
- [カタール/アフリカ]8月にカタールの王族・シェイク・マンスール・ビン・ジャボル・ビン・ジャシム・アル=サーニー氏は、南部アフリカ6か国を訪問し、同氏が率いる投資会社アル・マンスール・ホールディングスがこれらの国々に対し総額1,020億ドルの投資を行うと発表した。
投資額の内訳は、コンゴ民主共和国(DRC)とモザンビークがそれぞれ200億ドル、ジンバブエとザンビアが190億ドル、ボツワナとブルンジが120億ドル。カタールの国内総生産(GDP)の約半分を占め、同国のソブリン・ウェルス・ファンド資産の五分の一を占める巨額な数字だと報じられている。アフリカ各国においてもGDPの半分を占めるような投資規模だ。各国ごとに投資対象分野は異なるが、エネルギー・インフラ・農業・保健・教育など多岐にわたっている。
世界有数の天然ガス生産国のカタールは、2024年の一人あたりGDPが76,000ドルを超えるほどの高い経済成長を実現した。しかし、カタールはGDPの約6割を天然ガス生産に依存していることから、産業多角化が経済安全保障上の最重要課題である。アフリカはカタールには不足している労働力、農地、天然ガス以外のエネルギー・鉱物などが豊富にあることから、カタールが持つ豊富な資金力を活用して近年アフリカ諸国との関係強化に乗り出している。2019年にカタールは総事業費13億ドル規模のルワンダの新国際空港の株式60%を取得。カタール航空はルワンダ航空との提携を進め、長期的な人口増を背景に、将来的に旅客需要の増加が見込まれるアフリカの航空路線ネットワークの確保に努めている。また、カタールは、2025年1月から衝突が激化したDRC東部でのDRC国軍とルワンダ系反政府勢力「M23」との停戦・和平合意の仲介も行うなど、アフリカでの影響力強化を図っている。特にトランプ2.0での援助、関税政策の見直しによりアフリカでの米国の存在感が低下する中で、外国投資・金融支援の代替先を求めていたアフリカ諸国にとってカタールは「渡りに舟」の状況となっている。
その一方で今回アル・マンスールが各国と署名した「戦略的パートナーシップ協定」には投資の具体的な中身が乏しいとの指摘もある(同社は公式ホームページも有していない)。また、カタールは「仲介外交」を重視しており、これまでアフガニスタン/タリバン、イスラエル/ハマスの仲介にも関与してきたものの実際の成果が出ていないことから、DRC東部紛争の停戦も実現にこぎつけられないとの厳しい見方もある。事実として7月19日にDRCとM23間で署名された停戦に向けた「原則合意」では、8月18日までの停戦が定められたが、戦闘は継続している。
他方で、具体的な動きも出てきている。8月27日、アル・マンスール社は豪エネルギー企業インビクタス・エナジーの株式19.9%を約2,500万ドルで取得。両社はジンバブエ北部のカボラ・バッサ盆地(注)の陸上天然ガスプロジェクトの開発を進めるための合弁会社を設立し、アル・マンスールは最大5億ドルを投資する見込み。同プロジェクトはインビクタス・エナジーにより2.9兆立方フィートの天然ガス埋蔵量が確認されている。商業化が進めば隣国モザンビークで開発が進む天然ガスプロジェクト(総埋蔵量150~160兆立方フィート)に次ぐ規模の生産が行われることとなる。 (注)モザンビーク最大の電源であるザンベジ川上の「カボラ・バッサダム」と国境をまたいで隣接する地域。
- [米国]商務省によると、7月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+2.6%となり、6月と同じだった。物価の基調を表す食品とエネルギーを除いたコア指数は+2.9%となり、6月(+2.8%)から拡大し、2月(+2.9%)以来の伸び率になった。また、家賃とエネルギーを除くサービス(スーパーコア)は+3.3%、6月(+3.1%)からやや拡大、3月(+3.3%)の大きさだった。物価上昇率は6月から横ばいだったものの、物価の基調は上昇率を拡大させており、FRBの2%目標達成が遠のいたと言える。
内訳を見ると、財(+0.5%)は、6月(+0.6%)から上昇率をやや縮小させたものの、3か月連続のプラスだった。非耐久財(+0.2%)は6月(+0.5%)から縮小した一方で、耐久財(+1.1%)が6月(+0.9%)から拡大し、2022年12月(+1.6%)以来の伸び率になった。また、サービス(+3.6%)は、6月(+3.5%)から上昇率をやや拡大させた。
なお、コア指数から除かれる食品(+1.9%)は6月(+2.2%)から縮小し、3か月ぶりに2%を下回った。エネルギー(▲2.7%)は、6月(▲1.6%)からマイナス幅を拡大させた。マイナスは2月以降、6か月連続だった。食品とエネルギーはともに6月から物価上昇率を縮小させる方向に寄与した。
物価上昇率が目標の2%から距離を保っているものの、市場では9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが再開されると予想されている。
- [ロシア/中国]8月31日、ロシアのプーチン大統領は中国を訪問した。2024年5月の国賓訪問に続き、今回は約1年ぶりに再び中国を訪れる形となった。8月31日午前、専用機で中国・天津(てんしん)に到着し、上海協力機構(SCO)の首脳会議に出席するほか、9月3日に北京で行われる抗日戦争勝利80周年を記念する軍事パレードにも出席するもよう。
訪問に先立ち、プーチン大統領は、中国国営・新華社通信の書面インタビューに応じ、ロシアの前身・旧ソ連の赤軍と中国軍が日本に勝利し、それにより第二次世界大戦に終止符を打ったと主張した。プーチン大統領は、日本が「ロシアと中国の脅威という架空の口実」の下で、軍国主義を復活させつつあると非難した。また、日本に侵攻された中国にソ連が多大な軍事援助をしたと強調し、中国が日本に抗戦したおかげで日本によるソ連攻撃が防がれ、ソ連は対独戦に集中できたとの歴史観も示した。さらに、大戦末期のソ連軍による旧満州(現・中国東北部)への攻撃が日本に降伏を決断させたとも主張した。その上で、中露は欧州や日本による「ナチスや軍国主義の美化」や「歴史の歪曲(わいきょく)」を断固として非難していくとした。
一方、9月2日には北京で習近平国家主席との中露首脳会談が予定され、エネルギー問題を話し合う見通しである。両国間では天然ガスの新しいパイプライン「シベリアの力2(Power of Siberia2)」の建設が焦点となっている。英通信社ロイターによると、価格や資金負担をめぐる意見の違いから進展する可能性は低いという。
- [台湾]台湾の世論調査機関「美麗島民調」が8月28日に発表した調査結果によれば、頼清徳政権の信任度は前月比▲7.8ポイントの37.2%、不信任度は+7.3ポイントの50.3%となり、就任以来で初めて、不信任が信任を上回り、かつ5割を超えた。
台湾の政治評論家によれば、これは蔡英文政権の第1期に見られた低迷期と類似する状況であるが、今回はトランプ米政権による「相互関税」などの経済的衝撃も加わっており、状況はより厳しいとされている。
与党・民進党に対する好感度は前月比▲7.8ポイントの32.7%、反感度は+8.5ポイントの53.5%となり、頼清徳政権発足以来、最低水準となった。民進党の支持基盤における支持率が大幅に下落しており、基盤の弱体化が顕著である。
一方、国民党の支持率は+6.4ポイントの32.7%、反感度は▲7.0ポイントの46.6%となり、民進党をわずかに上回った。ただし、政治的アイデンティティに関して「国民党支持者」であると回答した人の割合はあまり増加しておらず、国民党の支持率上昇は民進党への不満の表れであり、積極的な支持とは言い難いとの見方もある。
もう一つの野党である「台湾民衆党」の好感度は+5.5ポイントの33.2%、反感度は▲8.8ポイントの42.1%となり、支持層内部の結束率が高まるとともに、中間層からの好感度も上昇している。民進党と国民党の対立の狭間で、民衆党が「漁夫の利」を得た形となっている。
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