「面倒」と「手間」のちがい?

2026年04月30日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦

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ホルムズ海峡は開放の見通しも立たぬまま、長期化し、その影響が世界に広がっています。エネルギーの中東依存度の高い国々が、関連製品の供給制約と価格高騰への対応に苦慮するばかりでなく、中東の湾岸諸国もまた農産物や加工食品などの輸入品の制約に直面しています。一日も早い開放が望まれますが、仮に米国・イスラエルとイランが停戦合意に至り、ホルムズ海峡が開放されたとしても、既にミサイルやドローンの攻撃で破壊されたエネルギー供給網の復旧には長い時間がかかり、また完全には元の姿に戻らないでしょう。

 

すでにその前から、重要鉱物や原材料の供給網が不安定化するなか、世界の市場は「毎年のように新製品の買い替えを促す」これまでのマーケティングモデルに対する最終通告を受けているように感じます。

効率化を重視し、人件費の安い国で大量生産するモデルは、以前から環境問題の文脈で、その限界に警鐘が鳴らされてきましたが、あらゆる経済活動が武器化される事態に直面する中、もはや「壊れていないのに買い替える」モデルが許されない世界になりつつあります。そう考えると、10年、20年もっと長い間使い続けることを前提にした耐久性のある製品(商品)の供給、壊れるまで使い切る、あるいは壊れても修理して使うことが可能な、デザイン、耐久性をもつ製品に価値が見いだされるのではないか?という思いに駆られます。一つの製品を修理し、手入れを重ねながら、数十年以上にわたって使い続ける、場合によっては子や孫にまで受け継げるような、いわば「愛蔵」の文化は、かつてこの世界にあったものです。

 

そんな思いを強めるのは、最近のアナログ回帰のトレンドの影響もあります。ストリーミングでいつでも聴きたい音楽が聴き放題の時代に、あえてレコードやカセットテープで聞くことに人気が出たり、スマホでいくらでもきれいな写真がとれるのに、中古のフィルムカメラが在庫不足になるほど売れたりという現象は単にそれらが「新しいもの」として受け入れられただけではないような気がします。映画やドラマですら倍速で観ることがあたりまえの「タイパ」が重視される時代に、なぜそんな「面倒」な前時代のデバイスを使う気になるのか、その矛盾にしばらく理解が追い付かなかったのですが、もしかするとそれは、実は「面倒」とは似て非なる「手間」であり、手間をかけることはきらいじゃない、いやむしろその結果として湧いてくる「愛着」に心地よさがあることに多くの人が気づいたのではないかと思い当たりました。レコードを1枚ずつプレーヤーにかけ、ジャケットやライナーノーツを眺めて「作品」として向き合うと、自ずと「愛着」が増すのかと想像します。

 

当方自身も、スマホ撮影だけでなく、古いカメラを引っ張り出し、以前は「フルオートモード」だけで撮っていたのをやめて、自分で露出やシャッター速度を変えて撮り始めてみたところ、設定に時間がかかってシャッターチャンスを逃したり、思ったような絵にならないものばかりでしたが、なぜかその手間が楽しく感じたり、ブレまくりの写真がなんとなく味わい深いように見えたり(錯覚でしょうが)、まさに新しい発見をする日々です。

 

あるいは昭和世代の懐古趣味なだけだと笑われるかもしれませんが、「所有ではなく使用の時代」と謳ってテクノロジーが進化するままに身をゆだねてきた我々は、そろそろ「アクセス」するだけの「無形物」の消費行動の連続に疲れ、再び自分の場所で、自分の時間をかけて手間をかけながら、手元に実感できる「有形物への愛着」を渇望しているともいえそうです。

 

地政学的緊張の高まりで従来の安全保障と同様に経済安全保障に光があたり、世界経済の構造変化が余儀無くなるなか、貴重な資源を使い、コストがかかる「モノ」に対する考え方、関わり方について考えているうちに、こうしたトレンドの変化の観察もあいまって、造った「モノ」を長持ちさせる、愛蔵することの価値が復活するのではないかなと想像を膨らませています。

 

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