり、物価上昇率の中期的な安定が示唆されている。また、賃金の設定などでも、現在のところ、上振れは見られていない。
声明文では、適切な金融政策姿勢を決定する際には、これまでと同様に、データ依存で会合ごとのアプローチに従うと明記された。市場では、追加利上げの実施が予想されているものの、次回会合では据え置きで、状況を判断するという見方も多い。
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