フィリピン経済: GDP堅調さを維持、クリスマス商戦控え消費加速へ(マンスリーレポート11月号)

2022年11月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調に推移している。第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.6%と、伸びは第2四半期の同+7.5%から加速、6四半期連続で前年同期を上回った。COVID-19感染拡大規制・入国制限の緩和などが引き続き経済回復に寄与している。GDPの約7割を占める個人消費は、第2四半期の同+7.1%から第3四半期に同+8.0%に加速、総固定資本形成(投資)は第2四半期の同+21.1%に続き第3四半期も同+21.7%と大きく伸びた。先行きについては、主要政策である「ビルド・ビルド・ビルド」によるインフラ投資が後押しすることに加え、年間で消費が最も旺盛になるクリスマス商戦を控え、堅調さを維持するとみられる。ただし、ペソ安の加速や世界経済の成長鈍化への懸念が高まっている。2022年の政府による実質GDP成長率見通しは+6.5~+7.5%。IMF、世界銀行、ADBの同見通しは、それぞれ+6.5%、+6.5%、+6.5%。注目点は、財政赤字・公的債務の削減を目指した同国初の中期財政フレームワーク(MTFF)に基づいた2023年度予算が近々成立する予定であることだ。

 

経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

生産:回復している。製造業PMIは、10月は52.6となり、9月の52.9から下落したものの、景気の節目となる50を9か月連続で上回っている。生産高、新規受注が改善したが、投入価格の上昇が加速した。ただし、海外からの新規受注が3月以降最も低水準だった。今後も、外需の鈍化が懸念されるが、政府の経済政策の実施などにより内需が増勢し、生産は回復が続くとみられる。

 

貿易:輸出はプラス成長に転じている。9月の輸出額は前年同月比+7.0%の72億ドルと、8月の同▲2.0%から3か月ぶりのプラス成長となった。品目別では、輸出額全体の6割超を占める「電子製品」の伸び率が同+19.3%と8月の▲1.6%からプラスに転じた一方、8月に大幅に伸びた「ココナツ油」(同+26.6%)が9月は同▲20.0%とマイナスに転じた。国別では、輸出額全体で最も割合が大きい米国向けが同+3.7%、次に割合が大きい中国向けが同▲6.8%と5か月連続でマイナス成長が続いた。今後、世界的な景気減速により輸出が伸び悩む可能性がある。9月の輸入額は同+14.1%の120億ドル。最大の輸入品目である「電子製品」(全体の25%)は同+6.5%だった。資源価格の高止まり、ペソ安の加速に加え、クリスマス商戦を控え内需の増勢が続くため、今後も輸入の拡大が続くだろう。そのため、貿易赤字の拡大(9月前年同月比+26.5%の48億ドル)が大きな懸念事項になっている。

 

    主要経済指標(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

物価:上昇している。10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.7%。9月の同+6.9%より加速、2008年12月以来13年10か月ぶりの大幅な上昇となり、インフレ目標である+2~+4%を7か月連続で上回っている。9~10月の大型台風により食料品の供給が乱れ、CPIのウェイトの40%弱を占める「食料品・非アルコール飲料」が同+9.4%(9月同+7.4%)と加速、CPI全体を押し上げた。全体の19%を占め、燃料価格が反映される「運輸」が同+12.5%(9月同+14.5%)だった。10月からバスなどの公共交通機関の運賃が引き上げられたが、国際的に原油価格が低下したことで相殺された。今後も、食料品価格の上昇がしばらく続くこと、クリスマス商戦を控え消費意欲が増すこと、米国による利上げを起因としドル高ペソ安により輸入物価の上昇が続くことなどが要因となり、CPIは加速するだろう。

 

金融政策:利上げが続いている。中央銀行は、政策金利を5会合連続で引き上げている。5月と6月に0.25%ずつ、7月には緊急で金融政策決定会合を開き、0.75%の大幅引き上げを実施、8月、9月にもそれぞれ0.50%引き上げ4.25%とした。11月中旬の会合でも0.75%引き上げる意向を示している。今後も、インフレ抑制、通貨防衛のため、中銀は追加利上げを実施するとみられる。

 

財政政策:大幅な赤字が続いている。財政収支のGDP比は、2021年▲8.6%まで悪化した。2022年1~8月の政府支出総額は前年同期比+8.0%の3兆2,016億ペソ(559億ドル)、うちインフラ支出は同+10.2%の6,286億ペソ(110億ドル、GDP比2.8%)だった。2022年、2023年の財政収支の政府見通しはそれぞれGDP比▲7.7%、▲6.0%で、広範な税制改革と経済成長による税収増に取り組む意向。

 

    物価(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

為替(対ドル):直近は上昇している。米国の利上げの加速、欧州でのエネルギー危機の深刻化、世界的な景気減速などが嫌気され、10月は過去最安値を更新したが、11月に入り米国でのインフレ圧力緩和により利上げ幅の縮小への期待感から上昇している。しかし、米国での利上げの継続やフィリピンの貿易赤字の拡大が懸念され、今後ペソ安基調に転じる可能性がある。

 

株価:上昇に転じている。フィリピン総合指数は10月初旬以降、製造業の回復、財政赤字の改善、与信拡大などを好感し、上昇に転じた。11月初旬、米国の株高にも好感し、上昇基調が続いている。今後もしばらく経済成長が見込まれ、上昇が続くものとみられる。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

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