スエズとパナマ
2024年02月06日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
今年は、国内で「2024年問題」と称して物流に関するリスクの顕在化が心配される年ですが、年明け以来、世界の物流にも暗雲が立ち込めています。昨年末の「2024年の世界情勢・経済見通し」でも触れましたが、パナマ運河が渇水の影響を受けて通行量を通常レベルから3割程度減らしていることが懸念事項でした。そして、中東におけるイスラエルとパレスチナの戦火が拡大する形で活動を活発化させているイエメンのフーシー派が、2023年11月に紅海を航行する船舶を拿捕。それをきっかけに、年明けから米英軍とフーシー派との間での衝突が、武力衝突へとエスカレートしています。スエズ運河を通過する船舶は、自ずと紅海を航行するので、この航路の安全が脅かされています。このため、例えば米国の東海岸からアジアに向かう船は、パナマ運河の通航がままならず、それでは大西洋から地中海、スエズ運河を通ろうと思っても、こちらは安全が確保できず保険が付かなかったりで、喜望峰経由を選択せざるを得なくなっているものもあります。そうなると、アジア向けはこれまで約30日だったものが、10日間以上余計にかかるようになり、コストも上昇。また、船のやりくりもひっ迫するので、世界経済が好調だと、世界中の物流に大きな影響が出ることになります。
欧州とアジアの間の物流も、スエズ運河や紅海が通れない、通りにくいとなると、喜望峰周りになり、ここでも10日間以上のロスが出ます。また、ロシアにとっても、例えばインド向けの原油はスエズ運河を経由していたので、これが喜望峰周りになると、2週間程度余計にかかるようになります。それによるコスト上昇で、ロシア産原油が中東産に比べて競争力がなくなって売れなくなると、戦争の資金にも影響しそうです。さらには、ロシアやウクライナからアジア向けの穀物も大きな影響を受け、アジアの穀物事情が不安定になるほか、それが欧州に向けられるようになると、欧州での競争が激化するなど、新たな火種にもなりかねません。
天災と人災で理由は異なるものの、世界の物流の二つの大きなチョークポイントに関する異変は、世界のサプライチェーンに大きな影響を与え、市場を混乱させたり、国の力をも左右したりすることになります。そうした日々目の前で起きる変化がダイレクトに体感されるのが商社のビジネス。アンテナを高くして、「風吹けば桶屋が儲かる」的な想像力を逞しくすることも含め、いくつかのシナリオを作って、いつでも手が打てるように備えることが、ますます重要になりそうです。
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