- [米中首脳会談]5月14日に北京で行われた米中首脳会談は、具体的成果という点では限定的だったものの、少なくとも米中間の緊張緩和の流れを維持したという意味では、双方にとって「消極的成功」と位置づけられる会談となった。会談後には、習近平国家主席が9月24日に訪米することが発表され、今後より具体的な成果を生むための交渉が継続されるとみられる。
中国側は、会議の内容やセッティングなどにおいて、この会談が「対等な大国同士」の会談であることを印象づけようとした。今回、習近平国家主席は米中関係を「米中の建設的戦略安定関係」という新たな言葉で表現し、両国がこの関係を構築することで合意したと発表した。(ただし、米国側の発表にはこの概念に関する言及はない。)
「米中の建設的戦略安定関係」が意味するのは「友好的関係」そのものではない。競争が双方に致命的な打撃を与えるレベルまで激化することを避け、中国に有利な戦略環境を確保しながら時間を稼ぐことに主眼があるとみられる。この「関係」の解釈は中国が行い、米国が追加的な対中技術規制や貿易制限を打ち出した場合、合意違反だとして反発する可能性もある。
台湾問題では、習近平氏の発言内容自体に新味はなかったが、会談冒頭のメディアが入る場面で、厳粛な表情で台湾問題に触れ、中国の強い姿勢を示そうとしたとみられる。一方、2026年2月の電話会談で習氏が言及した「台湾への武器売却には慎重であるべきだ」との表現は、今回含まれなかった。米中間での妥協が難しいため、あえて踏み込まなかった可能性がある。
また、米国側からは、少なくとも14日の公式会談では、米国が従来方針から逸脱するような発言はなかったとみられる。ただし、15日の少人数昼食会でどのようなやり取りがなされるのか注目される。
イラン問題でも、中国側は新たな譲歩を示さなかった。米国側はホルムズ海峡の自由航行確保などについて中国の協力を引き出そうとしたが、合意内容は、中国が従来から主張してきた原則論の範囲を超えていない。
今回の会談では、双方の発表内容の違いも際立った。米国側の発表にある、中国による対米投資拡大、米国農産物購入増加、フェンタニル前駆体流入阻止、米国産エネルギー購入拡大への関心、ホルムズ海峡の非軍事化、「イランは核兵器を保有できない」などの点は、中国側の発表に含まれていない。
逆に、中国側の発表の「建設的な戦略的安定」という新たな枠組みや台湾問題などは、米国の発表に入っていない。 経済分野では、中国によるボーイング機200機購入が発表された。事前には500機規模との観測も出ていた。 また、AI分野では、非国家主体への危険技術流出防止に関して協力する方向性が示されたが、具体的な制度設計や協力内容は不透明なままである。
さらに、エヌビディアのジェンセン・フアンCEOが急遽、訪中団に参加することになったことが注目された。今後、中国の対米投資や半導体規制について、米国内でも賛否をめぐる議論が起こることが予想される。
- [カザフスタン・トルコ/首脳会談]5月13~14日、トルコのエルドアン大統領はカザフスタン・アスタナを公式訪問し、トカエフ大統領と首脳会談および第6回高級戦略協力会議を開催した。両首脳は貿易・投資・エネルギー・運輸・防衛など幅広い分野での協力拡大を確認し、『永遠の友好と拡大戦略的パートナーシップ宣言』に署名、関係強化を象徴付けた。
会談では、二国間貿易を中長期的に100~150億ドル規模へ拡大する目標が改めて示され、特に中間回廊(カスピ海経由物流)やエネルギー輸送、農業・デジタル分野での協力が議題となった。
同時開催のビジネスフォーラムでは、空港運営(アルマトイ国際空港への投資)、病院建設、石油・ガス共同開発、無人機(ANKA)の生産、金融センター連携など具体的案件が提示され、企業間の投資案件も進展した。
また、投資保護協定や文化・教育協力、メディア・インフラ分野を含む計13件の政府・企業間合意が締結され、両国関係は実務面で一段と深化した。
本訪問は、トルコを欧州と中央アジアを結ぶ「橋」と位置付けるナラティブの下、物流・エネルギー軸での戦略的接近を加速させる契機となり、中央アジアにおけるトルコのプレゼンス拡大を示すものと評価される。
- [イラク/新政権の組閣]5月14日、イラク議会は、329議席中266人が出席する臨時会合を開き、アル=ザイディ内閣と閣僚プログラムを承認した。石油、財務、外務、保健、電力など主要ポストを含む14人の閣僚が承認され、フアド・フセイン外相は留任した。石油相には石油省の技術官僚であるバシム・モハメド氏が起用され、エネルギー・財政運営の安定継続が意識された。一方で、内務、国防、高等教育、計画、文化など複数ポストでは政治勢力間の対立が解消せず、一部候補は議会で否決されたため、採決は5月下旬の犠牲祭後へ先送りされた。
今回の組閣では、シーア派主導議会会派の「調整枠組み」だけでなく、スンニ派やクルド勢力も参加している点が特徴である。22閣僚ポストのうち、12をシーア派、6をスンニ派、4をクルド勢力に配分する構想で、宗派・民族間の均衡を重視した「包括型政権」を目指している。ただし、内務・国防など主権省庁を巡る対立は根強く、政権基盤は依然として不安定だ。
対外的には、米国とイランの双方が新政権支持を表明した点が注目される。米国は「イラン系武装勢力が国家機関で影響力を持たないこと」を条件に協力姿勢を示し、トランプ政権はテロ対策支援継続を表明した。一方、イランもアラグチ外相が祝意を送り、テヘラン・バグダッド関係強化を「外交上の最優先事項」と位置付けた。つまりザイディ政権も、これまで通り、米国とイラン双方との関係維持を迫られる難しい舵取りを担うことになる。
また、クルド自治政府も新政権を歓迎し、石油収入配分や予算問題で対立してきたバグダッドとの関係改善に期待を示した。新政権は今後、腐敗対策、治安維持、宗派間調整、対米・対イラン均衡外交という複数の難題を処理できるかが最大の試金石となる。
- [エチオピア/フランス外交関係]5月13日、フランスのマクロン大統領はアフリカ3か国外遊(エジプト、ケニア、エチオピア)の最後の訪問地であるエチオピアを5年ぶりに公式訪問した。マクロン大統領はエチオピアのアビィ首相と会談を実施し、エチオピアのグリーンエネルギー投資およびデジタル化プログラムに向けた約6,400万ドルの融資協定を発表した。
マクロン大統領は旧フランス植民地でのフランスの影響力が低下する中で、ケニアやエチオピアなど非仏語圏の国々との関係強化に乗り出している。特に2017年に大統領に就任した同氏は、2018年に首相に就任したアビィ氏を「フランスの友人であり、私個人の友人でもある」と称しており、良好な関係を表に示している(5月14日付、Le Monde紙)。これにはアフリカの角地域の大国であるエチオピアに対して、アラブ首長国連邦(UAE)やトルコ、イスラエルなどがアプローチを続ける中で、フランスとしての存在感を誇示したい意図があるとみられる。両国は防衛、文化遺産、インフラ、経済開発などの分野で協力を拡大している。なかでも、1993年のエリトリア分離独立後、内陸国となったエチオピアの海軍に対してフランス軍は訓練を提供している。これには紅海へのアクセス確保をエチオピアの悲願と捉え、また元軍人でもあるアビィ氏の海軍強化に対する強い思い入れが背景にあるとみられる。
エチオピアは2020~21年のティグライ紛争での国際社会からの批判や援助の停止より深刻な外貨不足に陥り、2023年にデフォルトに陥った。その後、パリクラブを中心とする「G20共通枠組み」の下で「公的債権者委員会(OCC)」が設置され、債務再編交渉の真っただ中にある。そのOCCの共同議長を中国と共に務めるのがフランスだ。そのためエチオピア政府としても債務再編を進め、国際的な信用回復を得ていくためにフランスとの関係強化が必要となる。デフォルトの引き金となった民間債権者とエチオピア政府との間の債務再編の条件を不服とする最大の貸付国・中国は、依然としてエチオピアとの債務再編にかかる二国間協定に署名していない。しかし、フランスはOCC加盟国の中で最も早く二国間協定に署名し、約8,000万ユーロの新規融資を行うなどエチオピアに対して友好的な姿勢を示している。
- [インド/BRICS外相会合]5月14日、ニューデリーでBRICS外相会合が開催された。5月15日までの開催が予定されている。主な議題として「レジリエンス、イノベーション、協力、そして持続可能性の構築」が掲げられていたが、実際にはイラン紛争に関する議論が行われるもよう。なお中国の王毅外相は米中首脳会談への出席のため参加していない。
今回の会合では、イラン紛争を巡るUAE及びイランの対立により共同宣言発出が困難になるとの見立てが強い。イラン側は議長国インドに対し、米国とイスラエルによる「イランへの違法な侵略」といった「国際法違反」を非難するよう求めている。他方でUAE側は、各加盟国に共同宣言においてイランを名指しで非難するよう主張していると報道されている(The Wire、2026年5月14日付記事)。4月23~24日にニューデリーで開催されたBRICS高官会議においても、両国のイラン紛争を巡る対立が原因となり共同声明が発出できなかった(Al Jazeera、2026年5月14日付記事)。
インドは、BRICS加盟国をはじめとするグローバルサウス諸国とヨーロッパ諸国との接点を設けるなど、グローバルサウスと先進国を外交的に繋ぐ「要石」としての役割を担ってきた。例えばQuadの加盟国であるほか、2025年のG7サミットに招待されている一方で、BRICSや上海協力機構(SCO)の加盟国でもある。2023年のG20会合で議長国となった際には、ウクライナ戦争を踏まえたロシアや欧米諸国との対立に関わらず首脳宣言を取りまとめた。そのため、BRICSの求心力低下はグローバルサウス諸国と先進国の橋渡し役としてのインドの役割低下に繋がりかねない。
- [ベネズエラ/債務再編]ベネズエラ政府は、対外債務問題に関して、正式に債務再編プロセスを開始することを発表した。この再編は政府債務と国営石油会社PDVSAの債務の双方を対象とするとされる。政府は、2017年以降に課された国際金融制裁が債務不履行の主因であると説明した。一方で、総債務額や支払い条件、再編の具体的な仕組みやスケジュールは現時点では公表されていない。
ベネズエラの対外債務規模については、推計方法によって幅があるものの、おおむね1,500億~1,700億ドルと見積もられている。その内分けは、すでにデフォルト状態にある国債およびPDVSA債で元本ベースで約600億ドルに達する。これに加え、未払い利息が約250億ドル積み上がっているとされる。さらに、中国向けを中心とする二国間融資が約150億~250億ドル、過去の資産収用に関する国際仲裁判断が約200億ドル、インフラ関連融資などのその他債務が200億~300億ドル存在すると推計される。これらを合計すると、対外債務は同国GDPの約2倍近い水準に達する可能性がある。
債務再編が難しいとされる理由は、規模の大きさだけではない。債権者が世界中に分散しており、債券、二国間融資、仲裁裁定といった異なる法的枠組みが同時に存在するためである。
今回の発表がこの時期になされた背景として、複数の外部環境の変化が指摘されている。第一に、米国財務省が法律事務所や金融機関に対し、ベネズエラの債務再編に関する助言業務を限定的に認めた点である。これは実際の債務交渉や支払いを許可するものではないが、準備作業を進める余地を広げた。第二に、IMFおよび世界銀行が、長期間停止していたベネズエラとへの関与を再開すると表明した点である。第三に、国際原油価格の上昇により、将来的な外貨収入見通しが改善した点が挙げられる。
もっとも、再編に向けた障害は依然として大きい。米国の制裁により、直接的な債券取引や支払いが制限されていること、PDVSAの米国資産であるCitgoが裁判所管理下に置かれていること、そして債権者が極めて断片化していることが、交渉を複雑にしている。実際の再編合意までには長い時間と政治的・法的調整が必要になるとの見方が強い。
今後の注目点としては、米国当局が助言業務にとどまらず、実際の交渉を認める追加措置を取るかどうか、政府が信頼できる債務総額の整理と債権者マッピングを提示できるか、そして石油生産の回復が持続的な外貨収入につながるかが挙げられる。しかし、具体策の欠如と制裁・訴訟という構造的制約を考えると、実際の再編が軌道に乗るかどうかは、今後の国際環境と制度面の変化に大きく左右される状況にある。
- [米国/物価の安定が課題]商務省によると、4月の小売売上高は前月比+0.5%と、3カ月連続で増加した。内訳を見ると、ガソリンスタンド(+2.8%)の増加が目立った。ガソリン価格が節目の1ガロンあたり4ドルを超えるなど上昇した影響が売上高に表れた。食料品店(+0.8%)などが増加した一方で、家具(▲2.0%)や衣料品(▲1.5%)、自動車(▲2.0%)などが減少しており、不要不急の支出を抑制する動きも見られた。ただし、スポーツ・娯楽品(+1.4%)や飲食サービス(+0.6%)など、いわゆる裁量的な消費も部分的に増加しており、個人消費が弱含んでいるとまでは言い難く、現状ではまだら模様になっているようだ。
労働省によると、5月9日までの1週間の新規失業保険申請件数は21.1万件となり、前週から1.2万件増加した。増加は2週連続だったものの、水準は20万件台前半にとどまった。また、5月2日までの週の継続受給者数は178.2万人、前週から2.4万人増と、4週ぶりに増加した。ただし、これは3週連続で180万人を下回った。これらの結果を踏まえると、労働市場はまだ安定していると言える。
その一方で、労働省によると、4月の輸入物価指数は前月比+1.9%となり、3月(+0.9%)から加速、約4年ぶりの大幅な伸び率になった。特に、燃料価格(+16.3%)が2か月連続で2桁上昇となり、全体を押し上げた。輸入物価指数の上昇に伴い、米国内の生産者物価や消費者物価にも上昇圧力がかかりやすい。米国経済において、雇用の最大化よりも物価の安定が課題である現状が示されている。
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