
- [米国]9月19日、トランプ大統領は、H-1Bビザ(高度技能職向け)に対し、これまで215ドルだった手数料を10万ドルにする大統領令に署名した。施行は米国東部時間9月21日午前0時1分から。今回は新規申請者のみ対象。既存のビザ保有者や更新には現時点で適用されないが、ただし今後変更の可能性がある。
また、この大統領令は1年後に失効予定だが、延長もあり得るとされる。同時に「ゴールドカード」(100万ドル)や「プラチナカード」(500万ドル)など富裕層向けビザも導入が示され、ゴールドカードは市民権取得への道筋となり、プラチナカードは議会承認を必要とする。年間費用との説明もあったが、現時点では「1回限りの手数料」と修正されている。
ビザ取得に関係する弁護士は「1日の通知で既存のH-1Bプロセスに混乱をもたらす」と不満を述べ、米国商工会議所や大手IT企業(Amazon, Apple, Google, Metaなど)はおおむねコメントを控えているか、その影響を懸念しているとコメントしている。
IT企業に焦点が当たるが大規模なシステムを運用する金融機関などへの影響も危惧されている。また、州別ではカリフォルニアが最大の受け入れ先。米国人労働者の雇用を守るとの主張と、企業や大学の国際競争力を損なうとの懸念が対立している。
また、大統領令には「国土安全保障長官の裁量で例外を認める」条項が存在しており、個人・企業・業界単位で免除が可能とされている。これらは政治的な取引材料として利用されるとの懸念につながっているが、免除の判断基準は「国益」「安全保障・福祉への脅威がないこと」としている。
発効国別ではインドが最大だが、足もとでの関税に関する対立もあり、一段の関係悪化を危惧する指摘があるほか、人材を輩出しているその他のアジア諸国も自国の高度人材が米国で働く機会が損なわれることに警戒を強めている。
- [中国/ASEAN]9月17日から20日にかけて、中国・広西チワン族自治区南寧市にて第22回中国・ASEAN博覧会が開催され、閣僚級円卓会議では、人工知能(AI)分野における協力強化が合意された。両者は「AI+行動計画」および協力メカニズムの構築を掲げ、AIを地域経済および社会発展の推進力と位置づけた。
中国国家発展改革委員会の王昌林副主任は、貿易の拡大と豊富なデータ資源がAI発展の基盤を形成していると述べた。また、ASEAN事務総長のカオ・キムホン氏は、包摂的なスキル育成、信頼性の高いデータ流通、ガバナンス強化の重要性を強調し、国境を越えたデータ移転を「AIの生命線」と位置づけた。さらに、中国の標準契約条項(SCC)とASEANモデル契約条項(MCC)の整合を図る共同ガイドの推進方針を示した。
また、中国・ASEAN AIセンターおよびデジタルアカデミーの設立、ならびに2026年に始動予定の「ASEAN AI安全ネットワーク」への支援を呼びかけた。インドネシア、シンガポール、カンボジアの代表も、AI分野における協力の意義を強調した。
中国はさらに、グローバルサウスを意識した国際AI協力機関の設立を提案し、米国が発表したAI政策計画に対抗する姿勢を示した。 ASEANのデジタル経済は、2024年に2,630億ドル、2030年には1兆~2兆ドル規模に拡大する見通しであり、AIがGDPの10~18%を占めるようになる可能性がある。中国はAI研究および特許分野において世界をリードしており、ASEANにとって重要なパートナーと位置づけられている。
とはいえ、協力には多くの課題が存在する。中国は重要データの越境移転に対して審査を要求しており、ASEAN域内でも規制の統一がなされていないため、企業は複数の手続きに直面することになる。インフラ面では、AIが大量の電力および冷却を必要とするため、データセンターの整備や環境規制がコスト増要因となり、中小企業にとっては大きな負担となる。
さらに、中国市場ではAI生成物に対するラベル付けおよび記録保持が義務化されており、運営コストの上昇を招いている。米国による対中半導体輸出規制も影響を及ぼしており、開発と運用を分離せざるを得ないケースも生じている。加えて、EUのAI法、中国のコンテンツ規制、ASEAN各国の個人情報保護法が重複して適用されることで、監査および適合コストの増大も無視できない。
総じて、中国とASEANのAI協力は巨大な経済的潜在力を秘めている一方で、データガバナンスの調和、インフラ整備などの課題克服が不可欠である。これらの課題を乗り越えられるかどうかが、2030年に予測される「AIによる1兆ドル経済」の実現に向けた鍵となる。
- [米国]9月19日、トランプ政権は、高度専門職向けに発給しているH-1B査証の手数料として10万ドルを徴収する方針を明らかにした。トランプ大統領が署名した大統領覚書は9月21日より発効し、その後、12か月間にわたって有効。当該措置が延長される可能性もある。多くの査証保有者を雇用する米国企業では、9月20日までに米国内に戻るよう対象社員に求めるなど、一部で混乱が生じたことを米メディアは報じている。そうした事態を受けて、21日にトランプ政権が行った追加発表によれば、新規申請の際に10万ドルが徴収されるものの、現在審査中の申請や、既に発給されているH-1B査証の延長申請や、査証保有者の出入国には影響を及ぼさない。H-1B査証は、学士号以上の学歴を持ち、その専門性を活かして、米国内で就労する外国人に対して発給されるもので、現在、年間新規発給数の上限が6万5,000人に定められているが、研究機関や関連の非営利組織で就労する場合には当該上限枠の対象外となる。現在、米国内で就労するH-1B査証保有者は40~60万人と推計されるが、インド出身者が圧倒的に多いとの調査がある。
- [コンゴ民主共和国(DRC)/コバルト]コバルト価格は2025年初頭に1ポンド10ドルを下回る歴史的安値圏に沈んだ。中国CMOC社がDRCで行った大規模増産が主因。世界のコバルト供給量の7割超を占めるDRCは、コバルト供給過剰への対処と価格安定のため、2025年2月22日から水酸化コバルトと炭酸コバルトに4か月間の輸出禁止措置を導入。6月にはこの措置を3か月延長し、9月21日がその期限だった。
9月20日、コンゴ戦略鉱物物質市場規制管理庁(ARECOMS)は、禁輸措置に代わり輸出割当制度を導入すると発表。禁輸措置を受けてコバルト価格は急騰したため、輸出の全面停止は不要だが、新たな措置により市場のバランス回復を目指す。10月16日以降、年内残りの期間の輸出割当は18,125トンとし、10~12月の各月に配分。2026年と2027年は年間最大96,000トンとし、鉱山会社に対しては過去の輸出実績に基づき計87,000トンを割り当て、輸出の1割に相当する9,600トンはARECOMSが国家戦略上重要なプロジェクトのために留保する。ARECOMSは市場動向や、国内での高付加価値製品加工の見通しに応じて総割当量を修正する権限も有する。
DRCは2024年に約22万トンのコバルトを生産した。この措置は、単に供給と価格を管理するだけでなく、原鉱石の単純輸出から製錬・電池生産など国内付加価値化を目指す目的もある。中国CMOCは2024年に96,000トンを輸出していたが、主要株主CATLからの需要が増加する中、輸出を減らすか、ARECOMSの「戦略的プール」へのアクセスを求めることになる。第2位生産企業Glencoreは輸出制限の影響を受けつつも、過剰生産・過剰在庫という無秩序な市場を修正するものとして政策を支持している。
市場では、過度な規制と価格高騰は、コバルトフリーの電池への移行を加速させかねないとの見方もある。
Pick up
2025年09月19日
調査レポート
- コラム 2025年09月19日
- 米利下げの先行きはもっと不透明
- コラム 2025年09月18日
- もはやデフレではない日本経済
- コラム 2025年09月18日
- 露プーチン大統領訪中、ガス供...
- 調査レポート 2025年09月11日
- 「英・独・仏が対イラン国連制...
What's New
- 2025年09月19日 調査レポート
- 欧州政治リスクの再燃
- 2025年09月19日 統計・グラフ集
- 「マクロ経済指標グラフ」を更新しました
- 2025年09月19日 コラム
- 米利下げの先行きはもっと不透明
- 2025年09月18日 コラム
- もはやデフレではない日本経済
- 2025年09月18日 コラム
- 露プーチン大統領訪中、ガス供給拡大で合意
- 2025年09月19日 調査レポート
- 欧州政治リスクの再燃
- 2025年09月19日 統計・グラフ集
- 「マクロ経済指標グラフ」を更新しました
- 2025年09月19日 コラム
- 米利下げの先行きはもっと不透明
- 2025年09月18日 コラム
- もはやデフレではない日本経済
- 2025年09月18日 コラム
- 露プーチン大統領訪中、ガス供給拡大で合意
- 2025年06月06日 中東・アフリカ
- マプト/モザンビーク ~独立50周年を迎え飛躍を期す~
- 2025年05月08日 アジア・オセアニア
- ソウル/韓国 ~日韓国交正常化60周年を迎えたソウルの今~
- 2025年04月11日 欧州・CIS
- オスロ/ノルウェー ~ノルウェーから「幸福」「平和」を考える~
- 2025年02月25日 アジア・オセアニア
- オークランド/ニュージーランド ~ニュージーランドとマオリ:最新の政治動向~
- 2025年02月05日 中東・アフリカ
- ダルエスサラーム/タンザニア ~「ポレポレ」(のんびり・ゆったり)の豊かな国~
SCGRランキング
- 2025年9月16日(火)
拓殖大学海外事情研究所発行『海外事情』2025年9・10月号に、当社シニアアナリスト 足立 正彦が寄稿しました。 - 2025年8月25日(月)
雑誌『経済界』2025年10月号に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司が寄稿しました。 - 2025年8月22日(金)
『週刊金融財政事情』2025年8月26日号に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行が寄稿しました。 - 2025年8月21日(木)
『東洋経済ONLINE』に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司のコラムが掲載されました。 - 2025年8月13日(水)
日経QUICKニュース社の取材を受け、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のコメントが掲載されました。