「モロッコの大地震、リビアの大洪水で数千人が犠牲に」中東フラッシュレポート(2023年9月前半号)

2023年10月11日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2023年10月5日執筆

 

1.モロッコ:大地震が発生し約3,000人が犠牲に

 9月8日の現地時間夜11時過ぎに、マラケシュの南部70㎞辺りを震源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生。少なくとも2,960人の死亡と5,674人の負傷が確認されており、また周辺の280万人の生活に影響が出たとの発表があった。モロッコ政府は3日間の服喪を発表。多くの国がモロッコ政府に探索・救助隊の派遣を申し出たが、現場での調整に混乱をきたすとの理由から、モロッコ政府は英国、スペイン、UAE、カタールの4か国の救助隊の派遣を受け入れた。

 マラケシュは古い建物も多い歴史ある町だが、今回の地震で旧市街や山岳部の歴史的なモスクに亀裂が入ったり一部が崩壊するなど、文化遺産などの倒壊も報告されている。同国では、2004年に北部でM6.4の地震が、1960年に南西部でM5.8の地震が発生したが、今回の地震は同国で過去120年間に発生した地震で最大規模のものだった。

 

2.トルコ/ロシア:エルドアン大統領が穀物輸出合意に関してプーチン大統領と協議

 9月4日、トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は、ロシア南部のソチで会談を行い、ロシアが7月に一方的に離脱した穀物輸出合意への復帰について協議した。同合意は、黒海経由でウクライナ産穀物を輸出する船舶の安全な航行を確保するためのもので、2022年7月にトルコと国連の仲介で合意に至った。エルドアン大統領はプーチン大統領に合意への復帰を促したが、プーチン大統領はロシア産穀物輸出に対する障害が取り除かれない限り合意に復帰するつもりはないと述べ、具体的な進展は見られなかった。また、最大100万トンのロシア産穀物をカタールの財政支援を得てトルコで加工して他国に供給する案についても話し合われたもよう。

 

3.イスラエル:最高裁が法改正に関する法廷審問を開始

 9月12日、イスラエル最高裁は、7月にイスラエル議会が可決した司法制度改革の1法案に対する異議申し立てを受けて法廷審問を開始した。同法案は、最高裁が「合理性」や「妥当性」を基に政府の決定を覆すことを禁止する内容で、ネタニヤフ政権が議会を通そうとしている司法制度改革法案の一部である。同法案は「司法の力を弱めるものであり、民主主義の根幹である三権分立が成り立たなくなる」として、同法案が発表された2023年1月以降、多くの国民が毎週のように街頭で抗議活動を続けており、イスラエル社会を二分する大きな問題となっている。

 

4.スーダン:ブルハーン議長が準軍事組織RSFの解体を発表

 9月6日、ブルハーン主権評議会議長兼スーダン軍司令官は、4月15日以降スーダン軍との戦闘を続けている準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」を解体するという憲法令を発布した。解体の理由として、国家に対する反逆、市民に対する暴力、国のインフラに対する意図的な破壊を行ったことなどを挙げている。また同日、米政府は、重大な人権侵害を理由にRSFのダガロ副司令官(ダガロ司令官の兄弟)とジュマ指揮官に対する制裁を発表、ダガロ氏の米国内資産の凍結とジュマ氏の米国入国を禁止した。ジュマ氏は、2023年6月にテレビのインタビューでRSFによる大量殺りくを非難し国際社会の介入を訴えた西ダルフール州知事の誘拐・殺人事件に関わったとされている。

 

5.サウジアラビア/イラン:双方の大使が着任

 9月5日、駐イラン・サウジアラビア大使および駐サウジアラビア・イラン大使がそれぞれの任地に着任した。両国は約7年間の国交断絶を経て、2023年3月に中国の仲介で国交回復に合意し、その後両国に大使館が再開。6月にはサウジアラビアのファイサル外相がテヘランを訪問し、外相会談に加えライーシ大統領との会談も実施、8月にはイランのアブドラヒアン外相がサウジアラビアを訪問しムハンマド皇太子兼首相とも会談を実施するなど、両国の国交正常化は着々と進んでいるようにみえる。

 

6.サウジアラビア:2023年末まで自主減産を継続

 9月5日、サウジアラビア政府は、2023年7月以降に追加的に実施している日量100万バレル(bpd)の原油の自主減産を、年末までさらに延長して継続する意向を発表した。これによって10月以降のサウジアラビアの原油生産量は900万bpdが維持される。サウジアラビア政府は、減産の目的を「原油市場の安定のため」と発表しているが、供給を抑えて原油価格を下支えする意図があるものと考えられている。

 

7.イラク情勢

  • 内政・外交
  • 9月1日、サウジアラビアの格安航空会社Flynasは、サウジアラビアのジェッダとイラクのバグダッドの間を結ぶ航空便の就航開始(週3便)を発表した。
  • 9月12日、オーストリアの外相がイラクを訪問し、1991年以来32年ぶりの駐イラク・オーストリア大使館の再開式典に立ち会った。
  • 9月12日、UAEのアル・マラル国務相(外務・国際協力担当)がバグダッドを訪問し、第10回イラク-UAE合同委員会の議長を務めた。同会合にはイラクのフセイン外相も出席。二国間の連携強化や両国共通の課題について協議した。
  • 9月13~14日にフセイン外相はテヘランを訪問し、イランのライーシ大統領やアブドラヒアン外相との会談を実施。2023年3月にイラク・イラン両国間で締結した安全保障協定(9月19日までの反イラン・クルド人勢力の国境地帯からの移動などを含む)へのコミットメントや二国間関係のさらなる強化について協議した。
  • 9月15日、クルド自治政府(KRG)のバルザニ首相はバグダッドを訪問し、イラク政府のスーダーニ首相と、イラク政府とKRGの間の財政問題についての協議を実施した。
  • イラクでは12月18日に、2013年以来10年ぶりとなる県議会選挙の実施が予定されている。クルド自治区の 3県を除く15県で実施される予定。特に係争地であるキルクーク県での県議会選挙実施は2005年以来18年ぶりとなるため、選挙を巡って民族間の緊張が激化する可能性がある。

 

  • 治安・その他
  • 9月2日、イラク北部キルクークでクルド人とアラブ人の衝突が発生し4人のクルド人が死亡(15人が負傷)、同日夜に外出禁止令が出された(3日朝には解除された)。もともとクルディスタン民主党(KDP)の事務所だった建物をイラク政府軍が統合作戦司令部として使用してきたが、軍がクルド側への善意のしるしとしてこの建物を9月1日にKDPに返還しようとしたところ、キルクークにおけるクルド人の影響力拡大を警戒するアラブ人やトルクメン人が反発し、クルド人の集団との衝突が発生した。9月4日には、4人の死亡の真相究明を求めるクルド人によるデモで負傷者が発生するなど、12月の県議会選挙に向けて政治的緊張状態が続くことが予想される。
  • 9月3日、メイサーン県のイランとの国境付近で、巡礼者のアフガニスタン人が地雷を踏んで死亡した。イラク南部のイラン国境付近では、今でも地雷による被害の発生が報告されている。
  • レカニ建設・住宅・自治相は、2003年からの20年でイラクの人口が倍増し、人口の7割が都市部に集中しているため住宅危機が発生していることを指摘し、イラク国内に20の新都市を建設する案を発表した。

 

8.リビア情勢

  • 9月5日、国家高等評議会は、イスラエル外相との会談を行った国民統一政府(GNU)をあらためて非難した。

 

  • 9月9~10日、ドゥベイバGNU首相は複数閣僚とともにカタールを訪問し、タミーム首長との会談を実施した。

 

  • 9月10日、暴風雨「ダニエル」の影響でリビア東部デルナの町で大洪水が発生し、約4,000人が死亡、8,000人以上が行方不明となっており、4万人以上が住居を失い避難民となった。デルナの町の25%を流し去ったとされる大洪水は、同地を流れる川の上流にある2つのダムが暴風雨によって決壊したことで引き起こされたとみられる。「ダニエル」は、リビアに到達する前にギリシャやトルコでも猛威を振るい、計30人以上の犠牲者を出していた。

 

  • 9月14日、代表議会は緊急会合を開催し、大洪水の影響に対処するため100億リビア・ディナール(LD)相当の緊急予算を全会一致で承認した。また管轄当局に定期的に報告書を提出させること、検察庁に災害の原因調査と関係者の過失の有無を明らかにするよう求めるとともに、議会法制委員会に対し復興基金を設立する法案を作成し、次期会期中に議会に提出し承認を得るよう命じた。

 

  • 中央銀行は、2023年1~8月の財政収支が99億LDの黒字だったことを発表(歳入782億LD、歳出683億LD)。

 

  • リビアの8月の原油生産量は日量116万バレル(bpd)で、前月の113万bpdより微増。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

以上

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