オスロ/ノルウェー ~世界一豊かな国?~

2016年01月15日

欧州住友商事会社 ノルウェー支店
平野 竜一郎

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 首都オスロは、素晴らしい夏季の白夜から一転、寒い冬に向かって日ごとに日照時間の短くなる季節を迎えています。日本人にはなじみの薄いノルウェーについてご紹介します。

 

• ノルウェーってどんな国?

ノーベル平和賞授与式が行われるオスロ市庁舎 (筆者撮影)
ノーベル平和賞授与式が行われるオスロ市庁舎 (筆者撮影)

 多くの日本人に、北欧(4か国)やスカンジナビア(3か国)の国を尋ねれば、最後に出てくるのがノルウェーではないでしょうか?中にはオスロとオセロを混同する人も……。

 

 ノルウェーは北緯57度以上に位置し北部は北極圏内(北緯66度33分以北)にも関わらず、沿岸海域を走る暖流のおかげで高緯度の割には温暖な気候で漁業資源にも恵まれています。国土面積は日本とほとんど同じですが、総人口は約500万人で東京都の半分以下、日本の総人口の約4%程度で、人口密度は世界163位と圧倒的に低い国でもあります。

 

 ノーベル平和賞やフィヨルド観光など平和で豊かな小国というイメージの同国も、11世紀までのバイキング時代を経て、14世紀にはデンマークの支配下に、1814年からはスウェーデンの統治に移り、1905年に現在のノルウェー王国として独立、という複雑な歴史を持つ国でもあります。19世紀まではヨーロッパ最貧国の一つでしたが、1970年代からの石油資源開発による経済発展に支えられ、現在では世界屈指の豊かな福祉国家に生まれ変わりました。

 

 20世紀後半からの急速な経済発展を支えるのが全輸出の約50%を占める石油・ガス産業です。海洋石油開発分野の技術力では世界トップクラスであり、政府による積極的な新技術開発支援も相まって、新たな海洋技術が同国から生まれています。この巨大な石油・ガス産業を経済基盤とする1人当たりGDPは、スイスやカタールを抑え、世界2位の 9万6,930米ドル(日本は 27位 、3万6,221米ドル)です。健全な黒字財政に加え、政府が保有する石油ファンドの運用実績は世界のソブリンファンドの中でもトップクラスです。

 

 

• ノルウェーに暮らす

 VAT (付加価値税)25% 、税負担率(租税+社会保障負担率)56.2%、と極めて高い課税ながら(日本は8%、38.2%)、手厚い失業保険や最低賃金保障などによる最高水準の社会保障制度が確立されており、国民の生活水準は非常に高いです。

 

 英エコノミスト誌の「ビッグマック指数」でみた世界物価比較では、近年こそスイスに1位の座を譲ったものの世界2位の高さで、同じスカンジナビア諸国のスウェーデン、 デンマークがこれに続きます。

 

 高税率や物価高と同様に平均年収も非常に高く、世界2位(日本は18位でノルウェーの約半分)です。 英レガタム研究所の「レガタム繁栄指数」では、世界で最も豊かな国がノルウェーで、過去6年連続で1位の座に君臨しています。高収入、高福祉に支えられ、多くのノルウェー人は別荘や船を保有し、海・山・フィヨルドの自然に囲まれながら、夏はヨット、冬はスキー、などと若者から老人まで幅広い世代が「Quality of Life」を謳歌(おうか)しています。
また、早くからgender free(男女平等)が浸透している同国では共働きが当たり前です。主婦と主夫の分け隔てさえない点は、日本と大きくかけ離れた文化の一つともいえます。2015年からは女性にも徴兵制度が適用されました。

 

夏はヨットやクルーザーが行き交うオスロ湾 (筆者撮影)
夏はヨットやクルーザーが行き交うオスロ湾 (筆者撮影)

 経済発展の一方で労働力確保の課題もあり、制度での定年である67歳が、2016年にはさらに70歳に引き上げられることが決定しています。1990年代以降、パキスタン、ソマリア、イラクなどからの経済難民を積極的に受け入れており、肉体労働や長時間労働などへの就労はほとんど移民が占めます。今ではタクシードライバーもほとんど移民で占められ、空港から乗車した時には「違う国に来たのでは?」と錯覚しそうなほどです。さらに、高収入を期待して流入するポーランドやスウェーデンからの労働移民もホテル・レストランなどのサービス分野で著しく増加しており、近年では過度な移民増加を懸念する声も強まっています。

 

 

  • 最後に

この豊かなノルウェーも、昨今の原油価格急落による大幅な歳入減は避けられず、2015年10月に発表した2016年度予算案では、総歳入 1兆2,418 億ノルウェークローネに対し、総歳出は1兆2,456 億ノルウェークローネと歳出超過の計画です。政府基金の一部取り崩しも始まっており、1995年以来常に歳入超過を続けてきた同国財政も厳しいかじ取りが求められています。

(* 本文内の統計は2014年実績を引用しています)

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