増加する在留外国人と日本社会の課題
はじめに
日本の在留外国人は過去5年間、年平均25万人のペースで増加し、2025年末には413万人、総人口の3%に達した。政府は今年1月に「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を公表し、外国人が日本社会に円滑に適応するための取組と並んで、国民の安全・安心のための取組(ルール遵守・各種制度の適正化、国土の適切な利用・管理)を打ち出し、秩序ある共生を強調している。一方、産業界では、労働力不足がいよいよ顕在化する中、女性、シニアに加えて外国人の活用が避けられない課題となっている(日本商工会議所は5月に提言「『外国人との秩序ある共生と受入れ』の戦略的な推進に向けて」を公表)。本レポートでは日本における在留外国人の現状と政策課題について確認したい。
1.日本における在留外国人・外国人労働者
日本では1980年代半ばまで在留外国人のほとんどは韓国・朝鮮人であったが、1980年代後半以降、バブル景気下の労働力不足やプラザ合意後の円高を背景として「出稼ぎ海外労働者」(不法就労外国人)が増加した。1989年の出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)改正では不法就労外国人の取り締まりを強化すると同時に、専門・技術職の受け入れ範囲が拡大され、「技術」、「人文知識・国際業務」等の就労目的の資格が拡充された。また、日系人等を対象とする「定住者」資格も設けられ、定住者としての日系ブラジル人や、専門・技術職、研修生、留学生としての中国人の入国が増加した。就労目的の資格では専門能力等が要件とされ、単純労働者は受け入れないという従来の方針は変わらなかったが、いわゆる人不足については定住者(主に日系人)や研修生、留学生がその需要を満たした。
その後、1993年には技能移転を通じた国際貢献を目的とする技能実習制度が創設され、中小企業にも「研修」として外国人労働者を受け入れる道筋が開かれた(2009年入管法改正で「技能実習」資格創設)。2019年の入管法改正では労働力確保が明確に打ち出され、人材確保が困難な特定産業分野における即戦力外国人の受入れを目的として「特定技能」が設けられた。これらの制度改正を背景にベトナムやインドネシアからの労働者の流入が増加した。
足元では中国、ベトナム、韓国・朝鮮で約半数を占めている。在留資格別では、身分・地位に基づく在留資格(「永住者」等)が138万人、就労が認められる在留資格(「技術・人文知識・国際業務」[以下、技人国]等)が153万人、就労が認められない在留資格(「留学」、「家族滞在」等)が82万人、旧植民地出身者やその子孫を対象とする「特別永住者」が27万人となっている(図表1、2)。
在留外国人のうち、実際に就労している外国人は257万人で、ベトナム、中国、フィリピン、ネパール、インドネシア、ミャンマー、ブラジルの7か国で約8割を占める。(2025/10時点、「特別永住者」除く。図表3)。在留資格別では「技人国」、「特定技能」、「技能実習」で約半分を占め、業種別には製造業(食料品製造や輸送用機器製造など)、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業で約半数を占める。事業所規模別には99人以下の事業所が半数以上を占める。
就労のための要件は在留資格によって異なる(図表4)。「技人国」では大卒程度もしくは実務経験が求められ、業務は学歴等と関連していなければならない。「特定技能」では予め技能水準と日本語能力水準をクリアしていることが求められる。「技能実習」に代わって2027年4月にスタートする「育成就労」は、技能水準の要件はないが(但し、終了時点には一定の技能水準が求められる)、日本語能力水準は事前に求められる。「特定技能」1号と「育成就労」については、2029年3月時点の受入れ上限(受入れ見込)が設けられている(各々81万人、43万人。なお、2025年末時点の「特定技能」1号は38万人、「技能実習」は46万人)。就労が認められない「留学」では技能要件等は問われないが、週28時間以内の就労に限定される。一方、「永住者」(最低10年以上の在留や独立した生計などの要件を踏まえて法務大臣が許可)や「定住者」では就労に関する制限はない。
歴史的経緯や送り出し国の日本語教育、産業の状況を反映して、資格毎に国籍別内訳をみると各々に特徴がみられる。「技人国」ではベトナムと中国で半分以上、「特定技能」及び「技能実習」ではベトナムとインドネシアで6割超、「留学」ではネパールが3割超、身分に基づく在留資格ではフィリピン、中国、ブラジルで約7割を占める(図表5)。
2. 在留外国人に関する主な論点
前述のように日本には様々な資格に基づく外国人が在留しており、在留に関する問題も多岐にわたる。主なテーマは、外国人との共生(社会保障・社会福祉における内外人の公平性、教育・社会サービスへのアクセス、治安・安全など)と経済への影響(雇用や経済成長への影響)である。
(1)社会的な論点-共生社会のあり方
戦後の長い期間、日本における在留外国人は既に日本に居住していた旧植民地出身者及びその子孫であり、社会的な論点は内外人の公平性の実現(社会保障等)にあった。しかし、1980年代以降、いわば帰還移住とも言える日系人が加わり、日系人及びその家族への日本語教育や日本的行動様式の周知、子供の就学が社会的な問題となった。
2027年には技能実習制度に代わって、日本国内で就労を通じて人材を育成・確保する仕組みである育成就労制度がスタートし、「育成就労」から「特定技能」等を経ることにより、未熟練労働者にも就労を通じた永住への道が開かれることになる。今後、さらに多様な外国人が長期にわたりに日本に在留するようになるかもしれない。外国人労働者を生活者として捉えた施策、具体的には教育サービス(含む日本語教育)や社会保障サービスの充実が必要になる。
公共サービスの拡充に対しては財政インパクトが問題にされがちであるが、一般的に、就業前の期間と高齢期における個々人の財政貢献はマイナス(教育・介護コスト等>財政貢献)となり、逆に就業期においてはプラスとなる。現状では在留外国人の方が日本人より若い世代の比率が高く(図表6)、受入国(日本)の財政に貢献していると見られるが、在留期間の長期化が進めばその貢献度は幾分低下するかもしれない。
治安・犯罪やごみ捨て・騒音のマナーなど社会ルールの遵守についての議論も多い。外国人の犯罪事件は報道で取りあげられると耳目を集めるが、年齢や経済状態等の違いも踏まえると日本人と外国人の犯罪率には実質的な差異はないとの分析もある。住民間のトラブルも「外国人であるから」ということではなく、年齢や就業状況等の属性の異なる集団が地域社会に加わったことに起因している可能性もある。外国人に対するネガティブなイメージが持たれる場合、それが実態に基づくものなのか、思い込みや不安に基づくものなのか見極めることが重要であろう。
外国人との共生は日本に限った課題ではない。外国人に対して既存社会への同化を求めるのか、多様性の中での共生を求めるのかは、移民政策において整理すべき重要な課題の一つであり、近年、海外では文化的な同化を求めず多文化的状況は受け入れつつも、社会的な統合を求め、言語や社会的知識の習得に国が積極的に関与する動き(無償の言語教育の提供等)も見られる。
(2)経済的な論点-労働力確保と成長力
外国人労働者の増加は、短期的には生産人口の増加、中長期的には次世代も含めた人口の増加を通じて成長を支える。現状では、前述のように在留外国人は総じて若い層が多く(図表6)、勤続年数も一般労働者全体が12.7年であるのに対し、外国人労働者は3.3年と短い(特定技能は2.4年、技能実習は1.7年)。賃金水準も日本人平均よりも低い(図表7)。
そのような外国人労働者の労働市場への参入の影響は様々であろう。企業・雇用者としては労働力確保、労働コスト抑制につながり、外国人労働者と補完的な労働者にもプラスの影響(生産性向上)を及ぼす。財・サービスの需要者にも価格抑制・低減を通して恩恵をもたらすだろう。しかし、競合関係にある労働者は賃金抑制・失業増といったマイナスの影響を受ける可能性がある。
また、低廉な外国人の労働力に依存することが日本経済にとって必ずしも良いこととは限らない。低廉な労働者の流入は労働節約的な設備投資を抑制し、労働集約的な産業からの構造転換を遅らせる可能性がある。イノベーションを推進するような高度人材を求める声もあるが、現状、高度人材の主な在留資格とされる高度専門職は在留外国人の1%に満たない。日本が高度人材獲得に苦戦している要因は賃金のみならず、昇進や転職の可能性や仕事の仕方(およびワークライフバランスや家族の生活・教育問題)にもあるとも指摘されている。一般的に外国人労働者は学歴・職歴に比して低い条件に甘んじることが多いとの指摘もあるが、外国人労働者の実力を引き出せないようでは、日本経済の生産性向上に結び付けることは覚束ない。
今後、「育成就労」、「特定技能」を通じて、外国人労働者の雇用期間が長期化すれば、外国人労働者の平均賃金も上昇する可能性がある。また、雇用者、被用者に対するコンプライアンス強化(「技人国」における職務要件の運用厳格化や留学生に対する勤務時間の管理強化等)も労働力供給を適正化し、賃上げ回避のための抜け穴をふさぐことになる。中長期的には、より高いコストを受け入れつつ、外国人労働者の活躍を促進していくことが求められる。
3. 日本の労働市場を取り巻く国際環境
日本企業が低廉な労働力を求めるのは、近年、始まったことではない。1980年代の円高を受けて、日本企業は、製造業を中心に海外への拠点進出を進めてきた。2023年度の日系海外法人における外国人従業員数は527万人(うち製造業379万人)に達し、国内の外国人就業者数(257万人)を大きく上回る(図表8)。
現場作業の雇用を比較するために、日系海外法人(製造業)の従業員数と国内の外国人労働者数(「特定技能」、「技能実習」、「留学」)を比較すると、中国、タイでは現地の雇用が多いが、日本国内は少ない。ベトナム、インドネシアは現地、日本国内ともに多く、ネパールやミャンマーは日系海外法人のデータが無いものの、ネパールについては日本国内の雇用の方が大きいと見られる(図表9)。
日本への外国人労働者の行方は、国際的な人材獲得競争の環境にも左右される。国連の人口推計によれば、2025年から2050年にかけてアジア諸国の現役世代(15-59歳)の人口動態は大きく変化する。インドネシア、フィリピン、ミャンマーでは人口増加ペースが大幅に減速し、中国、ベトナム、タイでは減少に転じる。既に外国人材をめぐる競争相手となっている韓国ではさらに減少が加速する(図表10)。
経済格差の縮小も日本への外国人労働者の流れに影響を及ぼす可能性がある。一人当たりGDPで比較すると、韓国は既に日本に並び、中国は日本の約4割、タイも約1/4の水準に迫っている。インドネシア、ベトナム、フィリピンでも日本との格差は縮小している(図表11)。
日本における外国人労働力の確保は、諸外国の雇用吸収力(産業基盤の発展状況)や人口動態などの外的要因にも左右される。日本と新興国の成長率格差を踏まえれば、先行きは必ずしも楽観できず、日本がこれまでのように外国人労働者から「選ばれるのか」という点についても予断せずに取り巻く環境を見ていく必要がある。
4. まとめ
日本は、長い間、出入国・在留管理上は「単純労働者は受け入れない」という前提を維持しつつ、日系人や技能実習生、留学生を事実上の単純労働者として受け入れてきた。しかし、2019年の入管法改正で「特定技能」資格を創設して以降、政策の軸足も労働力確保へ移りつつある。さらに、「技能実習」、「育成就労」から「特定技能」への接続は、未熟練労働者に対しても継続的な就労を通じた定住への道を開いた。外国人労働者は既に多くの産業、事業所で不可欠な存在になっており、企業からも継続雇用への要望は多い。
今後、外国人が日本社会に長期に定着するようになれば、「生活者としての外国人」のための対応が重要になる。しかし、戦後の日本の出入国・在留管理は管理重視の傾向があり、必ずしも外国人との共生のための政策が充実しているとは言えない。世界では、外国人政策は「同化」から「多文化共生」にシフトした後、文化的多様性は尊重しつつ言語や社会基盤は受入社会に沿うことを求める「市民的統合」にシフトしつつある。
現在、日本では、若年層の多い外国人労働者は比較的低廉な労働力として労働市場に参入しているが、外国人の就労・在留の長期化や労働力をめぐる国際的な競争環境の変化を踏まえれば、将来にわたって外国人労働力が「若く」、「短期の」、「低廉な」労働力であり続けるとは限らない。どのような日本社会を作るために、外国人をどのように生活者として受け入れ、どのように共生していくのか、グランドデザインを描くための大きな議論が求められる。
以上
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