マプト/モザンビーク ~独立50周年を迎え飛躍を期す~

2025年6月、モザンビークは、470年に及んだポルトガル支配からの独立50周年を迎えます。例えば日本の終戦後50年といえば1995年。当時の私自身の感覚でいえば、太平洋戦争は既に「歴史」であり、50年という周期は社会経済環境が劇的に変化するには十分に長い周期だと捉えられます。しかしモザンビークでは、独立後間もなく15年に及ぶ内戦が勃発し、1992年の終結まで続きました。さらに独立前の戦争期も含めると、戦乱期が約30年にも及んでいたことから、国はすっかり荒廃。その影響はいまだ色濃く残っています。結果として、モザンビークは「最貧国」という不名誉なカテゴリーから脱却するに至っていません。政治的には、独立をけん引した政党が、独立以来ずっと政権を担い続けています。2024年10月に実施された5年に一度の総選挙では、全国的に不正選挙を糾弾するデモや暴動が勃発しました。社会不安が広がる状況で、私も一時国外待機を強いられる事態となりました。この出来事は、大多数の国民が独立以来生活の向上といった恩恵にあずかっておらず、一部の既得権益層にのみ利益が配分されているという不信や不満が、ついに爆発したものと捉えられます。2025年に立ち上がった新政権にとっては、このように噴出・顕在化した国民の不満解消に応えることが至上命題です。すなわち、公正な政治、国の発展、富の公平な還元が求められているのです。

少し重めの話題になりましたが、元来、根に持たず柔和でのんびりした国民性のせいか、現時点では日常にすっかり落ち着きを取り戻しています。今の季節は、澄み渡る蒼空、碧くたゆたう海原、初秋のような穏やかな日差しが相まって、非常に心地よい気候です。また、ここ首都マプトでは、食生活のバリエーションも豊富で、われわれ外国人の生活圏では、インド洋の幸である魚介系を堪能できるレストランのほか、ポルトガル料理をはじめ、中華、韓国、ベトナム、タイ、(なんちゃって)すし屋など、各種アジア系レストランも幅広くそろっています。自国産ではないものの、ポルトガル産や南アフリカ産のワインを友に、おいしく食事を楽しむことができます(全然安くないですが……)。魚市場では、新鮮なロブスターなどが山積みで陳列されており、私も時折、自宅でグリルして舌鼓を打っています。

モザンビークと日本の歴史的接点は、地理的に遠いこともあり、ほとんど存在しません。唯一の世界遺産であるモザンビーク島は、16世紀から19世紀後半までポルトガル植民領の首府でした。ここは、天正遣欧使節がローマ教皇との謁見を果たしたのち、帰国途上に6か月間滞在したともいわれる場所です。私がこの島を訪れた際、約440年前、10代の若き日本人4人が命を懸けてこの地に到達したことに感慨を覚えると同時に、「遠いとはいえ、現代では日本からわずか2日で到着できる距離でもあるな」と、とりとめもないことを思ったりもしました。その後、リスボン、シントラ、マヨルカ島などを巡る旅をする機会を得ましたが、これらもまた使節団が巡っていた場所であったのだと、本稿を書きながら気付きました。モザンビーク島含め、私もその軌跡の一部を辿ったようで、何だか心が洗われた気がしなくもありません。

もう一つ、弥助について紹介します。弥助は、織田信長の直参従者となったモザンビーク人ではないかともいわれている人物です。この縁を辿って2025年2月に、近江八幡市・安土町商工会のご一行が、国際交流を目的にモザンビークを訪れました。滋賀県出身の私が、マプトで一度に多くの滋賀県民とお会いすることになったのは、織田信長と弥助のおかげだと、これまた感慨深く感じた次第です。
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