クイアバ/ブラジル ~マットグロッソ州クイアバ市と空手~

2015年10月01日

Agro Amazonia
五十幡 興一

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マットグロッソ州クイアバ市近郊に広がる一面の大豆畑 (筆者撮影)
マットグロッソ州クイアバ市近郊に広がる一面の大豆畑 (筆者撮影)

 ブラジルといえばサンパウロ、リオデジャネイロといった大都市を思い浮かべる人が多いですが、それ以外の地域は地平線まで続く大農場や原野で、その中に地方都市が点在しています。私が暮らすクイアバ市は人口約70万人、ブラジル最大の穀物生産州、マットグロッソ州の州都です。

 

 この州は日本と強い結びつきがあります。空手の愛好家が非常に多く、州対抗のブラジル全国大会で、22年間連続で優勝しています。学校対抗戦、地区対抗戦に加え、ダンス大会との共同開催など、空手のイベントがほぼ毎月開催されています。南米選手権や世界大会のブラジル代表選手の大半はマットグロッソ州出身で、そのうち半分以上がクイアバ市出身だそうです。

 

 貧富の格差が激しいブラジルには、極度の貧困状態にある15歳以下の子供が数千万人規模で存在し、生活苦により窃盗や麻薬密売に手を染めてしまうケースが多いのが現実です。こうした状況を改善できないかと、2000年にクイアバ空手協会の有志が小学1~4年生に週2回の空手の授業を始めました。すると、授業中に席にも着かなかった生徒たちの態度が徐々に変わり始め、授業に集中し、規律正しくなり、先生や親への尊敬の気持ちが表れるようになったと聞きます。

 

 そのため、マットグロッソ州政府は、翌2001年から"Traditional Karate-do: sport and citizenship (略称Karate-do Project)"と称して、学校の授業に取り入れたり、イベントを開催するなど、空手の普及に積極的な支援を行っています。たとえば、企業がこのProjectに必要な資金を拠出した場合は、その4%を法人税から控除するなどの措置を講じています。

 

 

空手とダンスのコラボイベントにて (筆者撮影)
空手とダンスのコラボイベントにて (筆者撮影)

 今年で14年目となるKarate-do Projectにより、ドロップアウトする子供の比率が大幅に下がり、当時小学生だった子供の中から医師、歯科医、エンジニア、さらにはハーバード大学で学ぶ学生が続々と現れています。また、社会人になった彼らが今度は別の小学校で空手を教えることで良い効果が循環し、2014年末で累計7,000人以上がこの支援を受けています。

 

 このマットグロッソ州の空手の効用に注目したUNESCOは"Spirit of Karate"というタイトルでビデオにまとめ、ブラジル最大の放送局Globo TVがこのビデオを、同じような境遇にあるナイジェリアやガーナなどで2013年に配信しました。UNESCOはKarate-do Projectを"Child Hope"という彼らのプロジェクトに組み込み、2014年からサポートしています。

 

 

 

学生を指導するAgro Amazoniaロベルト副社長 (筆者撮影)
学生を指導するAgro Amazoniaロベルト副社長 (筆者撮影)

 私が勤務する農業生産資材販売会社であるAgro Amazoniaは、Karate-do Projectが始まった2001年から毎年支援しています。年間1万ブラジル・レアル(約40万円)の寄付は、学生へのサポートや道場の畳などの購入費用の一部に使われており、政府や学校などの教育機関からも感謝されています。

 

 空手の掛け声やあいさつのほとんどが、日本と全く同じであり、空手を通して日本に親近感を持っているブラジル人がマットグロッソ州には非常に多くいます。これは日本人がほとんどいないクイアバ市で暮らす私たち駐在員にとって、とてもありがたいことです。

 

 空手のみならず、当地では太鼓や他の武道も人気があり、これは107年前に日本から移民として来られた方々のおかげであり、感謝の念に堪えません。私たちも この地に勤務する間にKarate-do Projectなどへの支援を通じて、マットグロッソ州と日本の絆を深める一助になれればと思っています。

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