シドニー/オーストラリア ~庶民の国オーストラリア~

2015年06月29日

オーストラリア住友商事会社 シドニー本社
伊藤 令

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• 庶民の国

オーストラリア住友商事会社 シドニー本社からの眺め (筆者撮影)
オーストラリア住友商事会社 シドニー本社からの眺め (筆者撮影)

 オーストラリアを一言で表せと言われたら、私は「庶民の国」と答えます。仲間意識が強く、あまり階級意識もなく、国民みんなで幸せを求めようと真面目に取り組んでいる国だと思うからです。 

 

 

• アプローチャブル(気さく)な指導者

 リーダーも特権意識は希薄で、フレンドリーかつ極めてアプローチャブルです(ちなみに当地ではアプローチャブルであるか否かはリーダーにとって重要な評価基準です)。アボット首相はまさにその代表です。政治の本質ともいえる利害調整や派閥などの人間関係から一定の距離を置いたように見えるアボットさんが、他の国において一国のリーダーとなる姿はちょっと想像ができません。このような人が首相になれる国、それがオーストラリアです。

 

 

• 国民みんなで豊かに

そのような社会においても、労働組合は少々旧態依然として既得権利の主張に軸足を置いているように見えます。このような労働組合が大いに貢献しているのが最低賃金で、既に先進国の中でもかなり高いレベルですが、2015年7月からさらに2.5%引き上げられ、時間給17.29豪ドル(約1,640円)になり ました。実に日本(約780円)の2倍に相当するレベルです。

 

 

• 創造性に富んだ国民性

 このようにフラット(誰にでも公平)で豊かな生活をエンジョイする社会ですから、何を進めるうえでも活発な議論がなされます。国民のエクスプロレーション(探究心があり、物事を大きくみること)気質もあいまって、革新的イノベーションを生む土壌にも恵まれ、医療、教育、食料などの分野におけるイノベーションがよく知られています。広大な国土を持つ同国は、病院経営の効率化を目指し遠隔医療や電子カルテの分野で世界をリードしています。医療機器の製品化までの時間の短さ、治験におけるわかりやすい制度、質の高いデータ管理などで競争力を高めています。サービス面でもカンタス航空の国内線のチェックインシステムは顧客目線に立ったかなり先進的なものです。機械にカードをかざすだけでチェックインOKです。

 

 

• 金曜日の午後

 また、留学生教育産業の輸出額は175億豪ドル(約1兆6,600億円)に達し、観光業を上回り、鉄鉱石、石炭に次ぐ第三位に位置することをご存知ですか。    

 一方、仲間意識のマイナス面といえば、オーストラリアのビジネスは金曜日の午後に決まると言われていることです。あまり大きな声では言えませんが、仲間内の(場合によっては利害関係者間で?)「ここだけの話」がお酒も挟んだ金曜午後の長いランチで語られることが多いようです。同国のビジネスパーソンがネットワーキングに一生懸命なのも、こうしたビジネス文化が背景にあるのでしょう。日本企業はあまり得意ではないと思いますが、同国でビジネスを推進する上で注意が必要なポイントです。

 

 

• まとめ

 「庶民の国オーストラリア」は、単に資源・エネルギー・農産物を、日本をはじめとするアジアに供給する国ではありません。安定した成長(GDP年率2~5%)と人口増(1%強)に支えられた、創造性ある国民の国という一面にもぜひ注目してほしいと思います。

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